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想像する虎
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颯一がどういう流れかわからないが、部屋で友悠に対してアレなことを聞いていた。当然、いてもたってもいられない。まだいくつか忍ばせている盗聴器から聞こえてきた声を拾った渉はすぐさま颯一たちの部屋へ押しかけた。
最近は色々と調べていることがあるため、残念ながら渉は颯一に構えていない。ただ颯一に気持ちを打ち明けた友悠が、しっかり颯一を危険な輩から今まで以上に守ってくれているみたいなので、つまらないながらもよしとしていた。
調べ物は大して進んでいない。颯一が寮の裏庭で出くわした生徒たちが気になるが、後で渉が颯一にそれとなく聞いてみても「顔もはっきり見てないからわからない」と言われた。隣のクラスだと、話しかけてきた生徒は言ったらしい。だがそれも本当に隣のクラスなのか出まかせなのかすらわからない。颯一と本当に仲よくなりたいなら嘘つく必要もないだろうが、名前すら名乗っていないのだ。どう考えても不審でしかない。
せめて颯一がその生徒の顔を覚えていてくれればと思ったが、颯一にそんなこと期待するのは間違っていると心底理解している。なので一旦その生徒たちは脳の片隅に置いておくことにしていた。
被害に遭った生徒が名乗り出てくれれば話が早いが、薬を実際に楽しんだ生徒はもちろんのこと、無理やり飲まされ襲われた生徒が気軽に名乗ってくれるはずもない。
先ほども初夏に行われた身体測定の際に提出した尿を再度調べることはできないかと思い、ダメ元で親に連絡を取っていたのだった。当然予想通り答えは「否」。
特に尿検査はその時すぐに調べるため、使った尿は即座に処分されているし検査は当たり前だが一般検査だ。蛋白や糖、PHや血液反応を調べるだけであり、そこから麻薬反応がわかるわけなかった。
まあそうだろうなと思いつつため息ついている時に、渉は颯一の声に気づいたのだった。
「いきなりであろうが何であろうが気にするな。とりあえずそうちゃん、友人に変なこと言うなよ」
「気になるわ……! っていうか変なことって……何だよ……」
ドン引きしたままの颯一が、だがおずおず聞いてくる。友悠は顔を引きつらせているが、今回に限っては渉の乱入をどこかホッとしたように思っている様子だ。
「一人でするのはまあ健全な青少年なら何らおかしくないぞ」
「……ぅ。わ、わかってるよ。別にともがトイレで抜いてようが風呂で抜いてようが気にしねえよ俺だって!」
颯一は顔を赤らめながらムッとしたように言ってくる。友悠はそれを聞いてとてつもなく微妙な顔をし、顔を覆った。
内容に気を取られたのか、渉がいきなり入ってきたことにも、その前に颯一が友悠に言っていた話を知っていることにも、颯一は気にしていない様子だ。これだからかわいいと思いつつ、渉は「それならあまり聞かなくても」と指摘した。
「だ、だって。とも、そんなそぶり見せなかったし……。もしかしたらともはしてないのかな、て……」
おずおず言ってくる姿がまたかわいらしい。
その様子に加え、内容に関して友悠はうっとなっているようだ。
「……そうちゃん。そりゃいちいち宣言してすることじゃないだろう……? いくら俺でも同居人にそんな宣言、しないぞ」
「そ、そうだよな。はは……。ていうか渉もすんのか、やっぱ……」
「それはどういう意味だ」
「いや、だってお前、何かほら、ここでも誰かと関係もったことあるって言ってたし……それにモテてんだろ。別に自分でしなくてもさ」
颯一が言ってくるのを聞き、渉は軽く憤慨した。
「そうちゃん、馬鹿にするな」
「は?」
「そりゃ今まではそういうこともしたことあるが、俺はそうちゃんが好きだと言っているんだぞ。好きな相手がここにいるのに、別の誰かとそんな関係を持つわけなかろう」
言っていることはけっこうイケメンだ。しかし颯一は引いたように渉を見てきた。ついでに友悠は色んな意味でまた微妙な顔をしている。
「もちろん愛するそうちゃんとは、ちゃんと結婚してからしたい。だが俺も男だからな。どうしても処理せざるを得なくなる。その時はそうちゃんには申し訳ないが想像はそうちゃんで……」
「あああああもう! そんなの言わなくていい! 死ね! 馬鹿! キモい!」
「照れるそうちゃんもかわいいぞ。だがいくら俺でも内容まではそうちゃんに言えないけどな。まだそうちゃんにそれは早……」
「言うな! 寧ろ聞きたくねえよ……! そして俺は照れてねえしお前こそ照れながら言うなよぉぉぉ」
もはや今にも泣きそうな勢いで首を振りつつ颯一はドン引きしている。
「馬見塚さん……」
友悠も同じように引きつつも、ある意味尊敬すら感じられそうな表情をしている。
「お前絶対おかしいよ。だいたい何で俺を想像して抜けんだよ……。おかしい、絶対おかしいだろ!」
颯一は更に叫ぶと自分の机を漁り出した。
「ほら! こういうの見て何とも思わねえのか? こーゆーのでしろよ! 俺をおかずにするな! マジで……!」
見つけた何やら雑誌を颯一は持ってきて渉に差し出してきた。渉と友悠はその雑誌を見て内心軽く驚く。
……持っているんだ……!
