キャラメルラテと店員

Guidepost

文字の大きさ
上 下
7 / 20

7話

しおりを挟む
「英さん、あの今日、あいてないですか?」

 数日ぶりに大学に行き、講義を受けた後になんとなく見た事がある女生徒がもじもじしながら瑞希に声をかけてきた。

「ごめんね、今日は用事、あるんだ」

 瑞希は申し訳なさそうにしながらも優しげに微笑んでからその場を立ち去る。
 カフェで働いてはいるが瑞希はアルバイトであって正社員ではない。実際は大学二年生だ。
 瑞希の大学は一年間での単位制限がないので一年の間に既に卒業最低限の単位に近いだけ取れていた。授業出席が必須もあれば、試験さえ受かれば貰える単位もある。試験さえ、とはいえ基本的には簡単に受かるものでもないものの瑞希はそれでかなりの単位を稼いでいた。
 単位に余裕はあるが在学中の態度や取り組む姿勢なども案外重視されるのも承知しており、瑞希はこうして週に何日かは真面目に大学にて授業を受けている。ただ勉強自体は嫌いではないが講義がさほど面白いと思えなかった。
 別に人生を適当に考えている訳でもないが、せっかく世間で言う「いい大学」に入っていても、卒業後は今アルバイトをしているカフェでの仕事に就いてもいいなとさえ思っている。もしくは暫く就業して資金を溜め、自分で店舗開業してもいい。
 コーヒーや軽食を作る方が瑞希には合っている気がした。周りは「せっかくの高学歴がもったいない」と言うかもしれないが、実際自分の人生は自分の責任だ。なら自分が間違ってないと思うならそれで問題ないと瑞希は思っている。
 接客する事も苦ではない。昔から人当たりはいいし、見た目に釣られ周りも瑞希に基本優しい。優しいというか懸想される事も多いのだが、瑞希自身は興味が湧かないと相手にはしなかった。
 女性的な顔立ちの他にも、背はそれなりに高いのだが線が細く見えるからか、どうにも儚げでか弱そうに見られる事も多い。その為、中には強引に事を進めようとしてくる相手もいたりするのだが、瑞希自身腕にも割と自信がある。やったこともないままできないと宣言するのが好きではないのでこれでも体は鍛えていた。
 限られた可能性の中から渋々選択するのではなく、できる限り色々な可能性を持った上で何事も選択したいと昔から考えていたからか、こうして文武両道ではあるのだが、生憎外見だけはどうしようもなかった。自分ではこの女性的な顔も華奢に見える体も特に好んではいない。
 それでも大きくなるにつれて、利用すれば案外悪くない外見なのだと思うようにはなった。特に無理に自分を作ろうとはしていないし基本自然体でありつつ、色々と自信もあるからか儚げで美形である印象の他にゆったりとした余裕もあるようで、なんとも言えない雰囲気を醸し出しているようだ。
 とは言え、普段出す事のない性質というものは瑞希にもある。
 二年になってから暫くした時にふと店にやってくる客の一人が気になるようになっていた。
 その少年は至って普通である。顔つきは悪くないのだがこれと言って目立たない。身長も小柄とまではいかないがあまり高くない。とにかく普通だった。
 最初は多分たまたま何らかの時間つぶしに入ってきたのだろう。ただここの客としては珍しく、甘いキャラメルラテを注文してきたのでなんとなく瑞希は覚えていた程度だった。
 その後何度もその少年を見かけるようになり、たまに視線を感じる。それに対して、ああなるほどねと瑞希は気づく。たまにある事だった。
 ただ真面目そうな少年が男に興味あるとは思えないけれども、と思ってからもしかして自分は女と間違えられている可能性もあるかな、とも少し思った。
 そして何故か次第にその少年の密かに見てくる、だが熱い視線が気になるようになっていった。
 普段瑞希からはあまり人と深く付き合う事はない。当たり障りのない付き合いで留める。
 だけれども。
 瑞希自身が相手を気になるのなら話は違う。そこから瑞希はその少年の事を色々調べるようになった。店に姿を見せている時点で、その気になれば相手の事を調べるなんてとても簡単な事だ。相手が無防備ならなおさらだ。
 :名前は香坂周。高校一年生。とても平凡そうだが学校は頭の良い公立高校だった。きっと真面目に勉強してきたのだろう。実際性格もとても真面目そうでそして大人しい。顔つきは悪くないので本人がそれなりに意識して自分を作ればそこそこ悪くないタイプになるだろう。だがそういう事に興味がない、というか考えも及ばなさそうである。多分女の子と付き合った事もないだろう。
 だからと言って勉強一筋というお堅いタイプでもなさそうで、ふと見かけた笑顔は可愛らしく、本当に至って普通の少年だった。
 友達もそこそこはいるようだ。多くもなく、少なくもない。だが小さい頃からの幼馴染というか親友がいるみたいで、よくその相手と一緒にいるところを見かけた。それに関しては、瑞希にとって大いに気に食わなかった。
 それでも親が海外に居て基本一人暮らしをしている少年にしては本当に色々と真面目だとしみじみ思う。夜遅くまで遊び倒す事もなければ、まあ相手が居ないのだろうが家に誰かをそういう意味で連れ込む事もない。趣味も特にこれと言ってなさそうだ。ただ、どうやら雑貨やインテリア系に多少興味があるというのはわかった。

