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20話(終)
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最近ますますバカになっている。
これが己悠に対する太一の意見であり、部屋にいる時にも直接生ぬるい顔で言われた。
「バカ? なんのことだよ」
「お前が喜一くんに対して」
「あー。イチくんに対してね。だったらいいよ。だって可愛いんだから仕方ないだろ」
ニッコリと言い返すとさらに微妙な顔を返された。己悠はますます微笑む。
「お前が男に興味ないヤツでよかったって思うわ」
「は? ……あー。なんでって言おうとしたけどなんかわかったからいい」
「なにがいいんだよ」
「続きを言わなくていいってことに決まってんだろ」
「いやむしろ言わせろよ」
「なんでだよ!」
「そりゃひたすらのろけたいから?」
「死ね」
太一からは枕が飛んできた。
前までなら己悠の外見の可愛さに惑わされないから、ずっと同じ部屋にいる太一が男に興味がなくてよかったと言っているのだ、と思われたかもしれない。実際己悠は可愛い容姿をしているし、己悠も否定しないどころか自分でも自分の容姿は可愛いと思っている。
ただ、今は間違いなく太一が男に興味がないことで、喜一に気がいかないのがありがたいと思っているし、太一もそう考えた上で「わかったからいい」と言ったのだろうと思われる。
己悠は自分でも実は少々驚いてはいる。基本的にこの学校で誰かと付き合ったりするのも、楽しければいいかくらいにしか考えていなかった。相手のことをなにも考えないわけではないけれども、一旦自分の思い通りになると思ったら後はこちらの好きなようにさせてもらっていたし、楽しくなくなればそこまでだった。
喜一にはとことん甘やかしたい。可愛がりたい。そして自分も甘えたいし可愛がってもらいたい。たまに困惑するほど天然なところを発揮してきて己悠をさすがにイライラさせたりムッとさせてくることもあるというのに、それすらも愛しいと思える。
放課後になると少しクラスメイトと話した後で己悠はニコニコと体育館へ向かった。いつもではないが、たまに柔道部を見学させてもらっている。喜一には「緊張しそうなのであまり見学は」と言われたが、周りの部員たちが歓迎してくれるのをいいことに己悠は部活動が終わるまで時折携帯電話を弄りながらゆったり堪能している。
一応は喜一のことも考え、毎日はしていない。たまに、だ。その「たまに」も定期的ではないので毎回喜一は己悠の姿を見つけた途端に少々驚いたようになり、一瞬動きがぎくしゃくとするのが可愛らしい。それが楽しくて不定期にしている。
今日も寮で久しぶりに一緒に過ごす約束をしているが、部活へ見学に行くとは言っていない。
「今日はどんな顔が見られるかな」
そんな風に呟き、己悠はいそいそと体育館へ向かった。
一方喜一は己悠がいなくとも既に少々ぼんやりしていた。ここ数日はお互い時間のすれ違いがあり、ゆっくりと会っていなかった。昨日も夕食を食べた後、寮にあるラウンジで少しだけ己悠と一緒にジュースを飲みながら話しただけだった。
「明日も部活あるよな」
「はい」
「終わってからさ、たまには一緒に大浴場行かない?」
「え」
己悠の言葉に喜一はポカンとする。付き合ってそれなりに経つけれども未だに己悠に対してポカンとしてしまうことが度々ある。別にすごく驚かせてくるわけではないのだが、つい喜一の思ってもみなかったことをサラリと言ったりしたりしてくるせいだろうか。大浴場も、己悠と入ったらどんなだろうなと思ったことはあるが、絶対未熟な自分は耐えられそうにない、と思ったりもしていた。
「え、じゃなくて。嫌?」
「い、嫌なわけないっす! で、でも俺、緊張しそうで」
「今さらなんで緊張すんだよ」
「今さらだろうが俺、己悠と一緒に風呂入ったことないですし、大浴場なんて人がいっぱいいるとこで己悠見てもし反応してしまったらどうしていいかわからない」
