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70話
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流石に柳と話していた内容をこと細かく邦一に説明する気は起こらず、秋星はとてつもなく微妙な気持ちになっている。
あの後、秋星が少し固まっていると柳がすぐに邦一へ声をかけた。
「お疲れ、邦一くん。もうすぐ結果が出るだろうから待っててね。何か飲む?」
「え、あ……いえ結構です。ありがとうございます」
実際すぐに看護士だろうか、一人の男が封筒を手にやって来た。柳とやり取りをしている男を見るとおそらくヴァンパイアだと秋星にはわかった。
もちろん整った外見ではあるがヴァンパイア本来の特徴が出ている訳ではない。少々青白さがあるのは仕方ないにしても目の色や髪の色、口元など普通に周りと溶け込んでいる。
ただ匂いだ。血の匂いがするのではないが、人間ではない、ヴァンパイアの匂いがする。どんな匂いかともし邦一に問われても口で説明出来ないが、ヴァンパイアである匂いだった。ただ少し変わった匂いではある。純粋なヴァンパイアではないのかもしれない。
その男が出ていくと、柳は邦一の診察を始めた。それを軽くイラつきながら見ていたら「部外者は出て行くといいよ」と柳がニコニコとした顔を向けてきて更に秋星をイラつかせてきた。
とりあえず邦一に問題は何もなかった。柳が「秋星に馬鹿みたいに血を飲まれてるだろうに貧血すらなくて、ほんと邦一くんは健康優良児だね」と言われていた。
「なぁ」
自宅への帰り道、邦一がじっと秋星を見てくる。言われることは想像ついたが、何でもないように「何」と返事をする。
「柳先生と何話していたんだ」
精通と自慰の話や。
「クニには別に関係ないことやな」
「……お前、柳先生に変なこと言ってただろ……?」
どこから聞こえてたんだろうと秋星は目線をほんのり逸らせる。別に自慰の話をしたくないのではない。そんなことくらいなら真顔でもニコニコ笑みを浮かべながらでも言える。
だが精通は何か嫌だ。ヴァンパイアとしての覚醒が遅かったのも自分の中で地味に気にくわないのだ。
「……逆に聞くけどな、クニはじゃあ、何聞いてん。変とか。聞き間違いしてんとちゃうの」
「あんたに自慰教えられたみたいやろが」
間違いなく変な部分を聞いていた。秋星はため息を吐いた。
「健康診断で精液調べさせられたことある、言うたやろ」
「……あぁ」
「学校ではそんな検査ないらしいやん? やから柳に何でそんなもん検査したんやって問い詰めてたんや。その流れや」
嘘は吐いていない。
「どう問い詰めたら自慰を教えられたみたいになるんだ」
「煩いな。人間やったら健康診断でせんでもえぇことをわざわざ、あいつの独断と偏見でやらされたんや。文句の一つでも言いたくなるやろが」
これも嘘ではない。お陰で邦一は一応納得した様子だった。ホッとしつつ、ふと気になったことを聞く。
「クニは何でそんなん聞いてくんねん」
「……そりゃあんなこと言ってたら気になるだろ」
「何で? 好奇心か?」
「いや、別にそういう訳じゃ……」
「ほんだら何。ヤキモチとかちゃうのん? 俺と柳に何かあんのちゃうかって思ってモヤったとかちゃうのん」
流石にそこまでではないなとわかりつつも、畳み掛けるように言う。邦一は少し考えるように秋星を見ながらもおずおずと口を開いた。
「……いや、まぁ、そうか、も?」
何で疑問系なんやとは思いつつも、正直それどころではないくらい秋星の中がゴトゴトとあらぶった。
ヤキモチを認める?
モヤったのを認める?
それはどういうことなのだと邦一を揺さぶりたい。
認めるのか。
それなのに何とも思ってないと言うのか。
それともただ単に説明が面倒だから流されているだけなのか。
「クニ……どーゆーつもりで認めてんの」
「え? いや、そうなのかもと思ったからだけど……」
「お前な、俺のこと何とも思ってへんねやろ? やのにヤキモチ妬くん」
「……おかしいのか? それは」
この子ほんまに……。
邦一の硬派なところや、周りの人間やヴァンパイアに興味を持たずに育ってきたことを秋星としては嬉しく思うが、残念な部分もある。
「何でそーゆーことわかれへんねん。色気無いにも程があるやろ……」
「色気関係ないだろ……!」
あるわ。
秋星はジト目で邦一を見る。そういう部分がいいところでもあるのだが、本当に残念な人間だと思う。
「やっぱりお前はな、俺のこと、好きなんやって」
とはいえ利用出来るものは何であれ利用する。改めてニッコリを笑みを向けながら最近よく言っているセリフを口にした。力を使って洗脳する気はないが、流されてくれるなら歓迎する。
……流されてでも、最終的にはちゃんと自分の気持ちを向けて欲しいけどな。
邦一は少し困惑したような顔をしていたが結局それに対して何も言わなかった。
家へ帰った後、秋星を部屋着用の着物に着替えさせながら「健康診断の話で思い出したけど、そういえば秋星って自分でしないって言ってたよな」と邦一が口にしてくる。
「そんなもん、せぇへんわ」
仕方なくあの時はしたが、その後もやはり自分ではしていない。それよりも邦一の血を味わうほうが例えようもないくらい堪らないのだ。何故わざわざ自慰などしなければならないのかと今でも思っている。
