ニコラシカ

Guidepost

文字の大きさ
上 下
18 / 20

18話

しおりを挟む
 部屋に戻ってきた後で朝哉は一人、どうにも落ち着かない気持ちでいた。よく考えずとも、自分の態度は少し変だったと思われる。郭夜の幼馴染だという太一はよく、朝哉に対して憤りを感じた様子を見せてこなかったなとさえ思う。

「向こうは普通に親しい友達として接してただけだろうに、むしろ俺は知らないヤツにケンカ腰でさ」

 情けないなと思いつつ、なんであんな態度をとってしまったのかわからない。
 ただ、ムッとしたのは本当なので仕方ない。自分でも親友だからといってあれはないと思いつつも、強いて挙げるなら友達が取られるような気持ち? そんな感じがしたのだと思う。総じて、大人げないのだろう。
 とはいえ昔から自分はそんな風だっただろうかと首をひねる。友だちに対して独占欲のようなものを抱いた記憶がない気がする。だが、たまたまそういう機会がなかっただけかもしれない。郭夜とも高校の頃からの付き合いだが、今までは別にそういうことがなかっただけだろう。大学でも嵩音や梓はからかってきたりわざと変に仲良く絡んできたりするが、恐らく元々知っている相手だからだろうか、特に今まで思うことはなかった。
 しかし太一がどういう人間かも知らないし、何を考えているかもわからない。だから多分、そういう相手が郭夜に馴れ馴れしくすることに憤りを感じたのだろうと朝哉は思う。
 そして郭夜も郭夜だよ、と朝哉は口を膨らませる。朝哉のことが好きだとか言いながらも、あまり積極的に会いにくる訳でもない。隣に住んでいるというのにだ。そのくせ、幼馴染だからとはいえ何日も部屋に住まわせている。

 ってなんかこう、この考え方ってこう、なんていうのかな、なんかさ、アレだよな……。

 微妙になりながら朝哉は自分に突っ込む。郭夜は前からべったりするタイプではないし、そもそも普通に友だちならそれでなにもおかしいところはないはずだ。確かに好きな相手に対しての態度や反応なの? と日々疑問は生じるが不都合がないというかむしろそれでこちらとしてはいいことなのではないのだろうか。

 それでも郭夜ってほんと、よく知ってそうでよくわかんねえ。

 見た目は凄く綺麗で、男前ながらも静かで大人しいタイプに見える。だけれども中身は凄く強くて味わい深い。それもあり、友だちとしてずっと仲よくやってこれたし好きなのだと思っていた。
 でも最近は、酒に例えるならその酒が持っている独特な面白味や味わい深さを堪能する前に、とても強い酒の味が広がってカッとなり一気に翻弄されているような感じだ。凄く高級な酒だろうに勿体ないくらい振り回されているような、そんな感じ。
 それでも酒の強さだけを感じて無理だと思うこともなく、まるで飲みやすくレモンなどが混じったカクテルのようにスッキリと飲み干すことができる。だからこそ、スッキリ飲み干してしまい、後で訳がわからなくなる。
 言い得て妙だ、と朝哉は自分で思い、ニヤリとした。

「……なに笑ってんだ?」
「っぁえ?」

 突然声がして、朝哉は思わず変な声が出た。振り返ると郭夜が微妙な顔をして近づいてきていた。
「おま……、緊急でもないのに合鍵軽率に使うなよな!」
 すぐに郭夜が合鍵を使って入ってきたのだとわかり、朝哉は呆れたように郭夜を見る。

「こういう時に使わなくてなんのための合鍵だ」
「本当に急を要するようなときに使うためのものだよ……! つかかぐちゃん、アイツはまだやっぱいるの?」
「かぐちゃん言うなって言ってるだろ。出てくる時はテレビ観てたけど」
「ちげーよ! 今じゃなくて、まだ帰るとかなんも言ってねーの? ってこと」
「ああ」

 朝哉が言っている意味がわかった、と郭夜が頷いてくる。なんていうか、やはり本当に自分のことが好きなのだろうかとつい思ってしまう。

「さあな」
「さーなって!」
「まあでも、なんとなくだけど近々帰るんじゃないか? そんな気がする」
「なんの根拠があって?」
「なんとなく」
「……」

 朝哉がむぅ、と少し膨れた顔で郭夜を見ていると、郭夜がさらに近づいてきた。そして怪訝そうに見てくる。

「なに」
「なんで聞いてくるんだ?」
「え?」

 質問の意味がよくわからなくて朝哉がポカンとしていると郭夜の手が伸びてきて頬をむに、っとつかんでくる。

「いてぇ!」
「あまり痛くないよう持ったつもりだけど」
「なんのためにっ?」
「いや、馬鹿みたいな顔をしてたから」
「ひでぇ。だって郭夜の言ってる意味わかんなかったんだもん」
「わからない? むしろ俺がわからない。お前は俺のこと、友だちとしか見られないんだろ。だったらなんでそこまで太一を気にするんだ?」

 本当にわからないといった風に郭夜が見てくる。実際自分も今の今まで考えていたことだけに朝哉はグッと喉を詰まらせた。だが郭夜は答えを待っているかのように黙ったままじっと見てくる。

「……俺もよくわかんねーよ。友だちでもさ、あんじゃねえの? なんていうか親友だからさ、俺の知らないヤツがなんで俺の親友とそんな親しいんだ? みたいな感じ」
「ふーん」

 朝哉の言葉に郭夜はどうでもよさそうに相槌を打ってきた。

「おい、お前の質問に答えたってのにその返事なんだよ」
「じゃあなんて言えばいい? そうなんだ、よくわかるよ、とでも?」
「ぅ。いや別にそういう訳じゃ……」
「じゃあどういう訳だ? だいたいお前はただの単純馬鹿でいればいいんだから深く考えんなよ」

