緋の花

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102話

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 秋星としては何がなんでも見つけなくては、と躍起になってはいなかった。隠す気もないが自分の知らない誰かが行方不明になろうが特にどうでもいい。流石に勝手にどうとなればいいなどとは思わないが、そもそも知らない相手にいちいち心を痛めていたら今後半永久的に生きていくというのに精神がもたないだろう。
 第一人間界で犯人を捜す仕事をしている存在はいるし、魔界でもそういった違反者を取り締まる者はいる。秋星の仕事ではない。
 ただ、同じ種族がやらかしたことなのだとしたら捨て置けないと思ったまでだ。そのため一応はそれなりに調べたりはしていた。結果、ざっと調べても何も出ないということがおかしい、という結論に至った。

 この俺が調べて何も出んとか、おかしいやろ。

 邦一が聞けば呆れるであろうことを考えつつ浮かんだのは、もしかしたらヴァンパイアではないのかもしれないということだ。ヴァンパイア絡みで秋星が、橘家が調べられないという時点でおかしい。すぐに出てこなくとも何らかの流れや絡みで引っかかってきそうなものだ。
 とはいえ、ワーウルフである月梨の鼻を蔑ろには出来ない。その月梨はヴァンパイアの匂いを感じ取っていた。
 ではどういうことか。そこで浮かんだのが柳の病院で見かけた男だ。看護士と思われるその男に気づいた時はすぐにヴァンパイアだと分かった。外見というより匂いを感じた。
 さすがにワーウルフほど敏感な感知能力はないが、ヴァンパイアの嗅覚や第六感的な感覚は鋭い。その際に変わった匂いを感じたのだ。純粋なヴァンパイアとは違う匂いだった。
 思いつきでしかない。だが秋星は自分の思いつきに対しては信用することにしている。そのため事前に柳と連絡を取り、確認をしていた。

「柳の部下に合の子おるやろ」
「いるよ」
「何の合の子や」
「さぁ、それは聞いてないなぁ。何故?」
「いや、別に何の合の子でもえぇんやけどな」
「じゃあ何で聞いてきたのかな」
「合の子は一人だけか?」
「そうだね」
「ほんだら今度クニの診察する時にな、そいつに時間作ってもうて。話したいねん」
「浮気?」
「アホ言う暇あったらそいつに時間作らせぇ」
「その子に迷惑かかるなら俺は協力しないけど」
「時間取ってもらう以外の迷惑はかけへんわ。混血について聞きたいだけや」
「……ふーん? あぁ、邦一くんとの間にはいくら秋星が美人さんでも子どもはできないからね」
「ええから聞いとけボケが……!」

 イライラと電話を切ったわけだが、柳はちゃんと確認していてくれたようだ。邦一が診察を受けている間、秋星はその男と話していた。柳が邦一に余計なことをしないか気にはなったが仕方がない。

「話って何でしょうか」
「ごめんな、時間取らせて。あんた、混血やろ?」
「……? はい」
「混血の場合ってな──」

 とりあえず話を聞いてわかったことは種族としては血が濃いほう寄りになるらしい。話をしてくれた相手はヴァンパイアの血が濃かったからヴァンパイアとして生きているが、他の血が濃ければそちらの種族として生きていたかもしれないようだ。
 種族により生活習慣もルールも違う。もちろん人間界にいるための暗黙のルールは共通だが、生態が皆違うのもあり独自の決まりごとなども存在してくるだろう。
 あとはそういった混血独自のネットワークがあるのかが聞きたかった。
 確信がある訳ではない。だが秋星の中で可能性は高まっていた。
 血が濃いほうの種族として生きる。
 だから秋星がヴァンパイア絡みとして調べても何も出てこないのではないか。
 だからヴァンパイアの血が混じっている他の生き物の可能性は高いのではないか。
 普通に考えたら月梨が秋星と似た匂いだと感じたのならヴァンパイアとしての血が濃そうだが、吸血行為などのヴァンパイア独特となる行為に及ぶ場合に濃くなる可能性もある。そう考えると他の混血がいるならその存在を確認したいと思った。
 目の前にいる男が犯人だとは思っていない。まるで柳をいい風に見るようで面白くないが、だがあの柳がそういった者を採用するとは思えない。もちろんヴァンパイアと言えども完璧に自分以外の者を把握出来はしないが、柳の部下なら問題はないだろう。
 聞けば混血同士で情報のやりとりをする集まり的なものはあるらしい。ただできれば他の者の情報は、と渋られたが悪いようにはしないからと頼み込んだ。今度またその情報を教えてもらうことになっている。
 邦一にきちんと話さなかったのはあまり絡んで欲しくないからだ。月梨がやってきた時にも邦一が言ってきた通りに先に帰らせれば良かったと今は思っている。
 全く同じヴァンパイアならむしろ問題なかった。少なくとも人間界にいるヴァンパイアで橘家に逆らう者はいない。例え普段接触がない者であろうが、人間界でのルールを無視するような輩でもだ。
 だが他の種族となると話は違う。しかも相手が一体どんな者なのかわからないとなるとなおさらだ。
 邦一が危ない目に合う可能性が例え一パーセント未満だろうが避けたかった。



「……だってな、全然見つかれへんやん?」

 邦一が頷いたのを見て、秋星は続けた。

「やから可能性を広げただけや。別の種族っていう可能性とかな」
「でもヴァンパイアの匂いが……ああ、だから混血……」

 知らないことが多く、普段恋愛に関しては何でやねんとひたすら突っ込みをいれたい邦一だが、恋愛以外のことだとそれなりに察しは悪くない。それもあって今は下手に誤魔化さないほうがいいと秋星は思っていた。

「そういうことや。別に何か新たにわかったわけやない。でもな、色んな可能性があるんや。やからクニはあんま関わらんといて」
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