「……。あーもうほんと可愛いなぁ。でもいいじゃない。俺、むしろ俺を見てお前が周り気にしながら大きくしてるとこ見たいけど」
「嫌っすよ……!」
「ふふ。とりあえず一緒にお風呂入ってさ、そんで久しぶりに俺の部屋、おいで」
そういってニッコリと笑いかけてきた己悠の顔があまりにも可愛くて、その上言われたことにドキドキとして、喜一は今日は一日中少々ぼんやりしていたかもしれない。そろそろ光太にはひたすら呆れられつつも「今現状の喜一」を受け入れられているようで、むしろなにも言われない。しかしぼんやりもほどほどにするべきだった。
「……っつ」
投げられる練習をしていた時、受け身が甘かったのか少しだけ足をひねってしまった。周りは心配しつつも「姫のことばっか考えてるからだ」と笑ってくる。何故己悠のことを考えてぼんやりしていたのがバレたのだろうと喜一がびっくりしていると「むしろバレねぇと思うお前がわかんねー」と言われる始末だ。
「とりあえずアイシングしろ」
そう言われ、誰かが氷水を用意してくれる。男子校であり可愛い女子マネージャーがいない分、割と皆がなんでも動く。
「後はテーピングと包帯で固定させたらもう今日は帰れ。数日は部活中止な、お前」
「すみません」
喜一が謝っていると「どうしたのっ?」という声が聞こえた。
「こは……姫先輩!」
最初の頃は名前で中々呼べなかったというのに、最近は下手をすれば学校でも名前で呼びそうになる。
声を聞いてすぐに己悠だとわかった喜一が顔を上げると己悠が心配そうな顔で近づいてきていた。
「ちょっと油断してしまいました。でも大丈夫です」
喜一がニッコリと言う横で誰かが「姫、こいつ姫のことばっか考えすぎて足挫いたんですよ」と告げ口をする。それに対し喜一が微妙な顔をしていると「全く」と己悠がため息をついてきた。
「あまり酷いんじゃなさそうでよかったけど、気をつけてね。そんで数日しても酷いならお医者さん行こうね」
学校なので己悠の口調は柔らかくて可愛い。それに周りがポーッとなっている中、喜一は苦笑しながら頷いた。
己悠がする、というので十分に冷やした後に足の固定をしてもらい、喜一はドキドキしていた。好きな人に足を触れられたり世話をしてもらえることにひっそりと感謝する。
だが。
「松葉杖、ないよね」
そう言った後に喜一を抱えだした己悠には動揺と戸惑いしかなかった。
「あ、あの……! ちょ、姫先輩……! 俺重いでしょ、それに危ないから……!」
周りもポカンとしている中、己悠は余裕の笑顔で喜一を見てきた。
「これくらい」
これくらい、というが横抱き、いわゆる「お姫様抱っこ」は喜一でも中々簡単にできない。結構重さが腕だけでなく腰や体全体にくるのだ。青くなっていると「震えそうなイチくん可愛い」と耳元で言われる。この人はどんな時でもそれなのか、と少々引きつつも、安定して喜一を抱きかかえ歩いている己悠をつい尊敬してしまう。
周りはまだポカンとして見送る中、己悠は堂々と喜一を抱えたまま道場を出た。生徒はもうほとんど残っていないとはいえ、自分が横抱きで抱えられている状態になんとも羞恥心を感じ、改めて「もう降ろしてください……」と喜一はお願いした。
「ダメ。捻ったなら安静にしないとだろ」
「部屋戻ったら安静にしますんで……!」
「それもダメ。だってイチくんは今日俺と一緒に過ごさなきゃだから。大浴場は大変だから残念だけどまたの機会にしよう。でもシャワー室で俺が洗ってあげる」
ニコニコと言われ、喜一は真っ赤になる。多分、恥ずかしさだけではないと思われる。
「その後、イチくんの足に負担がないようにセックスしようね。ずっとこっちの足、抱えながら突っ込んでやるよ」
「っな、に言って……!」
「あー。その前にイチくんのその大きな手で俺の、大きくして欲しいな」
言ってくることがどうにもろくでもない。そして相変わらず難なく抱えたまま己悠は歩いている。
