子猫のような君が愛しくて……

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8話

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 昼に実央が学食でカツ丼を大いに頬張っていると、通りすがりの知らない女子二人が「かわいい」などと口にしてきた。実央はムッと眉を歪めながらどんぶりを置く。

「何でムッとするかな。俺も聞こえたけど、褒められてんじゃん」

 カレーライスを口に入れた後に佑二が首を傾げてきた。

「かわいい、だぞ。カッコいいなら俺だって喜んでるし」
「かわいい、いいじゃないか。何かダメ?」
「お前ならかわいいって女の子に言われたら嬉しいの?」
「すげぇ嬉しいけど?」

 ニコニコしている佑二を実央はジッと見た。明るくて人懐こい佑二は顔も悪くないし背も高い。それでも彼女が今いないのは、たまたまだろうと実央は思っている。もしくは調子乗りなところがあるからか、悪くないけれどもどちらかといえば友だちになりたいと思われやすいか、だ。そんな佑二だから多分「かわいい」と言われても喜べるのだろう。
 顔は我ながら悪くないと思っているものの、身長が下手をすればスタイルのいい女子より低い可能性もある実央としては「かわいい」は褒め言葉ではない。
 とはいえそれをあえて口にするのは楽しくない。

「つか、何でカツ丼? お前そういうの食べてんの珍しいな。いつもは大抵定食系だろ。ほら、何だっけ? 宮野さんに言われてんだろ、何だっけ」
「覚えてねーならいちいち言ってくんな。ちゃんと栄養をまんべんなくとって欲しいから、単品ものより定食を食べて欲しいなって言われたってやつだろ」
「あーそれそれ。どんだけかわいがられてんのって話だよな、マジどんだけ」

 クク、と笑いながら言ってくる佑二を実央はじろりと睨む。

「睨むなよー、岬の目、ぐりぐりでっかいから睨まれるとそれなりの目力に射られて殺されそうになるから」
「わけわかんねーこと言うな。あと貴くん馬鹿にしたら承知しないからな」
「してないしてない。むしろすげーなって思ってるって。で、何でカツ丼?」
「それは……」

 言えるわけがない。早く貴に尻の穴を開発して欲しくて、勝負ではないが勝負に勝つ的な意味を込めて食べていたなどと、貴との関係を知っている佑二にも言えるわけがない。

「ん?」
「何でもねーし」
「何その思わせぶりな態度。俺にツンデレ発揮して惚れさせようって目論見か?」
「どこにデレがあんだよ、どこに。あとお前は俺がツンデレな態度をすれば惚れるような馬鹿なのか?」
「冗談は適当に流そうね。ほら、また今通りかかった子が俺を変な目で見てきたからね?」

 微妙な顔になっている佑二に「お前がまずそういうおかしくもねえ冗談言ってくるな」と言い返し、実央は大きなトンカツの一切れを口に頬張った。一切れが実央には大きいため、一口で食べるのが正直難しい。だがちまちま食べるのも面倒なので無理やり放り込む。

「お前、口もちっちゃいな」

 それを見ていた佑二に「ブフッ」と吹き出された。いいやつではあるし基本的に信頼できるやつだし好きは好きだが、こういうところが本当に忌々しいと実央は思うし睨みつけることで態度にも出しておいた。
 せっかくカツ丼を食べたわけだが、その日の夜も同じようなマッサージで終わってしまった。

「……貴くん」
「ん? 何?」
「これで終わり?」
「うん。どこか痛いところあった?」

 痛いどころか気持ちがよすぎて寝そうだった。だがそうじゃない。ふるふると頭を振っていると「明日はもう少し前に進もうか」と言われた。実央は思い切り顔を上げて貴を見上げる。

「何でそんなかわいい顔で見てくるの」

 知らない女子に「かわいい」と言われても微妙な気持ちにしかならないが、貴なら別だ。貴にならかわいいと言われるたびに甘い感情に包まれ、幸せに溶けてしまいそうになる。とはいえ照れもあり「俺はかわいい」などと貴に対して堂々と受け入れるのも抵抗がある。なので結局ムッとした顔になってしまうようだ。
 幸い実央のムッとした顔すら、貴が好いてくれているのは「ムッとしてかわいい」などと言いながらいつも嬉しそうにしてくることでわかる。今も「今度は違うかわいい顔してきた。何? 俺を誘惑しようとしてるの?」と抱きしめてきた。

「そんなことしなくても俺はいつだってみぃに誘惑されっぱなしなのに」
「う、嘘だ」
「どうしてそんなこと言うの。俺がみぃに嘘つくはずないだろ?」
「だって誘惑されっぱなしなら何ですげー健康によさそうなマッサージしただけで終われんの?」

 抱きしめられている状態から何とか顔を上に向け、じっと貴の顔を見上げたら、もの凄く優しそうな笑顔でさらに抱きしめられた。

「ちょ、貴くん、苦し」
「ああ、ごめんね。だって今のみぃがさらにかわいすぎて、俺もうとろけちゃうかと思ったよ」
「とろけるより俺に煽られて」
「もう、何言ってんのかな、このかわいい子は。俺がみぃに煽られてないとでも? いつだってどれだけ堪らなくなってるか」
「嘘だ」
「どうしたのかな、今日のみぃは聞き分けのないみぃだな。だったら仕方ない。絶えず煽ってくる責任、みぃに取ってもらうしかないね」

 笑顔で言われた。そして後になって実央は少し後悔した。最後までしなくとも気持ちのいいことはたくさんできる。かと言って男が達するのには限界がある。
 ああ、いつもちゃんと加減してくれていたんだなと、否応なしに実感した。達し過ぎて少し触れるだけでもきつい。声は完全に掠れていた。これ以上したらきっと自分は死ぬ。そう本気で思いそうなくらい、喘いでは達し、達しては喘ぐを繰り返した。
 それでも大いにではなく少しの後悔なのは、やっぱり貴が大好きだからだ。苦しいほどの快楽であっても、大好きな人にされることで嬉しさに溺れそうでもあった。
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