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176話
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「いいパーティーだったと思う……」
珍しくニルスがそんなことを言っている。エルヴィンと同じくそういった催しが苦手なはずのニルスだけに、そう思えるのならよかったとエルヴィンは笑みを浮かべた。
「お前がそう思うなら、よかった」
「ああ。招待された客も皆マナーをわきまえた人たちばかりだったし」
それを聞いて改めて、それなりの地位である貴族全員ご招待、でなくてよかったなとエルヴィンは内心しみじみ思った。
「だな。でも結構それなりの規模だったろ。騒がしかったり大げさだったりしなかったか?」
エルヴィンが聞くとニルスはふるふると首を振ってきた。
「ならよかったけど」
「……確かに盛大ではあった」
ですよね。
侯爵家の長男である以上ある程度は仕方ないと思うし、それでも実際いいパーティーだったとも思うが、もしあえて言うとしたらもう少し地味でよかったなとエルヴィンは少し思っている。
「だが、ひそかにするよりはいい」
「え」
ニルスも騒がしいのはあまり好まないと思っていたが、自分が主役のパーティーは意外にも少々派手なほうが好きなのだろうかとエルヴィンは少しぽかんとニルスを見上げた。
「ニルスって派手なほうが好みだっけ」
「いや。……その、あれだ」
どれだろう。
首を傾げながらニルスをそのまま見るが、ニルスも首を傾げてきた。言ったほうなので傾げられても困るが、傾げる姿も恰好がいいしおまけにかわいいのでよしとする。
エルヴィンはあれがどれか気にするのをやめて横にいるニルスから視線を外し、テーブルの上にある酒の入ったグラスに手を伸ばした。こくりと飲んでいると「お前が……」とニルスが呟くように口にしてきた。
あ、続いてるんだな。
エルヴィンはまたニルスに視線をやってから頷く。
「……あまり周りに知られるの、好まなかったから……嫌だったかもしれない、が……」
「え、あ、それは……」
確かに大っぴらにしたいと思ったことはない。元々異性が好きだからというのもあるが、どうしても侯爵家の長男として引け目があったからだろうか。堂々とあからさまに付き合うのではなく、どちらかといえばこっそりに近かった。
「ごめん、ニルス。それで嫌な気持ちにさせたりしたか……?」
「まさか。そうじゃない」
「ならいいけど……。確かに付き合ってる時は大っぴらにしてなかったけど、俺らもう婚約したんだし、これからは堂々と俺の好きな人で俺の婚約者だって宣言しまくる勢いになるよ」
「いや……別にそこまでは……。そうじゃなく、て……だな。確かに大貴族でありながら同性同士というのは……下手をすれば周りで変な噂をされかねないだろう」
言葉に出して話すのが得意でないニルスがいつもよりたくさん話している。
珍しいというよりも何だか嬉しくて、というかそれだけニルスはがんばって何かを伝えようとしてくれているのだとわかって、エルヴィンは口を挟まずニルスを見つめた。
「ノルデルハウゼン侯爵夫人は……お前の母上は、もちろんこういう祝い事が好きなのも、あるだろうが……」
静かな状況が好きであってもエルヴィンは特に話すことが苦手なわけではない。だから思っていることをそのまま言葉として発することの難しさは多分この先もわかってあげられそうにないが、そういうものだと理解することはできる。
「ああいったくらい盛大に……堂々としたほうが……多分、だが」
思っていることと話すことが全然違う人ならば確かに言葉にするのが難しいとかありそうな気はするが、少なくともニルスは思っていることと口に出すことに基本相違がない。もちろん、エルヴィンがひたすらかわいいだとかを口にすることはきっとほぼないだろうが、とにかく裏表のない人だとはエルヴィンもわかっている。
だから余計、思ってることをそのまま出す難しさはわからないんだけど、でもそれがニルスだからな。
そういうニルスがまた愛おしいと思う。
「きっと……堂々としているから、こそ周りからも変に噂されず……祝ってもらえたと、思うし、きっとお前の母上もそれも考慮してたんじゃないか、と」
「え」
もっともらしいが、ネスリンは本当に昔からこういったことが大好きだけにそれはどうだろうとエルヴィンは少し思った。とはいえネスリンは社交界について長けている人でもある。もしかしたらニルスの言う通りかもしれない。
「だから……密かにするよりは、いい。皆に祝ってもらえた。それに……俺はエルヴィンの婚約者だと……大勢の人に知ってもらえた。盛大な婚約パーティーにしてくれて……ありがとう」
ニルスの家からはアルスラン家に委ねてくれた分、パーティーを企画するというよりは祝いの品などをそれこそ盛大に贈られた。エルヴィンはまだ独立していないのもあり、アルスラン家が主となって今回のパーティーが開かれていた。
「そんな、俺のほうこそお前の家からびっくりするくらい祝いの品届いたし、ありがとうだよ。それに何より、エンゲージメントを俺に提案してくれて、ありがとう。ニルス」
あえてまるで契約ごとのような言い方をした。すると以前エルヴィンが盛大に勘違いしていた時のことを思い出したのだろう。ニルスが少し口元をほころばせてきた。
