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65話
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放課後、大人しく言われた通り教室に留まり、部活やらアルバイトやらで早々に教室から出ていくクラスメイトを秋星はぼんやり見ていた。時折「どうしたの、橘くんがまだ残ってるの珍しいね」と話しかけられたりしたがニコニコと適当にあしらう。とりあえず、用事がなければ遊びに行かないかという誘いには即「ごめんな、用事があってちょっとだけここで時間潰してるだけやねん」と断りを入れた。
笑顔ながらに有無を言わせない態度のお陰で「じゃあ一緒にいてあげる」と言ってくる者はいなかった。声をかけてきた者は名残惜しそうに帰っていく。
クニ、まだかな。
別に人間観察が好きな訳ではないので既に退屈だったりする。これが他のヴァンパイアならそれなりに人間観察を楽しむだろう。別に誰彼となく襲う者はいないが、人間を色々見ながらその味や反応を想像して楽しむ輩はそれなりにいそうだ。
秋星も昔なら楽しめたかもしれないが、秋星以外に興味がない今はどうでもいい。家で花を生けたりゴロゴロしたり、チョコレートを食べたりしているほうが楽しい。
そんなことを考えていると教室の出入口が開いた。匂いはしないが一瞬でも邦一だろうかと思った秋星は不愉快なものを見たような顔をする。
「橘くん」
入ってきたのは三年生の女子だった。水白 月梨(みじろ るり)という名前だと秋星は把握している。
「何やろか、先輩」
ニッコリと笑みを向けるが内心は「はよ出てけ」と思っている。はっきり言ってワーウルフは好きじゃない。ヴァンパイアの中には、悪魔と同じようにワーウルフを使い魔としている者もいるが秋星はどうにも好かない。
月梨も人間の振りをして上手く隠しているのだろうが、秋星にしてみれば見ただけでわかる。
ふと前に邦一がワーウルフに話しかけられたと言っていたことを思い出す。目の前のワーウルフは確かそいつの身内だったか。
「私は水白って言うの」
「知ってるで」
思わせ振りに笑う。
お前の正体くらい、知らん訳ないやろが。
「……ちょっと話があるの。付き合ってくれない?」
「また今度にして。俺、用事あんねん」
今度も付き合う気はないけどな。
笑みを浮かべたまま答えると、月梨もニッコリと微笑みながらそばへやって来た。そして顔を近づけてくる。
「……あなたの正体のことに関係あるの。ここじゃ話せないでしょう?」
「秋星?」
丁度その時、邦一が教室へ入ってきた。そしてポカンとした顔をしている。
「……用事は彼かしら」
「やったら何やの」
「彼はあなたのこと、知ってるの?」
「それで脅してるつもりか、わんこ」
見据えるように言えば、月梨がじろりと見返してくる。
「……違うわよ。知っているなら一緒に来ればと思っただけ。知らないなら待ってもらえないかしら」
「秋星? あの、その人と用事あるなら俺、どこかで待つか先に帰るけど」
「お前が帰ることないねん、この人が帰ればえぇことやし。いや、ってゆーか俺とクニが帰ったらええんや」
「っちょっと!」
席から立ち上がり、邦一のほうへ向かう秋星を月梨が引き留めようとする。
「でもこの人は用事あるみたいじゃないか。普段外面いいくせにどうしたんだよ。じゃあ俺、終わるまで待って……」
「待たんでえぇ。……あーもぅ。鬱陶しぃなぁ。何やの? こいつも一緒でええから、手っ取り早く済ませてや」
本当に教室から出て行きかねない邦一の腕をつかみ、秋星はため息を吐いた。本気で鬱陶しいと思いつつ月梨を見る。
「……ほんと、この人が言うみたいに普段は外面良さそうなのにね。じゃあついてきて」
ジロリと秋星を見た後に歩き出した月梨に一応続きながら「……この犬が」と呟くと邦一が呆れた顔で見てくる。
「女の子に対して、何て言い草だよ……!」
「煩い。俺はワーウルフ、好かんねん」
周りに人はいないが、念の為小さな声で呟くと邦一が唖然としてきた。
「はっ?」
「クニ」
「あ、ああ」
邦一も周りを気にしたようにちらりと視線を向けながら口を閉じた。
使われていない教室へ入ると、月梨は邦一を見た後に秋星を見てきた。
「その人、人間よね? 本当に大丈夫なのね?」
「やから一緒におるねん。ほんまわんこは警戒心強いなぁ。はよ用件言い」
秋星の様子にそろそろ慣れてきたのかため息だけ吐くと、月梨は近くにある机に軽くもたれるようにして楽な体勢を取った。
「私の住んでいる付近で最近行方不明者が出たの」
「普通やったらそんなこと俺に言われてもって返すとこやけどな。まぁお前はわんこにしては珍しくアホやないみたいやし、何かあるっちゅうことか」
「……ほんといい性格してるわね。……ええそうよ。今のところ二人だと思われるんだけど、どちらも女性。まだそんなに騒がれてはいないけどもずっとこのままだとどうかしらね。あと、最初の人は分からないけど、もう一人は行方不明になる前に最近妙なことがあると言っていた」
気のせいかもしれないが、どうにも気絶しているのか意識がはっきりしない空白の時間が何度かあるのだと漏らしていたという。おまけに実際少し具合が悪そうにも見えた。
「お前の知り合いなんか?」
「そうね。人間だけどいい子で。学校は違うけれども近所に住んでいていつの間にか顔を合わせたら話すようになってた。その子がいなくなってから私、こっそり部屋に忍び込んで探ったりしたの。そうしたら微かだけれども匂いが残ってた」
