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10話
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翌日、同じクラスである大胡は瑠衣を見るなり駆け寄ってきた。
「お前具合大丈夫か?」
「……ああ」
昨日七瀬が帰った後に約束通り大胡に電話したものの、瑠衣は混乱も収まらないままな上にとてつもなく居たたまれなかった。切ると言われて同意すると同時に射精もしていて、そのことに対して大胡が何か気づいたかどうか知らないまま七瀬が電話を切っていたからでもある。
幸い大胡はわかっていなかったようだが『さっきマジ何だったの』とは聞かれた。
「えっと……悪い」
『いや謝らなくていいけど……モルダー、あなた疲れてるのよ』
「俺は瑠衣だけど」
『だからガチで返すのやめて。ほんと何だったんだよ』
言えるか。
「ちょっと急にかかってきてついシャワーしながら出てしまったのと、あとちょっと具合悪かった」
『マジかよ。大丈夫なんか? そいや今も元気なさそうだな。練習試合の話はまた改めてでいいわ。無理して話すことでもねーしな』
「悪い、ありがとう大胡」
『いいよ。寝とけ』
「うん」
そんな会話を交わしての今日だ。心配してくれるのは嬉しいし今もなおバレていないことに心底ホッとするが、やはりまだ少々居たたまれない。
クソ……五十島め。
七瀬は瑠衣が達した後、瑠衣を放置して風呂場を出ていってしまった。瑠衣は呆然としつつも、ようやく色々なものを流す気持ちで自分の出したものをシャワーで綺麗に流し、風呂を出た。七瀬について考えがまとまらないまま服を着てリビングへ向かうとその七瀬がいる。
「おま……帰ったんじゃ」
「トイレ行ってた」
「は?」
聞き流す前にどういう意味かわかって顔が引きつる。だが人の家で抜くなとか、一体何を思って抜いたんだとか、そんなことよりも何よりもとりあえず腹立たしさが一番に来て瑠衣は七瀬に駆け寄るようにして胸倉をつかんでいた。
「お前何考えてんだよ。何だよさっきの! 俺がいいとこ邪魔した仕返しかっ? 悪質すぎるだろ……!」
「……邪魔? 何の話」
「はあ? お前部屋で女子二人と……」
「あー……あいつら? 勝手についてきたんだよ。確かに迫ってきたけどどうせ俺、勃たないし断んのもいちいち面倒だから放っておいただけ」
「面倒ってお前、だいた……え? 何て?」
「何が」
「え、あ、いや、え? だって勃たないって」
「勃たないよ」
「んん?」
瑠衣は先ほどの状況を思い浮かべた。思い出したくもないものの、不可解なため仕方ない。そしてやっぱり背後にいた七瀬のそこが硬くなっていたことを思い出す。そもそもその後瑠衣を放置してトイレに行っていたのも尿意をもよおしたからではないはずだ。
「いや、だってお前……その、さっきは……」
「……ねえ、何で赤くなんの」
「は? あ? ああ、いやだってそれはだってそりゃ普通なるだろ! せ、センシティブなことだし!」
「……」
いつも瑠衣を素通りし避けていた七瀬がじっと見てくる。あり得なさ過ぎてまた混乱してきた。
「だ、だいたい勃たないって、お前さっき俺がお前の部屋まで行った時すごい機嫌悪そうだっただろ。さっさと帰れと言わんばかりに。やる気に満ち溢れてたんじゃないのか」
「そりゃ……お前にああいう肉食な生き物近づけたくなかったし」
「は?」
「それにあいつら見てお前、赤くなってたから機嫌も悪くなる」
それはどっちに対してだと思いつつ、混乱中で考えがまとまらないままの瑠衣はとりあえず何より聞きたい事を聞くべきだと自分に言い聞かせた。
「つか、仕返しとかじゃないならほんとさっきのあれ、何だよ! わざわざお前何しに来たんだよ」
