エクストリーム

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13話

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 翌日になっても喜一は力の抜けたような顔をしていた。光太に「お前昨夜からおかしくないか」と言われたが、それに対しては笑顔で「気のせい」と答える。ただ、実際自分の中でもおかしくなっているというか動揺しまくっているのは分かっていた。

 っ下、無理……!

 微妙な顔になりながら、改めて内心思い切り叫ぶ。指の先っぽだけならなんとかなる。というか普通に入るのだが、それ以上中に入れようにも裂けてしまうのではないかという恐怖感もあるからか、痛くてできない。自分の指ですらそうなのに、そこにさらに何倍もあるようなものを入れるなどと気絶でもしていない限り無理そうだ。かといって「俺を気絶させてその間に突っ込んでください」はないだろうなと思う。
 もしくはあんなに小柄で可愛い人なのだから、あれもそうであってくれないだろうかと喜一はハッとなった。しかしいくらもし喜一が望むように小さくても、自分の人差し指以上に小さいブツなど見たことも聞いたこともない。
 やはり自分が上を……と思ったところで、喜一はまたハッとなった。自分のように頑丈な者すら下になるのがとてつもなく怖いのだ。ましてや己悠は小柄である。別に自分の持ち物が王様級だと言いたいわけではないし、そこそこあるとは思うが自分の中では普通だと思ってもいる。それでもあんな小柄な人に自分のを入れるとなると相手は喜一以上に怖いのではないだろうか。しかも実際裂けてしまわないだろうか。
 そう思えばやはり喜一が下であるほうが妥当な気もしてきた。見た感じはあり得ないというか自分が受け入れている図というのはさぞ気持ち悪そうだが、別に人に見せるものでもない。
 とはいえ己悠自身が、下になって喘いでいる喜一を気持ち悪いと思わないだろうか。

 俺が俺に対して上になるなら絶対に気持ち悪いと断言できる。

 そこまで思ってさらにまたハッとなる。

 っていうか俺、喘ぐの?

「おい、青嶋。色々悩み多き年頃だろうが今は授業に専念してくれ」

 どうやらあからさまに表情に出ていたのか、授業中に担当の先生が呆れたような顔で注意してきた。

「す、すいません」

 周りからは笑い声が上がる。

「センセー、こいつ今恋愛中だから無理っすよ」
「ぜってーすぐに相手のことで一杯になりますよ、赤点にしてやってください」
「そうか。ならそうするか……」
「は? 待って! 皆何言ってんだよ、つか先生もノるのやめてください!」

 休み時間になると光太が「姫のことでなんか悩んでんのか」と聞いてきた。

「……なんだかんだ言ってお前はいいヤツだよな」

 喜一が座っている席から嬉しそうに光太を見上げると「俺はいいヤツに決まってんだろ」と返してきた後で光太は空いている前の席に座る。

「で、どうしたんだよ。やっぱ昨日なんかあったのか?」
「なにからどう説明すればいいか分からないんだけど、そうだな、シャワー室でさ……俺は指をケツに入れることができな……っちょ、なんで無言で立ち上がろうとすんだよ」
「ちょっと俺には荷が重いかなって」

 微妙な顔をした光太がそんなことを言ってくるので腕をつかんで「お前ほど男気も包容力もあるヤツ他にいないって!」と喜一が言うと少し照れながら黙ってまた座りなおしてくれた。
 喜一は周りに聞こえないよう気を付けながら、昨日のことや先ほど自分が考えていたことを簡単に話して聞かせた。

「お前、どう思う……?」
「…………どれに対してだ」

 先ほどよりさらに微妙というか少々青い顔色をした光太が死んだような目で喜一を見てくる。

「え? いや全部?」
「……やっぱ俺には荷が重いっつーか、適応対象外だ」
「そんな何気に俺を人間じゃない存在みたいな風に言うなよ……」
「だって仕方ないだろ。俺、男無理だもん」
「だよなー……」

