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SS
憂鬱な前準備1
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ああ、ムキになっているウィルフレッド「は」かわいいな。
ルイは内心遠い目になりながら思っていた。
聖モナの日が近づいている。ケルエイダ王国全体がこの日、神モーティナやその子と言われているモナを祝って過ごす。それと共に家族や恋人、友人たちとご馳走を食べたりプレゼントを送りあったりといった風習も楽しまれていた。
宮廷でもそれは同じではあるが、さすがに王子自らが聖モナの日用のオーナメントを作ることなど普通はない。だが何故か今、ウィルフレッドを筆頭に兄弟三人で木彫りの小人妖精人形を作っていた。何故かというか、わりとラルフのせいだとルイは笑顔のままじろりとラルフを睨む。ラルフは気づくこともなく楽しそうにウィルフレッドの作った木彫り人形を見ていた。
小人妖精の木彫り人形はモナの祝福を受け幸せを運んでくれるといわれている。
だが、ルイはこの人形こそが昔から大の苦手だった。人形がというよりはこの生き物がではあるが、トラウマの源と言ってもいい。これのせいで、他の人形だろうが小さな人形はことごとく苦手になったのだ。そしてそれを知るアレクシアはここにはいない。料理人と混じって今頃は聖モナ用の菓子を作っているだろう。
料理など全く作れないルイもまだそちらのほうが余程マシだと思った。だが「俺もケーキが作りたくなったかな」と言いたかったが、厨房にはアレクシアだけでなく沢山の女性が今いるらしく、自惚れではなく王子として混乱を避けるためにもこっそり涙を飲むことにした。ちなみにラルフはむしろ「ちょっと行きたくなるよねー」などとニコニコしていたが、結局沢山の女性よりもウィルフレッドと共にろくでもない人形作りをする方を選んだようだ。
はっきり言ってルイとしては断りたかった。何が悲しくて恐怖の元である人形を見るだけでなく作らなくてはならないのか。しかしウィルフレッドかわいさ故に断るなんてできるはずもない。
そういえばあれはウィルフレッドが十歳の頃だったか。今のような活発な子になってきた頃だったと思うが、同じくこの木彫りの人形を作ったことをルイは思い返した。あの頃は今よりもっと不器用だったウィルフレッドの作った木彫り人形は、むしろ人形にすら見えなくてまだマシだった。
マシだったけど……でもあの時の恐怖再来というか……。いやいや、あまり考えるな、俺。
気が遠くならないよう他のことを考えようとして、また人形のことを考えているようなものだとルイは自嘲する。
とりあえず、あの頃作ったウィルフレッドの人形は個性的だったよねと言ったラルフに対し、向上心というか対抗心のようなものが湧き上がったらしいウィルフレッドが「聖モナの日用の木彫り人形を作る」と宣言し、今に至る。
考えたくなくとも二人が目の前で作っている上に自分も作っているためどのみち頭からシャットアウトするのは難しかった。またこんな時はありがたくもないが手先が器用なため、大の苦手なはずなのにいかにもそれらしい小人妖精が出来上がってしまった。
それは妖精という呼称をズタボロにして投げ捨ててやりたいほど不気味な存在だ。白く長い顎髭を蓄えており、暗闇で光る眼、尖った耳を持ち、赤い帽子に灰色や紺色のボロボロの服を見につけている。おまけに人間のような形態をしておきながら手の指は四本しかない。そして長い顎鬚の持ち主のくせに背丈は小さな子どもくらいしかない。しかも一応は働き者で家を守ったりもしてくれるらしいが機嫌を損ねたらもう終わりだ。納屋にあるものすべてを盗んでその農家を出ていってしまう。守られていた存在がいなくなり、その農家は不幸に見舞われる。また、家畜や子どもを大事にしない農夫や親を棒や何やらで滅多打ちに殴る。
年末のモーティナ復活祭そして聖モナの日は、神の子とされていたモナが死した後復活したことを祝う日々だ。その際に、昔の国民は家や自分たちを守ってくれるこの悪魔──いや、小人妖精の機嫌を損ねないよう、特に感謝の気持ちを示す日としても祝った。その妖精へ可能な限りのご馳走を並べておくのだ。中でもミルク粥はそれが好きな妖精に必ず作られていたようで、聖モナの日には王の食卓にすらミルク粥が並ぶ。おかげ様でルイは子どもの頃からミルク粥まで嫌いになった。
以前、ウィルフレッドにこの小人妖精の話を感情を込めてした時につい少し泣かしてしまったくらいだというのに、ウィルフレッドはトラウマにならなかったようだ。本人は隠せていると思っているらしいが怖がりなのは皆にバレているウィルフレッドでも、さすがに大人になってからの話はトラウマになるほどではないのだろう。よって、今もルイが完璧な出来とはいえ何とかようやく一体作った時点で既に何体作るのかというレベルで悪魔を制作し続けている。
そう、悪魔だ。
もうね、悪魔にしか見えないでしょ。
ルイは遠い目のまま思っていた。
ウィルフレッドはかわいい。それは覆しようのない事実だしひたすらかわいい。だがウィルフレッドの手から作られていくそれは阿鼻叫喚といっても大げさではないだろう。酸鼻を極めた様子からは怨嗟の声すら聞こえてきそうだ。形からして歪で禍々しく、触れた途端呪いが降りかかりそうだった。
