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10話
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喜一が自分を好きになっているのは恐らく間違いないなとそろそろ己悠は確信していた。ただ、喜一は外見も多分中身も爽やかな好青年といったタイプだ。いくらこの学校が男同士でのナニか、が多いにしても全員が全員受け入れられるものでもない。現に喜一が男と付き合ったことがあるという事実は無いようだった。真面目そうというか真面目そのものといった感じであるし、きっと暫くは悩み続けるのだろうなと己悠は思っていた。例え悩もうが控えめで狡猾なアプローチをやめる気はなかったが。
だから校舎の裏庭で喜一を見つけた時はまさか告白されるとは思っていなかった。
ちなみに偶然見かけたのではない。喜一に偶然を装って会いに行こうとして教室や食堂にいないという情報をあらかじめ人から入手していた結果だ。もちろん裏庭にいるとわかっていた訳ではないが、探そうとしていたら運よく見つかったというのだろうか。
相変わらず変にかしこまり、やたら謝ってくる喜一を内心楽しんでいた。確かに今日はいつも以上に様子が変だなとは思っていたが、「お、俺……姫先輩が好きです!」とストレートに突然告白されるとは思っていなかった。つい、振りではなく本気でポカンとしていると、好きの意味が伝わらなかったのだろうかとでも思ったのか、しどろもどろになりながら喜一は説明をし始める。
「落ち着いて、イチくん」
「は、はい。ありがとうございます」
実際落ち着かせようと喜一の腕の辺りをポンポンとする。
「イチくん、俺のこと好きなの」
「好きっす! あの、もちろん顔見知りになって間もないし、なんでって思われそうですが……」
「どうしたい?」
説明や求めていない言い訳は要らないとばかりに己悠もストレートに聞くと、少し言い淀んだ後に「好きです。俺と付き合ってください」と喜一は男らしくはっきりと言ってきた。
己悠はわざと変な質問をした。喜一なら言うはずないとわかっていてもつい意地悪な聞き方をしてしまう。ここで万が一性的な関係をほのめかすような言葉や気持ちを出してきていたら己悠は引いていたと思う。自分はそういうことに積極的なくせに、人から積極的になられると大抵萎えてしまう。
言い淀んできた時は「はっきりしないな。もう少し男気のあるやつだと思ってたけど」と内心思っていたが、やはり喜一は喜一だった。恥ずかしいのか緊張しているのか、ぎゅっと目を瞑ってきた喜一を己悠は微笑ましく思う。
「いいよ」
「え、え? え? あの、え?」
「……大丈夫?」
予想以上に喜一が唖然としているようなので、己悠はわざとらしく小首を傾げながら聞いてみる。すると己悠をじっと見てきた後に喜一は慌てたように手を上げてきた。
「っあ、す、すいません! 大丈夫っす! って、あの、え、ほ、本当です、か……」
「嘘言っても仕方ないだろ」
「だ、だって姫先輩、すごい人気者だって……それに実際優しくて可愛くて恰好よくて――」
実際おかしく思って笑いながら答えると、喜一が動揺を見せながらそんな風に言ってきた。本当に可愛いなと己悠はしみじみ思う。こんなに可愛い子なのに、今まで誰も手付かずだったなんて神に感謝したいくらいだと内心ほくそ笑む。ただ、太一に言わせると「可愛いの定義をまず教えろ」らしい。
「お前が男に興味ないからだろ」
「違う。めっちゃ違う。そりゃ俺にとっては喜一くん? もお前も普通にただの男だけど、可愛いかどうかくらいはわかる。お前は可愛い」
「……え、なんなの、俺を口説いてんのか?」
「勝てないのわかってて言うわ、殺すぞ。見た目の話なっ? 喜一くんは性格とか中身イケメンだとは思うけど美形でもなければ可愛くもない。この学校でも完全に襲われる対象から外れてる」
「皆、目がおかしいんじゃねーの」
「いや、お前がな……!」
太一の言葉は今こうして動揺している喜一を見るとますます理解しがたい。
こんなに今すぐにでも押し倒したいくらい可愛いのに。
楽しげに思いながら、己悠は自分をやたら褒めてくれる喜一にニッコリと笑いかけた。
「あはは、ありがとう。買いかぶりだけどね。俺もイチくんの真面目で一生懸命で優しくて天然なとこが可愛いよ」
「あ、ありが……」
己悠の言葉に礼を言いつつ、喜一は怪訝そうな顔をしている。喜一自身も、自分の可愛さに気づいてないのだろうかと己悠は思った。だとしたらきっと無自覚に周りを煽りそうじゃないかと変に心配になってくる。
「じゃあこれからはイチくんは俺の彼氏ね。そんで俺はイチくんの彼氏」
