不良兄と秀才弟

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13話 ※

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 総司は可愛い。

 幾斗はまたキスをしながら思った。

 本当に馬鹿で。

 もちろん最初から馬鹿だから好きだと思っていたわけではないし、馬鹿じゃなくても大切な存在だがと思いながらキスを唇から首筋へと移していく。
 男で双子で、と違和感を覚えるのは本当なら当然だと幾斗も理解している。男同士というだけならまだしも、近親相姦は明らかに禁忌だろう。それ自体を罰する法律はないものの倫理的に認める人のほうが少ないであろうことは幾斗もわかっている。だから総司が違和感を感じているのももっともなことだとわかっていて、はぐらかした上で納得させた。

 ……悪いな、総司。

 いや、正直なところ悪いとは少しも思っていないけれども。総司が手に入るなら罪悪感なんて何一つない。とはいえ弄って楽しむ以外では、総司自身に危害をくわえたいわけではないし怯えさせたいわけでも不快にさせたいわけでもない。だから言い包め、そしてこうして優しく快楽を味わわせる。

「っぁ……んっ」

 ほぼ自称とも言っていい総番長は快楽に弱い。寝間着として着ているTシャツを捲りあげ、乳首に指や唇を這わせるだけでビクリと体を震わせ、不良ぶっているとは思えないような声を出す。
 最初から感じていたらしい乳首は、日を重ねるごとにますます敏感になっているようだ。本当に弄りがいがある。ただしその分心配でもある。

「お前は俺以外に触れさせるなよ、総番長だもんなあ?」
「ぅ、あ……。……る、せえ、んなこと、言われなくったって、わかってんだ、よっ」

 荒い息の間から洩れる悪態のような同意を聞いて幾斗はそっと微笑む。最初の頃は「他のやつに触らせるな」と言うと「他って誰」などと答えていた総司だが、今は当たり前だろといった風に言い返してくる。

 本当に、馬鹿で可愛い。

 そのまま舌や唇で乳首を愛撫しているとぷくりと腫れてきた。それを優しく吸いつつ、幾斗は下も脱がせていく。

「ま、たすん、の?」

 先程まで落ち着かなかった原因でもある行為だけに総司がそわそわとしながら聞いてくる。

「慣れたらお前も落ち着かなくなることもなくなるだろうよ。俺に委ねてろ。すぐぐっすり眠れるようになる」
「そ、うなのか」

 馬鹿可愛い。

 幾斗は何度も思いつつ、総司のペニスに触れると既にもう硬くなっていた。先も濡れている。

「もう濡れてるぞ」
「……るせえ」

 ムッとしたように言い返してきたが、赤くなっている。馬鹿でもこういうのは恥ずかしいんだろうなと幾斗はまたそっと笑った。
 裏筋などにすっと指を這わせるだけで総司のものはピクリと反応している。本当に敏感だよなと感心しながらも、もう少し先にしようと思っていたことをやってみる気になってきた。
 総司の唇にまたキスをし、片方の手で乳首を愛撫しながらとりあえず総司のペニスの先を弄った。するとさらにじわじわと滲みでて幾斗の手を濡らしてくる。そのまま暫く弄っているとペニスに伝うくらい溢れてきた。
 それをたっぷり指につけ、もっと下へと指を這わせていく。蟻の門渡りといわれている部分に指をゆるゆると這わせるとキスしている合間から息に混じって声が漏れ聞こえてくる。
 何度も先走り汁で濡らしては這わせるのを繰り返しているとそれは肛門の辺りどころかシーツに垂れるほどになってきた。総司はなにをされるのかわからないからか、これも教えてもらっている流れだと思っているからか、抵抗はしてこない。
 いや、気持ちいいからかもしれないと幾斗はさらに口内へ舌を這わせながら、指を今度は肛門の辺りに持って行きゆっくりと穴付近を撫でていく。

「ん、ん……ぅ」

 緊張さえなければ、そして総司ほど快楽に弱いなら大丈夫だろうかと考えていたが、実際大丈夫のようだ。ただその指をゆっくりと穴の中に入れようとすると、途端に体をすこし強張らせてきた。