「……赤い顔したお前の何とも言えない表情に、どうしようもなくなった」
「はい?」
先ほどから何か聞くたびに七瀬は一応ちゃんと答えてくるのだが、それのどれをとってもいまいちわからなくて混乱が収まらない。とりあえずまた口を開こうとしたところで玄関が開く音がして「瑠衣、帰ってるの」と母親の声がした。すると七瀬は瑠衣を一瞥した後何も言わずその場から離れ、玄関の方へ歩いていく。
「あれ、七瀬くんじゃない。久しぶり。聞いてたとおりほんと派手な色ねえ。学校、怒られないの」
「大丈夫です」
とりとめのないやり取りが聞こえたかと思うと、七瀬はそのまま帰ったようだった。
それもあって後で大胡に電話した時も混乱中のままだった。
「具合まだ悪いようなら今日部活休めよ」
「もう大丈夫だから」
「でもまだ何かちょっと変な感じだぞお前」
ちなみに七瀬は今日、ちゃんと登校してきていた。担任教師にもプリントを渡したようだ。おまけに瑠衣に対してあんなことなど何もなかったかのように普通に話しかけてきた。
いや、違うだろ……。
普通じゃない。普通のはずがない。今までずっと避けられていたのだ。中学のあの時以来、ほぼ口を利いたことがなかった。
それもあって瑠衣はますます気になって仕方ない。変に意識などしたくないのだがあんなことをされた上によくわからないやり取りしかしていないのではどうしようもない。話しかけられても挙動不審になりかねない勢いだ。
しかも今日になって気づいたのだが、七瀬の携帯番号やSNSのIDなどが勝手に登録されていた。いつの間に、と思ったが間違いなく携帯電話を弄られた時か風呂を出た後だろう。
そして今気づいたが、されたことはさておき、避けられるようになってから一番長くやり取りをした上に今日に至っては普通に話しかけられたというのに、結局瑠衣はあの時のことをまだ謝れていない。
……いや、謝る状況じゃなかっただろ……。
微妙な気持ちになりながら、瑠衣はそっとため息をついた。
「お前具合大丈夫か?」
「……ああ」
昨日七瀬が帰った後に約束通り大胡に電話したものの、瑠衣は混乱も収まらないままな上にとてつもなく居たたまれなかった。切ると言われて同意すると同時に射精もしていて、そのことに対して大胡が何か気づいたかどうか知らないまま七瀬が電話を切っていたからでもある。
幸い大胡はわかっていなかったようだが『さっきマジ何だったの』とは聞かれた。
「えっと……悪い」
『いや謝らなくていいけど……モルダー、あなた疲れてるのよ』
「俺は瑠衣だけど」
『だからガチで返すのやめて。ほんと何だったんだよ』
言えるか。
「ちょっと急にかかってきてついシャワーしながら出てしまったのと、あとちょっと具合悪かった」
『マジかよ。大丈夫なんか? そいや今も元気なさそうだな。練習試合の話はまた改めてでいいわ。無理して話すことでもねーしな』
「悪い、ありがとう大胡」
『いいよ。寝とけ』
「うん」
そんな会話を交わしての今日だ。心配してくれるのは嬉しいし今もなおバレていないことに心底ホッとするが、やはりまだ少々居たたまれない。
クソ……五十島め。
七瀬は瑠衣が達した後、瑠衣を放置して風呂場を出ていってしまった。瑠衣は呆然としつつも、ようやく色々なものを流す気持ちで自分の出したものをシャワーで綺麗に流し、風呂を出た。七瀬について考えがまとまらないまま服を着てリビングへ向かうとその七瀬がいる。
「おま……帰ったんじゃ」
「トイレ行ってた」
「は?」
聞き流す前にどういう意味かわかって顔が引きつる。だが人の家で抜くなとか、一体何を思って抜いたんだとか、そんなことよりも何よりもとりあえず腹立たしさが一番に来て瑠衣は七瀬に駆け寄るようにして胸倉をつかんでいた。
