不機嫌な子猫

Guidepost

文字の大きさ
上 下
11 / 150

11話

しおりを挟む
 あの後結局自分の建物まで戻ったが、その際もまた横抱きされそうになり、ウィルフレッドはまだ収まらない涙のせいで鼻をぐしゅぐしゅと言わせながら大いに抗議した。レッドには「泣いておられるからその方がいいと思い……」などと意味の分からないことを言われ、それにも抗議した結果、また俵担ぎで運ばれた。
 ウィルフレッドの部屋に繋がっている庭にあるガーデンテーブルに下ろされると、レッドはすぐに今のウィルフレッドが気に入っているレモネードを持ってきた。それを一心不乱に飲んだ後、ウィルフレッドは思い切り歯ぎしりをする。
 ただでさえ恨みしかないクライドに泣かされた。いや、ウィルフレッドは泣いたつもりはなく、ある意味幼い体のなせる自然現象だと思っているが、それでも涙は見られた。それも恨んでいるやつと苦手なやつという最悪の組み合わせにだ。挙げ句、ろくでもない状態でレッドに抱えられた。珍しく誰にも見られなかったのは本当に幸いだと思う。

「お代わりは……」
「持ってこい」

 頷くとすぐにグラスは代えられた。

「あと……貴様何でいつもいんの」
「?」
「首を傾げんな! 俺は一人で探索に出ていたはずだ。くそ……いつからいたんだ」
「初めからですが」
「嘘だ! 今回は特に入念にチェックしたのだぞ!」
「左様で」
「……本当はたまたまあの建物に迷い込んだか何かで、たまたま俺を見かけたのだろう? な?」

 それも大概だが、まだ辛うじてマシだ。

「……あの建物に入られる前はえらく体を震わせておられました」
「ちきしょう何でだよ!」
「大丈夫ですよ、お化けはいなかったと思います」
「そんな話していないし、もう黙るがいい……!」

 こういう時だけよく喋りやがってとウィルフレッドはレッドを睨む。やはり苦手だし、もう相手にしないようにしようと、もう一人の忌々しい相手のことを考える。
 本当なら今すぐにでも殺してやりたい相手だ。とはいえ今は子どもであるウィルフレッドでも分かる。魔王だった自分でさえ封じ込められたのだ。もちろん油断していたからだと言いたいが、今はそれは置いておいて、魔王どころか魔力も腕力もなにもない平凡極まりないガキである自分が簡単に殺せる相手ではないことくらい分かる。

 ……もっとあいつの周りを嗅ぎ回り、何か弱点なり苦手なものを探るか?

 そのためにはあの建物にも慣れないといけない。しかし大丈夫だ。レッドも「お化けはいなかったと思う」と言っていた。
 それに全体的な雰囲気は苦手だが、あの壁中が本棚だった場所は魅力的だった。あそこだけなら、この城全体の中でも好ましい場所ベストスリーに入れてもいいかもしれない。尚他の二つがどこ、という意識はない。

 圧巻させる見た目だけでなく、あれほどの本の数は魔王だった頃に有していた俺の書庫よりも多いかもしれない。そこだけは忌々しいが、この俺の知識向上にも繋がるならやはりあの場所へはこれからも何度も訪れてやる。

 独りごちてニヤリと口元を歪めていると「またあそこへ行かれる気ですか」とレッドに聞かれた。

「そんなの、この俺の勝手だろ。それと貴様、ついてくんなよ」
「そうはいきません。俺はあなたの側近だ」
「……嫌々のくせに」
「は? 何か仰いました?」
「何も言ってない。側近だからってついて回らなくてよいと言っているのだ」
「それでこの間みたいに高いところから降りられなくなったらどうされるんです」
「う、煩いな。あれはたまたまであって……」

 ムッとしてウィルフレッドは顔をそらした。腹立たしいからか、顔が熱い。
 そういえば、とそしてふと思った。
 降りられなくなった例のキープも自分の中で好ましい場所と認識しているかもしれない。あそこからの光景は気持ちがよかったし、征服欲も刺激される。
 ということはベストスリーの二つは埋まったなと満足げに頷いているとレッドのほうから何やら吹き出す音が聞こえてきた。
 まさか笑われたのかと慌ててレッドを見るも、いつものように真顔だ。

「……? 貴様、今笑ったか?」
「いえ」
「……そうか」

 なら気のせいかと、お代わりのレモネードを飲み干した。やはり美味いとしみじみ思う。
 そういえば、あの人間か何かすら不可解な術者でもこの美味い飲み物を飲んだりするのだろうかと何となく思った。
 しみじみ堪能しながらレモネードを飲む姿を想像してみようとしたが、あまりに無理がありすぎて不可能だった。少し見てみたいと思う。

「明日また先ほどの建物へ行く。明日なら貴様もついてきてよいぞ。ただしお代わりが何度か出来る量のレモネードを用意しろ」
「……術者は飲まないと思いますが……」
「っは? な、何を。俺が飲むんだよ!」

 何故バレたと思い、また恐らく怒りで顔が熱くなりながらウィルフレッドが睨むも、レッドはいつものようにしれっとしている。

「あなたのためなら用意しますよ、一応ね」
「一応とは何だ! 相変わらず無礼なやつだな貴様」
「御意」
「そこでそれはおかしいだろうが……!」
「さて、そろそろお昼寝の時間ですよ」
「……っ。……貴様もまだ成人してないくせに、偉そうにもはや十歳にもなる俺を子ども扱いする、ふぁ」

 少し熱くなっていたなと気づき、むしろ冷静に言い返してやっていたらあくびが出てしまい、ウィルフレッドはぐっと唇を噛み締めた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

俺は北国の王子の失脚を狙う悪の側近に転生したらしいが、寒いのは苦手なのでトンズラします

椿谷あずる
BL
ここはとある北の国。綺麗な金髪碧眼のイケメン王子様の側近に転生した俺は、どうやら彼を失脚させようと陰謀を張り巡らせていたらしい……。いやいや一切興味がないし!寒いところ嫌いだし!よし、やめよう! こうして俺は逃亡することに決めた。

転生貧乏貴族は王子様のお気に入り!実はフリだったってわかったのでもう放してください!