「総司、大丈夫だ。俺がお前にこういうことで痛い思い、させたか?」

 キスの合間に囁くと総司は少し考えた後で小さく頭を振ってきたのがわかった。実際勉強を教えている時や総司がどうしようもない馬鹿をやった時に頭を殴ったりすることはあるが、快楽を与えてる時にはこれ以上ないほど優しく接している。それを総司もわかっているのか、途端に体がリラックスしたのがわかった。馬鹿だけど素直だよなと幾斗は思う。
 またキスや胸への愛撫を続けながら、幾斗はゆっくりと肛門の入口近くを指で解していった。少し入れただけでその付近を弄っていると、総司の息がだんだん上がってきた。吐息のような喘ぎ声がキスの合間に漏れる。
 さらにもっと指を深く入れたいところだが、今日はこれくらいにしようと幾斗は胸を弄っていた手を総司のペニスにやった。

「っひ、ぁ……」

 肛門を弄りながら扱くと、初めて扱いた時より早く、総司は達してしまった。

 ……素質、ありすぎ。

 内心嬉しげに思いつつも最後にもう一度唇に優しくキスをしてから下半身を綺麗に拭いていく。

「……お前、ベッドで一緒に寝ろよ。ベッド広いから」

 達して案の定うとうとしだした総司の体を、だが幾斗は起こした。

「なんで。狭いだろ」
「だから広いっつってんだろ。シーツ濡れてんだよ、お前ので。別に気持ち悪くなかったら好きにしろよ」

 そう言った途端、総司は赤くなって黙ったまま素直に自ら幾斗のベッドに移動しだした。そしてコロリと転がると、あっというまに寝息が聞こえてきた。

「……単純馬鹿」

 幾斗は呆れたようにため息をついた後でそっと微笑む。自分もベッドに入り込むと、馬鹿みたいに既に寝入っている総司を抱えるようにして横になった。
 小さな頃一緒に寝ていた時のことを思い出す。だがあの時はただ純粋に仲よしの兄が大好きだと思っていたが、今は不純な気持ちしかない。
 抱きしめる総司の感触を楽しみながらゆっくり深呼吸をした。本当はもうこのまま全て奪ってしまいたいとも思う。しかし、それはしない。
 幾斗はまた静かに微笑んだ。大切で大事だからこそ、こうして今までもずっと機会を窺ってきたし、その機会がやってきてもゆっくりゆっくりと進めている。というかこの過程ですら、楽しくて仕方がない。

 好きで大切ならそれこそ兄という存在に対して配慮するべきだと普通なら思うのだろうか?
 双子の兄に対して悩み苦しみつつも諦めるのこそが大事にしている気持ちなのだろうか?

 幾斗はさらに総司を抱き寄せた。

 そんなこと、知ったこっちゃない。

 翌日、幾斗はなにもなかったかのように、中々起きない総司を叩き起こした。総司も別段変わらないようだったが、自分用に敷かれた布団を見て顔を多少引きつらせながら「あれ、どうすんだよ」と聞いてきた。

「どうって、もう洗濯しに行ったけど」
「マジで? はえぇな」

 その後朝食の席で梨華と一緒になり、総司は最大限にテンションを上げていた。

「リカちゃんおはよ!」
「おはよ」

 チラリと総司を見た梨華は事務的に挨拶を返している。普段から幾斗に対しても淡々としている梨華はそれが性格のようだ。それに対し総司は飛びかかりかねない勢いで「朝から可愛いね」「何食ってんの」「一緒に登校しようよ!」などと嬉しそうにまくしたてている。
 梨華がイライラと幾斗を見てきた。その「これどうにかしてよ」という視線に対し言うことを聞くのも癪だが、幾斗自身どうにかしたいのでため息をついて無言で総司の耳をひっぱり「行くぞ」とダイニングから連れ出そうとした。

「っいてぇ! っちょ、待てよ! リカちゃんと話してんだよ! つか俺まだメシ食ってねえ……!」
「朝から煩いし普通にそれ梨華に嫌われるだけだろ。飯は行く途中でパン買ってやる」
「マジで? そんだらスペシャルクリームパンとベリーデニッシュとシナモンロールとクリームたっぷりブリオッシュと……」
「やかましい。お前それ覚えられんだったら数式覚えられるだろうが……!」
「算数は甘くねえだろがっ」
「せめて数学って言え、馬鹿が」

 結局小さいチョコレートも買わされた。

 このお返しは次の時にさせてもらう。

 幾斗は呆れたようにため息をつきつつも、またそっと小さく微笑んだ。
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