不良兄と秀才弟

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3話

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 総司は幾斗の部屋で正座させられていた。

「なあ、足、いてぇ」
「やかましい」
「……。なー、もう勘弁してくれよ! 俺が悪かったって! つか後でちゃんとお金払うつもりだったんだよ。ちゃんと家帰ってから財布とってまた払いにいくつもりだったんだって! 嘘じゃねえ」

 総司はとても甘いものが好きだ。中でもスーパーやコンビニエンスストアでよく売っている小さなチョコレートが大好きで、学校でもよく食べている。
 そして今日、なじみの店であろうことかそのチョコレートを万引きした現場を思いきり幾斗に見られ今に至る。

「後でもへったくれもあるか。売ってるものを金も払わず自分のポケットに入れる行為は万引き以外のなにものでもないだろうが……!」
「ちげぇって! マジで後で払うつもりだったんだって! めっちゃ食いたくなったのに財布持ってくんの忘れててよ。でもあんとき俺一人だったし誰かに借りるわけにもいかなくてよ。な? わかるだろ?」
「なにをわかれと」
「食いたかったんだよ!」
「逆切れすんな。食いたかったら泥棒か。いくらなんでも父さん泣くぞ」
「おやじ? おやじが泣く訳ねーじゃん。おやじなら多分『食いたかったんだな』ってわかってくれるぞ」

 むしろ「は?」といった様子の総司に、幾斗は頭を抱える。なぜ母親が自分を引き取り、父親が総司を引き取ったのかと改めてため息をつきたくなる。

「俺マジで後でちゃんと払うつもりだったし、つか別にお前が金払ってくれたし、兄ちゃんだって『いいよ』って言ってくれたんだしいいじゃねえか」

 あの場に居合わせた幾斗は速攻で総司の頭を殴るとポケットから四角い小さなチョコレートを出させ、レジに行って会計を済ませた。
ついでに幾斗は、馴染みの店だけあって知り合いでもあるレジにいた店のオーナーの息子に「こいつ万引きしようとしてたから。本当にごめん。なんだったら警察につきだしてもいいぞ」と淡々と言ってのけていた。店番をしていたオーナーの息子は「いいよ。にしてもあとでならそう言ってくれてもよかったのに。相変わらず総司はバカだな」などと苦笑していた。

「ついでに馬鹿だな、ともな。お前ほんっと馬鹿だな? いつになったら少しはマシになんだよ」
「るせえな! 兄に向ってそんな風に言うな」
「兄っつっても双子だろうが。俺からしたらお前と体分けあったってのも理解できねえけどな」

 呆れたように幾斗がジロリと総司を見ると、総司はムッと下唇を突き出しながら膨れ面をしている。

「俺だって別にバカになりたくてやってんじゃねえよ」
「だったらちゃんと勉強しろよ」
「だってしてもわかんねえんだよ」
「大半が奇跡の賜物とはいえ、この学校にお前は実力で入っただろうが」
「……そいやそうだな。俺、もしかしたら実は頭いいとか?」
「……正座のまま今から勉強な」

 膨れていたはずがすぐにニヤリと調子に乗ってきた総司を、イラっとした目で見ながら幾斗は言い切る。

「なんでだよ! そんなことしたら俺の足、死ぬ。むり」
「無理じゃねえ。この問題を一問解くだけだ。これ解いたら足崩していいし、さっきのチョコレートも返してやる」

 結局金を払ったチョコレートは総司ではなく幾斗が持っている。

「マジかよ鬼畜かお前……!」

 唖然とした顔で幾斗を見てくる総司に、幾斗は思いきりスルーして読みかけの本を開き始めた。幾斗としては最大限の配慮をしたつもりだ。幾斗的には甘いといってもいい。
 だがたった一問の問題はその後いつまでたっても「解けた」という発言が聞こえてこず、痺れをきらした幾斗は結局また一から説明する羽目になる。

「こうなる訳だ。わかったか?」
「……今のはわかった。けどなんでこれに対してこうしようと思ったんかがわからねえ」
「は? 俺がこうしようと希望したんじゃねえ。方程式に当てはめるだけだろうが」
「そのほーてーしきをなんでこれに使おうと思うんだよじゃあ」
「この場合だとそれしかあり得んからだろうが」
「だーかーらー! 誰が決めたんだよじゃあこれしかありえねえって。もしかしたら別のほーてーしきを使いたくなるかもしれねえだろ」