ニコニコしながら己悠は喜一をさらに人気のない場所に連れていく。もちろんさすがにいきなり押し倒すつもりはない。多分言っているうちだろうけれども。
連れて行くのに、ここぞとばかりに喜一の手を握った。大きくてしっかりした手を心地よく思う。
基本的に好きな相手には気持ちよくなってもらいたいタイプだ。もちろん最終的に相手が慣れてなくて痛かろうが挿れるのはこちらだが、それだってなるべく痛くないよう心掛けるしそれまでも沢山、気持ちがいいことをしてあげたいと思う。普段相手を甚振りたいと思う反動だろうか。
でも、イチくんの手は魅力的だな。この手で扱かれたらちょっと堪んないんじゃないの。
喜一の手が心地よくてついそんなことまで思いながら、己悠は塀の辺りまでくるとそのまま喜一を壁に押し付けた。押し付けられても喜一はどこか不思議そうな顔をしている。やはりこういうことに関して天然でもあるのだろうか。思わずさらに心配になる。太一はあり得ないとまで言っていたが、己悠からすればこんなに可愛い喜一が狙われない訳がないとしか思えない。
しっかり、俺のものだと刻み付けていかないとだな。
ニッコリと笑うと己悠は喜一を見上げた。
「やっぱ背、高いなー」
自分よりもかなり高い。己悠が小柄だからというのもあるが、喜一は背の高い生徒の中でもかなり高い方だと思われる。
こういう背の高い相手を屈ませてキスとか、ちょっと堪らないよな。
己悠はまだ不思議そうな顔をしている喜一のネクタイをぐっと引っ張った。
「え、あ……っ?」
訳が分かってないままだからだろうか、柔道がとても上手くジムにも通っている喜一はあっけなくされるがまま己悠のほうに体を屈ませてくる。己悠はそのまま喜一の唇に自分の唇を合わせた。これまたさすがに最初から濃厚すぎるキスなどするつもりはない。舌を絡ませるような濃いキスは、その後にさらなるお楽しみがあるからというある意味前戯だ。告白されてすぐにするものではない。
だがあっという間に済ませるのも、己悠がつまらない。なので軽く啄んだ後に喜一の唇を吸い、味わった。体は筋肉でいい感じに硬いが、唇は柔らかい。もちろんプルプルというものでもないが、むしろ男でそんなにプルプルされていても己悠が萎える。
先ほど甘いパンでも食べていたのであろう。どこか唇や息までもが甘く感じる。そして喜一の味がする。もっと味わっていたいと思いつつも、そこそこで己悠は渋々諦めた。だが最後に舌で上唇の裏側をペロリと堪能する。
ようやく離れると、喜一がとてつもなく真っ赤になって戸惑っていた。
「あ、あの……っ」
ああ、やっぱり可愛いじゃないか。
「可愛いね」
実際本人にもニッコリと笑いながら告げる。
やはり、なるべく早く完全に俺のものにしてしまおう。
己悠は内心改めてそう思った。
だから校舎の裏庭で喜一を見つけた時はまさか告白されるとは思っていなかった。
ちなみに偶然見かけたのではない。喜一に偶然を装って会いに行こうとして教室や食堂にいないという情報をあらかじめ人から入手していた結果だ。もちろん裏庭にいるとわかっていた訳ではないが、探そうとしていたら運よく見つかったというのだろうか。
相変わらず変にかしこまり、やたら謝ってくる喜一を内心楽しんでいた。確かに今日はいつも以上に様子が変だなとは思っていたが、「お、俺……姫先輩が好きです!」とストレートに突然告白されるとは思っていなかった。つい、振りではなく本気でポカンとしていると、好きの意味が伝わらなかったのだろうかとでも思ったのか、しどろもどろになりながら喜一は説明をし始める。
「落ち着いて、イチくん」
「は、はい。ありがとうございます」
実際落ち着かせようと喜一の腕の辺りをポンポンとする。
「イチくん、俺のこと好きなの」
「好きっす! あの、もちろん顔見知りになって間もないし、なんでって思われそうですが……」
「どうしたい?」
説明や求めていない言い訳は要らないとばかりに己悠もストレートに聞くと、少し言い淀んだ後に「好きです。俺と付き合ってください」と喜一は男らしくはっきりと言ってきた。
己悠はわざと変な質問をした。喜一なら言うはずないとわかっていてもつい意地悪な聞き方をしてしまう。ここで万が一性的な関係をほのめかすような言葉や気持ちを出してきていたら己悠は引いていたと思う。自分はそういうことに積極的なくせに、人から積極的になられると大抵萎えてしまう。
言い淀んできた時は「はっきりしないな。もう少し男気のあるやつだと思ってたけど」と内心思っていたが、やはり喜一は喜一だった。恥ずかしいのか緊張しているのか、ぎゅっと目を瞑ってきた喜一を己悠は微笑ましく思う。
「いいよ」
「え、え? え? あの、え?」
「……大丈夫?」
予想以上に喜一が唖然としているようなので、己悠はわざとらしく小首を傾げながら聞いてみる。すると己悠をじっと見てきた後に喜一は慌てたように手を上げてきた。
