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10話
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誰かの手が大地の服の中に触れようとした時、また別の誰かが大地を羽交い絞めにしている相手を背後からはがしてくれた。そしてそのままその相手を柔道のように投げる。大地を襲ってきた相手は受け身もとれないまま脳震盪を起こしたのか気絶した。
ポカンと大地は助けてくれた相手を見上げる。思考が追いついていない。
今、俺は襲われてて、で、逃げられないって必死になってて、でも気づけばそいつは倒れてて、で、目の前には、零二が……いる。
零二は「お前やっぱり馬鹿か」と大地を見おろしていた。
その後零二は倒れている相手の懐などを探っていた。
自宅前までそして送ってくれたが大地はまだぼんやりしていた。とりあえずスポンジの上を歩いているみたいに足元が定かでなくふらつくのだけは分かった。
先ほど「馬鹿か」と言ってきた零二はだがもうなにも言わずに黙って送ってくれると、大地が家の中に入るのを見届けてから帰っていった。
家に入ると奥のリビングから「帰ったの?」という親の声が聞こえてきたが、大地は返事をすることなくそのまま二階へ上がっていく。
母親が階段のところまで覗きにきたが、とりあえず大地の後ろ姿を見て「変な子ね」などと言いつつも安心したようにまたリビングへ戻っていった。
自分の部屋に入ると大地はとりあえず服を着替えた。着ている服に手をかける時、一瞬見知らぬ相手が過りフルリと体が震えたがそのまま寝間着兼部屋着に着替えるとベッドにもそもそと入る。そして考えるとぐるぐるとして眠れなくなりそうだと本能が察したのか、何も考えることなくそのまま眠りに陥っていった。
翌日は学校が休みだったので大地は朝から零二の家へ向かった。そして本人の部屋でとりあえずちゃんと礼を言う。昨日は礼すら言えてなかった。
「……昨日は、ありがとうな」
零二は無言のまま大地を見てくる。
大地は改めて、何故自分はSNSの相手が零二だと思ってあの場所へ気軽に行ったのだろうかと思った。自分でもそういえばよくわからない。本人なのかどうかハッキリ確かめたかったのだと思うのだが、そもそもなぜ本人かどうかそんなに気になったのだろうと思う。
「……そ、そういえば昨日の変なヤツって結局なんだったんだろ、な」
少し言いづらいものの大地が口にすると「……何が」と零二はようやく返事をしてきた。
「だからその、あの変態がSNSの相手だったんかな。だって待ち合わせに来たの結局アイツとお前だけだったし、その、お前はやっぱSNSの相手じゃねーんだよ、な?」
「……はぁ」
しどろもどろになりながら言うも今度返ってきたのはため息だけだった。
多分あの襲ってきた相手がSNSの相手かなと大地も思うのだが、あの相手は羽交い絞めにしてきたものの、大地になにも言ってない。だから本当にSNSの相手なのかどうか確証がある訳ではない。
それに多分零二がSNSの相手というのは間違いなく違うだろうなとは思いつつも実際あの場所にやって来たのは大地を襲った相手と零二だけだ。
襲ってきたのはたまたま大地を見かけた通行者で、待ち合わせに遅れた零二がそれに居合わせたという可能性もないとは言えない。
……いや多分限りなくゼロに近い可能性だとは思うけれども。
大地はそっと心の中で呟いた。
「お前、俺がそのSNSとやらをやるように思えるのか?」
それは散々大地も自問していた。だが改めて本人の口から言われると間違いなく「ないな」と思えてくる。
「……思わ、ない」
大地がぼそりと言うと零二の顔が「だったらわかるだろうが」と言っている気がした。その表情を見て大地は少し俯く。
その時ふと思い出して「そういえば」とまた零二を見た。
「お前、あの変質者に泥棒してなかった?」
「は?」
「いやだってほら、倒れてるアイツの懐とか何か探してただろ」
「……ああ」
何を言っているんだといった呆れた表情がようやく意味がわかったといった顔つきに変わる。
「身分証明書的なものがないか探してた」
零二は答えながら机の上からなにやら取り出し指にはさむとひらりと大地に見せてきた。
「……んー? ってそれ学生証じゃねーの?」
「いくら学割が色々きくからって邪なことする時まで持っておくべきじゃないよな?」
普段笑わない零二が薄らと心もち微笑んでくる。だがその表情は温かみのないまさに氷王子そのものといった風で、大地はまるで自分が悪いことをして見つかった時のように戦慄した。
「お前、やっぱ氷」
「何の話だ。とりあえずこれで名前もあと電話番号もわかった。律儀に個人情報は気軽に書くものじゃないな」
「氷王子怖い」
「氷王子はやめろ。それにこれはちゃんと本人に返す。着払いでな」
氷王子はやめろ……そういえば零二に「氷王子」と言うといつもそう返ってくる。SNSで聞いた時にはそれがなかったというのに、何故その時に多少なりとも違和感を感じなかったのかと大地は今さらながらに思った。
