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3話
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今朝もかわいかったなと、貴は思い出して口元を綻ばせた。
「思い出し笑いとか宮野がムッツリ」
「……佐武。だったらそばに来ないで欲しいな」
「俺も休憩ー」
自動販売機で買ったコーヒーの入ったカップを持ちながら隣に座ってきた相手を、貴は淡々とした表情で見る。
「何」
「さっき総務から戻ってくる時もお前、ここに座ってなかった?」
「あの時は携帯に電話かかってきたから出てただけで、コーヒーは飲んでないよ。で、何。例の同棲してる子のことまた思い出してたのか? このムッツリが」
「言い方……。それに思い出すのは仕方ないだろ。本当にかわいい子なんだ。仕方ないだろ」
「何で二回繰り返すんだよ。まあ確かに写真で見るとかわいらしいとは思うけど……」
「別にお前は思わなくていいけどな」
「……独占欲こわーい」
「冷めた口調で茶化したこと言ってくるな」
「で、みおちゃんがどうかわいかったって?」
「それは言えない。もったいないから」
「うぜ。つか俺相手に警戒せんでいいだろよ。いくらみおちゃんかわいくても俺、男の子はダメよ?」
微妙な顔で言ってくる隣の男、佐武 恵吾(さたけ けいご)は貴の同僚であり、友人でもある。基本的に職場の人とはそれなりの付き合いしかしないつもりの貴だが、何故か恵吾とは全然合わなさそうなのに気づけばよく飲みに行ったりする友人になっていた。実央のことも恵吾だけは知っている。冷めたような表情がデフォルトの見た目通り性格も基本的に冷めた感じの恵吾は、実央のことを知った時もさらっと受け止めていた。それに誰かに言いふらすようなタイプでは間違いなくない。そういうところが、合わなさそうでいて合う部分なんだろうなと貴は何となく思っている。
「俺だって元々男に興味ないよ。でも気づけば実央以外考えられなくなってるんだぞ。お前だってわかるもんか」
「まさか未だに頑なに会わせようとしないのって、マジで警戒してんのか」
「当たり前だろ」
「はー。そうなると余計会いたいから絶対今度押しかけるわ」
「やめて」
お互い淡々とした調子で話していたが、コーヒーを飲み終えたところで立ち上がった。
「つか、今時自販機て。部屋に専用のコーヒーメーカーくらい置くべきだと俺は思うんですけどどう思います宮野さん」
「それについては同意しかないですね佐武さん」
「そうよね。そのほうが絶対に仕事も捗ると思うわよねえ」
「何で急におねえなんだよ?」
自分の机に戻ると折電するよう書かれたポストイットがパソコンに貼られてあった。貴はぐるりと首を回してから得意先へ電話をかけ始める。電話を切った後はメールをチェックして依頼書を作成する。文字を打ちながら、貴はまた実央のことを思い出していた。
今朝もいつものようにしがみつくようにしてキスをして見送ってくれた。あの必死に手と体を伸ばしてしがみつく感じがもうかわいくて堪らない。元々そんな風に見ていなかったはずなのに、一度好きになってしまえば実央の何もかもが違う意味のかわいらしさへと変わっていった。
……昔は純粋にまるで小さな弟のようにかわいがっていただけなのにな。
書き終えてそれを添付し、BCCに各関係者のメアドを載せて送信した。また新たなメールが来ていたのでそれをチェックする。
小さなかわいい弟のような幼馴染が、今ではひたすらかわいい自分の恋人となっている。
見た目もほんとかわいいからなぁ。
小柄なところもかわいいと思うが、顔立ちもとてもかわいい。顔の三分の一はあるのではないかと言いたいくらいクリクリと大きなツリ目が自分をじっと見上げてくるところなど、最高にかわいい。逆に小さな口が笑って少しだけ大きく開いたり、ムッとしたようにますます小さくなっているのを見ると抱きしめたくなる。少し跳ね気味の黒髪はあまりにふわふわとしていて永遠に撫でていたいくらいだ。
そんなちっちゃなかわいい小動物のような子がムキになって怒っているところさえ、申し訳ないがかわいさのあまりひたすら撫でるか抱きしめていたくなる。おまけに性的なことをしている時のかわいさたるや。
はぁ……今日も絶対残業にならないよう、サクサクと終わらせよう。
貴が勤めている職場はわりと新興の大手企業だ。めきめきと力をつけて上場企業となり、その中でも大きな存在となってきている。おかげで給料は申し分ないし仕事さえ終われば残業を強要するような風習もない。改めていい会社に入っていてよかったなと思う。ブラック企業だったら一緒に住んでいても実央との時間も中々取れなかったかもしれない。
仕事は仕事で面白いと思っているのでないがしろにすることはまずない。どのみち仕事ができない男には、実央のためにもなりたくない。ただ、オンオフはきっちり分けたいし、それがあるからこそ私生活も仕事中も張り合いのある充実した時間を過ごせるんじゃないかと貴は考えている。
ということで今日も俺は終業時間と共に帰らせてもらう。
