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14話
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実際少しムッとしていたが、喜一に対してというわけではない。喜一は浮気をするようなタイプではないと己悠は付き合ってどころか知り合って早々にわかっている。信じているというよりは喜一の性格だとそんな器用な真似ができそうにないという感じだろうか。
なので休み時間の際に喜一がいる教室を通りかかった時に見かけた、喜一と誰かとのやりとりに関しても疑っているわけではない。ただやはり面白くないので、どうせなら楽しくなれるようからかおうかなと己悠は考えていた。
ちなみに休み時間に喜一の教室を通りかかったのは本当に偶然だ。学年の違うフロアではあるが用事があった。いくら己悠でもいつも喜一に付きまとってはいない。さすがにストーカー行為はしたいと思えないし、今は晴れて付き合うことにもなったので変に姿を現す必要もない。
「あの、光太と話してたことっすか」
たまに来る穴場で昼食を食べた後に喜一が聞いてきた。二人では学校の食堂にあまり行かない。喜一は食堂を愛用しているらしいが、己悠は元々さほど使っていなかった。食事くらいは落ち着いて食べたいが食堂だと落ち着けないからだ。 寮の夕食はどうしようもないので利用している。
一応己悠をそれなりに知ってくれている人は、己悠が食事を静かにとりたいタイプだとも知っているのでそっとしてくれるのだが、知らないと「一緒に食べてもいいですか」などと話しかけてこられたりする。食堂という公共の場にいるのは把握しているので己悠も仕方なく相手をするが、やはり面倒くさいので普段から外で食べることが多かった。外にまで己悠を探し追いかけてくる生徒はさすがに滅多にいない。
しかも今は喜一と一緒なのだ。絶対に邪魔されたくない。
「そう。ねえ、あれってイチくんのなに? 仲よしくん?」
ニッコリ微笑みながら聞くと、喜一はどういった反応をしたらいいのか戸惑っているようでもあった。それがまた微笑ましい。
「はい、寮の同居人でもあって……だからかなり仲、いいと思います」
少し考えた後に喜一は素直に答えてきた。
普通そんなことを言われたら変に取り繕ったりしそうなものだが、と己悠は楽しく思う。
「ふーん。そっか」
己悠が淡々と言うと、だがようやくハッとしたように少々焦った様子を見せてきた。
「あ、あの! お、俺、ほんと光太とは友だちってだけで……」
困ったように言ってくる喜一が可愛くて、己悠はむしろもっと意地悪をしたくなる。
「へえ。普通の友だちにイチくんは髪、あんな風に触れさせるんだ?」
実は光太とやらが喜一の髪をわしゃわしゃと撫でているのを見た時は本当にイライラとした。そういうのではないとわかっていても楽しいものではない。
「……す、すみません」
「ん? 悪いなって思ってるってこと?」
己悠はニッコリとしながら座ったまま、下から俯き気味の慶一を見上げた。
喜一が悪いわけがない。わかっているし、今は意地悪で言っている。
だが、と己悠は思う。喜一は天然だし無自覚に人を煽りそうなとこがある。だからその点で言えば悪いと言えるかもしれない。
それを太一が聞けば真顔で「ないない」と言うようなことを己悠が考えていると、喜一が謝ってきた。
「……姫先輩が嫌な思いをしたのなら、俺は悪いことをしたんだと、思います……すみません」
なにこのイケメン。
己悠は思わずぎゅっと喜一を抱きしめた。意地悪が効かないほど、真っ直ぐに純粋だなと内心笑いながら少し萌える。
「なんであんなに簡単に髪、触らせたの」
抱きしめながら囁くと、喜一の耳が真っ赤になっていくのがわかった。
ああ、イチくんには意地悪よりもこういう弄りのほうが効果ありそうだな。
ニッコリと己悠は思う。意地悪はちっともやりがいがなさそうだ。己悠と付き合っていると知ってぶつかったりといった嫌がらせを仕掛けてきたであろう生徒を思い、おかしくなる。逆に何でもなさそうに謝られて、とてつもなく拍子抜けしただろうなと改めて思った。
「ね、教えて……?」
猫をそろそろ被るのは止めるつもりではあったが、喜一の反応が楽しくてついあえて被ってしまう。甘く囁くと喜一の体が少しだけふるりと震えた。
「光太が、慰めて、くれてて……」
「それは俺の役でありたいけどなあ」
光太許すまじ、と思いつつニッコリ微笑むと喜一が何故か動揺している。
「どうしたの?」
「あ……いや……その、姫先輩は、ダメっす」
「え?」
喜一がどこか恥ずかしそうに言う言葉の意味がわからなくて、己悠はポカンと喜一を見た。赤くなりながら困ったように少し目を反らしている。
