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11話
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あの後結局自分の建物まで戻ったが、その際もまた横抱きされそうになり、ウィルフレッドはまだ収まらない涙のせいで鼻をぐしゅぐしゅと言わせながら大いに抗議した。レッドには「泣いておられるからその方がいいと思い……」などと意味の分からないことを言われ、それにも抗議した結果、また俵担ぎで運ばれた。
ウィルフレッドの部屋に繋がっている庭にあるガーデンテーブルに下ろされると、レッドはすぐに今のウィルフレッドが気に入っているレモネードを持ってきた。それを一心不乱に飲んだ後、ウィルフレッドは思い切り歯ぎしりをする。
ただでさえ恨みしかないクライドに泣かされた。いや、ウィルフレッドは泣いたつもりはなく、ある意味幼い体のなせる自然現象だと思っているが、それでも涙は見られた。それも恨んでいるやつと苦手なやつという最悪の組み合わせにだ。挙げ句、ろくでもない状態でレッドに抱えられた。珍しく誰にも見られなかったのは本当に幸いだと思う。
「お代わりは……」
「持ってこい」
頷くとすぐにグラスは代えられた。
「あと……貴様何でいつもいんの」
「?」
「首を傾げんな! 俺は一人で探索に出ていたはずだ。くそ……いつからいたんだ」
「初めからですが」
「嘘だ! 今回は特に入念にチェックしたのだぞ!」
「左様で」
「……本当はたまたまあの建物に迷い込んだか何かで、たまたま俺を見かけたのだろう? な?」
それも大概だが、まだ辛うじてマシだ。
「……あの建物に入られる前はえらく体を震わせておられました」
「ちきしょう何でだよ!」
「大丈夫ですよ、お化けはいなかったと思います」
「そんな話していないし、もう黙るがいい……!」
こういう時だけよく喋りやがってとウィルフレッドはレッドを睨む。やはり苦手だし、もう相手にしないようにしようと、もう一人の忌々しい相手のことを考える。
本当なら今すぐにでも殺してやりたい相手だ。とはいえ今は子どもであるウィルフレッドでも分かる。魔王だった自分でさえ封じ込められたのだ。もちろん油断していたからだと言いたいが、今はそれは置いておいて、魔王どころか魔力も腕力もなにもない平凡極まりないガキである自分が簡単に殺せる相手ではないことくらい分かる。
……もっとあいつの周りを嗅ぎ回り、何か弱点なり苦手なものを探るか?
そのためにはあの建物にも慣れないといけない。しかし大丈夫だ。レッドも「お化けはいなかったと思う」と言っていた。
それに全体的な雰囲気は苦手だが、あの壁中が本棚だった場所は魅力的だった。あそこだけなら、この城全体の中でも好ましい場所ベストスリーに入れてもいいかもしれない。尚他の二つがどこ、という意識はない。
圧巻させる見た目だけでなく、あれほどの本の数は魔王だった頃に有していた俺の書庫よりも多いかもしれない。そこだけは忌々しいが、この俺の知識向上にも繋がるならやはりあの場所へはこれからも何度も訪れてやる。
独りごちてニヤリと口元を歪めていると「またあそこへ行かれる気ですか」とレッドに聞かれた。
「そんなの、この俺の勝手だろ。それと貴様、ついてくんなよ」
「そうはいきません。俺はあなたの側近だ」
「……嫌々のくせに」
「は? 何か仰いました?」
「何も言ってない。側近だからってついて回らなくてよいと言っているのだ」
「それでこの間みたいに高いところから降りられなくなったらどうされるんです」
「う、煩いな。あれはたまたまであって……」
ムッとしてウィルフレッドは顔をそらした。腹立たしいからか、顔が熱い。
そういえば、とそしてふと思った。
降りられなくなった例のキープも自分の中で好ましい場所と認識しているかもしれない。あそこからの光景は気持ちがよかったし、征服欲も刺激される。
ということはベストスリーの二つは埋まったなと満足げに頷いているとレッドのほうから何やら吹き出す音が聞こえてきた。
まさか笑われたのかと慌ててレッドを見るも、いつものように真顔だ。
「……? 貴様、今笑ったか?」
「いえ」
「……そうか」
なら気のせいかと、お代わりのレモネードを飲み干した。やはり美味いとしみじみ思う。
そういえば、あの人間か何かすら不可解な術者でもこの美味い飲み物を飲んだりするのだろうかと何となく思った。
しみじみ堪能しながらレモネードを飲む姿を想像してみようとしたが、あまりに無理がありすぎて不可能だった。少し見てみたいと思う。
「明日また先ほどの建物へ行く。明日なら貴様もついてきてよいぞ。ただしお代わりが何度か出来る量のレモネードを用意しろ」
「……術者は飲まないと思いますが……」
「っは? な、何を。俺が飲むんだよ!」
何故バレたと思い、また恐らく怒りで顔が熱くなりながらウィルフレッドが睨むも、レッドはいつものようにしれっとしている。
「あなたのためなら用意しますよ、一応ね」
「一応とは何だ! 相変わらず無礼なやつだな貴様」
「御意」
「そこでそれはおかしいだろうが……!」
「さて、そろそろお昼寝の時間ですよ」
