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14話
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着替える前にふと携帯を見れば、音路が何か送ってきていることに気づく。とてつもなく微妙な顔で通知を見ていると佑二が「おかしな顔してどうした」と覗き込んできた。
「おかしな顔とか失礼」
「じゃあ俺もかわいい顔、とか言えばいい?」
「言ったら殴る」
「何でだよ」
「いいから向こう行ってろ。着替えんだよ」
「何だよー」
佑二を追いやると、実央は実際着替え出した。白い道着だ。体育の選択授業で実央は空手を選択している。大学生になってまで体育があるとは思っていなかった。人気あるものはすぐに埋まるが、空手は人気があまりないのか楽に取れた。まだ柔道のほうが人気があるようだ。佑二が言うには「柔道は高校の授業でもあるけど空手は元々やってねーとわかんねーだろ」らしい。最近は中学で空手が授業にある学校というのも聞いたりするが実央のところでも高校で柔道を習うくらいだった。だが確かに実央は子どもの頃からやっていたのもあってこうして選択している。とはいえ緑帯になった頃くらいからあまり通わなくなり、今はもうやっていない。嫌になったとかではないが当時は受験や貴のことでいっぱいになったからだろうか。
授業は立ち方から学ぶが、実央のように経験者は違う練習をする。ちなみに一番最初に教えてもらう結び立ちや八字立ちでは、つま先を外側へ向けて重心は体の中心になるよう立つ。これは空手をしなくても日常生活でも心がけておいて損はないと実央は思っている。自然と姿勢はよくなるし体にもいい。女性ならダイエットにも向いている。
授業ではノンコンタクト空手をやっているようだ。伝統空手と言われている直接打撃を避けた寸止め空手だ。実央が習いに行っていた空手は極真空手から広まったフルコンタクト空手だったので少々勝手は違う。
授業を終えてまた着替えていると、一緒に授業を受けていた他の男子から「何であんなに足上がんの」と言われた。壁に片手の平だけでささえて反対側の手で同じ側の上げた足先を持つY字バランスや上段蹴りの練習でのことを言っているのだろう。
「何でって言われても」
「ピキってなんねーの?」
「まあ」
「すげーな。今ここでもっかいやってよ」
「やだよ」
「頼むよ、見たい。つか上段蹴りとか俺よくわかんねーんだわ」
「……はぁ。じゃあゆっくりやるから」
右手をこめかみあたりに当て、軸足のかかとを180度回転させつま先を後ろへ向けて片足で立ち、上げた蹴り足の右足は一旦曲げてかかとを尻につけるようにしてから思い切り足首を伸ばして上げる。その際は体幹で蹴り足を支えている。それからまた同じ軌道で足を引きつけ母指球を軸に戻す。
「わかった?」
「お前がやってんの見ると簡単そうに見えんだけどな」
「股関節鍛えろ」
「無理」
「じゃあ諦めろ」
「ええ」
着替え終えてから実央は食堂へ向かった。体育の後はどうしたって腹が減る。その際に渋々携帯を見た。無視したままでいようかと思ったが、それでしつこく送られてきても困るなと思ったのだ。
『ネロくんだよ、覚えてる?』
初っ端からうざい。
微妙な顔をして、既読無視しようかと思っていると『既読スルーだめ』と送られてきた。やはりうざい。
『せっかく気持ちのいいエッチ教えてあげようと思ったのに』
こいつ昼間っから何言ってんだ?
そう思いながらも無視できなくなったのは欲望盛りの性少年だから仕方がない。ふと気になって実央は『やっぱ尻の穴鍛えて柔らかくしてからするもんなの』とストレートに聞いてみた。佑二には聞けないことも、この阿保みたいなチャラそうなバイ男なら聞ける気がした。
『そりゃ柔らかいほうがいいけど鍛えるって何』
『うるせぇ。聞いたこと答えて』
『実央くん、SNSのが偉そうで笑えた。まあ鍛えられんならそのほうが楽なんじゃない。知らないけど』
知らねえのかよ……。
『体柔らかいほうがいいとか、そういうのないの?』
『柔らかいほうが楽しいよね』
『あんた何言ってんの?』
『実央くんこそ何言ってんだかって感じだけど。実央くんは体、柔らかいの?』
『空手やってたから多分。足もめっちゃ上がるし股関節とか柔らかいと思う』
『何それエッチだな。やっぱ一回やってみたいなあ』
『もう絶対連絡してくんな』
携帯電話の画面に思い切りムッとした顔をして、実央は鞄の中にしまった。画面の向こうで楽しげに笑っている音路の顔が浮かぶ。何度か通知音が聞こえてきたが無視をした。後でそっと見ると『貴くんが実央くんかわいいあまり大事にしてるって感じでしょ』『慣らしてくのはいいことだと思うよ』『貴くんに任せたらいいんじゃない』『やったら教えてね。その時こそ気持ちいいやりかた教えたげるよ。あと俺とする気になっても教えて』などと来ていた。
隠していて後でバレた時のことを思うと絶対耐えられないと思った実央は夜、貴が帰ってきてから正直に打ち明けて携帯電話でのメッセージを見せた。
「みぃは偉いね、正直に言ってくれて嬉しいしかわいい」