その雑誌の表紙は普通にかわいいグラビアアイドルの写真だったが、中身は奇抜なデザインの水着や下着姿のグラビアアイドルが色んなポーズをとっている雑誌だった。それほど卑猥でもないだけに、むしろ想像力をかき立てられそうな内容だ。これを見て興奮し抜いている颯一を想像してしまわないよう、渉は早々に雑誌から目を離した。新しいおかずとして温存しておきたい。
「え、何か意外な反応だな」
目を逸らした渉に颯一がポカンとして見てくる。どうやら勘違いをしているようだ。
「まさか渉がこーゆーの見て照れるとは思わなかったけど……でもほら! 普通こーゆーの見て抜くんだろ? お前も俺じゃなくてこーゆーのでしろよ!」
「……っやはりこれを見てそうちゃんは……そうちゃんはっ……っぐ、ぅ。……痛いじゃないか」
すぐさま入ってきたボディーブローに渉は腹を押さえる。ただ、痛みのおかげで気も逸れてよかったとは言える。
「キモい! もーほんっとお前……! とも、何とかしてくれよ」
「……ぅ。俺に……振らないでくれ……」
「そうだぞ、そうちゃん。友人だって涼しい顔をしているが、今ので絶対に俺と同じような……」
「馬見塚さんほんっと止めてください……!」
渉が言いかけると友悠が青い顔をして抗議してくる。
「……とももまさか俺で……?」
「っい、いや! その、俺はその、ちゃ、ちゃんと愛用のその、雑誌とか! その……!」
引いたように聞いてくる颯一に、友悠が明らかに不審な様子で否定している。
コイツ絶対すでにそうちゃんで抜いているな。
渉はそう思ったものの、颯一は「何だ、そっか」と納得している。自分と友悠に対する態度が本当に違うよなと、さすが渉が微妙に思っていると、颯一が呟いてきた。
「……じゃあでもやっぱともも、雑誌とか見ながらしてるんだ……」
その言い方がどことなく元気なさそうで、渉も友悠も怪訝そうに颯一を見た。
「……えっと……どういう、意味?」
「……俺……。……渉とともならいいか……。馬鹿にしねぇよ、な……?」
「一体何の話だ」
「俺……その……抜き方わかんない」
一瞬颯一が何を言っているのかわからなかった渉と友悠だが、次の瞬間二人とも赤くなって目を逸らす。
「俺が教えてやる」
そんなセリフが二人の頭を過る。だが必死になってそんな妄想を押しやると「まあそういうヤツもいる」「別に無理してすることでもないよ」などと取り繕うかのように言って颯一に笑いかける。
「そ、そうかな」
「そうだよ、気にすることないよ」
「問題ないぞ、そうちゃん。どのみちいずれ俺が初夜に……っごふ……! だから痛いんだが……」
「痛くしたんだよ! ったくお前はほんっともう……。……でも、よかった」
またドン引きしながらもボディーブローを食らわしてきた颯一が、だがその後にニッコリ笑う。それを見て渉は「おかずが大量にできた」とこっそり微笑んだ。
最近は色々と調べていることがあるため、残念ながら渉は颯一に構えていない。ただ颯一に気持ちを打ち明けた友悠が、しっかり颯一を危険な輩から今まで以上に守ってくれているみたいなので、つまらないながらもよしとしていた。
調べ物は大して進んでいない。颯一が寮の裏庭で出くわした生徒たちが気になるが、後で渉が颯一にそれとなく聞いてみても「顔もはっきり見てないからわからない」と言われた。隣のクラスだと、話しかけてきた生徒は言ったらしい。だがそれも本当に隣のクラスなのか出まかせなのかすらわからない。颯一と本当に仲よくなりたいなら嘘つく必要もないだろうが、名前すら名乗っていないのだ。どう考えても不審でしかない。
せめて颯一がその生徒の顔を覚えていてくれればと思ったが、颯一にそんなこと期待するのは間違っていると心底理解している。なので一旦その生徒たちは脳の片隅に置いておくことにしていた。