だのにその表情はニコニコととても愛らしくて、喜一はどうとでもしてくれ、と思わず抱きかかえてくる己悠の首に自ら抱きついた。
これが己悠に対する太一の意見であり、部屋にいる時にも直接生ぬるい顔で言われた。
「バカ? なんのことだよ」
「お前が喜一くんに対して」
「あー。イチくんに対してね。だったらいいよ。だって可愛いんだから仕方ないだろ」
ニッコリと言い返すとさらに微妙な顔を返された。己悠はますます微笑む。
「お前が男に興味ないヤツでよかったって思うわ」
「は? ……あー。なんでって言おうとしたけどなんかわかったからいい」
「なにがいいんだよ」
「続きを言わなくていいってことに決まってんだろ」
「いやむしろ言わせろよ」
「なんでだよ!」
「そりゃひたすらのろけたいから?」
「死ね」
太一からは枕が飛んできた。
前までなら己悠の外見の可愛さに惑わされないから、ずっと同じ部屋にいる太一が男に興味がなくてよかったと言っているのだ、と思われたかもしれない。実際己悠は可愛い容姿をしているし、己悠も否定しないどころか自分でも自分の容姿は可愛いと思っている。
ただ、今は間違いなく太一が男に興味がないことで、喜一に気がいかないのがありがたいと思っているし、太一もそう考えた上で「わかったからいい」と言ったのだろうと思われる。
己悠は自分でも実は少々驚いてはいる。基本的にこの学校で誰かと付き合ったりするのも、楽しければいいかくらいにしか考えていなかった。相手のことをなにも考えないわけではないけれども、一旦自分の思い通りになると思ったら後はこちらの好きなようにさせてもらっていたし、楽しくなくなればそこまでだった。
喜一にはとことん甘やかしたい。可愛がりたい。そして自分も甘えたいし可愛がってもらいたい。たまに困惑するほど天然なところを発揮してきて己悠をさすがにイライラさせたりムッとさせてくることもあるというのに、それすらも愛しいと思える。
放課後になると少しクラスメイトと話した後で己悠はニコニコと体育館へ向かった。いつもではないが、たまに柔道部を見学させてもらっている。喜一には「緊張しそうなのであまり見学は」と言われたが、周りの部員たちが歓迎してくれるのをいいことに己悠は部活動が終わるまで時折携帯電話を弄りながらゆったり堪能している。
一応は喜一のことも考え、毎日はしていない。たまに、だ。その「たまに」も定期的ではないので毎回喜一は己悠の姿を見つけた途端に少々驚いたようになり、一瞬動きがぎくしゃくとするのが可愛らしい。それが楽しくて不定期にしている。
今日も寮で久しぶりに一緒に過ごす約束をしているが、部活へ見学に行くとは言っていない。
「今日はどんな顔が見られるかな」
そんな風に呟き、己悠はいそいそと体育館へ向かった。
一方喜一は己悠がいなくとも既に少々ぼんやりしていた。ここ数日はお互い時間のすれ違いがあり、ゆっくりと会っていなかった。昨日も夕食を食べた後、寮にあるラウンジで少しだけ己悠と一緒にジュースを飲みながら話しただけだった。
「明日も部活あるよな」
「はい」
「終わってからさ、たまには一緒に大浴場行かない?」
「え」
己悠の言葉に喜一はポカンとする。付き合ってそれなりに経つけれども未だに己悠に対してポカンとしてしまうことが度々ある。別にすごく驚かせてくるわけではないのだが、つい喜一の思ってもみなかったことをサラリと言ったりしたりしてくるせいだろうか。大浴場も、己悠と入ったらどんなだろうなと思ったことはあるが、絶対未熟な自分は耐えられそうにない、と思ったりもしていた。
「え、じゃなくて。嫌?」
「い、嫌なわけないっす! で、でも俺、緊張しそうで」
「今さらなんで緊張すんだよ」
「今さらだろうが俺、己悠と一緒に風呂入ったことないですし、大浴場なんて人がいっぱいいるとこで己悠見てもし反応してしまったらどうしていいかわからない」
「……。あーもうほんと可愛いなぁ。でもいいじゃない。俺、むしろ俺を見てお前が周り気にしながら大きくしてるとこ見たいけど」
「嫌っすよ……!」
