彼は最後に微笑んだ

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188話

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 確かにエルヴィンのことが大事すぎて慎重になりすぎていたのかもしれない。だが自分の欲よりも何よりもエルヴィンを大切にしたすぎて、ニルスはずっと堪えてきた。
 本当ならば、できることならば、表情も体も何もかもがとろけそうなエルヴィンをめちゃくちゃにするくらいの勢いで貪りたい。中に入り、エルヴィンの最奥までを暴く勢いで自分のものをひたすら突き上げ激しく擦りつけたい。エルヴィンが泣いても叫んでもひたすら中を蹂躙したくて堪らなかった。
 もちろん、できるわけない。自分のおぞましいほど醜い欲望をぶつけていい相手ではない。ずっと昔から大好きで大切で大事な人にそんなこと到底できるはずがない。そもそもそんな欲よりもエルヴィンへの愛しさのほうが断然強いため、堪えることはそこまで難しくない。
 ただ、生物的に持て余してしまう欲を一人の時に何とか発散するしかなく、そのためについエルヴィンをひどく抱く想像をしてしまったりして自己嫌悪に陥る羽目になる。ただでさえ前に媚薬のせいでエルヴィンがほぼ意識を保てていなかった時、勝手にエルヴィンの体を暴いてしまったようなものだけに、心から申し訳ないと思う。だというのにそれらをエルヴィンに謝ることもできない情けない自分がいる。
 そのせいだろうか、なおさら慎重になってしまったのかもしれない。今回の旅行でとうとうエルヴィンに「イきそうならもう、俺の中でイってくれないか?」とまで言わせてしまった。

「だが……」

 慎重すぎるのはわかっているが、お前に傷一つつけたくないんだ。少しでも痛い思いをさせたくないんだ。大切なんだ。そのくせお前の中までをも愛したい気持ちは失くせないし、一人の時にはお前にひどいことをしたい欲を露わにしてしまってる。すまない、エルヴィン。だから……せめて少しも痛みなく愛せるように……。

「ほんっとお願い……! お前の指で俺の尻、溶けちゃうか壊れる」
「そ、うなのか……」

 そんなになのか。さすがに本当に溶けはしないのはわかるが、もしかして俺はやりすぎたのか……? 大切すぎて間違えたのか?

「そうなの! だからほんとお願いだから。頼むから……それに俺が欲しいんだ」

 ニルスに対してコクコク頷いたかと思うと、エルヴィンは抱きついてきた。しかも「欲しい」などと言ってくれた。思わず息が詰まったようになり、ニルスはむしろ深く息をはいた。

 何てかわいいんだろう……何て扇情的なんだろう……何て愛しいんだろう……頼む、エルヴィン……俺のタガを外さないでくれ……いや、でも嬉しい。そう思ってくれて嬉しい。かわいい……愛してる……。

 気持ちがあまりにも溢れ、ニルスはそのまま愛しいエルヴィンを支えながらもそっとベッドのマットレスに横たえさせた。するとエルヴィンが驚いたような声を出してくる。そっとしたつもりだったが勢いがついてしまったのかもしれないし、痛かったのかもしれない。

「す、まない。痛かったか?」
「え、あ、いや。大丈夫。布団の上だし、ニルスが支えてくれてたし。じゃなくていきなりでびっくりした」
「そうか。……いきなりですまない」

 あまりにかわいくて愛しくて、どうにも堪えられそうになかった。

「いいよ。ぜんっぜんいい。ニルスはちょっと俺に気遣いすぎ。俺のこと、おじいちゃんか何かだと思ってんのか?」
「……まさか」

 エルヴィンがおじいちゃん? あり得ない。こんなにかわいくて愛らしくて恰好がいい男らしいエルヴィンをそんな風になど、冗談でも到底思えない。愛しくて性的で最高にかわいい俺の大事な人だ。

「だよな? だったらわかるだろ。俺、結構頑丈な男だから。多少の無茶くらいどうってことないし、あとニルスは謝るよりそうだな、礼を言ってくれたほうが俺は嬉しい」
「礼……」

 存在してくれてありがとう、ということだろうか。当然だ。俺は神に感謝すべきだしこの世のすべてに感謝すべきだろう。エルヴィンが存在してくれているだけでなく、俺と昔から仲よくしてくれた上にとうとう俺のことをあり得ないが好きになってくれた。しかも恋人というだけでなく、今回婚約まで許してくれた。神にもこの世にもエルヴィンにも礼を尽しても尽くしきれないのではないだろうか。

「いや、押し倒されたことに礼はおかしいけどさ……。基本そっちのがいいってこと」
「ああ、わかった」

 これからはなるべく感謝の気持ちを表すようにしよう。申し訳ないことを考えてしまったり、実際にしてしまったりだが、それに対してひたすら詫びるだけでは確かに俺は男としてだけでなく人として情けなさすぎる。とはいえ……もう一度心の中でだけ、謝らせてくれエルヴィン……悪い、もう耐えられそうにない。ずっと今まで堪えてきたが「欲しい」とまで言ってくれたのもあって気持ちが溢れすぎて難しい……悪い、エルヴィン。だが愛してる、大切にしたい。その気持ちに偽りはない……何とか抑えこんでゆっくり大事に愛させてくれ……。

 ニルスはエルヴィンの全てにキスしてもし足りないと思いながらも唇だけに抑え、エルヴィンの足を持ち上げた。

「お前の中に入る……」

 大声で言うものでもなく、囁くように伝えるとエルヴィンは少し掠れた声で頷いてくれた。男らしく受け入れているものの少し怖いとかだろうかとニルスは心配になりながらエルヴィンの尻をローションでさらに濡らす。エルヴィンは顔をそむけるようにして腕で隠している。やはり怖いと思っているのかもしれない。

「入れて」

 だというのに掠れた声ではっきりそう伝えてきた。ニルスはまた息が詰まりそうになり、深く息をはいた。そうすることではやる気持ちをも何とか抑えようとした。そしてゆっくり先をエルヴィンの中に挿入していく。
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