キャラメルラテと店員

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18話

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 力が抜けた後でぼんやりとしていて、自分で言った言葉も意識していなかった。

「何故そんな事聞くの?」

 優しくキスをしてきながら瑞希が聞く。

「……え……俺、何か……言いまし、た……?」

 言ったかもしれない。でもなんだか疲れてよくわからない。
 ひたすらぐったりしているといつものように瑞希が周を抱き上げて階段もよろける事なく降り、風呂場に連れていってくれる。夜だとティッシュや濡れタオルで拭いてくれた後はそのまま眠るが、日中だといつもこうしてシャワーで綺麗にしてくれていた。
 お風呂を出た後はリビングで周はぼんやりとしていた。瑞希はその間に周の部屋を綺麗にした挙句晩御飯の準備までしていた。

 本当に何でこんな人が自分なんかを好きなんだろう。

 ぼんやりしつつ周は思う。やっぱり何かの間違いだろうか。それとも先程朔に言ったのは、朔を大人しく帰らせる為の方便だろうか。
 一応瑞希が周を好きだとすれば、一連の瑞希の行動は周にも理解できる。
 でも、と思う。別に自分の事は嫌いではないが、客観的に見るくらいはできる。顔はいたって普通。悪くもないだろうけれども間違ってもいいとは言えない。人を惹きつけるようなオーラも勿論ないし、だいたい性格は自分でもわかっているが大人しい。
 頭は悪くないとは思う。飛びぬけてよくはないが、真面目な性格だし昔からこつこつしてきたおかげもあって希望した公立高校へも入れた。
 しかし運動はやはり普通で、基本運動しないから体つきも貧相だ。筋肉は欲しいなと思うけが、真面目な割に面倒くさがりだから何もしていない。食事だって親だけではなく朔やそして瑞希にまで言われるくらい適当だった。身長は、普通だなと思える高さにどうにもあと一歩足りない。

「……ほんとなんで」

 思わず呟くくらい、自分のいい所がほとんど見い出せない。
 というかだいたい自分はどうなのだと周は自分に問う。
 元々ずっと好きで思いつめた挙句いきなり抱きつく事までしたくせに。そして失恋したんだとショックを受けていたくせに。相手が男だとわかった途端その気持ちは無かったものになったのか?
 しかし、だとしたら何故今もこうして相手の言いなりなのだろうか。怖いからというのもあったけれども。

「周、大丈夫?」
「……え?」

 不意に大丈夫かと聞かれて周はハッと見上げた。すると首を傾げている瑞希がジッと周を見た後に、座っているソファーの横に腰をおろしてきた。

「もうすぐご飯できるよ」
「あ、はい……。いつも……すみません」
「いいよ、可愛い周のためだから」

 また可愛いと言われ、周は少し戸惑ったように瑞希を見た。

「何?」
「……あの……さっき、朔に言った事……」
「……ああ。それこそさっきイった後に変な事呟いてたね。何故?」
「え?」
「だから何故そんな事聞くの?」

 そんな事。
 ああ、朔に言った事という、事?

「す、好き、って……」
「? うん?」

 瑞希は怪訝そうな顔をした。いつも柔らかい笑みを浮かべているので、怪訝そうな顔をされると「そんなにあり得ない変な事を言ったのだろうか」という気分になる。思わず黙っていると「ああ」と何かに気付いたかのような表情をした後で周の髪を優しく撫でてきた。

「俺がいつも好きだと言うより可愛い、て言っているから? 珍しかったの?」

 違います。

 少し微妙な気持ちになった。

 でも、それって……やはり瑞希が自分を好きなのは間違いないって事だ、よね? そうだよね?

「つい思っている気持ちが出ちゃってるからいつも可愛い、可愛いって言ってるけど、もちろんちゃんと愛してる。好きだよ周」

 思わず周はポカンと瑞希を見た。サラリと言われた。嘘だろう? と思わず言いたくなるくらい、サラリと。
 こんなに綺麗でカッコよくて、背も高くて行っている大学を思えば多分頭も凄くよくて。料理だって何だってできる、ただし男、な人が。
 なんというか思わずこちらが乙女な気分になりそうなほど、あまりに当然といった風にカッコよくサラリと言ってきた。

 ああでもやっぱり本当なら、なんて言うか何故今まであんな事をしてきたのかが理解できるから俺……怖くない。

 意味がわからなくて怖くて仕方がなかったけれども、そして今後も想像もつかないような事をされるのはやはり緊張するかもだけれども、もう、あれほど怖くない。

「……から暫くはごめんね」

 え?
 何か、言っていた?

 自分の考えに没頭していて今の言葉は聞こえていなかった。

「あは、なんかその顔、可愛い」

 だが聞き返そうとする前にそんな事を言われて優しくキスをされつつまた押し倒されてしまい、結局聞き返すことのないまま流され、そしてまたお風呂に入れられた後でふらふらになりながら瑞希の作ってくれたご飯を食べた。
 何度もしたからいつもなら夜はただ一緒に眠るだけだったが、その夜周はまた抱かれた。まるで仕納めかのような印象すらある勢いだったが、とりあえずもう怖くはなかった。激しく求められ、それに応じるように周はひたすら委ねた。
 そのせいで翌日体はガタガタだった。なんとかふらふらと学校に行くと、朔に微妙な顔で見られて赤くなる。

「……赤くなるの、やめてくれ」
「……ご、ごめん」
「いや、うん。……その……だ、大丈夫なのか?」

 多分なぜふらふらなのか、察しがついているんだろうと周はなおさら赤くなる。辛うじて「うん」と呟くと俯いた。
 その時の朔の表情がとてつもなく複雑だったのだがそれには気付かないまま、とりあえずゆっくりと席に座る。
 あまりに疲れていたのだろうか、珍しく周は授業の時に少し居眠りしてしまい、その授業を担当していた教師の鬼崎に「珍しいな、とりあえず起きろ」と注意をされてまた赤くなった。

「ほんと大丈夫なんか? その、あれだ、興味本位で聞いてるんじゃないぞ」

 昼休みに朔と一緒に昼ご飯を食べていると、また言われた。本当に心配してくれているのはわかるので周はコクリと頷く。

「大丈夫……。あ、そ、その……か、体も、だ、だけどっ、その、み、瑞希はその、こ、怖くなくなった」

 なんとかそう伝えるとまた微妙な顔をされた。変な事を言ってしまったのだろうかと思っているとため息をつかれた後で頭を撫でられた。

「まあ、なら、いい。周が大丈夫ならいいんだ」
「……うん。ありがとう、朔」
「お前、やっぱあのストー……いや、英さん、好きなのか?」
「ストーカーて言ってもいいよ」

 周は少し苦笑しながら朔を見た。

「……自分でもほんと、なんかよくわからなくて……」
「……そっか。まあとりあえずちゃんと自分を大事にしろよ? お前はすぐ色々めんどがって投げんだからな」
「なんだよ、それ。そんな事、ねーし。……でもうん、そうする。ありがとう」

 もうしばらく、ようやく理解できるようになった瑞希と接したらわかるかもしれない。
 そう思った周だが、その日から瑞希は家に来なくなった。
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