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9話
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「みっちゃんおはよう!」
背後から突然抱きつかれ、充は驚きつつも春夜だとは把握しているため呆れた顔を向けた。すると何となく春夜の様子がおかしいように感じる。行動はいつもと変わらない。なのに感じた違和感のような何かに充は不安になった。思わず春夜を撫でる。すると春夜が一瞬震えたように思えた。気のせいかもしれない。だが充の中に小さく震えている子犬が浮かぶ。
子犬の震えている理由が、腹が空いているのか寒いのか怯えているのか元々そういうものなのかわからなくて、どうにかしてやりたいのだが毛布をかけてやればいいのか撫でてやればいいのかご飯をあげればいいのか、それともそっとしておいてやればいいのかわからない──そんな感じに似た戸惑いが生じた。
とりあえず、やはり何かあるのかもしれないと充は思う。依なら顔が広いし何かわかるかもしれない、と充は午後の休み時間に依に聞いてみた。
「依。サッカー部のこと、何か聞いてない?」
「サッカー部? ああ、綾崎のことで?」
依は察しがいいのもあり、色々と助かるし頼れる。
ちなみに午前中に聞けなかったのは休み時間の度に春夜がそばへやって来て離れなかったからだ。だが先ほど「すごく眠いから少しだけ寝てくるね」とどこかへ行ってしまった。
「ちょっと寝るくらいなら机に伏せって寝ればいいだろ」
「ダメ。俺、繊細だから休み時間の皆がわいわいしてる教室で寝れそうにないもん」
自分で言うな、とか何が繊細だよ、と言い返すつもりだったが言葉は出てこなかった。茶化した言い方だし冗談で言っているのはわかっているが、実際に春夜は繊細だよなと思ってしまう。
「寝すぎて授業サボることになっても知らないぞ」
「六時間目は地学だし、それなら万が一寝過ごしても俺、何とかなるよ」
えへへと笑うと教室を出ていく春夜に、また「何かあるのかもしれない」とぼんやり充は思ってしまった。
依は友人に聞いておくと言ってくれた。それで何かわかるといいなと充は思う。自分で直接サッカー部の誰かに聞いて、勝手な想像ながらにもし春夜に何か影響があったらと思うと、何もわかっていない今の状態でやみくもに聞いてみるわけにもいかない。
本当は春夜が何かあるなら自分から話してくれるのが一番なのだが、と充は中学の頃のことを思い出す。前にも春夜が何も話してくれないんだなと思ったことがあった。もし話してくれていたら力になれたかもしれない。当時充の知らないところで起きていた問題は結果的に春夜が自分で解決したことになる。
解決なんて言えるのかだけど……。
春夜はどうでもいいことは何でも話すくせに、肝心なことは何も言ってくれない。そして一人で何とかしようとする。決して頼ってこない。
俺、親友だろ? 俺のこと、好きなんだろ? なのに何で俺を頼らないんだよ。頼ってくれよ……。
また自分の知らないところで春夜が傷つくのは嫌だった。
確かに自分では助けにもならないこともあるかもしれない。だが、助けられたかもしれないのにと無知の後悔に苛まれながら、それでも充を好きだと笑いかけてくる傷ついているはずの春夜に何もせず笑い返すのはなかなかきついものがある。
笑いかけて……。
もしかしたら、充がつい春夜の表情を無意識ながらにいつも見ているのは、春夜が何も話してこないやつだからなのかもしれない。いつもふわりと穏やかに笑ってくるがたまに気になる表情をする、その表情の細部を無意識ながらに確認して、春夜は大丈夫なのかと判断しようとしているのかもしれない。
何でもかんでも抱え込む春夜を、無意識にずっと心配しているのだと思う。
それでもしゅんが俺と他のやつに対して全然態度とか違うってことに気づけてなかった……俺は何を見てんだよ……。
結局六時間目は戻ってこなかった春夜だが、授業が終わるとすぐに充のところへやって来た。
「結局戻ってこなかったな」
「起きたら授業始まってる時間だったんだ」
「……ったく。それでも俺より成績いいの腹立つな」
「みっちゃんも悪くないよ」
「よくもないんだよ……」
「あはは」
笑いながら、春夜はまたきゅっと充に抱きついてきた。
こういう学校だからか、周りもこんな春夜の動向に対して特に驚いたりはしない。だが春夜が告白してくる前のことだが「いつからつき合ってんの」とは言われたことがある。
「……つき合ってないけど」
「嘘、マジで? あんなにイチャイチャしてんのに?」
「いや、してないけど」
「あれで?」
そいつには「クラスの癒しマスコットカップルだと思ってた」とまで言われた。
「癒し? マスコット?」
「お前らって見た目結構癒しだろ」
「見た目」
「見た目。だって中身だと加佐見は淡々として男前だし、綾崎はあんなだし」
「あんな?」
「え、待って。じゃあもしかして佐々部とつき──」
「合ってない」
改めてとんでもない学校だなとその時再確認したが、とはいえクラスの皆はわりといいやつだとは思っている。少なくともそれは春夜にとってもよかったなと思ったりしていた。
そういえばそいつもしゅんのこと「あんなだし」とか言ってた。
「今日も弓?」
「え? あ、ああ。っていうかしゅん、くっつきすぎだろう?」