被害に遭った生徒が名乗り出てくれれば話が早いが、薬を実際に楽しんだ生徒はもちろんのこと、無理やり飲まされ襲われた生徒が気軽に名乗ってくれるはずもない。
先ほども初夏に行われた身体測定の際に提出した尿を再度調べることはできないかと思い、ダメ元で親に連絡を取っていたのだった。当然予想通り答えは「否」。
特に尿検査はその時すぐに調べるため、使った尿は即座に処分されているし検査は当たり前だが一般検査だ。蛋白や糖、PHや血液反応を調べるだけであり、そこから麻薬反応がわかるわけなかった。
まあそうだろうなと思いつつため息ついている時に、渉は颯一の声に気づいたのだった。
「いきなりであろうが何であろうが気にするな。とりあえずそうちゃん、友人に変なこと言うなよ」
「気になるわ……! っていうか変なことって……何だよ……」
ドン引きしたままの颯一が、だがおずおず聞いてくる。友悠は顔を引きつらせているが、今回に限っては渉の乱入をどこかホッとしたように思っている様子だ。
「一人でするのはまあ健全な青少年なら何らおかしくないぞ」
「……ぅ。わ、わかってるよ。別にともがトイレで抜いてようが風呂で抜いてようが気にしねえよ俺だって!」
颯一は顔を赤らめながらムッとしたように言ってくる。友悠はそれを聞いてとてつもなく微妙な顔をし、顔を覆った。
内容に気を取られたのか、渉がいきなり入ってきたことにも、その前に颯一が友悠に言っていた話を知っていることにも、颯一は気にしていない様子だ。これだからかわいいと思いつつ、渉は「それならあまり聞かなくても」と指摘した。
「だ、だって。とも、そんなそぶり見せなかったし……。もしかしたらともはしてないのかな、て……」
おずおず言ってくる姿がまたかわいらしい。
その様子に加え、内容に関して友悠はうっとなっているようだ。
「……そうちゃん。そりゃいちいち宣言してすることじゃないだろう……? いくら俺でも同居人にそんな宣言、しないぞ」
「そ、そうだよな。はは……。ていうか渉もすんのか、やっぱ……」
「それはどういう意味だ」
「いや、だってお前、何かほら、ここでも誰かと関係もったことあるって言ってたし……それにモテてんだろ。別に自分でしなくてもさ」
颯一が言ってくるのを聞き、渉は軽く憤慨した。
「そうちゃん、馬鹿にするな」
「は?」
「そりゃ今まではそういうこともしたことあるが、俺はそうちゃんが好きだと言っているんだぞ。好きな相手がここにいるのに、別の誰かとそんな関係を持つわけなかろう」
言っていることはけっこうイケメンだ。しかし颯一は引いたように渉を見てきた。ついでに友悠は色んな意味でまた微妙な顔をしている。
「もちろん愛するそうちゃんとは、ちゃんと結婚してからしたい。だが俺も男だからな。どうしても処理せざるを得なくなる。その時はそうちゃんには申し訳ないが想像はそうちゃんで……」
「あああああもう! そんなの言わなくていい! 死ね! 馬鹿! キモい!」
「照れるそうちゃんもかわいいぞ。だがいくら俺でも内容まではそうちゃんに言えないけどな。まだそうちゃんにそれは早……」
「言うな! 寧ろ聞きたくねえよ……! そして俺は照れてねえしお前こそ照れながら言うなよぉぉぉ」
もはや今にも泣きそうな勢いで首を振りつつ颯一はドン引きしている。
「馬見塚さん……」
友悠も同じように引きつつも、ある意味尊敬すら感じられそうな表情をしている。
「お前絶対おかしいよ。だいたい何で俺を想像して抜けんだよ……。おかしい、絶対おかしいだろ!」
颯一は更に叫ぶと自分の机を漁り出した。
「ほら! こういうの見て何とも思わねえのか? こーゆーのでしろよ! 俺をおかずにするな! マジで……!」
見つけた何やら雑誌を颯一は持ってきて渉に差し出してきた。渉と友悠はその雑誌を見て内心軽く驚く。
……持っているんだ……!
