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68話 ※
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数日後、秋星は念のために邦一を柳の元へ連れて行った。邦一には「必要ないだろ」と面倒がられるし、柳には「……過保護だねぇ」と呆れられた。
「やかましぃねん。クニの文句はまだしも、あんたはこれが仕事やねんから黙って働きぃ」
ジロリと柳を睨むも「はいはい」と軽くいなされる。秋星は舌打ちをしながら柳の診察室にあるゆったりとした一人用ソファーに座った。
「乱暴に扱わないで欲しいな。その椅子、お気に入りなんだ」
「職場に私物持ち込んでんちゃうで。つか何であんた、ここにおんねん。ちゃんとクニ診てきぃや」
「レントゲンとか採血とかまで全部俺にさせる気かな。ちゃんと最終的には俺が診るよ」
「採血するんって人間やろな」
「そりゃ邦一くんが人間だしね、君らを診るのと違って人間を使うよ。でもレントゲンはどーだったかな」
「……まぁ血ぃ採るんが人間ならえぇ」
「ほんと過保護。経過観察とは言ったけどね、わざわざ何かあった訳でもないのに検査とはね」
「囲いもん、言うたり過保護言うたり煩いねん。倒れた時はむしろ検査どころかまともに診察もしてへんやろ。俺の話聞いただけやん」
「あれだと診察結果下すのに別に検査はいらないしねぇ」
「えぇからちゃんと検査と診断しぃ」
笑っている柳を秋星はまたジロリと睨む。柳に頭が上がらないとはいえ、基本的に胡散臭い性格もあって秋星は柳の顔を見る度に警戒している。子どもの頃はそこまでではなかったのだが、やはり積み重なった柳の言動のせいだろうと思われる。
……後は健康診断やな。
柳が机に向かい、書類仕事をし出したのでソファーで寛ぎながら秋星は忌々しいことを思い返す。
以前、何度か健康診断の際に「精子も診るから」と言われたことがある。初めての時は大いに訝しんだ。
「は? そんなん何でいるねん」
「健康診断だから?」
「嘘臭過ぎやろ……」
「なら聞くけど採血と何が違う?」
「……そんなん、俺が知る訳ないやろ」
「分からないのに嘘臭いと言われてもね」
「……」
「ほら、一人で出せないなら俺がやってやろうか? 俺、上手いぞ」
「冗談やない。できるわ」
売り言葉に買い言葉とはこのことだろうか。気づけば採取する羽目になっていた。病院では落ち着かないので一旦帰る。
正直な話、その時初めて一人でした。別に自慰などしなくとも問題なかった。特に邦一の血を飲むようになってからは吸血行為だけで十二分に満足だった。
……どないしたらえぇんや。
邦一は丁度不在だった。今思うとこういう時に例の仕事をしていたのかもしれない。
さすがに邦一にやって貰おうとはその時は思いもよらなかったが、そこにいればやり方は聞いていたかもしれない。もちろんやったことがないと口にするのは何となく忌々しいのでそれとなく上手いこと聞き出す形だっただろうが。
セックスのやり方はわかるし自慰はどうするものかもわかる。ただ、いざ自分がするとなると戸惑った。
渋々着物の股の辺りを開いて自分のものを出す。勃起もするしそもそも快楽を得ることも今までにできていたが、射精自体はしたことがなかった。とはいえ血が飲めれば満足なので、それで困ったことはない。
ゆるゆると擦ってみるが反応はない。そもそも興奮する理由もない。
舌打ちをすると、秋星は邦一がいないのをいいことに邦一の部屋へ向かった。
部屋には多分その日の朝に着ていた着物だろう、それが無造作に置いてあった。外出をしている時、邦一は洋服を着る。だからだろう。
秋星はそこへ足を運ぶと座り込んだ。そして邦一の着物を手に取る。それだけでふわりと邦一の匂いがした。
血が吸いたくなる。ドキドキと高まる気持ちを更に高めるかのように着物に顔を埋めた。
「は、ぁ」
正直なところ、それだけでも満足だった。だがここへ来た用件を思い出し、秋星は片手で邦一の着物を抱きしめると、もう片方の手でまた自分の着物を乱して自分のものをごそごそと取り出す。
はっきり言って面倒臭いと思った。だが持っていかないと柳に馬鹿にされそうな気がする。
匂いを堪能したお陰でそれは一応反応していた。秋星は着物の匂いを嗅ぎながら渋々手を動かす。
「……ん、ん……」
今度はだんだんと硬くなっていった。自慰をしたことはなくともセックスのようにそこへ刺激を与えれば快楽は得られるのはわかる。後は途中で止めるのではなく、出るまで続けるだけだ。
先からはカウパー氏腺液だろうか、透明な液はじわりと滲んできた。
「……は、ぁ……、クニ……」
匂いを堪能するだけでなく、邦一の首筋に舌を這わせ、牙を食い込ませるところを想像する。そうして堪らない香りと堪らない味を想像の中で再現させた。
「ん、ぅっ」
びくりと体がしなる。邦一が絡むと簡単だった。初めて出したからだろうか、あまり勢いのないものがドロリと自分のものから出た。
射精自体は悪いものではなかった。吸血行為とは違った気持ちよさはある。だがさすがに自分の精液を見て楽しむ気はない。
それを少し不愉快な気持ちで見た後、秋星は持ち帰ってきた専用のスピッツに自分が出したものを入れ、忌々しいながらもすぐに持って行った。その後も二回程させられようやく「精液はもう大丈夫かな」と言われてからはしていない。
