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22話
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「今日も夕焼け見えないね」
一緒に帰ろうとにこにこ言われ、充は春夜と寮へ向かっていた。帰り道で「しゅんは弓道部に来るまで何してたんだ」と聞けばそう返ってきて、充はわりと戸惑う。
「夕焼け? ああ、そうだな」
とはいえ、言われて充は空を見た。いや、多分今日一日の間に何度か目に入ってはいたのだろうが、全然空の様子は意識していなかった。雨は降っていないし、もし降ってきても置き傘があるので気にもしていなかった。
それを春夜に言えば「みっちゃんらしい」と笑われる。
「しゅんは空、好きなのか?」
「……ううん。別に。でも空見ながらみっちゃんのこと考えるのは好き」
「は?」
そろそろ「好き」と言われることに慣れてきた気がしていたが、新しいパターンが来たとばかりに充は戸惑った。
「どうしたの?」
「言ってることがよくわかんないんだけど……」
「えー何で。例えばね、最近までの青空はみっちゃんみたいだったからよく見てたよ」
「例えがまずわからないんだけど」
青空が俺? と充は怪訝な顔を春夜に向けた。
「春のね、霞がかかった優しい青がみっちゃんっぽいでしょ。ああでも秋の澄みきった濃い青もみっちゃんっぽいよね」
「日本語で頼む」
抽象的過ぎて充には春夜が何を言いたいのかさっぱりだった。あいにく国語でも「ここで作者は何を言いたかったのかを説明せよ」といった問いがわからない部類の人間だ。春夜はそんな充に対して楽しそうに微笑んできた。
「今日もみっちゃんを見に行くまでは空、見てた」
「そ、うか」
空を、と思ったところでふと気づく。
それって俺を見に来る前もある意味俺のことを考えていたってこと?
さすがに国語が得意でなくとも今の話は先ほどまでの話と繋がる。いやでも、と充はまた空を仰いだ。空はどんよりと曇っている。
「……青空じゃない」
「え?」
春夜は確か青空を見て充のようだと言っていた。なら今日の空は充を思う材料ではないということになる。
何だよ、俺。自意識過剰か。
「みっちゃん? 何か顔、赤い?」
「……気のせい。何で空? 別に空が好きなわけじゃないんだろ」
「ん? 言ったでしょ、空見ながらみっちゃんのこと考えるのが好きなんだって」
そういえばそうとも言っていたような、と充は少し遠い目になった。やはり国語は苦手のようだ。
「……でも青空じゃないけど」
「うん。どっちかっていうと俺みたいな空だよね」
前なら結びつかなかったかもしれない。いつもかわいらしい顔でにこにこしている春夜しか浮かばなかった前なら。
今なら少しわかる気がした。ついでに春夜の例え方もなんとなくわかる気もした。
そうなると、俺はほんとに青空みたいに思われてんの? 俺、全然明るくも爽やかでもないけど?
充が何も答えないでいると春夜が続けてきた。
「でも梅雨の時期に咲くタチアオイがみっちゃんっぽいなあって思ってて」
「待て。降参だ」
「えっ?」
「お前が前からそういうものの例えするのはよく知ってるけど、俺を絡められるとちょっとほんとわからない」
そもそも、たちあおいって何だよ。
充は春夜を困惑しつつ見た。
「あ、ほら。あれ。あれがタチアオイだよ」
校門を出て寮とは反対側にある公園のほうを指差した春夜につられ、充もそちらを見た。
「どれ」
「あの赤っぽい花が下のほうに咲いてるやつ」
言われてもう一度見るとわかった。縦にぐんと伸びたような植物の群れがある。その赤っぽい花は充の、ない知識からかき集めて見れば少し朝顔みたいにも見えた。なんというか、南国っぽい朝顔というのだろうか。
「どこが俺……?」
どこをどう見て、と謎でしかない。唖然として充は春夜を見ると「えー、すごくみっちゃんっぽいのに」とにこにこしている。その様子が本当に楽しそうに見えたので、全然意味わからないながらにまあいいかと充は思うことにした。
好きと言われても正直なところ困惑でしかない。春夜のことは親友として好きだし、あんなことをされた今でも嫌いにはなれない。ただ、あんなことをしてもやはり男同士だし充にはそういう気は湧かない。
それでもやはり春夜が楽しそうにしていたり嬉しそうだったりするとホッとするものがある。充も嬉しく思ったりする。
寮へ帰って来て、同じフロアなのでそのままエレベーターに乗った。階段を使うこともあるが、昨日の今日なのでまだ少々体が本調子ではないというのもある。
自分たちの部屋があるフロアに着くとお互いの部屋は反対側にあるため、充は「じゃあ」とそのまま歩こうとした。
「待って」
「ん?」
「俺の部屋、来て」
「……何で」
友人に部屋へ来いと言われて普通なら警戒などしないだろう。だが親友であってもすでに昨日、そのラインを超えた行為をしてしまっているため、どうしても警戒してしまう。
「あ、あのね。今日同室の子がいなくて」
そう言われるとますます警戒心しか湧かない。
「っあ! えっと、違う。違うよ、みっちゃん! その、そういうつもりじゃなくて……いやその、もちろん機会があればいつだってしたいけど、でも今はほんとそういうつもりで言ったんじゃなくてね、そりゃしたいけど」
「本音を混ぜてくるな……!」
「ご、ごめんね? あ、また謝っちゃった……でもほんと、今は違うくて……あの、せっかくだから一緒にいたかっただけなんだ。一緒にいるだけ……」
