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午後もいくつか乗って遊んだが、そろそろ限界だと二人は早めに出た。何が限界って、とりあえず暑さだろうか。後は人混み具合か。
「この後また電車乗って帰るんか。無理。クニ今すぐ車の免許取って」
「そっちのが無理だろ」
だいたい例え免許を持っていたとしても車がない。
「あ、車やったらほら、あっこに車屋さんあるやろ」
「俺の考え読むな。あと、無駄遣いはさせないからな」
車は無駄遣いというレベルですらないが、橘の者たちの金銭感覚が自分と合わないのは昔から知っている。
「ほんだらどっかホテル行って、飲ませて」
「その辺の喫茶店へ行こうみたいな感覚で言うなよ」
「アホやな、クニは。若もんやったらカフェとか言いや」
「そこじゃないし、そもそも若者はむしろそんなこと気にしない」
ため息を吐いていると、それに対しては無視しつつ秋星が邦一のシャツを引っ張りながらどこかをニコニコと指差してくる。何だとそちらへ視線を向けると、そういった系のホテルがあった。
「……行かないからな」
「何でやねん」
「秋星も俺と出かけたかったんだろ。あんなとこ、家に引きこもってるのとあまり違わないじゃないか」
正直なところ少々その場所に対しての好奇心はあるが、秋星はこんなでも多少名前の知られた存在なのだ。遊園地などは男友だち同士でも行くことはある。だがああいったホテルへ行く男友だちはない。万が一誰かに見られたらと思うと絶対に行くつもりはなかった。
「やけど思った以上に体力持ってかれてん」
少ししおらしく言ってくる秋星を見て邦一がまず思ったことは「嘘だ」だった。
「秋星、苦手とか弱いとか言われるのが嫌ならそれを利用しようとするなよ」
呆れたように言えば、案の定舌打ちをしてくる。例え好きだと自覚しようが相変わらず秋星はろくでもない。
「せやけどアレが必要なんはほんまやで」
アレ、とは血のことだ。
「じゃあ帰るか。家帰るまでは我慢しろ」
「嫌や。ほんまクニは色気ないなぁ」
「だからあってたまるか。じゃあどうするんだよ。言っとくけど行かないからな」
微妙な顔で言えばムッとした顔をしてきたが、そういった様子を見せてくる時は大抵本当に怒っているのではないので無視をする。
「……ほんま可愛ないわ」
「可愛くなくて結構」
「それやったらこっち来て」
少し辺りを見渡した秋星がどこかに目処をつけたのか邦一を引っ張ってきた。
「どこ行くんだよ」
「あっち。路地裏みたいなとこあるっぽい。人おらんとこ」
「ま、待て。何考えてんだよ」
「クニこそ何考えてんねん。エッチやなぁ。この俺が外でヤるとでも思ってんか」
「そこまでは思ってへんわ!」
「クニ、関西弁やで」
引っ張っぱりながら、秋星がニコニコと邦一を見上げてくる。確かに一瞬だけは邪なことが邦一の脳裏に過ったが、一瞬だ。とりあえず外で血を吸う行為をさせる気はない。
「どのみち外ではあげられないからな」
「この姿やったら、やろ」
狭い路地の間へ入ると、秋星は「ちょっと黙っててな」と言いながら目を閉じて辺りを窺い出す。だがすぐに目を開けてきた。
「周り、誰もおらんわ!」
そんなことも把握できるのかと何となく思っていると秋星が何やら呟いている。まさか、と思った時には周辺の空気が歪んだ気がした。そして以前見た時と同じように秋星が消え、邦一の足元には一匹の猫がいる。路地でほんのり暗いため、今回も黒猫に見えるが恐らくグレー、いやシルバー色をした猫なのだろう。
「……いきなり化けるなよ」
「毎回変身のセリフでも大袈裟に言えばえぇんか、魔法少女みたいに」
「何の話だ……? そういえば服ってどうなってんの。一緒に化けられんの? 服だけそのまま残ったりしないのか?」
「そんな身バレすぐしてまいそうな間抜けなことする訳ないやろ。一緒に巻き込むわ」
「へぇ。……あ、そういえば猫もどんな種類にも化けられるのか?」
「てゆーか、もうあんま驚いてくれへんねんな」
「前に見たしな」
「おもんない。あぁ、何でも化けられるで。やけど自分に近いタイプのが楽やろか」
近い?