目の前で書類仕事をしている柳に、結局あれは何だったのか聞いてやろうと秋星は思った。柳のせいで、実は恥すらかいたことがあるのだ。
「やかましぃねん。クニの文句はまだしも、あんたはこれが仕事やねんから黙って働きぃ」
ジロリと柳を睨むも「はいはい」と軽くいなされる。秋星は舌打ちをしながら柳の診察室にあるゆったりとした一人用ソファーに座った。
「乱暴に扱わないで欲しいな。その椅子、お気に入りなんだ」
「職場に私物持ち込んでんちゃうで。つか何であんた、ここにおんねん。ちゃんとクニ診てきぃや」
「レントゲンとか採血とかまで全部俺にさせる気かな。ちゃんと最終的には俺が診るよ」
「採血するんって人間やろな」
「そりゃ邦一くんが人間だしね、君らを診るのと違って人間を使うよ。でもレントゲンはどーだったかな」
「……まぁ血ぃ採るんが人間ならえぇ」
「ほんと過保護。経過観察とは言ったけどね、わざわざ何かあった訳でもないのに検査とはね」
「囲いもん、言うたり過保護言うたり煩いねん。倒れた時はむしろ検査どころかまともに診察もしてへんやろ。俺の話聞いただけやん」
「あれだと診察結果下すのに別に検査はいらないしねぇ」
「えぇからちゃんと検査と診断しぃ」
笑っている柳を秋星はまたジロリと睨む。柳に頭が上がらないとはいえ、基本的に胡散臭い性格もあって秋星は柳の顔を見る度に警戒している。子どもの頃はそこまでではなかったのだが、やはり積み重なった柳の言動のせいだろうと思われる。
……後は健康診断やな。
柳が机に向かい、書類仕事をし出したのでソファーで寛ぎながら秋星は忌々しいことを思い返す。
以前、何度か健康診断の際に「精子も診るから」と言われたことがある。初めての時は大いに訝しんだ。
「は? そんなん何でいるねん」
「健康診断だから?」
「嘘臭過ぎやろ……」
「なら聞くけど採血と何が違う?」
「……そんなん、俺が知る訳ないやろ」
「分からないのに嘘臭いと言われてもね」
「……」
「ほら、一人で出せないなら俺がやってやろうか? 俺、上手いぞ」
「冗談やない。できるわ」
売り言葉に買い言葉とはこのことだろうか。気づけば採取する羽目になっていた。病院では落ち着かないので一旦帰る。
正直な話、その時初めて一人でした。別に自慰などしなくとも問題なかった。特に邦一の血を飲むようになってからは吸血行為だけで十二分に満足だった。
……どないしたらえぇんや。
邦一は丁度不在だった。今思うとこういう時に例の仕事をしていたのかもしれない。
さすがに邦一にやって貰おうとはその時は思いもよらなかったが、そこにいればやり方は聞いていたかもしれない。もちろんやったことがないと口にするのは何となく忌々しいのでそれとなく上手いこと聞き出す形だっただろうが。
セックスのやり方はわかるし自慰はどうするものかもわかる。ただ、いざ自分がするとなると戸惑った。
渋々着物の股の辺りを開いて自分のものを出す。勃起もするしそもそも快楽を得ることも今までにできていたが、射精自体はしたことがなかった。とはいえ血が飲めれば満足なので、それで困ったことはない。
ゆるゆると擦ってみるが反応はない。そもそも興奮する理由もない。
舌打ちをすると、秋星は邦一がいないのをいいことに邦一の部屋へ向かった。
部屋には多分その日の朝に着ていた着物だろう、それが無造作に置いてあった。外出をしている時、邦一は洋服を着る。だからだろう。
秋星はそこへ足を運ぶと座り込んだ。そして邦一の着物を手に取る。それだけでふわりと邦一の匂いがした。
血が吸いたくなる。ドキドキと高まる気持ちを更に高めるかのように着物に顔を埋めた。
「は、ぁ」
正直なところ、それだけでも満足だった。だがここへ来た用件を思い出し、秋星は片手で邦一の着物を抱きしめると、もう片方の手でまた自分の着物を乱して自分のものをごそごそと取り出す。
はっきり言って面倒臭いと思った。だが持っていかないと柳に馬鹿にされそうな気がする。
匂いを堪能したお陰でそれは一応反応していた。秋星は着物の匂いを嗅ぎながら渋々手を動かす。
「……ん、ん……」
今度はだんだんと硬くなっていった。自慰をしたことはなくともセックスのようにそこへ刺激を与えれば快楽は得られるのはわかる。後は途中で止めるのではなく、出るまで続けるだけだ。
先からはカウパー氏腺液だろうか、透明な液はじわりと滲んできた。
「……は、ぁ……、クニ……」
匂いを堪能するだけでなく、邦一の首筋に舌を這わせ、牙を食い込ませるところを想像する。そうして堪らない香りと堪らない味を想像の中で再現させた。
「ん、ぅっ」
びくりと体がしなる。邦一が絡むと簡単だった。初めて出したからだろうか、あまり勢いのないものがドロリと自分のものから出た。
射精自体は悪いものではなかった。吸血行為とは違った気持ちよさはある。だがさすがに自分の精液を見て楽しむ気はない。
それを少し不愉快な気持ちで見た後、秋星は持ち帰ってきた専用のスピッツに自分が出したものを入れ、忌々しいながらもすぐに持って行った。その後も二回程させられようやく「精液はもう大丈夫かな」と言われてからはしていない。
目の前で書類仕事をしている柳に、結局あれは何だったのか聞いてやろうと秋星は思った。柳のせいで、実は恥すらかいたことがあるのだ。
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