そう言って褒めてくれた貴だが、その後ベッドでは「でも少しお仕置きね」と笑顔で言われ、何度も絶頂させられて死にそうになった。
「おかしな顔とか失礼」
「じゃあ俺もかわいい顔、とか言えばいい?」
「言ったら殴る」
「何でだよ」
「いいから向こう行ってろ。着替えんだよ」
「何だよー」
佑二を追いやると、実央は実際着替え出した。白い道着だ。体育の選択授業で実央は空手を選択している。大学生になってまで体育があるとは思っていなかった。人気あるものはすぐに埋まるが、空手は人気があまりないのか楽に取れた。まだ柔道のほうが人気があるようだ。佑二が言うには「柔道は高校の授業でもあるけど空手は元々やってねーとわかんねーだろ」らしい。最近は中学で空手が授業にある学校というのも聞いたりするが実央のところでも高校で柔道を習うくらいだった。だが確かに実央は子どもの頃からやっていたのもあってこうして選択している。とはいえ緑帯になった頃くらいからあまり通わなくなり、今はもうやっていない。嫌になったとかではないが当時は受験や貴のことでいっぱいになったからだろうか。
授業は立ち方から学ぶが、実央のように経験者は違う練習をする。ちなみに一番最初に教えてもらう結び立ちや八字立ちでは、つま先を外側へ向けて重心は体の中心になるよう立つ。これは空手をしなくても日常生活でも心がけておいて損はないと実央は思っている。自然と姿勢はよくなるし体にもいい。女性ならダイエットにも向いている。
授業ではノンコンタクト空手をやっているようだ。伝統空手と言われている直接打撃を避けた寸止め空手だ。実央が習いに行っていた空手は極真空手から広まったフルコンタクト空手だったので少々勝手は違う。
授業を終えてまた着替えていると、一緒に授業を受けていた他の男子から「何であんなに足上がんの」と言われた。壁に片手の平だけでささえて反対側の手で同じ側の上げた足先を持つY字バランスや上段蹴りの練習でのことを言っているのだろう。
「何でって言われても」
「ピキってなんねーの?」
「まあ」
「すげーな。今ここでもっかいやってよ」
「やだよ」
「頼むよ、見たい。つか上段蹴りとか俺よくわかんねーんだわ」
「……はぁ。じゃあゆっくりやるから」
右手をこめかみあたりに当て、軸足のかかとを180度回転させつま先を後ろへ向けて片足で立ち、上げた蹴り足の右足は一旦曲げてかかとを尻につけるようにしてから思い切り足首を伸ばして上げる。その際は体幹で蹴り足を支えている。それからまた同じ軌道で足を引きつけ母指球を軸に戻す。
「わかった?」
「お前がやってんの見ると簡単そうに見えんだけどな」
「股関節鍛えろ」
「無理」
「じゃあ諦めろ」
「ええ」
着替え終えてから実央は食堂へ向かった。体育の後はどうしたって腹が減る。その際に渋々携帯を見た。無視したままでいようかと思ったが、それでしつこく送られてきても困るなと思ったのだ。
『ネロくんだよ、覚えてる?』
初っ端からうざい。
微妙な顔をして、既読無視しようかと思っていると『既読スルーだめ』と送られてきた。やはりうざい。
『せっかく気持ちのいいエッチ教えてあげようと思ったのに』
こいつ昼間っから何言ってんだ?
そう思いながらも無視できなくなったのは欲望盛りの性少年だから仕方がない。ふと気になって実央は『やっぱ尻の穴鍛えて柔らかくしてからするもんなの』とストレートに聞いてみた。佑二には聞けないことも、この阿保みたいなチャラそうなバイ男なら聞ける気がした。
『そりゃ柔らかいほうがいいけど鍛えるって何』
『うるせぇ。聞いたこと答えて』
『実央くん、SNSのが偉そうで笑えた。まあ鍛えられんならそのほうが楽なんじゃない。知らないけど』
知らねえのかよ……。
『体柔らかいほうがいいとか、そういうのないの?』
『柔らかいほうが楽しいよね』
『あんた何言ってんの?』
『実央くんこそ何言ってんだかって感じだけど。実央くんは体、柔らかいの?』
『空手やってたから多分。足もめっちゃ上がるし股関節とか柔らかいと思う』
『何それエッチだな。やっぱ一回やってみたいなあ』
『もう絶対連絡してくんな』
携帯電話の画面に思い切りムッとした顔をして、実央は鞄の中にしまった。画面の向こうで楽しげに笑っている音路の顔が浮かぶ。何度か通知音が聞こえてきたが無視をした。後でそっと見ると『貴くんが実央くんかわいいあまり大事にしてるって感じでしょ』『慣らしてくのはいいことだと思うよ』『貴くんに任せたらいいんじゃない』『やったら教えてね。その時こそ気持ちいいやりかた教えたげるよ。あと俺とする気になっても教えて』などと来ていた。
隠していて後でバレた時のことを思うと絶対耐えられないと思った実央は夜、貴が帰ってきてから正直に打ち明けて携帯電話でのメッセージを見せた。
「みぃは偉いね、正直に言ってくれて嬉しいしかわいい」
そう言って褒めてくれた貴だが、その後ベッドでは「でも少しお仕置きね」と笑顔で言われ、何度も絶頂させられて死にそうになった。
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