少ししどろもどろになって言いながら下を向く春夜に「……わかったよ」と充はつい頷いていた。
一緒に帰ろうとにこにこ言われ、充は春夜と寮へ向かっていた。帰り道で「しゅんは弓道部に来るまで何してたんだ」と聞けばそう返ってきて、充はわりと戸惑う。
「夕焼け? ああ、そうだな」
とはいえ、言われて充は空を見た。いや、多分今日一日の間に何度か目に入ってはいたのだろうが、全然空の様子は意識していなかった。雨は降っていないし、もし降ってきても置き傘があるので気にもしていなかった。
それを春夜に言えば「みっちゃんらしい」と笑われる。
「しゅんは空、好きなのか?」
「……ううん。別に。でも空見ながらみっちゃんのこと考えるのは好き」
「は?」
そろそろ「好き」と言われることに慣れてきた気がしていたが、新しいパターンが来たとばかりに充は戸惑った。
「どうしたの?」
「言ってることがよくわかんないんだけど……」
「えー何で。例えばね、最近までの青空はみっちゃんみたいだったからよく見てたよ」
「例えがまずわからないんだけど」
青空が俺? と充は怪訝な顔を春夜に向けた。
「春のね、霞がかかった優しい青がみっちゃんっぽいでしょ。ああでも秋の澄みきった濃い青もみっちゃんっぽいよね」
「日本語で頼む」
抽象的過ぎて充には春夜が何を言いたいのかさっぱりだった。あいにく国語でも「ここで作者は何を言いたかったのかを説明せよ」といった問いがわからない部類の人間だ。春夜はそんな充に対して楽しそうに微笑んできた。
「今日もみっちゃんを見に行くまでは空、見てた」
「そ、うか」
空を、と思ったところでふと気づく。
それって俺を見に来る前もある意味俺のことを考えていたってこと?
さすがに国語が得意でなくとも今の話は先ほどまでの話と繋がる。いやでも、と充はまた空を仰いだ。空はどんよりと曇っている。
「……青空じゃない」
「え?」
春夜は確か青空を見て充のようだと言っていた。なら今日の空は充を思う材料ではないということになる。
何だよ、俺。自意識過剰か。
「みっちゃん? 何か顔、赤い?」
「……気のせい。何で空? 別に空が好きなわけじゃないんだろ」
「ん? 言ったでしょ、空見ながらみっちゃんのこと考えるのが好きなんだって」
そういえばそうとも言っていたような、と充は少し遠い目になった。やはり国語は苦手のようだ。
「……でも青空じゃないけど」
「うん。どっちかっていうと俺みたいな空だよね」
前なら結びつかなかったかもしれない。いつもかわいらしい顔でにこにこしている春夜しか浮かばなかった前なら。
今なら少しわかる気がした。ついでに春夜の例え方もなんとなくわかる気もした。
そうなると、俺はほんとに青空みたいに思われてんの? 俺、全然明るくも爽やかでもないけど?
充が何も答えないでいると春夜が続けてきた。
「でも梅雨の時期に咲くタチアオイがみっちゃんっぽいなあって思ってて」
「待て。降参だ」
「えっ?」
「お前が前からそういうものの例えするのはよく知ってるけど、俺を絡められるとちょっとほんとわからない」
そもそも、たちあおいって何だよ。
充は春夜を困惑しつつ見た。
「あ、ほら。あれ。あれがタチアオイだよ」
校門を出て寮とは反対側にある公園のほうを指差した春夜につられ、充もそちらを見た。
「どれ」
「あの赤っぽい花が下のほうに咲いてるやつ」
言われてもう一度見るとわかった。縦にぐんと伸びたような植物の群れがある。その赤っぽい花は充の、ない知識からかき集めて見れば少し朝顔みたいにも見えた。なんというか、南国っぽい朝顔というのだろうか。
「どこが俺……?」
どこをどう見て、と謎でしかない。唖然として充は春夜を見ると「えー、すごくみっちゃんっぽいのに」とにこにこしている。その様子が本当に楽しそうに見えたので、全然意味わからないながらにまあいいかと充は思うことにした。
好きと言われても正直なところ困惑でしかない。春夜のことは親友として好きだし、あんなことをされた今でも嫌いにはなれない。ただ、あんなことをしてもやはり男同士だし充にはそういう気は湧かない。
それでもやはり春夜が楽しそうにしていたり嬉しそうだったりするとホッとするものがある。充も嬉しく思ったりする。
寮へ帰って来て、同じフロアなのでそのままエレベーターに乗った。階段を使うこともあるが、昨日の今日なのでまだ少々体が本調子ではないというのもある。
自分たちの部屋があるフロアに着くとお互いの部屋は反対側にあるため、充は「じゃあ」とそのまま歩こうとした。
「待って」
「ん?」
「俺の部屋、来て」
「……何で」
友人に部屋へ来いと言われて普通なら警戒などしないだろう。だが親友であってもすでに昨日、そのラインを超えた行為をしてしまっているため、どうしても警戒してしまう。
「あ、あのね。今日同室の子がいなくて」
そう言われるとますます警戒心しか湧かない。
「っあ! えっと、違う。違うよ、みっちゃん! その、そういうつもりじゃなくて……いやその、もちろん機会があればいつだってしたいけど、でも今はほんとそういうつもりで言ったんじゃなくてね、そりゃしたいけど」
「本音を混ぜてくるな……!」
「ご、ごめんね? あ、また謝っちゃった……でもほんと、今は違うくて……あの、せっかくだから一緒にいたかっただけなんだ。一緒にいるだけ……」
少ししどろもどろになって言いながら下を向く春夜に「……わかったよ」と充はつい頷いていた。
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