二人は顔を合わせ、そのまま引き寄せられるようにキスした。
珍しくニルスがそんなことを言っている。エルヴィンと同じくそういった催しが苦手なはずのニルスだけに、そう思えるのならよかったとエルヴィンは笑みを浮かべた。
「お前がそう思うなら、よかった」
「ああ。招待された客も皆マナーをわきまえた人たちばかりだったし」
それを聞いて改めて、それなりの地位である貴族全員ご招待、でなくてよかったなとエルヴィンは内心しみじみ思った。
「だな。でも結構それなりの規模だったろ。騒がしかったり大げさだったりしなかったか?」
エルヴィンが聞くとニルスはふるふると首を振ってきた。
「ならよかったけど」
「……確かに盛大ではあった」
ですよね。
侯爵家の長男である以上ある程度は仕方ないと思うし、それでも実際いいパーティーだったとも思うが、もしあえて言うとしたらもう少し地味でよかったなとエルヴィンは少し思っている。
「だが、ひそかにするよりはいい」
「え」
ニルスも騒がしいのはあまり好まないと思っていたが、自分が主役のパーティーは意外にも少々派手なほうが好きなのだろうかとエルヴィンは少しぽかんとニルスを見上げた。
「ニルスって派手なほうが好みだっけ」
「いや。……その、あれだ」
どれだろう。
首を傾げながらニルスをそのまま見るが、ニルスも首を傾げてきた。言ったほうなので傾げられても困るが、傾げる姿も恰好がいいしおまけにかわいいのでよしとする。
エルヴィンはあれがどれか気にするのをやめて横にいるニルスから視線を外し、テーブルの上にある酒の入ったグラスに手を伸ばした。こくりと飲んでいると「お前が……」とニルスが呟くように口にしてきた。
あ、続いてるんだな。
エルヴィンはまたニルスに視線をやってから頷く。
「……あまり周りに知られるの、好まなかったから……嫌だったかもしれない、が……」
「え、あ、それは……」
確かに大っぴらにしたいと思ったことはない。元々異性が好きだからというのもあるが、どうしても侯爵家の長男として引け目があったからだろうか。堂々とあからさまに付き合うのではなく、どちらかといえばこっそりに近かった。
「ごめん、ニルス。それで嫌な気持ちにさせたりしたか……?」
「まさか。そうじゃない」
「ならいいけど……。確かに付き合ってる時は大っぴらにしてなかったけど、俺らもう婚約したんだし、これからは堂々と俺の好きな人で俺の婚約者だって宣言しまくる勢いになるよ」
「いや……別にそこまでは……。そうじゃなく、て……だな。確かに大貴族でありながら同性同士というのは……下手をすれば周りで変な噂をされかねないだろう」
言葉に出して話すのが得意でないニルスがいつもよりたくさん話している。
珍しいというよりも何だか嬉しくて、というかそれだけニルスはがんばって何かを伝えようとしてくれているのだとわかって、エルヴィンは口を挟まずニルスを見つめた。
「ノルデルハウゼン侯爵夫人は……お前の母上は、もちろんこういう祝い事が好きなのも、あるだろうが……」
静かな状況が好きであってもエルヴィンは特に話すことが苦手なわけではない。だから思っていることをそのまま言葉として発することの難しさは多分この先もわかってあげられそうにないが、そういうものだと理解することはできる。
「ああいったくらい盛大に……堂々としたほうが……多分、だが」
思っていることと話すことが全然違う人ならば確かに言葉にするのが難しいとかありそうな気はするが、少なくともニルスは思っていることと口に出すことに基本相違がない。もちろん、エルヴィンがひたすらかわいいだとかを口にすることはきっとほぼないだろうが、とにかく裏表のない人だとはエルヴィンもわかっている。
だから余計、思ってることをそのまま出す難しさはわからないんだけど、でもそれがニルスだからな。
そういうニルスがまた愛おしいと思う。
「きっと……堂々としているから、こそ周りからも変に噂されず……祝ってもらえたと、思うし、きっとお前の母上もそれも考慮してたんじゃないか、と」
「え」
もっともらしいが、ネスリンは本当に昔からこういったことが大好きだけにそれはどうだろうとエルヴィンは少し思った。とはいえネスリンは社交界について長けている人でもある。もしかしたらニルスの言う通りかもしれない。
「だから……密かにするよりは、いい。皆に祝ってもらえた。それに……俺はエルヴィンの婚約者だと……大勢の人に知ってもらえた。盛大な婚約パーティーにしてくれて……ありがとう」
ニルスの家からはアルスラン家に委ねてくれた分、パーティーを企画するというよりは祝いの品などをそれこそ盛大に贈られた。エルヴィンはまだ独立していないのもあり、アルスラン家が主となって今回のパーティーが開かれていた。
「そんな、俺のほうこそお前の家からびっくりするくらい祝いの品届いたし、ありがとうだよ。それに何より、エンゲージメントを俺に提案してくれて、ありがとう。ニルス」
あえてまるで契約ごとのような言い方をした。すると以前エルヴィンが盛大に勘違いしていた時のことを思い出したのだろう。ニルスが少し口元をほころばせてきた。
二人は顔を合わせ、そのまま引き寄せられるようにキスした。
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