「……っ。……貴様もまだ成人してないくせに、偉そうにもはや十歳にもなる俺を子ども扱いする、ふぁ」
少し熱くなっていたなと気づき、むしろ冷静に言い返してやっていたらあくびが出てしまい、ウィルフレッドはぐっと唇を噛み締めた。
ウィルフレッドの部屋に繋がっている庭にあるガーデンテーブルに下ろされると、レッドはすぐに今のウィルフレッドが気に入っているレモネードを持ってきた。それを一心不乱に飲んだ後、ウィルフレッドは思い切り歯ぎしりをする。
ただでさえ恨みしかないクライドに泣かされた。いや、ウィルフレッドは泣いたつもりはなく、ある意味幼い体のなせる自然現象だと思っているが、それでも涙は見られた。それも恨んでいるやつと苦手なやつという最悪の組み合わせにだ。挙げ句、ろくでもない状態でレッドに抱えられた。珍しく誰にも見られなかったのは本当に幸いだと思う。
「お代わりは……」
「持ってこい」
頷くとすぐにグラスは代えられた。
「あと……貴様何でいつもいんの」
「?」
「首を傾げんな! 俺は一人で探索に出ていたはずだ。くそ……いつからいたんだ」
「初めからですが」
「嘘だ! 今回は特に入念にチェックしたのだぞ!」
「左様で」
「……本当はたまたまあの建物に迷い込んだか何かで、たまたま俺を見かけたのだろう? な?」
それも大概だが、まだ辛うじてマシだ。
「……あの建物に入られる前はえらく体を震わせておられました」
「ちきしょう何でだよ!」
「大丈夫ですよ、お化けはいなかったと思います」
「そんな話していないし、もう黙るがいい……!」
こういう時だけよく喋りやがってとウィルフレッドはレッドを睨む。やはり苦手だし、もう相手にしないようにしようと、もう一人の忌々しい相手のことを考える。
本当なら今すぐにでも殺してやりたい相手だ。とはいえ今は子どもであるウィルフレッドでも分かる。魔王だった自分でさえ封じ込められたのだ。もちろん油断していたからだと言いたいが、今はそれは置いておいて、魔王どころか魔力も腕力もなにもない平凡極まりないガキである自分が簡単に殺せる相手ではないことくらい分かる。
……もっとあいつの周りを嗅ぎ回り、何か弱点なり苦手なものを探るか?
そのためにはあの建物にも慣れないといけない。しかし大丈夫だ。レッドも「お化けはいなかったと思う」と言っていた。
それに全体的な雰囲気は苦手だが、あの壁中が本棚だった場所は魅力的だった。あそこだけなら、この城全体の中でも好ましい場所ベストスリーに入れてもいいかもしれない。尚他の二つがどこ、という意識はない。
圧巻させる見た目だけでなく、あれほどの本の数は魔王だった頃に有していた俺の書庫よりも多いかもしれない。そこだけは忌々しいが、この俺の知識向上にも繋がるならやはりあの場所へはこれからも何度も訪れてやる。
独りごちてニヤリと口元を歪めていると「またあそこへ行かれる気ですか」とレッドに聞かれた。
「そんなの、この俺の勝手だろ。それと貴様、ついてくんなよ」
「そうはいきません。俺はあなたの側近だ」
「……嫌々のくせに」
「は? 何か仰いました?」
「何も言ってない。側近だからってついて回らなくてよいと言っているのだ」
「それでこの間みたいに高いところから降りられなくなったらどうされるんです」
「う、煩いな。あれはたまたまであって……」
ムッとしてウィルフレッドは顔をそらした。腹立たしいからか、顔が熱い。
そういえば、とそしてふと思った。
降りられなくなった例のキープも自分の中で好ましい場所と認識しているかもしれない。あそこからの光景は気持ちがよかったし、征服欲も刺激される。
ということはベストスリーの二つは埋まったなと満足げに頷いているとレッドのほうから何やら吹き出す音が聞こえてきた。
まさか笑われたのかと慌ててレッドを見るも、いつものように真顔だ。
「……? 貴様、今笑ったか?」
「いえ」
「……そうか」
なら気のせいかと、お代わりのレモネードを飲み干した。やはり美味いとしみじみ思う。
そういえば、あの人間か何かすら不可解な術者でもこの美味い飲み物を飲んだりするのだろうかと何となく思った。
しみじみ堪能しながらレモネードを飲む姿を想像してみようとしたが、あまりに無理がありすぎて不可能だった。少し見てみたいと思う。
「明日また先ほどの建物へ行く。明日なら貴様もついてきてよいぞ。ただしお代わりが何度か出来る量のレモネードを用意しろ」
「……術者は飲まないと思いますが……」
「っは? な、何を。俺が飲むんだよ!」
何故バレたと思い、また恐らく怒りで顔が熱くなりながらウィルフレッドが睨むも、レッドはいつものようにしれっとしている。
「あなたのためなら用意しますよ、一応ね」
「一応とは何だ! 相変わらず無礼なやつだな貴様」
「御意」
「そこでそれはおかしいだろうが……!」
「さて、そろそろお昼寝の時間ですよ」
「……っ。……貴様もまだ成人してないくせに、偉そうにもはや十歳にもなる俺を子ども扱いする、ふぁ」
少し熱くなっていたなと気づき、むしろ冷静に言い返してやっていたらあくびが出てしまい、ウィルフレッドはぐっと唇を噛み締めた。
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