「何故?」
己悠が聞くも、逡巡したように少し俯きだした。
「俺、頼りなさそうかな?」
無理強いしても喜一には効果がなさそそうだと思った己悠は少し悲しげに、だけれども優しく聞く。すると喜一はハッとなると己悠を見てぶんぶんと頭を振ってきた。
「ち、違うんです。……」
否定した後で開いた口を暫く開けてまた閉じる。本当に何なのだろうかと怪訝に思っていると、喜一はまた困ったような顔で赤くなる。辛抱強く待っていると、とうとう喜一が打ち明けてきた。
「……あ、な?」
聞いていた己悠が思わずポカンとして呟くと喜一はさらに赤くなりながら俯く。
「その……姫先輩がそうしたいなら、俺、練習しておいたほうが、いいか、なと……」
「練習」
「指突っ込めるだけ突っ込んでみようとしたんですけど、先っぽしかスッと入らなくて……」
「先っぽ」
「なんとかボディソープでぬるぬるさせてさらに頑張ってみたんすけど、なんでかどんどん体の芯から冷えてきてガタガタ震えてきて」
「ぬるぬる……」
「それにすごい怖いし痛くて……で、悩んでたところを光太が、聞いてくれて。あ、その、光太は男全然ダメなやつっす」
途中まで深刻そうに言っていた喜一は、思い出したようにアハハ、と手を振りながら光太が男がダメだと言う。
本当に天然というかマイペースというか、ある意味変わり者かなとさえ思いつつも、己悠はつい同じように笑ってしまった。まさかあの後速攻でそんなことをしていたとは予想もつかなかった。
喜一の外見は背も高く爽やかそうで、ありきたりでありながらも性格もあってか男前に見える。体もしっかり筋肉のついており、運動もできる。
勉強もこんな天然具合からは意外だと思うがそれなりにできるようだ。多分共学だったらわりと女子にモテていたのではないだろうかと思われる。
そういうタイプだからいくらいい子だとしてもさすがに自分が受け入れる側だということにかなりの抵抗があるかなと己悠は少し思っていた。
ところどころで驚かされる、と己悠はニッコリ喜一を見上げた。
「ねえ」
「は、はい」
「俺がしてあげるよ」
「……え?」
「自分でするからきっと怖いし痛いんだと思うよ。俺が痛くないように慣らしてやる。昨日もそう言っただろ、ゆっくり、慣らしていってやるって」
可愛く微笑みながら言うと、喜一は赤いやら青いやら複雑な表情を浮かべながら顔を少し後ろにそらした。
「ね」
己悠は構わず座っている喜一の上に乗り上げて両肩を持つと、焦りながら後ろにそらす喜一に顔を近づけていった。
なので休み時間の際に喜一がいる教室を通りかかった時に見かけた、喜一と誰かとのやりとりに関しても疑っているわけではない。ただやはり面白くないので、どうせなら楽しくなれるようからかおうかなと己悠は考えていた。
ちなみに休み時間に喜一の教室を通りかかったのは本当に偶然だ。学年の違うフロアではあるが用事があった。いくら己悠でもいつも喜一に付きまとってはいない。さすがにストーカー行為はしたいと思えないし、今は晴れて付き合うことにもなったので変に姿を現す必要もない。
「あの、光太と話してたことっすか」
たまに来る穴場で昼食を食べた後に喜一が聞いてきた。二人では学校の食堂にあまり行かない。喜一は食堂を愛用しているらしいが、己悠は元々さほど使っていなかった。食事くらいは落ち着いて食べたいが食堂だと落ち着けないからだ。 寮の夕食はどうしようもないので利用している。
一応己悠をそれなりに知ってくれている人は、己悠が食事を静かにとりたいタイプだとも知っているのでそっとしてくれるのだが、知らないと「一緒に食べてもいいですか」などと話しかけてこられたりする。食堂という公共の場にいるのは把握しているので己悠も仕方なく相手をするが、やはり面倒くさいので普段から外で食べることが多かった。外にまで己悠を探し追いかけてくる生徒はさすがに滅多にいない。
しかも今は喜一と一緒なのだ。絶対に邪魔されたくない。
「そう。ねえ、あれってイチくんのなに? 仲よしくん?」
ニッコリ微笑みながら聞くと、喜一はどういった反応をしたらいいのか戸惑っているようでもあった。それがまた微笑ましい。
「はい、寮の同居人でもあって……だからかなり仲、いいと思います」
少し考えた後に喜一は素直に答えてきた。
普通そんなことを言われたら変に取り繕ったりしそうなものだが、と己悠は楽しく思う。
「ふーん。そっか」
己悠が淡々と言うと、だがようやくハッとしたように少々焦った様子を見せてきた。
「あ、あの! お、俺、ほんと光太とは友だちってだけで……」
困ったように言ってくる喜一が可愛くて、己悠はむしろもっと意地悪をしたくなる。