だが今はわかっているからこそ、そう思うのかもしれない。
「……着払い。つか、だったらなんで盗ったんだよ」
大地が微妙な顔をした後に聞くと、あからさまに「お前は馬鹿か」といった顔で見られた。
「なんだよその顔!」
「お前な、襲われといて危機感はないのか。全く。これで相手を脅す為に決まってるだろうが」
「え」
「というかもう既に脅しておいたがな」
「どういう意味?」
「……個人情報をこちらが握っているからな。この学生証はコピーしているからお前に今後接触すれば学校、家、周りに何もかもバラすと言っただけだ」
それを聞いて大地は「なるほど、頭いいな」と「お前まじ怖い」の二つがぐるぐると脳内を回り出す。
「頭いいし怖い」
「……何がだ。とりあえずお前はほんともう少しちゃんと考えろ」
零二がため息をつきながらそんなことを言ってきた。その言葉が何となく嬉しく感じた。
「わかった、今度から気をつける」
嬉しく思うからか顔が緩む。するとまたため息をつかれた。
どうにもすぐに呆れられるのは何故だと大地が首を傾げていると零二が近づいてきた。
「お前、昨日のこと、怖かったか?」
「え? ああそりゃ……怖いっつーよりも気持ち悪かった」
「相手が男だからか?」
「んー……まあそうかもだけど……でも別に俺の回り男同士でくっついてるヤツそこそこいるし……それに女の子が抱きついてきたら嬉しいだろむしろ。力敵わないとか、多分そういうのもないからそもそも怖くねーし。いやもしかしたら怖い子も居るかもだけど」
考えつつ答えているとまた少し呆れたような顔を零二がしてくる。
「んでそんな顔すんだよ。俺今変なこと言った?」
「……少なくともトラウマにはなってなさそうだな」
「トラウマ? あれくらいでんなもん、なるかよ。俺をなんだと思ってんだよ。そりゃ気持ち悪かったけどお前助けてくれたからなんもなかったし、それにお前が脅してくれたから今後も心配してねーし……」
って、俺、どんだけコイツに助けて貰ってんだ。
ふと改めてそんなことを首を傾げながら思っていると零二の手が大地の傾げたほうの頬に触れてきた。何だろうとそして思う前に上を向かされる。
一瞬何がなんだかわからなかった。
襲われた時もそうだが、思ってもなさすぎる驚くような出来事に合うと自分の脳は思考する能力が著しく劣るようになるのかもしれないと大地は全然関係のないことが過る。
とりあえず今どうなっているか考えろ、と大地はゆっくり頭を働かせた。
零二が手を頬に添えてきたかと思うとそのまま上を向かせ……そして今、自分の唇は塞がっている気がする。塞がっているのは何故ろうか。
そしてようやく思い至った。
零二の唇によって自分の唇が塞がれているということに。
ポカンと大地は助けてくれた相手を見上げる。思考が追いついていない。
今、俺は襲われてて、で、逃げられないって必死になってて、でも気づけばそいつは倒れてて、で、目の前には、零二が……いる。
零二は「お前やっぱり馬鹿か」と大地を見おろしていた。
その後零二は倒れている相手の懐などを探っていた。
自宅前までそして送ってくれたが大地はまだぼんやりしていた。とりあえずスポンジの上を歩いているみたいに足元が定かでなくふらつくのだけは分かった。
先ほど「馬鹿か」と言ってきた零二はだがもうなにも言わずに黙って送ってくれると、大地が家の中に入るのを見届けてから帰っていった。
家に入ると奥のリビングから「帰ったの?」という親の声が聞こえてきたが、大地は返事をすることなくそのまま二階へ上がっていく。
母親が階段のところまで覗きにきたが、とりあえず大地の後ろ姿を見て「変な子ね」などと言いつつも安心したようにまたリビングへ戻っていった。
自分の部屋に入ると大地はとりあえず服を着替えた。着ている服に手をかける時、一瞬見知らぬ相手が過りフルリと体が震えたがそのまま寝間着兼部屋着に着替えるとベッドにもそもそと入る。そして考えるとぐるぐるとして眠れなくなりそうだと本能が察したのか、何も考えることなくそのまま眠りに陥っていった。
翌日は学校が休みだったので大地は朝から零二の家へ向かった。そして本人の部屋でとりあえずちゃんと礼を言う。昨日は礼すら言えてなかった。
「……昨日は、ありがとうな」
零二は無言のまま大地を見てくる。
大地は改めて、何故自分はSNSの相手が零二だと思ってあの場所へ気軽に行ったのだろうかと思った。自分でもそういえばよくわからない。本人なのかどうかハッキリ確かめたかったのだと思うのだが、そもそもなぜ本人かどうかそんなに気になったのだろうと思う。
「……そ、そういえば昨日の変なヤツって結局なんだったんだろ、な」
少し言いづらいものの大地が口にすると「……何が」と零二はようやく返事をしてきた。
「だからその、あの変態がSNSの相手だったんかな。だって待ち合わせに来たの結局アイツとお前だけだったし、その、お前はやっぱSNSの相手じゃねーんだよ、な?」
「……はぁ」