何が?
邦一は怪訝に思った。
「近いなら黒髪なんだから黒猫じゃないのか」
「……その辺は適当や」
「は?」
「ただ、高貴っぽいしコラットに化けてるだけや」
何だそれ。
微妙になりつつも、以前何気に秋星の下の毛を見た時に銀色をしているように見えたことをふと思い出した。すると何となく胸の辺りが一瞬サワッと違和感を覚えたような気がする。
でも秋星が邦一の血を飲む時、目は赤くなるが髪は黒いままだし、あまり気にすることでもないかもしれない。
「そんなことはどぉでもえぇから、クニ、しゃがみぃ」
前にも見た、がやはり猫が喋るところは脳が当たり前だと思ってくれないらしい。とても妙な感じがする。さっき感じた違和感もこれかもしれない。とりあえず言われた通りしゃがむと、秋星が邦一の太ももに乗ってきた。
ああ、このまま運べってことか。
そんな風に思いながら何となく頭を撫でようと手を差し出すと手の甲を引っかかれた。
「っい、って。何す……」
文句を言おうとしたがその前に、秋星がしようと考えていたことが何か分かった。引っかかれ、血が滲んでいる手の箇所に秋星がちろりと舌を這わせてくる。そしてそのままてちてちと舐めてくる。
「お前な……」
「これやったらおかしないやろ」
いや、おかしい。
……俺が、多分。
猫に対して見せる様子ではない状態になりそうで、邦一は気を逸らそうと口の中で舌をやんわりと噛む。気を逸らせるためとはいえ猫にやたらと話し込む訳にもいかない。
ただでさえ秋星に血を舐められると困ったことになる上に、這わせてくる舌がざりざりとして更に何とも言えない感じを覚える。
「最悪だ……」
「何言うてんねん、最高のデートやない」
「どこがだよ」
その後多少満足したらしく元の姿に戻った秋星を、邦一は急かして電車に乗り帰路に着いた。途中あまり話す余裕はなかった。
大人しく急かされるに任せてくる秋星の部屋へようやくたどり着くと、邦一は「……ちゃんと、吸え」と絞り出すように言う。
「そうこなくちゃ、やで」
秋星は楽しそうにニッコリと笑ってきた。
「この後また電車乗って帰るんか。無理。クニ今すぐ車の免許取って」
「そっちのが無理だろ」
だいたい例え免許を持っていたとしても車がない。
「あ、車やったらほら、あっこに車屋さんあるやろ」
「俺の考え読むな。あと、無駄遣いはさせないからな」
車は無駄遣いというレベルですらないが、橘の者たちの金銭感覚が自分と合わないのは昔から知っている。
「ほんだらどっかホテル行って、飲ませて」
「その辺の喫茶店へ行こうみたいな感覚で言うなよ」
「アホやな、クニは。若もんやったらカフェとか言いや」
「そこじゃないし、そもそも若者はむしろそんなこと気にしない」
ため息を吐いていると、それに対しては無視しつつ秋星が邦一のシャツを引っ張りながらどこかをニコニコと指差してくる。何だとそちらへ視線を向けると、そういった系のホテルがあった。
「……行かないからな」
「何でやねん」
「秋星も俺と出かけたかったんだろ。あんなとこ、家に引きこもってるのとあまり違わないじゃないか」
正直なところ少々その場所に対しての好奇心はあるが、秋星はこんなでも多少名前の知られた存在なのだ。遊園地などは男友だち同士でも行くことはある。だがああいったホテルへ行く男友だちはない。万が一誰かに見られたらと思うと絶対に行くつもりはなかった。
「やけど思った以上に体力持ってかれてん」
少ししおらしく言ってくる秋星を見て邦一がまず思ったことは「嘘だ」だった。
「秋星、苦手とか弱いとか言われるのが嫌ならそれを利用しようとするなよ」
呆れたように言えば、案の定舌打ちをしてくる。例え好きだと自覚しようが相変わらず秋星はろくでもない。
「せやけどアレが必要なんはほんまやで」
アレ、とは血のことだ。
「じゃあ帰るか。家帰るまでは我慢しろ」
「嫌や。ほんまクニは色気ないなぁ」
「だからあってたまるか。じゃあどうするんだよ。言っとくけど行かないからな」