 カフェ好きと雑貨好き、か……。……うん、いいじゃない。

 瑞希はニッコリと笑った。
 家事自体は得意じゃないのかただ単に面倒くさいのか、よくコンビニで何やら買っているようだった。

 なんなら俺が作ってあげるのに。いやもう、いっそ作りにいこうか。

 相変わらず瑞希が店員として入っている時にちょくちょくやってきてはバレていないとでも思っているのかちらちらと瑞希を盗み見してくる周にそんな事を思っていたある日。何を思ったのか周が待ち伏せまでして抱きついてきたのだ。

 ああそうなんだ。
 ……君も、俺の事、そんなに好きなんだね……?

 その日はそのまま帰ったが、その後ちょくちょく瑞希は周にプレゼントをした。直接渡してもよかったのだが周が店に来なくなったし中々機会がない。なのでポストに入れておいた。
 周の喜びそうなものばかりを選んだし、喜んでもらえると思ったのだがどうやら誰からのものか気づいていない様子だった。

 すぐに俺からのプレゼントだとわかってもらえると思ったんだけどね……。

 瑞希はそんな事を思いつつ、周の家の前でとうとう待つ事にした。
 瑞希の事を好きだと思ってくれている割に最近周はよく彼の親友の家に外泊しに行っている。そんな周にお仕置きも兼ねて、ちゃんと今もこれからも大事にしてあげると教えてあげようと心に決める。
 女生徒に断った後で、瑞希の足は迷うことなく向かった。

「君が店に来なくなったからね、俺が来ちゃったよ」

 さあ、これから存分に可愛がってあげるからね……。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

絆の序曲

Guidepost
BL
これからもっと、君の音楽を聴かせて―― 片倉 灯(かたくら あかり)には夢があった。 それは音楽に携わる仕事に就くこと。 だが母子家庭であり小さな妹もいる。 だから夢は諦め安定した仕事につきたいと思っていた。 そんな灯の友人である永尾 柊(ながお ひいらぎ)とその兄である永尾 梓(ながお あずさ)の存在によって灯の人生は大きく変わることになる。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

もしかして俺の人生って詰んでるかもしれない

バナナ男さん
BL
唯一の仇名が《 根暗の根本君 》である地味男である< 根本 源 >には、まるで王子様の様なキラキラ幼馴染< 空野 翔 >がいる。 ある日、そんな幼馴染と仲良くなりたいカースト上位女子に呼び出され、金魚のフンと言われてしまい、改めて自分の立ち位置というモノを冷静に考えたが……あれ?なんか俺達っておかしくない?? イケメンヤンデレ男子✕地味な平凡男子のちょっとした日常の一コマ話です。

【完結】愛執 ~愛されたい子供を拾って溺愛したのは邪神でした~

綾雅(要らない悪役令嬢1巻重版)
BL
「なんだ、お前。鎖で繋がれてるのかよ! ひでぇな」  洞窟の神殿に鎖で繋がれた子供は、愛情も温もりも知らずに育った。 子供が欲しかったのは、自分を抱き締めてくれる腕――誰も与えてくれない温もりをくれたのは、人間ではなくて邪神。人間に害をなすとされた破壊神は、純粋な子供に絆され、子供に名をつけて溺愛し始める。  人のフリを長く続けたが愛情を理解できなかった破壊神と、初めての愛情を貪欲に欲しがる物知らぬ子供。愛を知らぬ者同士が徐々に惹かれ合う、ひたすら甘くて切ない恋物語。 「僕ね、セティのこと大好きだよ」   【注意事項】BL、R15、性的描写あり(※印) 【重複投稿】アルファポリス、カクヨム、小説家になろう、エブリスタ 【完結】2021/9/13 ※2020/11/01  エブリスタ BLカテゴリー6位 ※2021/09/09  エブリスタ、BLカテゴリー2位

どうせ全部、知ってるくせに。

楽川楽
BL
【腹黒美形×単純平凡】 親友と、飲み会の悪ふざけでキスをした。単なる罰ゲームだったのに、どうしてもあのキスが忘れられない…。 飲み会のノリでしたキスで、親友を意識し始めてしまった単純な受けが、まんまと腹黒攻めに捕まるお話。 ※fujossyさんの属性コンテスト『ノンケ受け』部門にて優秀賞をいただいた作品です。

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

完結・オメガバース・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン王から溺愛されました

美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!

処理中です...