音無野ウサギ
BL
ある日僕は前世を思い出した。下級貴族とはいえ王子様のお気に入りとして毎日楽しく過ごしてたのに。前世の記憶が僕のことを駄目だしする。わがまま駄目貴族だなんて気づきたくなかった。王子様が優しくしてくれてたのも実は裏があったなんて気づきたくなかった。品行方正になるぞって思ったのに! え?王子様なんでそんなに優しくしてくるんですか?ちょっとパーソナルスペース!! 調子に乗ってた貧乏貴族の主人公が慎ましくても確実な幸せを手に入れようとジタバタするお話です。

【完結】伯爵家当主になりますので、お飾りの婚約者の僕は早く捨てて下さいね?

MEIKO
BL
【完結】そのうち番外編更新予定。伯爵家次男のマリンは、公爵家嫡男のミシェルの婚約者として一緒に過ごしているが実際はお飾りの存在だ。そんなマリンは池に落ちたショックで前世は日本人の男子で今この世界が小説の中なんだと気付いた。マズい!このままだとミシェルから婚約破棄されて路頭に迷うだけだ┉。僕はそこから前世の特技を活かしてお金を貯め、ミシェルに愛する人が現れるその日に備えだす。2年後、万全の備えと新たな朗報を得た僕は、もう婚約破棄してもらっていいんですけど?ってミシェルに告げた。なのに対象外のはずの僕に未練たらたらなの何で!? ※R対象話には『*』マーク付けますが、後半付近まで出て来ない予定です。

祝福という名の厄介なモノがあるんですけど

野犬 猫兄
BL
魔導研究員のディルカには悩みがあった。 愛し愛される二人の証しとして、同じ場所に同じアザが発現するという『花祝紋』が独り身のディルカの身体にいつの間にか現れていたのだ。 それは女神の祝福とまでいわれるアザで、そんな大層なもの誰にも見せられるわけがない。  ディルカは、そんなアザがあるものだから、誰とも恋愛できずにいた。 イチャイチャ……イチャイチャしたいんですけど?! □■ 少しでも楽しんでいただけたら嬉しいです! 完結しました。 応援していただきありがとうございます! □■ 第11回BL大賞では、ポイントを入れてくださった皆様、またお読みくださった皆様、どうもありがとうございましたm(__)m

転生先のぽっちゃり王子はただいま謹慎中につき各位ご配慮ねがいます!

梅村香子
BL
バカ王子の名をほしいままにしていたロベルティア王国のぽっちゃり王子テオドール。 あまりのわがままぶりに父王にとうとう激怒され、城の裏手にある館で謹慎していたある日。 突然、全く違う世界の日本人の記憶が自身の中に現れてしまった。 何が何だか分からないけど、どうやらそれは前世の自分の記憶のようで……? 人格も二人分が混ざり合い、不思議な現象に戸惑うも、一つだけ確かなことがある。 僕って最低最悪な王子じゃん!? このままだと、破滅的未来しか残ってないし! 心を入れ替えてダイエットに勉強にと忙しい王子に、何やらきな臭い陰謀の影が見えはじめ――!? これはもう、謹慎前にののしりまくって拒絶した専属護衛騎士に守ってもらうしかないじゃない!? 前世の記憶がよみがえった横暴王子の危機一髪な人生やりなおしストーリー! 騎士×王子の王道カップリングでお送りします。 第9回BL小説大賞の奨励賞をいただきました。 本当にありがとうございます!! ※本作に20歳未満の飲酒シーンが含まれます。作中の世界では飲酒可能年齢であるという設定で描写しております。実際の20歳未満による飲酒を推奨・容認する意図は全くありません。

誰よりも愛してるあなたのために

R(アール)
BL
公爵家の3男であるフィルは体にある痣のせいで生まれたときから家族に疎まれていた…。  ある日突然そんなフィルに騎士副団長ギルとの結婚話が舞い込む。 前に一度だけ会ったことがあり、彼だけが自分に優しくしてくれた。そのためフィルは嬉しく思っていた。 だが、彼との結婚生活初日に言われてしまったのだ。 「君と結婚したのは断れなかったからだ。好きにしていろ。俺には構うな」   それでも彼から愛される日を夢見ていたが、最後には殺害されてしまう。しかし、起きたら時間が巻き戻っていた!  すれ違いBLです。 ハッピーエンド保証! 初めて話を書くので、至らない点もあるとは思いますがよろしくお願いします。 (誤字脱字や話にズレがあってもまあ初心者だからなと温かい目で見ていただけると助かります) 11月9日~毎日21時更新。ストックが溜まったら毎日2話更新していきたいと思います。 ※…このマークは少しでもエッチなシーンがあるときにつけます。 自衛お願いします。

異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします。……やっぱり狙われちゃう感じ?

み馬
BL
※ 完結しました。お読みくださった方々、誠にありがとうございました! 志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。 わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!? これは、とある加護を受けた8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。 おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。 ※ 独自設定、造語、下ネタあり。出産描写あり。幕開け(前置き)長め。第21話に登場人物紹介を載せましたので、ご参考ください。 ★お試し読みは、第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★ ★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

処理中です...