一旦口をつぐむと月梨は邦一を見る。そして小さくため息を吐いてから続けた。
「私たちの嗅覚だけはあなたたちよりも優れてるの、知ってるでしょう? とてもあなたと雰囲気の似た匂いだった」
笑顔ながらに有無を言わせない態度のお陰で「じゃあ一緒にいてあげる」と言ってくる者はいなかった。声をかけてきた者は名残惜しそうに帰っていく。
クニ、まだかな。
別に人間観察が好きな訳ではないので既に退屈だったりする。これが他のヴァンパイアならそれなりに人間観察を楽しむだろう。別に誰彼となく襲う者はいないが、人間を色々見ながらその味や反応を想像して楽しむ輩はそれなりにいそうだ。
秋星も昔なら楽しめたかもしれないが、秋星以外に興味がない今はどうでもいい。家で花を生けたりゴロゴロしたり、チョコレートを食べたりしているほうが楽しい。
そんなことを考えていると教室の出入口が開いた。匂いはしないが一瞬でも邦一だろうかと思った秋星は不愉快なものを見たような顔をする。
「橘くん」
入ってきたのは三年生の女子だった。水白 月梨(みじろ るり)という名前だと秋星は把握している。
「何やろか、先輩」
ニッコリと笑みを向けるが内心は「はよ出てけ」と思っている。はっきり言ってワーウルフは好きじゃない。ヴァンパイアの中には、悪魔と同じようにワーウルフを使い魔としている者もいるが秋星はどうにも好かない。
月梨も人間の振りをして上手く隠しているのだろうが、秋星にしてみれば見ただけでわかる。
ふと前に邦一がワーウルフに話しかけられたと言っていたことを思い出す。目の前のワーウルフは確かそいつの身内だったか。
「私は水白って言うの」
「知ってるで」
思わせ振りに笑う。
お前の正体くらい、知らん訳ないやろが。
「……ちょっと話があるの。付き合ってくれない?」
「また今度にして。俺、用事あんねん」
今度も付き合う気はないけどな。
笑みを浮かべたまま答えると、月梨もニッコリと微笑みながらそばへやって来た。そして顔を近づけてくる。
「……あなたの正体のことに関係あるの。ここじゃ話せないでしょう?」
「秋星?」
丁度その時、邦一が教室へ入ってきた。そしてポカンとした顔をしている。
「……用事は彼かしら」
「やったら何やの」
「彼はあなたのこと、知ってるの?」
「それで脅してるつもりか、わんこ」
見据えるように言えば、月梨がじろりと見返してくる。
「……違うわよ。知っているなら一緒に来ればと思っただけ。知らないなら待ってもらえないかしら」
「秋星? あの、その人と用事あるなら俺、どこかで待つか先に帰るけど」
「お前が帰ることないねん、この人が帰ればえぇことやし。いや、ってゆーか俺とクニが帰ったらええんや」
「っちょっと!」
席から立ち上がり、邦一のほうへ向かう秋星を月梨が引き留めようとする。
「でもこの人は用事あるみたいじゃないか。普段外面いいくせにどうしたんだよ。じゃあ俺、終わるまで待って……」
「待たんでえぇ。……あーもぅ。鬱陶しぃなぁ。何やの? こいつも一緒でええから、手っ取り早く済ませてや」
本当に教室から出て行きかねない邦一の腕をつかみ、秋星はため息を吐いた。本気で鬱陶しいと思いつつ月梨を見る。
「……ほんと、この人が言うみたいに普段は外面良さそうなのにね。じゃあついてきて」
ジロリと秋星を見た後に歩き出した月梨に一応続きながら「……この犬が」と呟くと邦一が呆れた顔で見てくる。
「女の子に対して、何て言い草だよ……!」
「煩い。俺はワーウルフ、好かんねん」
周りに人はいないが、念の為小さな声で呟くと邦一が唖然としてきた。
「はっ?」
「クニ」
「あ、ああ」
邦一も周りを気にしたようにちらりと視線を向けながら口を閉じた。
使われていない教室へ入ると、月梨は邦一を見た後に秋星を見てきた。
「その人、人間よね? 本当に大丈夫なのね?」
「やから一緒におるねん。ほんまわんこは警戒心強いなぁ。はよ用件言い」
秋星の様子にそろそろ慣れてきたのかため息だけ吐くと、月梨は近くにある机に軽くもたれるようにして楽な体勢を取った。
「私の住んでいる付近で最近行方不明者が出たの」
「普通やったらそんなこと俺に言われてもって返すとこやけどな。まぁお前はわんこにしては珍しくアホやないみたいやし、何かあるっちゅうことか」
「……ほんといい性格してるわね。……ええそうよ。今のところ二人だと思われるんだけど、どちらも女性。まだそんなに騒がれてはいないけどもずっとこのままだとどうかしらね。あと、最初の人は分からないけど、もう一人は行方不明になる前に最近妙なことがあると言っていた」
気のせいかもしれないが、どうにも気絶しているのか意識がはっきりしない空白の時間が何度かあるのだと漏らしていたという。おまけに実際少し具合が悪そうにも見えた。
「お前の知り合いなんか?」
「そうね。人間だけどいい子で。学校は違うけれども近所に住んでいていつの間にか顔を合わせたら話すようになってた。その子がいなくなってから私、こっそり部屋に忍び込んで探ったりしたの。そうしたら微かだけれども匂いが残ってた」
一旦口をつぐむと月梨は邦一を見る。そして小さくため息を吐いてから続けた。
「私たちの嗅覚だけはあなたたちよりも優れてるの、知ってるでしょう? とてもあなたと雰囲気の似た匂いだった」
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