……俺のトラウマが更新されていく……誰か助けて。
ニコニコと笑顔の裏でルイは必死になって自我を保とうとしていた。
ルイは内心遠い目になりながら思っていた。
聖モナの日が近づいている。ケルエイダ王国全体がこの日、神モーティナやその子と言われているモナを祝って過ごす。それと共に家族や恋人、友人たちとご馳走を食べたりプレゼントを送りあったりといった風習も楽しまれていた。
宮廷でもそれは同じではあるが、さすがに王子自らが聖モナの日用のオーナメントを作ることなど普通はない。だが何故か今、ウィルフレッドを筆頭に兄弟三人で木彫りの小人妖精人形を作っていた。何故かというか、わりとラルフのせいだとルイは笑顔のままじろりとラルフを睨む。ラルフは気づくこともなく楽しそうにウィルフレッドの作った木彫り人形を見ていた。
小人妖精の木彫り人形はモナの祝福を受け幸せを運んでくれるといわれている。
だが、ルイはこの人形こそが昔から大の苦手だった。人形がというよりはこの生き物がではあるが、トラウマの源と言ってもいい。これのせいで、他の人形だろうが小さな人形はことごとく苦手になったのだ。そしてそれを知るアレクシアはここにはいない。料理人と混じって今頃は聖モナ用の菓子を作っているだろう。
料理など全く作れないルイもまだそちらのほうが余程マシだと思った。だが「俺もケーキが作りたくなったかな」と言いたかったが、厨房にはアレクシアだけでなく沢山の女性が今いるらしく、自惚れではなく王子として混乱を避けるためにもこっそり涙を飲むことにした。ちなみにラルフはむしろ「ちょっと行きたくなるよねー」などとニコニコしていたが、結局沢山の女性よりもウィルフレッドと共にろくでもない人形作りをする方を選んだようだ。
はっきり言ってルイとしては断りたかった。何が悲しくて恐怖の元である人形を見るだけでなく作らなくてはならないのか。しかしウィルフレッドかわいさ故に断るなんてできるはずもない。
そういえばあれはウィルフレッドが十歳の頃だったか。今のような活発な子になってきた頃だったと思うが、同じくこの木彫りの人形を作ったことをルイは思い返した。あの頃は今よりもっと不器用だったウィルフレッドの作った木彫り人形は、むしろ人形にすら見えなくてまだマシだった。
マシだったけど……でもあの時の恐怖再来というか……。いやいや、あまり考えるな、俺。
気が遠くならないよう他のことを考えようとして、また人形のことを考えているようなものだとルイは自嘲する。
とりあえず、あの頃作ったウィルフレッドの人形は個性的だったよねと言ったラルフに対し、向上心というか対抗心のようなものが湧き上がったらしいウィルフレッドが「聖モナの日用の木彫り人形を作る」と宣言し、今に至る。
考えたくなくとも二人が目の前で作っている上に自分も作っているためどのみち頭からシャットアウトするのは難しかった。またこんな時はありがたくもないが手先が器用なため、大の苦手なはずなのにいかにもそれらしい小人妖精が出来上がってしまった。
それは妖精という呼称をズタボロにして投げ捨ててやりたいほど不気味な存在だ。白く長い顎髭を蓄えており、暗闇で光る眼、尖った耳を持ち、赤い帽子に灰色や紺色のボロボロの服を見につけている。おまけに人間のような形態をしておきながら手の指は四本しかない。そして長い顎鬚の持ち主のくせに背丈は小さな子どもくらいしかない。しかも一応は働き者で家を守ったりもしてくれるらしいが機嫌を損ねたらもう終わりだ。納屋にあるものすべてを盗んでその農家を出ていってしまう。守られていた存在がいなくなり、その農家は不幸に見舞われる。また、家畜や子どもを大事にしない農夫や親を棒や何やらで滅多打ちに殴る。
年末のモーティナ復活祭そして聖モナの日は、神の子とされていたモナが死した後復活したことを祝う日々だ。その際に、昔の国民は家や自分たちを守ってくれるこの悪魔──いや、小人妖精の機嫌を損ねないよう、特に感謝の気持ちを示す日としても祝った。その妖精へ可能な限りのご馳走を並べておくのだ。中でもミルク粥はそれが好きな妖精に必ず作られていたようで、聖モナの日には王の食卓にすらミルク粥が並ぶ。おかげ様でルイは子どもの頃からミルク粥まで嫌いになった。
以前、ウィルフレッドにこの小人妖精の話を感情を込めてした時につい少し泣かしてしまったくらいだというのに、ウィルフレッドはトラウマにならなかったようだ。本人は隠せていると思っているらしいが怖がりなのは皆にバレているウィルフレッドでも、さすがに大人になってからの話はトラウマになるほどではないのだろう。よって、今もルイが完璧な出来とはいえ何とかようやく一体作った時点で既に何体作るのかというレベルで悪魔を制作し続けている。
そう、悪魔だ。
もうね、悪魔にしか見えないでしょ。
ルイは遠い目のまま思っていた。
ウィルフレッドはかわいい。それは覆しようのない事実だしひたすらかわいい。だがウィルフレッドの手から作られていくそれは阿鼻叫喚といっても大げさではないだろう。酸鼻を極めた様子からは怨嗟の声すら聞こえてきそうだ。形からして歪で禍々しく、触れた途端呪いが降りかかりそうだった。
……俺のトラウマが更新されていく……誰か助けて。
ニコニコと笑顔の裏でルイは必死になって自我を保とうとしていた。
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