「っあ、す、すいません! 大丈夫っす! って、あの、え、ほ、本当です、か……」
「嘘言っても仕方ないだろ」
「だ、だって姫先輩、すごい人気者だって……それに実際優しくて可愛くて恰好よくて――」
実際おかしく思って笑いながら答えると、喜一が動揺を見せながらそんな風に言ってきた。本当に可愛いなと己悠はしみじみ思う。こんなに可愛い子なのに、今まで誰も手付かずだったなんて神に感謝したいくらいだと内心ほくそ笑む。ただ、太一に言わせると「可愛いの定義をまず教えろ」らしい。
「お前が男に興味ないからだろ」
「違う。めっちゃ違う。そりゃ俺にとっては喜一くん? もお前も普通にただの男だけど、可愛いかどうかくらいはわかる。お前は可愛い」
「……え、なんなの、俺を口説いてんのか?」
「勝てないのわかってて言うわ、殺すぞ。見た目の話なっ? 喜一くんは性格とか中身イケメンだとは思うけど美形でもなければ可愛くもない。この学校でも完全に襲われる対象から外れてる」
「皆、目がおかしいんじゃねーの」
「いや、お前がな……!」
太一の言葉は今こうして動揺している喜一を見るとますます理解しがたい。
こんなに今すぐにでも押し倒したいくらい可愛いのに。
楽しげに思いながら、己悠は自分をやたら褒めてくれる喜一にニッコリと笑いかけた。
「あはは、ありがとう。買いかぶりだけどね。俺もイチくんの真面目で一生懸命で優しくて天然なとこが可愛いよ」
「あ、ありが……」
己悠の言葉に礼を言いつつ、喜一は怪訝そうな顔をしている。喜一自身も、自分の可愛さに気づいてないのだろうかと己悠は思った。だとしたらきっと無自覚に周りを煽りそうじゃないかと変に心配になってくる。
「じゃあこれからはイチくんは俺の彼氏ね。そんで俺はイチくんの彼氏」
ニコニコしながら己悠は喜一をさらに人気のない場所に連れていく。もちろんさすがにいきなり押し倒すつもりはない。多分言っているうちだろうけれども。
連れて行くのに、ここぞとばかりに喜一の手を握った。大きくてしっかりした手を心地よく思う。
基本的に好きな相手には気持ちよくなってもらいたいタイプだ。もちろん最終的に相手が慣れてなくて痛かろうが挿れるのはこちらだが、それだってなるべく痛くないよう心掛けるしそれまでも沢山、気持ちがいいことをしてあげたいと思う。普段相手を甚振りたいと思う反動だろうか。
でも、イチくんの手は魅力的だな。この手で扱かれたらちょっと堪んないんじゃないの。
喜一の手が心地よくてついそんなことまで思いながら、己悠は塀の辺りまでくるとそのまま喜一を壁に押し付けた。押し付けられても喜一はどこか不思議そうな顔をしている。やはりこういうことに関して天然でもあるのだろうか。思わずさらに心配になる。太一はあり得ないとまで言っていたが、己悠からすればこんなに可愛い喜一が狙われない訳がないとしか思えない。
しっかり、俺のものだと刻み付けていかないとだな。
ニッコリと笑うと己悠は喜一を見上げた。
「やっぱ背、高いなー」
自分よりもかなり高い。己悠が小柄だからというのもあるが、喜一は背の高い生徒の中でもかなり高い方だと思われる。
こういう背の高い相手を屈ませてキスとか、ちょっと堪らないよな。
己悠はまだ不思議そうな顔をしている喜一のネクタイをぐっと引っ張った。
「え、あ……っ?」
訳が分かってないままだからだろうか、柔道がとても上手くジムにも通っている喜一はあっけなくされるがまま己悠のほうに体を屈ませてくる。己悠はそのまま喜一の唇に自分の唇を合わせた。これまたさすがに最初から濃厚すぎるキスなどするつもりはない。舌を絡ませるような濃いキスは、その後にさらなるお楽しみがあるからというある意味前戯だ。告白されてすぐにするものではない。
だがあっという間に済ませるのも、己悠がつまらない。なので軽く啄んだ後に喜一の唇を吸い、味わった。体は筋肉でいい感じに硬いが、唇は柔らかい。もちろんプルプルというものでもないが、むしろ男でそんなにプルプルされていても己悠が萎える。
先ほど甘いパンでも食べていたのであろう。どこか唇や息までもが甘く感じる。そして喜一の味がする。もっと味わっていたいと思いつつも、そこそこで己悠は渋々諦めた。だが最後に舌で上唇の裏側をペロリと堪能する。
ようやく離れると、喜一がとてつもなく真っ赤になって戸惑っていた。
「あ、あの……っ」
ああ、やっぱり可愛いじゃないか。
「可愛いね」
実際本人にもニッコリと笑いながら告げる。
やはり、なるべく早く完全に俺のものにしてしまおう。
己悠は内心改めてそう思った。
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