ニコラシカ

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8話

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「だったらどうしろって言うんだ? わかるよ、そうだな、じゃあ全部なかったということで友だちとしてこれからも仲良くしような、そう言えばいいのか」

 朝哉を見ながら、怒るでもなくむしろ冷めた調子で郭夜が聞いてきた。

「そ、そりゃそうできるならそれがいーけど、いくら俺だってそこまでは言わねーよ! でも……お前が友だちなのは事実だろ……。それがなかったことになんのは嫌だ」

 口を尖らせながら俯き加減で言うとため息が聞こえた。

「別に友だちだったことをなかったことにしろとは言ってない」
「じゃ、じゃあ」
「でも俺がお前を好きなのもやめろと言われてやめられるもんじゃない。わざと好きになったんじゃない。だから俺は俺の気持ちに素直になるだけだし、それに対してお前もお前が思うようにしてくれ」
「そ、そんなの平行線じゃん!」
「そうだな。でも友だちのままでいたいお前とその気になってもらいたい俺だとひたすら平行線かどちらかが諦めるしかないだろ」

 確かに、と朝哉はへたり込む。

「なら、俺は諦めようにも今のところ無理なんだからお前に対してその気になってもらおうとするに決まってるだろ」
「そんなん、俺だって男無理だし、友だちのままの付き合い続けるしか……」
「だろうな」
「え?」

 そこで肯定されるとは思わず、朝哉はポカンと郭夜を見た。

「お互い攻防戦ってとこか? だから最初に言っただろ、覚悟しろよって」

 郭夜がニヤリと笑ってくる。その表情が美形の癖に男前すぎて、朝哉はむしろムッとなる。

「くそ、なんだよそれ!」
「だって仕方ないだろ」

 笑みを浮かべたまま朝哉を引き寄せてくる郭夜に、途端警戒心が湧き起こる。微妙な顔をして引き離すとまたいつぞやのように「っち」と舌打ちが聞こえた。

「あーもう! だったら俺だって好き勝手するからな。ちゃんと言ったし! お前の『好き』はわかった、けど俺はお前を友だちとして見てる!」

 なんとか言い切ると何故かニッコリ微笑まれた。普段微笑む郭夜など滅多に見ることがなく、見た目が腹立たしい程美形なのもあって朝哉がポカンとしながら気を取られていると胸倉をつかまれ、そのままキスをされた。
 二度目……! と脳のどこかで妙に冷静に郭夜からされたキスを思いつつも、咄嗟すぎて反応できずにいると唇が離れる時にペロリと舐められる。

「……っ?」
「お前がそう言うなら俺も心置きなく好き勝手、する」

 仰け反るようにして離れるとニヤリと浮かべた笑みを今度は浮かべつつ郭夜が言ってくる。

「くそ! なんか腹立つ!」
「まあまあ。それより俺、まだ飲み足りないんだよな。ビールあるし、飲んでく? あ、でもアテは作ってくれたら助かるけど」

 その言葉に「飲むかよ!」と言い返したいところだったが、郭夜が言いながら冷蔵庫からビールを出してきたのを見て、誰かと飲むのが凄く好きな朝哉は少しだけならいいかという気分になり、頷いた。

「流され犬……」

 ぼそりとなにか言うのが聞こえてきたので「なんか言った?」と聞くも「いや。で、なんかアテ作れる?」と逆に郭夜に聞き返される。

「おー。簡単なもんならな」
「んじゃ頼む。俺ちょっと先にシャワー浴びてくる」
「は? おま、また俺に任せて……」
「だってあとは寝るだけとかのがゆっくり飲めるだろ」

 ムッとして言うとそう返され、確かに、と朝哉は頷いた。
 郭夜がシャワーを浴びている間に本当に簡単な酒のアテを用意した。なんとなく上手く丸め込まれたような気がするが、考えてみてもどこでそうなったかわからないし気のせいかもしれない。

「でさー、お前のせーでいつも俺、女の子に添え物扱いされてる気がすんだぞ」
「そうか」
「そーかじゃねーよ。つかかぐちゃん、もったいねーぞ」
「かぐちゃん言うな。なにが勿体ないんだ」

 グラスが空きそうになる前にすかさずビールをつぎ足しながら郭夜が聞いてくる。缶のままでいいと言ったのだが、缶は酔いが早くなるからとグラスで飲むのを勧められた。なるほどなと思ったが、グラスだと逆に自分がどれくらい飲んでいるかわからない。
 とりあえずふわふわした感じはするが今自分がなにを喋っているか把握しているので多分大丈夫なのだろうと朝哉は注がれたグラスの中身をごくごくと飲む。

「だってすげーモテる癖にそれに反応せずに俺だよ? おかしくね?」
「それは俺も不本意だ」
「不本意なのかよっ?」
「そりゃそうだろ。俺だって別に男が好きな訳じゃない。何度も言ってるが、自分でもなにがどう間違えてお前のこと好きになったのか未だにわからない」

 実際納得がいかないといった風に言われ、朝哉は口を尖らせる。

「そんなもん、俺がイけてるからじゃねーの」
「はは」
「んだよその乾いた笑いは!」
「煩いな、もうちょっと静かにしろよ」

 思い切り言い返すと煩いと頭をはたかれた。

「お前俺のこと好きなんでしょ」
「何度もそう言ってるだろ」
「んじゃなんで相変わらずこんな扱いなんだよ」
「それはお前が相変わらずバカだからだろ」
「いやいやいや、なにそれ」
「扱い、変わって欲しくないんじゃないの?」

 郭夜が笑みを浮かべながら静かに聞いてきた。そういえばそうだと朝哉はぼんやり思う。友だちのままがいいんだから、むしろ変わったら嫌なはずだ。

「……だよなー?」

 怪訝そうに首を傾げると郭夜がにじり寄ってきた。そして朝哉を引き寄せ、またキスをしてくる。今までは唇を軽く合わせるようなキスだったが、今度は思い切り重ねてきた。そのまま舌で上唇を軽く押してきて、朝哉は思わず口を開ける。するとスルリと舌が中に入ってきた。

「ん、ふ?」

 やめろと止めなければいけないはずなのだが、その舌が妙に気持ちよくて朝哉の体に一瞬入った力が抜ける。ゆっくりと中を蹂躙してくる舌は熱く、なんだか脳はその熱さと気持ちよさにばかり反応してしまい、後はよくわからなくなる。そのまま手が下肢に這ってきた。

「ん、ん」

 こんな積極的な彼女って今までいたっけ、とぼんやり思う。キスがとても上手いのと服の上から触れてくる感覚のせいで朝哉のそこは簡単に昂ってくる。

 ……あーくそ、なんだろ気持ちいいな。最近してないからこのまますげー突っ込みたい。

 そんなことさえ思えてきた。

「ちょー、ヤりたくなるから触んないで」

 ぼんやりとしつつもそう言うと「……ふーん?」という声が聞こえる。

「お前がするほうならできるってこと?」

 言われていることがよくわからないがなんとなくそうだろうなという気がして「よくわかんねーけど、多分? うん」と頷くと乾いた笑い声が聞こえた。

「なんかおかしいこと言った?」
「……いや、まあ、な。お前、ほんと外で酒飲むな」
「なんでだよ……、つかマジあんま触んねーで。やべーから」
「やばい? ならむしろ触るけど」

 低い声が耳元でじわりと響いてきた。
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