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18話
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部屋に戻ってきた後で朝哉は一人、どうにも落ち着かない気持ちでいた。よく考えずとも、自分の態度は少し変だったと思われる。郭夜の幼馴染だという太一はよく、朝哉に対して憤りを感じた様子を見せてこなかったなとさえ思う。
「向こうは普通に親しい友達として接してただけだろうに、むしろ俺は知らないヤツにケンカ腰でさ」
情けないなと思いつつ、なんであんな態度をとってしまったのかわからない。
ただ、ムッとしたのは本当なので仕方ない。自分でも親友だからといってあれはないと思いつつも、強いて挙げるなら友達が取られるような気持ち? そんな感じがしたのだと思う。総じて、大人げないのだろう。
とはいえ昔から自分はそんな風だっただろうかと首をひねる。友だちに対して独占欲のようなものを抱いた記憶がない気がする。だが、たまたまそういう機会がなかっただけかもしれない。郭夜とも高校の頃からの付き合いだが、今までは別にそういうことがなかっただけだろう。大学でも嵩音や梓はからかってきたりわざと変に仲良く絡んできたりするが、恐らく元々知っている相手だからだろうか、特に今まで思うことはなかった。
しかし太一がどういう人間かも知らないし、何を考えているかもわからない。だから多分、そういう相手が郭夜に馴れ馴れしくすることに憤りを感じたのだろうと朝哉は思う。
そして郭夜も郭夜だよ、と朝哉は口を膨らませる。朝哉のことが好きだとか言いながらも、あまり積極的に会いにくる訳でもない。隣に住んでいるというのにだ。そのくせ、幼馴染だからとはいえ何日も部屋に住まわせている。
ってなんかこう、この考え方ってこう、なんていうのかな、なんかさ、アレだよな……。
微妙になりながら朝哉は自分に突っ込む。郭夜は前からべったりするタイプではないし、そもそも普通に友だちならそれでなにもおかしいところはないはずだ。確かに好きな相手に対しての態度や反応なの? と日々疑問は生じるが不都合がないというかむしろそれでこちらとしてはいいことなのではないのだろうか。
それでも郭夜ってほんと、よく知ってそうでよくわかんねえ。
見た目は凄く綺麗で、男前ながらも静かで大人しいタイプに見える。だけれども中身は凄く強くて味わい深い。それもあり、友だちとしてずっと仲よくやってこれたし好きなのだと思っていた。
でも最近は、酒に例えるならその酒が持っている独特な面白味や味わい深さを堪能する前に、とても強い酒の味が広がってカッとなり一気に翻弄されているような感じだ。凄く高級な酒だろうに勿体ないくらい振り回されているような、そんな感じ。
それでも酒の強さだけを感じて無理だと思うこともなく、まるで飲みやすくレモンなどが混じったカクテルのようにスッキリと飲み干すことができる。だからこそ、スッキリ飲み干してしまい、後で訳がわからなくなる。
言い得て妙だ、と朝哉は自分で思い、ニヤリとした。
「……なに笑ってんだ?」
「っぁえ?」
突然声がして、朝哉は思わず変な声が出た。振り返ると郭夜が微妙な顔をして近づいてきていた。
「おま……、緊急でもないのに合鍵軽率に使うなよな!」
すぐに郭夜が合鍵を使って入ってきたのだとわかり、朝哉は呆れたように郭夜を見る。
「こういう時に使わなくてなんのための合鍵だ」
「本当に急を要するようなときに使うためのものだよ……! つかかぐちゃん、アイツはまだやっぱいるの?」
「かぐちゃん言うなって言ってるだろ。出てくる時はテレビ観てたけど」
「ちげーよ! 今じゃなくて、まだ帰るとかなんも言ってねーの? ってこと」
「ああ」
朝哉が言っている意味がわかった、と郭夜が頷いてくる。なんていうか、やはり本当に自分のことが好きなのだろうかとつい思ってしまう。
「さあな」
「さーなって!」
「まあでも、なんとなくだけど近々帰るんじゃないか? そんな気がする」
「なんの根拠があって?」
「なんとなく」
「……」
朝哉がむぅ、と少し膨れた顔で郭夜を見ていると、郭夜がさらに近づいてきた。そして怪訝そうに見てくる。
「なに」
「なんで聞いてくるんだ?」
「え?」