 困惑する朝哉に対して郭夜がため息をついてきた。 

「は? どういう意味だよ!」
「俺が知らないヤツに取られるみたいで嫌だった、ってことだろ?」
「う、う……ん?」

 簡単に言えばそうだな、と朝哉は頷く。

「それは俺が好きだからだろ?」
「と、友だちとしてな」
「じゃあ水橋に太一が抱き着いているの見てもお前は突っかかっていくの?」

 言われて脳内に嵩音に抱き着く太一が浮かぶ。
そして「なにやってんのアイツら……」と微妙になるところも浮かぶ。

「微妙にはなる、かな。だって水橋がそもそも微妙なヤツだろ」
「じゃあ永尾には?」

 梓に抱き着く太一。

「なにがあった、とか?」
「俺に抱き着く太一は?」
「……」

 朝哉は黙りこんだ。なんだよ、とむすっとする。
だって親友だ。そして男だ。でも、その親友で男の郭夜と、もう何度か寝ている。
 どう思えばいいかわからなくなってきて朝哉が俯くと、郭夜が両頬を手でつかみ、顔を上げさせてきた。

「いひゃい」
「ほんとお前は馬鹿。深く考えんなっつってんのに。……なあ、する?」

 なにを、とは聞かなかった。朝哉はコクリと頷くと、自らぎゅっと郭夜に抱き着いた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

年上が敷かれるタイプの短編集

あかさたな!
BL
年下が責める系のお話が多めです。 予告なくr18な内容に入ってしまうので、取扱注意です! 全話独立したお話です! 【開放的なところでされるがままな先輩】【弟の寝込みを襲うが返り討ちにあう兄】【浮気を疑われ恋人にタジタジにされる先輩】【幼い主人に狩られるピュアな執事】【サービスが良すぎるエステティシャン】【部室で思い出づくり】【No.1の女王様を屈服させる】【吸血鬼を拾ったら】【人間とヴァンパイアの逆転主従関係】【幼馴染の力関係って決まっている】【拗ねている弟を甘やかす兄】【ドSな執着系執事】【やはり天才には勝てない秀才】 ------------------ 新しい短編集を出しました。 詳しくはプロフィールをご覧いただけると幸いです。

バイト先のお客さんに電車で痴漢され続けてたDDの話

ルシーアンナ
BL
イケメンなのに痴漢常習な攻めと、戸惑いながらも無抵抗な受け。 大学生×大学生

その溺愛は伝わりづらい!気弱なスパダリ御曹司にノンケの僕は落とされました

海野幻創
BL
人好きのする端正な顔立ちを持ち、文武両道でなんでも無難にこなせることのできた生田雅紀(いくたまさき)は、小さい頃から多くの友人に囲まれていた。 しかし他人との付き合いは広く浅くの最小限に留めるタイプで、女性とも身体だけの付き合いしかしてこなかった。 偶然出会った久世透(くぜとおる)は、嫉妬を覚えるほどのスタイルと美貌をもち、引け目を感じるほどの高学歴で、議員の孫であり大企業役員の息子だった。 御曹司であることにふさわしく、スマートに大金を使ってみせるところがありながら、生田の前では捨てられた子犬のようにおどおどして気弱な様子を見せ、そのギャップを生田は面白がっていたのだが……。 これまで他人と深くは関わってこなかったはずなのに、会うたびに違う一面を見せる久世は、いつしか生田にとって離れがたい存在となっていく。 【7/27完結しました。読んでいただいてありがとうございました。】 【続編も8/17完結しました。】 「その溺愛は行き場を彷徨う……気弱なスパダリ御曹司は政略結婚を回避したい」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/962473946/911896785 ↑この続編は、R18の過激描写がありますので、苦手な方はご注意ください。

くまさんのマッサージ♡

はやしかわともえ
BL
ほのぼの日常。ちょっとえっちめ。 2024.03.06 閲覧、お気に入りありがとうございます。 m(_ _)m もう一本書く予定です。時間が掛かりそうなのでお気に入りして頂けると便利かと思います。よろしくお願い致します。 2024.03.10 完結しました!読んで頂きありがとうございます。m(_ _)m 今月25日(3/25)のピクトスクエア様のwebイベントにてこの作品のスピンオフを頒布致します。詳細はまたお知らせ致します。 2024.03.19 https://pictsquare.net/skaojqhx7lcbwqxp8i5ul7eqkorx4foy イベントページになります。 25日0時より開始です! ※補足 サークルスペースが確定いたしました。 一次創作2: え5 にて出展させていただいてます! 2024.10.28 11/1から開催されるwebイベントにて、新作スピンオフを書いています。改めてお知らせいたします。 2024.11.01 https://pictsquare.net/4g1gw20b5ptpi85w5fmm3rsw729ifyn2 本日22時より、イベントが開催されます。 よろしければ遊びに来てください。

白雪王子と容赦のない七人ショタ!

ミクリ21
BL
男の白雪姫の魔改造した話です。

男色医師

虎 正規
BL
ゲイの医者、黒河の毒牙から逃れられるか?

隣人、イケメン俳優につき

タタミ
BL
イラストレーターの清永一太はある日、隣部屋の怒鳴り合いに気付く。清永が隣部屋を訪ねると、そこでは人気俳優の杉崎久遠が男に暴行されていて──?

【完結】理由は1つあればいい

325号室の住人
BL
義姉の元婚約者である元公爵子息✕まだまだ遊びたい王弟 末っ子王子(王弟)と義姉の元婚約者(元公爵子息)との、出会いから婚姻までの話です。 ☆全8話 完結しました

処理中です...