その雑誌の表紙は普通にかわいいグラビアアイドルの写真だったが、中身は奇抜なデザインの水着や下着姿のグラビアアイドルが色んなポーズをとっている雑誌だった。それほど卑猥でもないだけに、むしろ想像力をかき立てられそうな内容だ。これを見て興奮し抜いている颯一を想像してしまわないよう、渉は早々に雑誌から目を離した。新しいおかずとして温存しておきたい。
「え、何か意外な反応だな」
目を逸らした渉に颯一がポカンとして見てくる。どうやら勘違いをしているようだ。
「まさか渉がこーゆーの見て照れるとは思わなかったけど……でもほら! 普通こーゆーの見て抜くんだろ? お前も俺じゃなくてこーゆーのでしろよ!」
「……っやはりこれを見てそうちゃんは……そうちゃんはっ……っぐ、ぅ。……痛いじゃないか」
すぐさま入ってきたボディーブローに渉は腹を押さえる。ただ、痛みのおかげで気も逸れてよかったとは言える。
「キモい! もーほんっとお前……! とも、何とかしてくれよ」
「……ぅ。俺に……振らないでくれ……」
「そうだぞ、そうちゃん。友人だって涼しい顔をしているが、今ので絶対に俺と同じような……」
「馬見塚さんほんっと止めてください……!」
渉が言いかけると友悠が青い顔をして抗議してくる。
「……とももまさか俺で……?」
「っい、いや! その、俺はその、ちゃ、ちゃんと愛用のその、雑誌とか! その……!」
引いたように聞いてくる颯一に、友悠が明らかに不審な様子で否定している。
コイツ絶対すでにそうちゃんで抜いているな。
渉はそう思ったものの、颯一は「何だ、そっか」と納得している。自分と友悠に対する態度が本当に違うよなと、さすが渉が微妙に思っていると、颯一が呟いてきた。
「……じゃあでもやっぱともも、雑誌とか見ながらしてるんだ……」
その言い方がどことなく元気なさそうで、渉も友悠も怪訝そうに颯一を見た。
「……えっと……どういう、意味?」
「……俺……。……渉とともならいいか……。馬鹿にしねぇよ、な……?」
「一体何の話だ」
「俺……その……抜き方わかんない」
一瞬颯一が何を言っているのかわからなかった渉と友悠だが、次の瞬間二人とも赤くなって目を逸らす。
「俺が教えてやる」
そんなセリフが二人の頭を過る。だが必死になってそんな妄想を押しやると「まあそういうヤツもいる」「別に無理してすることでもないよ」などと取り繕うかのように言って颯一に笑いかける。
「そ、そうかな」
「そうだよ、気にすることないよ」
「問題ないぞ、そうちゃん。どのみちいずれ俺が初夜に……っごふ……! だから痛いんだが……」
「痛くしたんだよ! ったくお前はほんっともう……。……でも、よかった」
またドン引きしながらもボディーブローを食らわしてきた颯一が、だがその後にニッコリ笑う。それを見て渉は「おかずが大量にできた」とこっそり微笑んだ。
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