微妙な顔で言えばムッとした顔をしてきたが、そういった様子を見せてくる時は大抵本当に怒っているのではないので無視をする。
「……ほんま可愛ないわ」
「可愛くなくて結構」
「それやったらこっち来て」
少し辺りを見渡した秋星がどこかに目処をつけたのか邦一を引っ張ってきた。
「どこ行くんだよ」
「あっち。路地裏みたいなとこあるっぽい。人おらんとこ」
「ま、待て。何考えてんだよ」
「クニこそ何考えてんねん。エッチやなぁ。この俺が外でヤるとでも思ってんか」
「そこまでは思ってへんわ!」
「クニ、関西弁やで」
引っ張っぱりながら、秋星がニコニコと邦一を見上げてくる。確かに一瞬だけは邪なことが邦一の脳裏に過ったが、一瞬だ。とりあえず外で血を吸う行為をさせる気はない。
「どのみち外ではあげられないからな」
「この姿やったら、やろ」
狭い路地の間へ入ると、秋星は「ちょっと黙っててな」と言いながら目を閉じて辺りを窺い出す。だがすぐに目を開けてきた。
「周り、誰もおらんわ!」
そんなことも把握できるのかと何となく思っていると秋星が何やら呟いている。まさか、と思った時には周辺の空気が歪んだ気がした。そして以前見た時と同じように秋星が消え、邦一の足元には一匹の猫がいる。路地でほんのり暗いため、今回も黒猫に見えるが恐らくグレー、いやシルバー色をした猫なのだろう。
「……いきなり化けるなよ」
「毎回変身のセリフでも大袈裟に言えばえぇんか、魔法少女みたいに」
「何の話だ……? そういえば服ってどうなってんの。一緒に化けられんの? 服だけそのまま残ったりしないのか?」
「そんな身バレすぐしてまいそうな間抜けなことする訳ないやろ。一緒に巻き込むわ」
「へぇ。……あ、そういえば猫もどんな種類にも化けられるのか?」
「てゆーか、もうあんま驚いてくれへんねんな」
「前に見たしな」
「おもんない。あぁ、何でも化けられるで。やけど自分に近いタイプのが楽やろか」
近い?
何が?
邦一は怪訝に思った。
「近いなら黒髪なんだから黒猫じゃないのか」
「……その辺は適当や」
「は?」
「ただ、高貴っぽいしコラットに化けてるだけや」
何だそれ。
微妙になりつつも、以前何気に秋星の下の毛を見た時に銀色をしているように見えたことをふと思い出した。すると何となく胸の辺りが一瞬サワッと違和感を覚えたような気がする。
でも秋星が邦一の血を飲む時、目は赤くなるが髪は黒いままだし、あまり気にすることでもないかもしれない。
「そんなことはどぉでもえぇから、クニ、しゃがみぃ」
前にも見た、がやはり猫が喋るところは脳が当たり前だと思ってくれないらしい。とても妙な感じがする。さっき感じた違和感もこれかもしれない。とりあえず言われた通りしゃがむと、秋星が邦一の太ももに乗ってきた。
ああ、このまま運べってことか。
そんな風に思いながら何となく頭を撫でようと手を差し出すと手の甲を引っかかれた。
「っい、って。何す……」
文句を言おうとしたがその前に、秋星がしようと考えていたことが何か分かった。引っかかれ、血が滲んでいる手の箇所に秋星がちろりと舌を這わせてくる。そしてそのままてちてちと舐めてくる。
「お前な……」
「これやったらおかしないやろ」
いや、おかしい。
……俺が、多分。
猫に対して見せる様子ではない状態になりそうで、邦一は気を逸らそうと口の中で舌をやんわりと噛む。気を逸らせるためとはいえ猫にやたらと話し込む訳にもいかない。
ただでさえ秋星に血を舐められると困ったことになる上に、這わせてくる舌がざりざりとして更に何とも言えない感じを覚える。
「最悪だ……」
「何言うてんねん、最高のデートやない」
「どこがだよ」
その後多少満足したらしく元の姿に戻った秋星を、邦一は急かして電車に乗り帰路に着いた。途中あまり話す余裕はなかった。
大人しく急かされるに任せてくる秋星の部屋へようやくたどり着くと、邦一は「……ちゃんと、吸え」と絞り出すように言う。
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