「お前何考えてんだよ。何だよさっきの! 俺がいいとこ邪魔した仕返しかっ? 悪質すぎるだろ……!」
「……邪魔? 何の話」
「はあ? お前部屋で女子二人と……」
「あー……あいつら? 勝手についてきたんだよ。確かに迫ってきたけどどうせ俺、勃たないし断んのもいちいち面倒だから放っておいただけ」
「面倒ってお前、だいた……え? 何て?」
「何が」
「え、あ、いや、え? だって勃たないって」
「勃たないよ」
「んん?」
瑠衣は先ほどの状況を思い浮かべた。思い出したくもないものの、不可解なため仕方ない。そしてやっぱり背後にいた七瀬のそこが硬くなっていたことを思い出す。そもそもその後瑠衣を放置してトイレに行っていたのも尿意をもよおしたからではないはずだ。
「いや、だってお前……その、さっきは……」
「……ねえ、何で赤くなんの」
「は? あ? ああ、いやだってそれはだってそりゃ普通なるだろ! せ、センシティブなことだし!」
「……」
いつも瑠衣を素通りし避けていた七瀬がじっと見てくる。あり得なさ過ぎてまた混乱してきた。
「だ、だいたい勃たないって、お前さっき俺がお前の部屋まで行った時すごい機嫌悪そうだっただろ。さっさと帰れと言わんばかりに。やる気に満ち溢れてたんじゃないのか」
「そりゃ……お前にああいう肉食な生き物近づけたくなかったし」
「は?」
「それにあいつら見てお前、赤くなってたから機嫌も悪くなる」
それはどっちに対してだと思いつつ、混乱中で考えがまとまらないままの瑠衣はとりあえず何より聞きたい事を聞くべきだと自分に言い聞かせた。
「つか、仕返しとかじゃないならほんとさっきのあれ、何だよ! わざわざお前何しに来たんだよ」
「……赤い顔したお前の何とも言えない表情に、どうしようもなくなった」
「はい?」
先ほどから何か聞くたびに七瀬は一応ちゃんと答えてくるのだが、それのどれをとってもいまいちわからなくて混乱が収まらない。とりあえずまた口を開こうとしたところで玄関が開く音がして「瑠衣、帰ってるの」と母親の声がした。すると七瀬は瑠衣を一瞥した後何も言わずその場から離れ、玄関の方へ歩いていく。
「あれ、七瀬くんじゃない。久しぶり。聞いてたとおりほんと派手な色ねえ。学校、怒られないの」
「大丈夫です」
とりとめのないやり取りが聞こえたかと思うと、七瀬はそのまま帰ったようだった。
それもあって後で大胡に電話した時も混乱中のままだった。
「具合まだ悪いようなら今日部活休めよ」
「もう大丈夫だから」
「でもまだ何かちょっと変な感じだぞお前」
ちなみに七瀬は今日、ちゃんと登校してきていた。担任教師にもプリントを渡したようだ。おまけに瑠衣に対してあんなことなど何もなかったかのように普通に話しかけてきた。
いや、違うだろ……。
普通じゃない。普通のはずがない。今までずっと避けられていたのだ。中学のあの時以来、ほぼ口を利いたことがなかった。
それもあって瑠衣はますます気になって仕方ない。変に意識などしたくないのだがあんなことをされた上によくわからないやり取りしかしていないのではどうしようもない。話しかけられても挙動不審になりかねない勢いだ。
しかも今日になって気づいたのだが、七瀬の携帯番号やSNSのIDなどが勝手に登録されていた。いつの間に、と思ったが間違いなく携帯電話を弄られた時か風呂を出た後だろう。
そして今気づいたが、されたことはさておき、避けられるようになってから一番長くやり取りをした上に今日に至っては普通に話しかけられたというのに、結局瑠衣はあの時のことをまだ謝れていない。
……いや、謝る状況じゃなかっただろ……。
微妙な気持ちになりながら、瑠衣はそっとため息をついた。
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