 幾斗は顔をひきつらせながら総司を見る。どう考えても冗談かとしか思えない。だが総司の顔は至ってまじめそうだ。

「使いたくなるってなんだ! むしろその気持ちがわかるか!」
「なんでわかんねえんだよ」
「んなもんわかる訳……っち。話がそれてる。いいか、まったく同じ方程式を使う問題だ、これは。これを俺が戻ってくるまでに解いとけ」

 舌打ちをした後に時計を見てから幾斗は立ち上がった。

「お前はどこ行くんだよ」
「下で飯食ってくる」
「んだとゴラ! だったら俺にも食わせろよ!」
「万引きをした罰舐めんな。後で持って上がってやる」
「待てよ。飯ってことはリカちゃんもいるんじゃねえのかっ?」
「さあな」

 淡々と言い返すと総司はさらにムキになってきた。

「さあなって何だよ! ぜってーいるだろ! 俺もリカちゃんと一緒に飯食いてぇ! あわよくばリカちゃん食いてえ!」

 幾斗はそんな総司の頭を叩いてからため息をついた。

「なに、どさくさにまぎれてろくでもねえこと言ってんだよ、この童貞が」
「なっ、んだよ! ち、ちげぇし」

 言われて総司はまたムッとしたように膨れ面をするが頬が赤い。明らかに「違う」というのが嘘だとわかる。

「へえ?  俺はお前が誰かと付き合ってんの全然知らねえけど?  それとも体だけの付き合いとかか?」

 馬鹿にしたように口元を上げて総司を見ると案の定「う」と反応に困っている。基本的に頭がよくないからか、嘘をつく機転もないのだ。

「なんだよ。お前だっ……」

 お前だって、と言いかけた総司はだが口をつぐんだ。幾斗が短いながらも何人か交際をしているのは総司も知っている。

「むかつく。何でお前に彼女できて俺にできねえんだよ。俺のが絶対カッコいいのに」

 頭が悪いからだろ、と幾斗は内心即答しつつも「むしろその経験のなさががっついて見えるんじゃねえのか」などと適当なことを言う。

「ぁあ? んなもん、誰だって最初は経験ねえじゃねえか! 付き合ってるやつは最初じゃあどうしてんだよ!」

 そしてその言葉をいい風にいうと素直に受け取る総司に微妙な顔を向けた。だがすぐにそっとニヤリと笑う。

 ……ほんと馬鹿なやつ。

「まあそれに関してはじゃあ後で教えてやる」
「マジで!」
「その代わり真面目に勉強しろ」
「わ、わかったよ。やってやるし。その代わりリカちゃん超撮ってきて。下からのアングルとかいいですね!」
「俺を変態にする気か。お断りだ。代わりに飯を持って上がってきてやる」
「待て、飯は当然だろうが! てめぇ双子の愛はねえのか!」
「正座、しとけよ」

 総司の言葉を完全にスルーして、幾斗は部屋を出た。
 下へ降りると丁度母親がテーブルに寿司を並べてるところだった。

「あら? 総司は? 来てるんでしょ? だからお寿司とったのに。あの子バカだから手の込んだ料理よりこういうわかりやすい料理のが喜ぶのよねえ」

 ちょくちょくは会えない自分の息子に対してどうかと思うようなことを言いながらも手伝っている梨華に「そういえば梨華ちゃんはお寿司、わさび大丈夫だった?」と聞いている。

「大丈夫、むしろあるほうが好き」

 淡々としてクールな梨華の性格なら敬語でも使いそうなものだが、そこはやはり頭も悪くない上に人付き合いに関してもちゃんと心得ているようだ。新しく母になった相手にも普通に接している。

「あいつなら今勉強させてるから、後で持ってく」
「そう? だったらこれがわさび抜きね」

 母親はニコニコと別に用意してある皿を幾斗に伝えてきた。総司は甘いものが大好きで、辛い刺激物はかなり苦手だ。逆に幾斗は甘いものに興味がなく、刺激物が好みだった。食事中も「幾斗わさびつけすぎ」「……どっかおかしいんじゃないの」などと母親と梨華に言われるくらい元々ついているわさびに新たにつけたしていた。

「うめえだろ、だって」
「あんたたちはお互い味音痴なんだろうなって思うわよ」

 ネタどころかほぼわさび乗せとしか思えないような寿司を頬張っている幾斗を見ながら、母親は呆れたようにため息をついてきた。
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