質問の意味がよくわからなくて朝哉がポカンとしていると郭夜の手が伸びてきて頬をむに、っとつかんでくる。
「いてぇ!」
「あまり痛くないよう持ったつもりだけど」
「なんのためにっ?」
「いや、馬鹿みたいな顔をしてたから」
「ひでぇ。だって郭夜の言ってる意味わかんなかったんだもん」
「わからない? むしろ俺がわからない。お前は俺のこと、友だちとしか見られないんだろ。だったらなんでそこまで太一を気にするんだ?」
本当にわからないといった風に郭夜が見てくる。実際自分も今の今まで考えていたことだけに朝哉はグッと喉を詰まらせた。だが郭夜は答えを待っているかのように黙ったままじっと見てくる。
「……俺もよくわかんねーよ。友だちでもさ、あんじゃねえの? なんていうか親友だからさ、俺の知らないヤツがなんで俺の親友とそんな親しいんだ? みたいな感じ」
「ふーん」
朝哉の言葉に郭夜はどうでもよさそうに相槌を打ってきた。
「おい、お前の質問に答えたってのにその返事なんだよ」
「じゃあなんて言えばいい? そうなんだ、よくわかるよ、とでも?」
「ぅ。いや別にそういう訳じゃ……」
「じゃあどういう訳だ? だいたいお前はただの単純馬鹿でいればいいんだから深く考えんなよ」
困惑する朝哉に対して郭夜がため息をついてきた。
「は? どういう意味だよ!」
「俺が知らないヤツに取られるみたいで嫌だった、ってことだろ?」
「う、う……ん?」
簡単に言えばそうだな、と朝哉は頷く。
「それは俺が好きだからだろ?」
「と、友だちとしてな」
「じゃあ水橋に太一が抱き着いているの見てもお前は突っかかっていくの?」
言われて脳内に嵩音に抱き着く太一が浮かぶ。
そして「なにやってんのアイツら……」と微妙になるところも浮かぶ。
「微妙にはなる、かな。だって水橋がそもそも微妙なヤツだろ」
「じゃあ永尾には?」
梓に抱き着く太一。
「なにがあった、とか?」
「俺に抱き着く太一は?」
「……」
朝哉は黙りこんだ。なんだよ、とむすっとする。
だって親友だ。そして男だ。でも、その親友で男の郭夜と、もう何度か寝ている。
どう思えばいいかわからなくなってきて朝哉が俯くと、郭夜が両頬を手でつかみ、顔を上げさせてきた。
「いひゃい」
「ほんとお前は馬鹿。深く考えんなっつってんのに。……なあ、する?」
なにを、とは聞かなかった。朝哉はコクリと頷くと、自らぎゅっと郭夜に抱き着いた。
「向こうは普通に親しい友達として接してただけだろうに、むしろ俺は知らないヤツにケンカ腰でさ」
情けないなと思いつつ、なんであんな態度をとってしまったのかわからない。
ただ、ムッとしたのは本当なので仕方ない。自分でも親友だからといってあれはないと思いつつも、強いて挙げるなら友達が取られるような気持ち? そんな感じがしたのだと思う。総じて、大人げないのだろう。
とはいえ昔から自分はそんな風だっただろうかと首をひねる。友だちに対して独占欲のようなものを抱いた記憶がない気がする。だが、たまたまそういう機会がなかっただけかもしれない。郭夜とも高校の頃からの付き合いだが、今までは別にそういうことがなかっただけだろう。大学でも嵩音や梓はからかってきたりわざと変に仲良く絡んできたりするが、恐らく元々知っている相手だからだろうか、特に今まで思うことはなかった。
しかし太一がどういう人間かも知らないし、何を考えているかもわからない。だから多分、そういう相手が郭夜に馴れ馴れしくすることに憤りを感じたのだろうと朝哉は思う。
そして郭夜も郭夜だよ、と朝哉は口を膨らませる。朝哉のことが好きだとか言いながらも、あまり積極的に会いにくる訳でもない。隣に住んでいるというのにだ。そのくせ、幼馴染だからとはいえ何日も部屋に住まわせている。
ってなんかこう、この考え方ってこう、なんていうのかな、なんかさ、アレだよな……。
微妙になりながら朝哉は自分に突っ込む。郭夜は前からべったりするタイプではないし、そもそも普通に友だちならそれでなにもおかしいところはないはずだ。確かに好きな相手に対しての態度や反応なの? と日々疑問は生じるが不都合がないというかむしろそれでこちらとしてはいいことなのではないのだろうか。
それでも郭夜ってほんと、よく知ってそうでよくわかんねえ。
見た目は凄く綺麗で、男前ながらも静かで大人しいタイプに見える。だけれども中身は凄く強くて味わい深い。それもあり、友だちとしてずっと仲よくやってこれたし好きなのだと思っていた。