「へえ。普通の友だちにイチくんは髪、あんな風に触れさせるんだ?」
実は光太とやらが喜一の髪をわしゃわしゃと撫でているのを見た時は本当にイライラとした。そういうのではないとわかっていても楽しいものではない。
「……す、すみません」
「ん? 悪いなって思ってるってこと?」
己悠はニッコリとしながら座ったまま、下から俯き気味の慶一を見上げた。
喜一が悪いわけがない。わかっているし、今は意地悪で言っている。
だが、と己悠は思う。喜一は天然だし無自覚に人を煽りそうなとこがある。だからその点で言えば悪いと言えるかもしれない。
それを太一が聞けば真顔で「ないない」と言うようなことを己悠が考えていると、喜一が謝ってきた。
「……姫先輩が嫌な思いをしたのなら、俺は悪いことをしたんだと、思います……すみません」
なにこのイケメン。
己悠は思わずぎゅっと喜一を抱きしめた。意地悪が効かないほど、真っ直ぐに純粋だなと内心笑いながら少し萌える。
「なんであんなに簡単に髪、触らせたの」
抱きしめながら囁くと、喜一の耳が真っ赤になっていくのがわかった。
ああ、イチくんには意地悪よりもこういう弄りのほうが効果ありそうだな。
ニッコリと己悠は思う。意地悪はちっともやりがいがなさそうだ。己悠と付き合っていると知ってぶつかったりといった嫌がらせを仕掛けてきたであろう生徒を思い、おかしくなる。逆に何でもなさそうに謝られて、とてつもなく拍子抜けしただろうなと改めて思った。
「ね、教えて……?」
猫をそろそろ被るのは止めるつもりではあったが、喜一の反応が楽しくてついあえて被ってしまう。甘く囁くと喜一の体が少しだけふるりと震えた。
「光太が、慰めて、くれてて……」
「それは俺の役でありたいけどなあ」
光太許すまじ、と思いつつニッコリ微笑むと喜一が何故か動揺している。
「どうしたの?」
「あ……いや……その、姫先輩は、ダメっす」
「え?」
喜一がどこか恥ずかしそうに言う言葉の意味がわからなくて、己悠はポカンと喜一を見た。赤くなりながら困ったように少し目を反らしている。
「何故?」
己悠が聞くも、逡巡したように少し俯きだした。
「俺、頼りなさそうかな?」
無理強いしても喜一には効果がなさそそうだと思った己悠は少し悲しげに、だけれども優しく聞く。すると喜一はハッとなると己悠を見てぶんぶんと頭を振ってきた。
「ち、違うんです。……」
否定した後で開いた口を暫く開けてまた閉じる。本当に何なのだろうかと怪訝に思っていると、喜一はまた困ったような顔で赤くなる。辛抱強く待っていると、とうとう喜一が打ち明けてきた。
「……あ、な?」
聞いていた己悠が思わずポカンとして呟くと喜一はさらに赤くなりながら俯く。
「その……姫先輩がそうしたいなら、俺、練習しておいたほうが、いいか、なと……」
「練習」
「指突っ込めるだけ突っ込んでみようとしたんですけど、先っぽしかスッと入らなくて……」
「先っぽ」
「なんとかボディソープでぬるぬるさせてさらに頑張ってみたんすけど、なんでかどんどん体の芯から冷えてきてガタガタ震えてきて」
「ぬるぬる……」
「それにすごい怖いし痛くて……で、悩んでたところを光太が、聞いてくれて。あ、その、光太は男全然ダメなやつっす」
途中まで深刻そうに言っていた喜一は、思い出したようにアハハ、と手を振りながら光太が男がダメだと言う。
本当に天然というかマイペースというか、ある意味変わり者かなとさえ思いつつも、己悠はつい同じように笑ってしまった。まさかあの後速攻でそんなことをしていたとは予想もつかなかった。
喜一の外見は背も高く爽やかそうで、ありきたりでありながらも性格もあってか男前に見える。体もしっかり筋肉のついており、運動もできる。
勉強もこんな天然具合からは意外だと思うがそれなりにできるようだ。多分共学だったらわりと女子にモテていたのではないだろうかと思われる。
そういうタイプだからいくらいい子だとしてもさすがに自分が受け入れる側だということにかなりの抵抗があるかなと己悠は少し思っていた。
ところどころで驚かされる、と己悠はニッコリ喜一を見上げた。
「ねえ」
「は、はい」
「俺がしてあげるよ」
「……え?」
「自分でするからきっと怖いし痛いんだと思うよ。俺が痛くないように慣らしてやる。昨日もそう言っただろ、ゆっくり、慣らしていってやるって」
可愛く微笑みながら言うと、喜一は赤いやら青いやら複雑な表情を浮かべながら顔を少し後ろにそらした。
「ね」
己悠は構わず座っている喜一の上に乗り上げて両肩を持つと、焦りながら後ろにそらす喜一に顔を近づけていった。
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