いつもくっついてはくるが、今日はいつも以上に春夜が離れない気がした。少し眠りに行った以外はひたすらくっついては抱きついてきていた。
背後から突然抱きつかれ、充は驚きつつも春夜だとは把握しているため呆れた顔を向けた。すると何となく春夜の様子がおかしいように感じる。行動はいつもと変わらない。なのに感じた違和感のような何かに充は不安になった。思わず春夜を撫でる。すると春夜が一瞬震えたように思えた。気のせいかもしれない。だが充の中に小さく震えている子犬が浮かぶ。
子犬の震えている理由が、腹が空いているのか寒いのか怯えているのか元々そういうものなのかわからなくて、どうにかしてやりたいのだが毛布をかけてやればいいのか撫でてやればいいのかご飯をあげればいいのか、それともそっとしておいてやればいいのかわからない──そんな感じに似た戸惑いが生じた。
とりあえず、やはり何かあるのかもしれないと充は思う。依なら顔が広いし何かわかるかもしれない、と充は午後の休み時間に依に聞いてみた。
「依。サッカー部のこと、何か聞いてない?」
「サッカー部? ああ、綾崎のことで?」
依は察しがいいのもあり、色々と助かるし頼れる。
ちなみに午前中に聞けなかったのは休み時間の度に春夜がそばへやって来て離れなかったからだ。だが先ほど「すごく眠いから少しだけ寝てくるね」とどこかへ行ってしまった。
「ちょっと寝るくらいなら机に伏せって寝ればいいだろ」
「ダメ。俺、繊細だから休み時間の皆がわいわいしてる教室で寝れそうにないもん」
自分で言うな、とか何が繊細だよ、と言い返すつもりだったが言葉は出てこなかった。茶化した言い方だし冗談で言っているのはわかっているが、実際に春夜は繊細だよなと思ってしまう。
「寝すぎて授業サボることになっても知らないぞ」
「六時間目は地学だし、それなら万が一寝過ごしても俺、何とかなるよ」
えへへと笑うと教室を出ていく春夜に、また「何かあるのかもしれない」とぼんやり充は思ってしまった。
依は友人に聞いておくと言ってくれた。それで何かわかるといいなと充は思う。自分で直接サッカー部の誰かに聞いて、勝手な想像ながらにもし春夜に何か影響があったらと思うと、何もわかっていない今の状態でやみくもに聞いてみるわけにもいかない。
本当は春夜が何かあるなら自分から話してくれるのが一番なのだが、と充は中学の頃のことを思い出す。前にも春夜が何も話してくれないんだなと思ったことがあった。もし話してくれていたら力になれたかもしれない。当時充の知らないところで起きていた問題は結果的に春夜が自分で解決したことになる。
解決なんて言えるのかだけど……。
春夜はどうでもいいことは何でも話すくせに、肝心なことは何も言ってくれない。そして一人で何とかしようとする。決して頼ってこない。
俺、親友だろ? 俺のこと、好きなんだろ? なのに何で俺を頼らないんだよ。頼ってくれよ……。
また自分の知らないところで春夜が傷つくのは嫌だった。
確かに自分では助けにもならないこともあるかもしれない。だが、助けられたかもしれないのにと無知の後悔に苛まれながら、それでも充を好きだと笑いかけてくる傷ついているはずの春夜に何もせず笑い返すのはなかなかきついものがある。
笑いかけて……。
もしかしたら、充がつい春夜の表情を無意識ながらにいつも見ているのは、春夜が何も話してこないやつだからなのかもしれない。いつもふわりと穏やかに笑ってくるがたまに気になる表情をする、その表情の細部を無意識ながらに確認して、春夜は大丈夫なのかと判断しようとしているのかもしれない。
何でもかんでも抱え込む春夜を、無意識にずっと心配しているのだと思う。
それでもしゅんが俺と他のやつに対して全然態度とか違うってことに気づけてなかった……俺は何を見てんだよ……。
結局六時間目は戻ってこなかった春夜だが、授業が終わるとすぐに充のところへやって来た。
「結局戻ってこなかったな」
「起きたら授業始まってる時間だったんだ」
「……ったく。それでも俺より成績いいの腹立つな」
「みっちゃんも悪くないよ」
「よくもないんだよ……」
「あはは」
笑いながら、春夜はまたきゅっと充に抱きついてきた。
こういう学校だからか、周りもこんな春夜の動向に対して特に驚いたりはしない。だが春夜が告白してくる前のことだが「いつからつき合ってんの」とは言われたことがある。
「……つき合ってないけど」
「嘘、マジで? あんなにイチャイチャしてんのに?」
「いや、してないけど」
「あれで?」
そいつには「クラスの癒しマスコットカップルだと思ってた」とまで言われた。
「癒し? マスコット?」
「お前らって見た目結構癒しだろ」
「見た目」
「見た目。だって中身だと加佐見は淡々として男前だし、綾崎はあんなだし」
「あんな?」
「え、待って。じゃあもしかして佐々部とつき──」
「合ってない」
改めてとんでもない学校だなとその時再確認したが、とはいえクラスの皆はわりといいやつだとは思っている。少なくともそれは春夜にとってもよかったなと思ったりしていた。
そういえばそいつもしゅんのこと「あんなだし」とか言ってた。
「今日も弓?」
「え? あ、ああ。っていうかしゅん、くっつきすぎだろう?」
いつもくっついてはくるが、今日はいつも以上に春夜が離れない気がした。少し眠りに行った以外はひたすらくっついては抱きついてきていた。
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