しどろもどろになりながら言うも今度返ってきたのはため息だけだった。
多分あの襲ってきた相手がSNSの相手かなと大地も思うのだが、あの相手は羽交い絞めにしてきたものの、大地になにも言ってない。だから本当にSNSの相手なのかどうか確証がある訳ではない。
それに多分零二がSNSの相手というのは間違いなく違うだろうなとは思いつつも実際あの場所にやって来たのは大地を襲った相手と零二だけだ。
襲ってきたのはたまたま大地を見かけた通行者で、待ち合わせに遅れた零二がそれに居合わせたという可能性もないとは言えない。
……いや多分限りなくゼロに近い可能性だとは思うけれども。
大地はそっと心の中で呟いた。
「お前、俺がそのSNSとやらをやるように思えるのか?」
それは散々大地も自問していた。だが改めて本人の口から言われると間違いなく「ないな」と思えてくる。
「……思わ、ない」
大地がぼそりと言うと零二の顔が「だったらわかるだろうが」と言っている気がした。その表情を見て大地は少し俯く。
その時ふと思い出して「そういえば」とまた零二を見た。
「お前、あの変質者に泥棒してなかった?」
「は?」
「いやだってほら、倒れてるアイツの懐とか何か探してただろ」
「……ああ」
何を言っているんだといった呆れた表情がようやく意味がわかったといった顔つきに変わる。
「身分証明書的なものがないか探してた」
零二は答えながら机の上からなにやら取り出し指にはさむとひらりと大地に見せてきた。
「……んー? ってそれ学生証じゃねーの?」
「いくら学割が色々きくからって邪なことする時まで持っておくべきじゃないよな?」
普段笑わない零二が薄らと心もち微笑んでくる。だがその表情は温かみのないまさに氷王子そのものといった風で、大地はまるで自分が悪いことをして見つかった時のように戦慄した。
「お前、やっぱ氷」
「何の話だ。とりあえずこれで名前もあと電話番号もわかった。律儀に個人情報は気軽に書くものじゃないな」
「氷王子怖い」
「氷王子はやめろ。それにこれはちゃんと本人に返す。着払いでな」
氷王子はやめろ……そういえば零二に「氷王子」と言うといつもそう返ってくる。SNSで聞いた時にはそれがなかったというのに、何故その時に多少なりとも違和感を感じなかったのかと大地は今さらながらに思った。
だが今はわかっているからこそ、そう思うのかもしれない。
「……着払い。つか、だったらなんで盗ったんだよ」
大地が微妙な顔をした後に聞くと、あからさまに「お前は馬鹿か」といった顔で見られた。
「なんだよその顔!」
「お前な、襲われといて危機感はないのか。全く。これで相手を脅す為に決まってるだろうが」
「え」
「というかもう既に脅しておいたがな」
「どういう意味?」
「……個人情報をこちらが握っているからな。この学生証はコピーしているからお前に今後接触すれば学校、家、周りに何もかもバラすと言っただけだ」
それを聞いて大地は「なるほど、頭いいな」と「お前まじ怖い」の二つがぐるぐると脳内を回り出す。
「頭いいし怖い」
「……何がだ。とりあえずお前はほんともう少しちゃんと考えろ」
零二がため息をつきながらそんなことを言ってきた。その言葉が何となく嬉しく感じた。
「わかった、今度から気をつける」
嬉しく思うからか顔が緩む。するとまたため息をつかれた。
どうにもすぐに呆れられるのは何故だと大地が首を傾げていると零二が近づいてきた。
「お前、昨日のこと、怖かったか?」
「え? ああそりゃ……怖いっつーよりも気持ち悪かった」
「相手が男だからか?」
「んー……まあそうかもだけど……でも別に俺の回り男同士でくっついてるヤツそこそこいるし……それに女の子が抱きついてきたら嬉しいだろむしろ。力敵わないとか、多分そういうのもないからそもそも怖くねーし。いやもしかしたら怖い子も居るかもだけど」
考えつつ答えているとまた少し呆れたような顔を零二がしてくる。
「んでそんな顔すんだよ。俺今変なこと言った?」
「……少なくともトラウマにはなってなさそうだな」
「トラウマ? あれくらいでんなもん、なるかよ。俺をなんだと思ってんだよ。そりゃ気持ち悪かったけどお前助けてくれたからなんもなかったし、それにお前が脅してくれたから今後も心配してねーし……」
って、俺、どんだけコイツに助けて貰ってんだ。
ふと改めてそんなことを首を傾げながら思っていると零二の手が大地の傾げたほうの頬に触れてきた。何だろうとそして思う前に上を向かされる。
一瞬何がなんだかわからなかった。
襲われた時もそうだが、思ってもなさすぎる驚くような出来事に合うと自分の脳は思考する能力が著しく劣るようになるのかもしれないと大地は全然関係のないことが過る。
とりあえず今どうなっているか考えろ、と大地はゆっくり頭を働かせた。
零二が手を頬に添えてきたかと思うとそのまま上を向かせ……そして今、自分の唇は塞がっている気がする。塞がっているのは何故ろうか。
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