「ふふ。とりあえず一緒にお風呂入ってさ、そんで久しぶりに俺の部屋、おいで」
そういってニッコリと笑いかけてきた己悠の顔があまりにも可愛くて、その上言われたことにドキドキとして、喜一は今日は一日中少々ぼんやりしていたかもしれない。そろそろ光太にはひたすら呆れられつつも「今現状の喜一」を受け入れられているようで、むしろなにも言われない。しかしぼんやりもほどほどにするべきだった。
「……っつ」
投げられる練習をしていた時、受け身が甘かったのか少しだけ足をひねってしまった。周りは心配しつつも「姫のことばっか考えてるからだ」と笑ってくる。何故己悠のことを考えてぼんやりしていたのがバレたのだろうと喜一がびっくりしていると「むしろバレねぇと思うお前がわかんねー」と言われる始末だ。
「とりあえずアイシングしろ」
そう言われ、誰かが氷水を用意してくれる。男子校であり可愛い女子マネージャーがいない分、割と皆がなんでも動く。
「後はテーピングと包帯で固定させたらもう今日は帰れ。数日は部活中止な、お前」
「すみません」
喜一が謝っていると「どうしたのっ?」という声が聞こえた。
「こは……姫先輩!」
最初の頃は名前で中々呼べなかったというのに、最近は下手をすれば学校でも名前で呼びそうになる。
声を聞いてすぐに己悠だとわかった喜一が顔を上げると己悠が心配そうな顔で近づいてきていた。
「ちょっと油断してしまいました。でも大丈夫です」
喜一がニッコリと言う横で誰かが「姫、こいつ姫のことばっか考えすぎて足挫いたんですよ」と告げ口をする。それに対し喜一が微妙な顔をしていると「全く」と己悠がため息をついてきた。
「あまり酷いんじゃなさそうでよかったけど、気をつけてね。そんで数日しても酷いならお医者さん行こうね」
学校なので己悠の口調は柔らかくて可愛い。それに周りがポーッとなっている中、喜一は苦笑しながら頷いた。
己悠がする、というので十分に冷やした後に足の固定をしてもらい、喜一はドキドキしていた。好きな人に足を触れられたり世話をしてもらえることにひっそりと感謝する。
だが。
「松葉杖、ないよね」
そう言った後に喜一を抱えだした己悠には動揺と戸惑いしかなかった。
「あ、あの……! ちょ、姫先輩……! 俺重いでしょ、それに危ないから……!」
周りもポカンとしている中、己悠は余裕の笑顔で喜一を見てきた。
「これくらい」
これくらい、というが横抱き、いわゆる「お姫様抱っこ」は喜一でも中々簡単にできない。結構重さが腕だけでなく腰や体全体にくるのだ。青くなっていると「震えそうなイチくん可愛い」と耳元で言われる。この人はどんな時でもそれなのか、と少々引きつつも、安定して喜一を抱きかかえ歩いている己悠をつい尊敬してしまう。
周りはまだポカンとして見送る中、己悠は堂々と喜一を抱えたまま道場を出た。生徒はもうほとんど残っていないとはいえ、自分が横抱きで抱えられている状態になんとも羞恥心を感じ、改めて「もう降ろしてください……」と喜一はお願いした。
「ダメ。捻ったなら安静にしないとだろ」
「部屋戻ったら安静にしますんで……!」
「それもダメ。だってイチくんは今日俺と一緒に過ごさなきゃだから。大浴場は大変だから残念だけどまたの機会にしよう。でもシャワー室で俺が洗ってあげる」
ニコニコと言われ、喜一は真っ赤になる。多分、恥ずかしさだけではないと思われる。
「その後、イチくんの足に負担がないようにセックスしようね。ずっとこっちの足、抱えながら突っ込んでやるよ」
「っな、に言って……!」
「あー。その前にイチくんのその大きな手で俺の、大きくして欲しいな」
言ってくることがどうにもろくでもない。そして相変わらず難なく抱えたまま己悠は歩いている。
だのにその表情はニコニコととても愛らしくて、喜一はどうとでもしてくれ、と思わず抱きかかえてくる己悠の首に自ら抱きついた。
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