血を、味わう──
血が……飲みたい……。
あの後、秋星が少し固まっていると柳がすぐに邦一へ声をかけた。
「お疲れ、邦一くん。もうすぐ結果が出るだろうから待っててね。何か飲む?」
「え、あ……いえ結構です。ありがとうございます」
実際すぐに看護士だろうか、一人の男が封筒を手にやって来た。柳とやり取りをしている男を見るとおそらくヴァンパイアだと秋星にはわかった。
もちろん整った外見ではあるがヴァンパイア本来の特徴が出ている訳ではない。少々青白さがあるのは仕方ないにしても目の色や髪の色、口元など普通に周りと溶け込んでいる。
ただ匂いだ。血の匂いがするのではないが、人間ではない、ヴァンパイアの匂いがする。どんな匂いかともし邦一に問われても口で説明出来ないが、ヴァンパイアである匂いだった。ただ少し変わった匂いではある。純粋なヴァンパイアではないのかもしれない。
その男が出ていくと、柳は邦一の診察を始めた。それを軽くイラつきながら見ていたら「部外者は出て行くといいよ」と柳がニコニコとした顔を向けてきて更に秋星をイラつかせてきた。
とりあえず邦一に問題は何もなかった。柳が「秋星に馬鹿みたいに血を飲まれてるだろうに貧血すらなくて、ほんと邦一くんは健康優良児だね」と言われていた。
「なぁ」
自宅への帰り道、邦一がじっと秋星を見てくる。言われることは想像ついたが、何でもないように「何」と返事をする。
「柳先生と何話していたんだ」
精通と自慰の話や。
「クニには別に関係ないことやな」
「……お前、柳先生に変なこと言ってただろ……?」
どこから聞こえてたんだろうと秋星は目線をほんのり逸らせる。別に自慰の話をしたくないのではない。そんなことくらいなら真顔でもニコニコ笑みを浮かべながらでも言える。
だが精通は何か嫌だ。ヴァンパイアとしての覚醒が遅かったのも自分の中で地味に気にくわないのだ。
「……逆に聞くけどな、クニはじゃあ、何聞いてん。変とか。聞き間違いしてんとちゃうの」
「あんたに自慰教えられたみたいやろが」
間違いなく変な部分を聞いていた。秋星はため息を吐いた。
「健康診断で精液調べさせられたことある、言うたやろ」
「……あぁ」
「学校ではそんな検査ないらしいやん? やから柳に何でそんなもん検査したんやって問い詰めてたんや。その流れや」
嘘は吐いていない。
「どう問い詰めたら自慰を教えられたみたいになるんだ」
「煩いな。人間やったら健康診断でせんでもえぇことをわざわざ、あいつの独断と偏見でやらされたんや。文句の一つでも言いたくなるやろが」
これも嘘ではない。お陰で邦一は一応納得した様子だった。ホッとしつつ、ふと気になったことを聞く。
「クニは何でそんなん聞いてくんねん」
「……そりゃあんなこと言ってたら気になるだろ」
「何で? 好奇心か?」
「いや、別にそういう訳じゃ……」
「ほんだら何。ヤキモチとかちゃうのん? 俺と柳に何かあんのちゃうかって思ってモヤったとかちゃうのん」
流石にそこまでではないなとわかりつつも、畳み掛けるように言う。邦一は少し考えるように秋星を見ながらもおずおずと口を開いた。
「……いや、まぁ、そうか、も?」
何で疑問系なんやとは思いつつも、正直それどころではないくらい秋星の中がゴトゴトとあらぶった。
ヤキモチを認める?
モヤったのを認める?
それはどういうことなのだと邦一を揺さぶりたい。
認めるのか。
それなのに何とも思ってないと言うのか。
それともただ単に説明が面倒だから流されているだけなのか。
「クニ……どーゆーつもりで認めてんの」
「え? いや、そうなのかもと思ったからだけど……」
「お前な、俺のこと何とも思ってへんねやろ? やのにヤキモチ妬くん」
「……おかしいのか? それは」
この子ほんまに……。
邦一の硬派なところや、周りの人間やヴァンパイアに興味を持たずに育ってきたことを秋星としては嬉しく思うが、残念な部分もある。
「何でそーゆーことわかれへんねん。色気無いにも程があるやろ……」
「色気関係ないだろ……!」
あるわ。
秋星はジト目で邦一を見る。そういう部分がいいところでもあるのだが、本当に残念な人間だと思う。
「やっぱりお前はな、俺のこと、好きなんやって」
とはいえ利用出来るものは何であれ利用する。改めてニッコリを笑みを向けながら最近よく言っているセリフを口にした。力を使って洗脳する気はないが、流されてくれるなら歓迎する。
……流されてでも、最終的にはちゃんと自分の気持ちを向けて欲しいけどな。
邦一は少し困惑したような顔をしていたが結局それに対して何も言わなかった。
家へ帰った後、秋星を部屋着用の着物に着替えさせながら「健康診断の話で思い出したけど、そういえば秋星って自分でしないって言ってたよな」と邦一が口にしてくる。
「そんなもん、せぇへんわ」
仕方なくあの時はしたが、その後もやはり自分ではしていない。それよりも邦一の血を味わうほうが例えようもないくらい堪らないのだ。何故わざわざ自慰などしなければならないのかと今でも思っている。
血を、味わう──
血が……飲みたい……。
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