でも最近は、酒に例えるならその酒が持っている独特な面白味や味わい深さを堪能する前に、とても強い酒の味が広がってカッとなり一気に翻弄されているような感じだ。凄く高級な酒だろうに勿体ないくらい振り回されているような、そんな感じ。
それでも酒の強さだけを感じて無理だと思うこともなく、まるで飲みやすくレモンなどが混じったカクテルのようにスッキリと飲み干すことができる。だからこそ、スッキリ飲み干してしまい、後で訳がわからなくなる。
言い得て妙だ、と朝哉は自分で思い、ニヤリとした。
「……なに笑ってんだ?」
「っぁえ?」
突然声がして、朝哉は思わず変な声が出た。振り返ると郭夜が微妙な顔をして近づいてきていた。
「おま……、緊急でもないのに合鍵軽率に使うなよな!」
すぐに郭夜が合鍵を使って入ってきたのだとわかり、朝哉は呆れたように郭夜を見る。
「こういう時に使わなくてなんのための合鍵だ」
「本当に急を要するようなときに使うためのものだよ……! つかかぐちゃん、アイツはまだやっぱいるの?」
「かぐちゃん言うなって言ってるだろ。出てくる時はテレビ観てたけど」
「ちげーよ! 今じゃなくて、まだ帰るとかなんも言ってねーの? ってこと」
「ああ」
朝哉が言っている意味がわかった、と郭夜が頷いてくる。なんていうか、やはり本当に自分のことが好きなのだろうかとつい思ってしまう。
「さあな」
「さーなって!」
「まあでも、なんとなくだけど近々帰るんじゃないか? そんな気がする」
「なんの根拠があって?」
「なんとなく」
「……」
朝哉がむぅ、と少し膨れた顔で郭夜を見ていると、郭夜がさらに近づいてきた。そして怪訝そうに見てくる。
「なに」
「なんで聞いてくるんだ?」
「え?」
質問の意味がよくわからなくて朝哉がポカンとしていると郭夜の手が伸びてきて頬をむに、っとつかんでくる。
「いてぇ!」
「あまり痛くないよう持ったつもりだけど」
「なんのためにっ?」
「いや、馬鹿みたいな顔をしてたから」
「ひでぇ。だって郭夜の言ってる意味わかんなかったんだもん」
「わからない? むしろ俺がわからない。お前は俺のこと、友だちとしか見られないんだろ。だったらなんでそこまで太一を気にするんだ?」
本当にわからないといった風に郭夜が見てくる。実際自分も今の今まで考えていたことだけに朝哉はグッと喉を詰まらせた。だが郭夜は答えを待っているかのように黙ったままじっと見てくる。
「……俺もよくわかんねーよ。友だちでもさ、あんじゃねえの? なんていうか親友だからさ、俺の知らないヤツがなんで俺の親友とそんな親しいんだ? みたいな感じ」
「ふーん」
朝哉の言葉に郭夜はどうでもよさそうに相槌を打ってきた。
「おい、お前の質問に答えたってのにその返事なんだよ」
「じゃあなんて言えばいい? そうなんだ、よくわかるよ、とでも?」
「ぅ。いや別にそういう訳じゃ……」
「じゃあどういう訳だ? だいたいお前はただの単純馬鹿でいればいいんだから深く考えんなよ」
困惑する朝哉に対して郭夜がため息をついてきた。
「は? どういう意味だよ!」
「俺が知らないヤツに取られるみたいで嫌だった、ってことだろ?」
「う、う……ん?」
簡単に言えばそうだな、と朝哉は頷く。
「それは俺が好きだからだろ?」
「と、友だちとしてな」
「じゃあ水橋に太一が抱き着いているの見てもお前は突っかかっていくの?」
言われて脳内に嵩音に抱き着く太一が浮かぶ。
そして「なにやってんのアイツら……」と微妙になるところも浮かぶ。
「微妙にはなる、かな。だって水橋がそもそも微妙なヤツだろ」
「じゃあ永尾には?」
梓に抱き着く太一。
「なにがあった、とか?」
「俺に抱き着く太一は?」
「……」
朝哉は黙りこんだ。なんだよ、とむすっとする。
だって親友だ。そして男だ。でも、その親友で男の郭夜と、もう何度か寝ている。
どう思えばいいかわからなくなってきて朝哉が俯くと、郭夜が両頬を手でつかみ、顔を上げさせてきた。
「いひゃい」
「ほんとお前は馬鹿。深く考えんなっつってんのに。……なあ、する?」
なにを、とは聞かなかった。朝哉はコクリと頷くと、自らぎゅっと郭夜に抱き着いた。
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