不良兄と秀才弟

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8話

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 最初はかなりポカンとしていた総司だが、単純なのか深く考えないからなのか、すぐに幾斗のやることに疑問をみせてこなくなった。
 ちなみに本当なら幾斗としては総司と梨華が鉢合わせする可能性をことごとくつぶしてしまいたいので、総司に来させるよりは自分が総司の家に行きたいところだ。あちらの家の方が広いし総司の部屋もかなり広い。だが幾斗の元父親である総司の父親は、我が子可愛さあまり突然部屋に入ってきかねない。微妙なことに幾斗のことも大好きらしく、幾斗を見れば「久しぶりだな」と抱きついてこようとする。うざいと引き離そうとすれば、性格が元妻にそっくりだとさらに抱きついてくるのでたちが悪い。どのみち鉢合わせしても梨華自身はあれほど散々総司に好きだ云々言われても全く興味がないので問題はないのだが、総司が喜ぶのが正直気に喰わない。
好きな相手が喜ぶなら、という自己犠牲精神を幾斗は持ち合わせていない。
 もちろん基本的には総司が楽しそうにしていたり喜んでいるのを見るのは悪くないと思っているが、あくまでも自分にとって都合が悪くない場合だけだ。

「人の顔黙ってなにジッと見てきやがんだよ」

 どうやらそんなことを思いながら総司を見ていたようで、総司がジロリと睨んできた。

「いや? で、どうなんだよ」
「なにが」
「キス。慣れたか?」

 幾斗がにやりと聞くと総司は途端、ムッとしたまま顔を赤らめる。

「な、慣れた。んなもん俺にとっちゃどーってことねぇしな」

 表情と言葉が一致してない。幾斗は内心おかしく思いつつも「そうか」と頷いた。

「当たり前だろ、俺なんだからな」
「そうだな? じゃあよし、お前からしてみろよ」

 幾斗が思いついたかのように言うと総司は口をひきつらせてきた。

「できないのか」
「で、できるわボケ! んなもん余裕だっつーの。俺そーばんちょーなんだからな」

 総番長がキスとどう関係あるのか。というかあの学校で……いやそもそもどこだろうが総番長という存在はどうなんだよと笑いをこらえつつも「へえ?」と頷くだけにしておく。
 思いついたように言っているが、今日は初めからそのつもりだった。とりあえず舌を入れるようなキスをまだしていないものの、もう何度もキスを重ねている。ゆっくり合わせて柔らかさを探るキスから唇そのものを全て味わうキスまで、教える名目で散々堪能した上で総司にも慣れさせたつもりだった。かといっていつも一方的にするだけなので、たまには総司からしてもらおうかと思っただけだ。

「す、するからな」
「……総司。相手にその気になってもらうならあまりキスするぞとかキスしていいかとか言わないほうがいいぞ」

 おかしく思いながら総司を見ると「マジでか……!」とまた口をひきつらせている。

「じゃあいきなりしていいのかよ? 例えば俺がリカちゃんに会った時にいきなりちゅーって」
「ほんとお前馬鹿だな」
「んだとっ? お前が言ったんだろっ」
「そんな風に言ってねえ。だいたい今の俺とお前は別として、普通はキスするような間柄にまず先になってからだろうが。梨華とそういう間柄ならまだしもいきなりしたらそれ犯罪だろ」