 光太の言葉が尤も過ぎて喜一はため息をつく。

「すぐに諦めるなよ……」
「は? なんだよそんなツンデレみたいなこと言われても。だってお前男無理なの俺知ってるし」
「でもさ、お前も姫に落ちるまで男と付き合ったことねーだろ。男いけたんかいって俺、密かにびっくりしてたんだけど」

 しみじみと言ってくる光太に、喜一は少し苦笑しながら手を振った。

「姫先輩が特別なのもあるけど、安心しろよ、お前を襲いたいとか思ったことないし今後もないから」
「なんだこの振られた感じ……。別に心配してねーよ。まあなんだ、相手は姫だしさ、慣れてんじゃないの? 多分いいようにしてくれると思うけど」

 光太が微妙な顔をしながら言ってきた言葉を聞いた後に喜一は胸の辺りが重くなる。

「お、おい、なんだよ急に」
「……いや。そりゃそうだよな? 姫先輩あんなに可愛いし……今までにそりゃ経験くらいすげーあるよな……」
「ない可能性がないわけじゃねーけど、あの人と付き合ってた人もいたはずだしさ、そりゃあるだろ。つかお前だってあんだろ」

 何故か少しむくれたように光太が言ってくる。

「まあうん……、そうだよな。つか、姫先輩、今までも上だったのかな」
「それは本人に聞くしかねーだろ。でもそれよりもなによりもあれだろ。結局のところお前らのどっちがどっちをするかってことだろ」
「……うん」

 喜一が俯きながら頷くと、光太は手を伸ばしてきて喜一の髪をわしゃわしゃとしてきた。

「な、んだよ」
「無駄に考えんなよ、お前らしくねーし。なるようになるって。いざそういう雰囲気になったらお前が上になってるかもだし、もしくは姫が上手いことリードしてくれるかもだろ……、つか言ってて萎えてきた、俺の心が」

 喜一が顔を上げれば実際光太はさらに微妙な顔をしている。おもわず吹き出しながら、喜一は光太に笑いかける。

「ありがとうな」
「いいって。あ、でも一応そのお礼の気持ちは覚えてといて紹介できそうな女の子できたら俺に紹介してくれ」
「なんだよそれ」

 そんな風に言い合って最終的にはお互い笑い合った。結局のところ動揺することになった内容に関して何一つ解決してはいないが、喜一はなんとなく心が軽くなったような気がした。
 昼休みになるとまた己悠が迎えにきてくれた。周りに相変わらずからかわれながら、喜一は己悠と一緒に歩く。

「うるさくてすいません」

 喜一が苦笑しながら謝ると、いつもなら「また謝って」とニコニコ見上げてくる己悠の反応が薄い。

「ん」
「……? 姫先輩? どうかされました、か?」

 怪訝に思い、喜一が少し屈みながら己悠を見ると、ようやく己悠が喜一を見上げてきた。

「……イチくんって、ほんとに俺のこと、好き?」
「っえっ?」

 そんなことを聞かれるとは思っていなかった喜一はドギマギしながら屈んでいた体を今度は後ろにそらせるようにして赤くなった。

「……」

 だが己悠は笑いかけてくるわけでもなく、ただじっと喜一を見上げてくる。

「……、あの、なんでそんな質問をされるのかわかりませんが、俺、姫先輩のこと、好きです」

 おずおずと言った後に「本当に、どうか、されましたか」と喜一はもう一度歩きながら少し屈んだ。

「んー、まあ俺のヤキモチ。さっき休憩時間にイチくん、友達とすごく仲良さそうだったからさ、ムッてなったんだよ」

 己悠はそんなことを言いながら俯き加減できゅっと喜一の袖を持ってくる。

 え、なにこの可愛い人……っ?

 喜一がドキンと心臓をはねさせていると「なーんてな」という声が聞こえた。

「え?」
「いや、ムッてなったのはほんと。今ちょっとかわいこぶってみただけ。さて、とりあえず飯食いながら聞かせてもらおうか」

 ポカンとしている喜一に、己悠はとてもいい笑顔で見上げてきた。
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