的確にメール内容を吟味し対応していきながら一通りしなければならないことを終えると、貴はまた少し実央のかわいさについて頭の中に反芻させていた。
「思い出し笑いとか宮野がムッツリ」
「……佐武。だったらそばに来ないで欲しいな」
「俺も休憩ー」
自動販売機で買ったコーヒーの入ったカップを持ちながら隣に座ってきた相手を、貴は淡々とした表情で見る。
「何」
「さっき総務から戻ってくる時もお前、ここに座ってなかった?」
「あの時は携帯に電話かかってきたから出てただけで、コーヒーは飲んでないよ。で、何。例の同棲してる子のことまた思い出してたのか? このムッツリが」
「言い方……。それに思い出すのは仕方ないだろ。本当にかわいい子なんだ。仕方ないだろ」
「何で二回繰り返すんだよ。まあ確かに写真で見るとかわいらしいとは思うけど……」
「別にお前は思わなくていいけどな」
「……独占欲こわーい」
「冷めた口調で茶化したこと言ってくるな」
「で、みおちゃんがどうかわいかったって?」
「それは言えない。もったいないから」
「うぜ。つか俺相手に警戒せんでいいだろよ。いくらみおちゃんかわいくても俺、男の子はダメよ?」
微妙な顔で言ってくる隣の男、佐武 恵吾(さたけ けいご)は貴の同僚であり、友人でもある。基本的に職場の人とはそれなりの付き合いしかしないつもりの貴だが、何故か恵吾とは全然合わなさそうなのに気づけばよく飲みに行ったりする友人になっていた。実央のことも恵吾だけは知っている。冷めたような表情がデフォルトの見た目通り性格も基本的に冷めた感じの恵吾は、実央のことを知った時もさらっと受け止めていた。それに誰かに言いふらすようなタイプでは間違いなくない。そういうところが、合わなさそうでいて合う部分なんだろうなと貴は何となく思っている。
「俺だって元々男に興味ないよ。でも気づけば実央以外考えられなくなってるんだぞ。お前だってわかるもんか」
「まさか未だに頑なに会わせようとしないのって、マジで警戒してんのか」
「当たり前だろ」
「はー。そうなると余計会いたいから絶対今度押しかけるわ」
「やめて」
お互い淡々とした調子で話していたが、コーヒーを飲み終えたところで立ち上がった。
「つか、今時自販機て。部屋に専用のコーヒーメーカーくらい置くべきだと俺は思うんですけどどう思います宮野さん」
「それについては同意しかないですね佐武さん」
「そうよね。そのほうが絶対に仕事も捗ると思うわよねえ」
「何で急におねえなんだよ?」
自分の机に戻ると折電するよう書かれたポストイットがパソコンに貼られてあった。貴はぐるりと首を回してから得意先へ電話をかけ始める。電話を切った後はメールをチェックして依頼書を作成する。文字を打ちながら、貴はまた実央のことを思い出していた。
今朝もいつものようにしがみつくようにしてキスをして見送ってくれた。あの必死に手と体を伸ばしてしがみつく感じがもうかわいくて堪らない。元々そんな風に見ていなかったはずなのに、一度好きになってしまえば実央の何もかもが違う意味のかわいらしさへと変わっていった。
……昔は純粋にまるで小さな弟のようにかわいがっていただけなのにな。
書き終えてそれを添付し、BCCに各関係者のメアドを載せて送信した。また新たなメールが来ていたのでそれをチェックする。
小さなかわいい弟のような幼馴染が、今ではひたすらかわいい自分の恋人となっている。
見た目もほんとかわいいからなぁ。
小柄なところもかわいいと思うが、顔立ちもとてもかわいい。顔の三分の一はあるのではないかと言いたいくらいクリクリと大きなツリ目が自分をじっと見上げてくるところなど、最高にかわいい。逆に小さな口が笑って少しだけ大きく開いたり、ムッとしたようにますます小さくなっているのを見ると抱きしめたくなる。少し跳ね気味の黒髪はあまりにふわふわとしていて永遠に撫でていたいくらいだ。
そんなちっちゃなかわいい小動物のような子がムキになって怒っているところさえ、申し訳ないがかわいさのあまりひたすら撫でるか抱きしめていたくなる。おまけに性的なことをしている時のかわいさたるや。
はぁ……今日も絶対残業にならないよう、サクサクと終わらせよう。
貴が勤めている職場はわりと新興の大手企業だ。めきめきと力をつけて上場企業となり、その中でも大きな存在となってきている。おかげで給料は申し分ないし仕事さえ終われば残業を強要するような風習もない。改めていい会社に入っていてよかったなと思う。ブラック企業だったら一緒に住んでいても実央との時間も中々取れなかったかもしれない。
仕事は仕事で面白いと思っているのでないがしろにすることはまずない。どのみち仕事ができない男には、実央のためにもなりたくない。ただ、オンオフはきっちり分けたいし、それがあるからこそ私生活も仕事中も張り合いのある充実した時間を過ごせるんじゃないかと貴は考えている。
ということで今日も俺は終業時間と共に帰らせてもらう。
的確にメール内容を吟味し対応していきながら一通りしなければならないことを終えると、貴はまた少し実央のかわいさについて頭の中に反芻させていた。
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