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6話

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「光太、聞いてくれよ!」

 喜一が部屋に駆け込むとゲームをしていた光太は顔も上げずに「んー」とだけ答えてくる。だが構わず喜一は話し出した。

「姫先輩、俺と付き合ってくれるって……!」
「へー」

 ゲームに集中している光太はどこか上の空だ。

「びっくりだよ。なにかの気まぐれかなー。でも俺のこと可愛いって――」
「って、はぁぁぁ?! マジかよ……!」

 喜一が言いかけていると光太がとてつもなく目を見開いて驚いている。

「いや、そりゃ俺も自分が可愛いとかはねーわって思うけど、そこまで驚いて否定しなく……」

 わかるけども、と多少ムッとしながら言いかけると、またそれを遮るようにして光太が突っ込んできた。

「それじゃねーよ! なんで俺がお前が可愛いか可愛くねーかで真剣にびっくりしなきゃならないんだよ……!」
「だったらなんだよ」
「姫がお前と付き合うって、マジ? お前の妄想だろ?」
「本当だって! っていうか別に俺普段から妄想に生きてないだろ……」

 光太の言葉に微妙な顔をしていると「なんでお前なの」と光太が言ってくる。

「え、なにそれ。まさかお前、俺のことが好きだったとか、もしくは姫先輩が好きだったとかじゃないよな?」

 だとしたらどうしたら……そんな風に思いつつ喜一が聞くと光太に笑顔のまま胸倉をつかまれる。

「何だそれ、めちゃくちゃ妄想に生きてるだろが……! 笑えない冗談はやめろ」
「だってお前がそれっぽいこと呟くから」
「いつ呟いたよ。いやだってそりゃ俺、男をそういう目で見たことないからわかんねーけど、それでも男の魅力くらいはわかるぞ。お前は確かに顔も悪くないしいいヤツだけど、あんなに引く手あまたな人があえて選ぶ程かどうかといえば疑問というか、まあそんだけだよ」
「反応に困る言い方だな……」

 また喜一が微妙な顔をすると光太が呆れた顔で見返してきた。

「付き合ってんのって周り知ってんの?」
「え? どうかな、別に俺、お前以外に言ってないけど。だいたいさっきの出来事だし」

さっきの出来事、と言いながら己悠にされたキスを思い出して顔が赤くなる。

「赤くなんのやめろよ……。いやまあ考えすぎかもだけど、あれだけ人気ある人なら、なんつーの? やっかむ相手とか出てきそうだからさ。お前なら大丈夫だろうけど気ぃつけろよ。あとおめでと」
「やっかまれるとかあんのかな。っていうかお前やっぱいいヤツ……!」

 喜一が喜んで光太を抱きしめようとしたら微妙な顔のまま逃げられた。

「やめろ、いいヤツだと思うならむしろ女子紹介してくれ」
「最近は付き合いないよ」
「使えねーな」

 翌日、喜一は光太が言っていたことを実感した。やっかまれているかどうかはわからないが、変に視線を感じたり、喜一を見ながら何かを話していたりしているのがわかる。
 とはいえ、普段の友達は変わらないので特に気にならなかった。ただ変わらないといえ、からかってきたり冗談ではあるが恨みをぶつけてきたりはしてくる。

「青嶋てめぇ! いつの間に!」
「どうやって姫たぶらかしたんだよ!」
「爽やかな振りしてムッツリかよ」

 基本的に散々な言われようだが悪意は感じられず、むしろはっきりと言ってくれるので喜一も存分にのろけておいた。
 のろけとはいえ、実際付き合うことになったのは昨日であり、まだお互い彼氏としての実績は積んでいないので言うことといえば「姫先輩可愛い」くらいなのだが。
 さすがにキスのことは言えないのと、未だに自分でもよくわかっていない。妄想癖は無いつもりだったが、もしかしたら自分の中で生み出した妄想だったのかもしれないとさえ思えてきている。

 ……それにしても……なんで皆に付き合うことになったって知れ渡ってんだろ……?

 不思議に思ったそれは、昼休みに己悠と会ってすぐに解消した。

「ごめんね、俺が言ったからだと思う。告白されたからさ、イチくんいるからって断った」

 一緒にお昼を食べよう、と己悠が喜一の教室にまで来た時は周りがとてつもなく煩かった。暴動かパレードでも始まるのかと思ったくらいだ。己悠は慣れているのか、特に物怖じすることもなく喜一を連れ出した。そして人の少ない場所で己悠が買ってきた弁当やパンを食べていると謝ってきたのだ。

「そうなんですね。でも大丈夫っす。別に俺、問題ないんで」
「でもイチくんのクラスの子がさっき、イチくんが用意してる間に言ってきたよ。今日、何度か意地悪されたんだって? ごめんね、大丈夫?」
「え?」

 喜一はポカンとした。そんなことをされた記憶がない。

「っああ、じろじろ見られることですか? あれって意地悪なんですか?」
「イチくん違ぇよ……。ぶつかってきたりされたって言ってたけど……」

 己悠が微妙な顔で言ってくる。そんな顔も可愛いなと思いながら、喜一は首を傾げた。

「えーっと……そういえば確かに今日はよく人にぶつかる日だなって思ってましたけど……きっと俺が嬉しすぎて不注意になってたんだろうなと思ってました。ぶつかっちゃった相手に謝ったら『あ、はい』とか言われたし、うん、やっぱり俺の不注意だったと思います」

 思い返してもやはりそうだとしか思えずに喜一が言うと、己悠はポカンとした後に笑ってきた。

「ど、どうしたんっすか?」
「いや、なんかほんとイチくん可愛いなぁって思ってさ」

 また可愛いと言われて喜一は戸惑う。一体今のどこをどうとれば可愛いと思ったのかわからないし、そもそも己悠よりも十五センチくらいは喜一のほうが身長も高いし、顔も変ではないと思うが可愛いと思える箇所に心当たりがない。

「か、可愛いのは姫先輩だと思いますけど……!」

 思わず言い返すと「俺、可愛い?」と己悠がニッコリしながら喜一にくっついてきた。途端、喜一は顔が熱くなるのがわかった。

「っか、可愛いっすよ! って、男の姫先輩がそれも男に言われて嬉しくはないと思いますが……」
「嬉しいよ」

 己悠は抱き着きながら下からじっと喜一を見つめてくる。

「イチくんに言われるなら、すごく嬉しい」

 喜一の心臓は今にも破裂しそうだった。今まで女子とだけとはいえ、付き合った相手と大人の関係に何度もなったこともあると言うのにまるで自分が童貞にでもなった気分だ。

「そ、そういえばお、お昼、ありがとうございました……! あの、買ってくれてた分、お金……っ」

 とりあえず話を逸らそうと、どのみち言わないとと思っていたことを焦りながら言う。すると拍子抜けしたような顔をして己悠は苦笑してきた。

「いらないよそんなん」
「で、でも」
「俺がそんな細かいこと言うと思う?」
「お、思いませんけど。っつっても俺、姫先輩のこと好きになったくせに色々まだ姫先輩のこと知らなくて……」

 つい正直に言ってしまう。だが己悠は気を悪くした様子もなく、むしろ楽しげに笑ってきた。そしてさらにくっついてくる。

「これからたくさん知ればいいだろ。それこそ、色んなこと、をさ」

 言いながら見あげてくる表情に、喜一は破裂しそうだった心臓がむしろ止まるかと思った。ひたすら優しくて可愛い人だと思っていた相手が、とても性的な人にも見えてきた。
 もちろん悲嘆する訳などなく、大好きな己悠を自分も抱き返してもいいのかな、などと悶々と考えていた。
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