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101話
しおりを挟む だが表情に誤魔化されるつもりはない。いや、確かに少々つられたが、それでも誤魔化されはしない。
「誰と何の話をしていたのか言うまで血はやらないからな」
「主人に対して命令する気なん?」
「秋星は主人だけどパートナーでもあるだろ。俺はパートナーとして言ってる」
パートナーという言葉は言われると慣れなさを感じるものの、使い勝手がいいようだ。現に秋星は珍しく言葉に詰まっている。もちろん邦一も真面目に秋星が大切で大事だしパートナーという存在を軽んじているのではない。ただ基本的に困った性質の主人だけに、使えるカードは使う。
「クニ、ほんま可愛くなくなったわ」
「可愛くなくて、結構」
「……そんなでほんまに俺のこと好きなん」
しおらしく聞いてくる秋星につられそうになったが、今のは先ほど見せてきた表情と違って工作めいている。邦一は鈍いかもしれないが、本物と作り物の違いくらいは分かる。相手が秋星ならなおさらだ。本気で言われていたら邦一も赤くなってどもりながら「好き」だと伝えていたかもしれない。
「パートナーには隠し事しない秋星なら、な」
「……狡いわ!」
「は?」
何故そこで狡い、になるのか。少しポカンとしている邦一に気づいた秋星がニッコリと笑ってきた。
「血、やらんて言うけど……俺にちょっと何かされただけでぐずぐずになんのに? 俺に舐めて欲しぃてしゃーなくなるやろに?」
扇情的作戦か、と邦一は顔を少し仰け反らせた。話を聞く、言わないの攻防戦をしているからか今は秋星の狙いがわかるのだが、普段はもちろん秋星が何を考えているのかさっぱり分からない。恐らく普段から秋星は何らかの狙いや考えの元、こうして邦一を翻弄しているのだろうなと薄々わかってはいても改めて実感し、何とも微妙な気持ちになる。今、こうして秋星の狙いがわかっていても思わずドキドキとしてしまう。
「……秋星こそ、俺の血が欲しいなら話せ。そうだな、話したら好きなように血を飲ませてやる」
「可愛いない……」
秋星がジト目で見てくるが無視をした。
「好きなよぉに飲んでえぇんやな? 忘れた、言わせへんで」
言う気になったのか、と少し驚きつつもじわりと後悔の念が湧く。秋星が釣られる程に、一体どう好きに飲まれるのか。秋星は何故かたまに血が絡むことに対し慎重になってくるくせに、基本的には遠慮がない。
……レバーのメニュー増やしてもらおう……。
とりあえずそっとそんなことを思っていると秋星が話してきた。
「ほんま大したことちゃうねん。柳のとこで働いてるもんにな、混血がおんねや」
「……こんけつ?」
一瞬何の言葉かと思った後に気づいた。
「あぁ、混血か。ハーフかなにか? 日本人とどこの国の人? それとも日本人関係ないとか」
というか何故そんなことを邦一に隠す必要があるのか。また誤魔化されているのかとも思ったが、秋星を見ているとそんな風でもない。
「人間ちゃう」
「え、じゃ、じゃあダンピール……?」
だがダンピールは普通に存在出来ないのでは、と邦一が思っていると首を振られた。
「別の魔物や」
「ヴァンパイアと? そんなこともあるのか」
「まぁ、あんまないけどな」
「にしたって別に俺に隠す必要は……何の話聞いてたんだ?」
「クニはあれか。付き合うと面倒臭いタイプか」
「……何故そんなこと言われるのかわからないけど、普段から面倒臭い秋星に言われたくないな」
もしかして嫉妬云々と言うなら、確かに嫉妬心を自分でも意外だが邦一はそれなりに持ち合わせているようだ。ただ、今は嫉妬半分、興味半分だろうか。秋星が隠す理由を知りたい。
「俺が面倒臭い訳ないやろ。何言うてんねん」
「……。で、何の話」
「……っち」
「何で舌打ちするんだよ」
「してへんわ。何の話て、あれや。混血ってどんなもんなんか聞いてただけや」
「何、微妙なこと聞いてんだよ……」
魔物の混血がどういう風なのかは知らないが、人間の場合は時に繊細な話題となる。自慢に思っている者もいれば、喜ばしくなく思っている者もいる。
「そやかて俺にはわからんことやからな」
「別にわからなくていいだろ。……それとも何か意味があるのか」
邦一が聞くとため息を吐かれた。
「クニは案外しつこいな」
「秋星」
「わかってるわ。あー、もう。クニにはあんま聞かせたぁなかったのに。例の野良ヴァンパイア絡みで聞きたいことあっただけや」
「例の……? 何でまた……? 何かわかったことでもあったのか」
「わからんからむしろ聞いたよぉなもんや」
「その混血とやらがどう関係あるんだよ?」
本気で意味がわからない。
「えぇ、そんなんとかも説明せんなあかんの」
「血」
「ぁあー面倒臭いなぁ……。別にこれって理由とかはないねん」
本当に面倒臭いといった風に秋星は寝返りをうち、うつ伏せになった。伏せたまま、ため息を吐いている。
「……だってな、全然見つかれへんやん?」
犯人が、とも被害者が、とあえて言わずに秋星がうつ伏せの状態で片目だけを邦一へ向けてきた。邦一は黙ったまま、ただこくりと頷いた。