 俺ですらこれでも段階を踏んでやってんぞと内心笑いながらも幾斗は呆れた表情をつくる。

「あ、そっか……!」

 なるほど、と頷く総司がまた難しい顔をした。今、話がそれたせいでどうやってキスしようかと考えてるんだろうなと幾斗は思った。

「……。……なあ。するって言わねーでどうやってすればいいんだよ。お前相手ですら俺わかんねえよ」

 ああ、やっぱり。

「今まで俺はお前にする時に、するぞって言ったか?」
「……? あー……っと、……多分言ってねえ」
「じゃあどうしてたか思い出せよ」

 にっこりとして総司を見るとさらに難しい顔をしてきた。多分ない頭をふり絞っているんだろうなと幾斗は思う。その総司が難しい必死な顔のまま幾斗の頬に手を伸ばしてきた。その様子に、幾斗は今の状況をわかっていても思わず少しだけどきりとなる。幾斗自身は総司の頬に手をそえたことはないだけに余計かもしれない。大抵はそのまま顔をゆっくりと近づけたり顎に手をやったりしていた。身長の差はさほどある訳ではないが、幾斗は自分とは違う、この総司の行動を密かに楽しんだ。
 手をそえてきた後はまた戸惑った表情を浮かべつつ、総司が顔を近づけてきた。そして途中で赤くなっている。だが幾斗は何も言わず黙っていた。また難しい表情になりつつも必死そうな顔で総司はさらに近づけてきた。
 いつも幾斗から仕掛ける時は総司の口元に目線を合わせながら唇がつく手前で一旦止めたりしている。そして総司がそわそわとし出すのを確認してから少しずつ唇を合わせていた。だがそんな余裕などなさそうな総司の目は思いきり開いている。その様子を楽しみつつも顔には出さず、幾斗はわざと目を閉じた。すると柔らかい唇が幾斗の唇に重なってきた。総司の唇を初めて味わった時も思いの外柔らかかったことに驚きつつも楽しんだのを思い出す。幾斗はそっと微笑んだ。
 そして少し目を開けて総司を見ると、先程までジッとこちらを必死に見ていた総司の目がぎゅっと閉じられているのが見えた。

 ……なんていうか、キス一つにしても、馬鹿なんだよなあ。

 内心笑いつつも幾斗は総司の髪をそっと撫でつつそのキスを今度はこちらからまた味わい始めた。幾斗のほうから動くと総司は安心したのかぎゅっと閉じていた目の周りの力が抜けていく。
 しばらく唇を堪能した後に幾斗は舌で総司の上唇や下唇をゆっくり舐めていった。ぴくりと総司が反応したのがわかる。そのまま少し開いた唇の内側にも舌を這わせた。総司はされるがままなのでゆっくりと唇から歯茎や歯列へと舌を動かしていく。すると息を飲むような音が聞こえた。開いた口内に幾斗は構わず舌を差し入れ、やはりゆっくりと歯の裏をなぞった。
 そのまま上顎の奥にまで舌を滑らせていくと総司からくぐもったような声が漏れてきた。その奥を暫くなぞるように這わすとさらに反応している。幾斗は総司の舌を絡めとりその感覚をたっぷりと味わった。
 お互い吸い合ったり甘噛みしたりということはできなさそうなので、その分総司の舌の表や裏に自分の舌を合わせて上下させたりした。ようやく唇を離した時には総司は涙目になって息を乱していた。目の下を赤らめつつもじっと睨むように総司が見てくる。

「なんだ」
「んだよこれ」
「なんだって、キスだろ」
「それはわかってんだよ!  ディープキスってやつだろっ」
「へえ? 知ってんのか」
「バカにすんなよ? お前より俺のがそもそも兄なんだからな。んなことくらいわかってんだよ」
「へえ」

 幾斗が適当に流すと「へぇじゃねぇんだよ」と総司がつかみかかってきた。

「妙な動きしてくんなよ! おかげでお前相手に勃……っ」

 そして言いかけた後に口をつぐむ。ただ何を言おうとしていたのかは既に総司の反応でわかっている幾斗はニッコリと総司を見た。

「教えてやってんだろ。お前もこれくらい、俺にできるようになれば?」
「ぁあ? んだと! そんくらい俺だってやってやんよ! でもその前にトイレ行かせろ」
「梨華が後で使うかもしれないトイレで変な匂いでも充満させる気か」

 正直なところ今はいないんだけどな、と思いつつも言うと総司が「あ、そうか」と振り向いてきた後で顔を真っ赤にする。

「ち、ちげぇよ!」

 本当に馬鹿だと思いつつ、自分に対して反応を見せてきたことに幾斗はとりあえず満足した。

「……総司、ちょっと八の段の九九言ってみろ」
「ぁ? 順番通りなら言えんぞ。えーっと8×1が8……、8×2、16……あ」

 集中して考え出した途端、どうやら下が収まったらしく間抜けそうな表情で総司は口をポカンと開けていた。
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