「誰と何の話をしていたのか言うまで血はやらないからな」
「主人に対して命令する気なん?」
「秋星は主人だけどパートナーでもあるだろ。俺はパートナーとして言ってる」
パートナーという言葉は言われると慣れなさを感じるものの、使い勝手がいいようだ。現に秋星は珍しく言葉に詰まっている。もちろん邦一も真面目に秋星が大切で大事だしパートナーという存在を軽んじているのではない。ただ基本的に困った性質の主人だけに、使えるカードは使う。
「クニ、ほんま可愛くなくなったわ」
「可愛くなくて、結構」
「……そんなでほんまに俺のこと好きなん」
しおらしく聞いてくる秋星につられそうになったが、今のは先ほど見せてきた表情と違って工作めいている。邦一は鈍いかもしれないが、本物と作り物の違いくらいは分かる。相手が秋星ならなおさらだ。本気で言われていたら邦一も赤くなってどもりながら「好き」だと伝えていたかもしれない。
「パートナーには隠し事しない秋星なら、な」
「……狡いわ!」
「は?」
何故そこで狡い、になるのか。少しポカンとしている邦一に気づいた秋星がニッコリと笑ってきた。
「血、やらんて言うけど……俺にちょっと何かされただけでぐずぐずになんのに? 俺に舐めて欲しぃてしゃーなくなるやろに?」
扇情的作戦か、と邦一は顔を少し仰け反らせた。話を聞く、言わないの攻防戦をしているからか今は秋星の狙いがわかるのだが、普段はもちろん秋星が何を考えているのかさっぱり分からない。恐らく普段から秋星は何らかの狙いや考えの元、こうして邦一を翻弄しているのだろうなと薄々わかってはいても改めて実感し、何とも微妙な気持ちになる。今、こうして秋星の狙いがわかっていても思わずドキドキとしてしまう。
「……秋星こそ、俺の血が欲しいなら話せ。そうだな、話したら好きなように血を飲ませてやる」
「可愛いない……」
秋星がジト目で見てくるが無視をした。
「好きなよぉに飲んでえぇんやな? 忘れた、言わせへんで」
言う気になったのか、と少し驚きつつもじわりと後悔の念が湧く。秋星が釣られる程に、一体どう好きに飲まれるのか。秋星は何故かたまに血が絡むことに対し慎重になってくるくせに、基本的には遠慮がない。
……レバーのメニュー増やしてもらおう……。
とりあえずそっとそんなことを思っていると秋星が話してきた。
「ほんま大したことちゃうねん。柳のとこで働いてるもんにな、混血がおんねや」
「……こんけつ?」
一瞬何の言葉かと思った後に気づいた。
「あぁ、混血か。ハーフかなにか? 日本人とどこの国の人? それとも日本人関係ないとか」
というか何故そんなことを邦一に隠す必要があるのか。また誤魔化されているのかとも思ったが、秋星を見ているとそんな風でもない。
「人間ちゃう」
「え、じゃ、じゃあダンピール……?」
だがダンピールは普通に存在出来ないのでは、と邦一が思っていると首を振られた。
「別の魔物や」
「ヴァンパイアと? そんなこともあるのか」
「まぁ、あんまないけどな」
「にしたって別に俺に隠す必要は……何の話聞いてたんだ?」
「クニはあれか。付き合うと面倒臭いタイプか」
「……何故そんなこと言われるのかわからないけど、普段から面倒臭い秋星に言われたくないな」
もしかして嫉妬云々と言うなら、確かに嫉妬心を自分でも意外だが邦一はそれなりに持ち合わせているようだ。ただ、今は嫉妬半分、興味半分だろうか。秋星が隠す理由を知りたい。
「俺が面倒臭い訳ないやろ。何言うてんねん」
「……。で、何の話」
「……っち」
「何で舌打ちするんだよ」
「してへんわ。何の話て、あれや。混血ってどんなもんなんか聞いてただけや」
「何、微妙なこと聞いてんだよ……」
魔物の混血がどういう風なのかは知らないが、人間の場合は時に繊細な話題となる。自慢に思っている者もいれば、喜ばしくなく思っている者もいる。
「そやかて俺にはわからんことやからな」
「別にわからなくていいだろ。……それとも何か意味があるのか」
邦一が聞くとため息を吐かれた。
「クニは案外しつこいな」
「秋星」
「わかってるわ。あー、もう。クニにはあんま聞かせたぁなかったのに。例の野良ヴァンパイア絡みで聞きたいことあっただけや」
「例の……? 何でまた……? 何かわかったことでもあったのか」
「わからんからむしろ聞いたよぉなもんや」
「その混血とやらがどう関係あるんだよ?」
本気で意味がわからない。
「えぇ、そんなんとかも説明せんなあかんの」
「血」
「ぁあー面倒臭いなぁ……。別にこれって理由とかはないねん」
本当に面倒臭いといった風に秋星は寝返りをうち、うつ伏せになった。伏せたまま、ため息を吐いている。
「……だってな、全然見つかれへんやん?」
犯人が、とも被害者が、とあえて言わずに秋星がうつ伏せの状態で片目だけを邦一へ向けてきた。邦一は黙ったまま、ただこくりと頷いた。
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