175 / 193
175話
しおりを挟む
よその国はまた別かもしれないが、マヴァリージ王国の貴族社会では元々婚約は結婚の第一段階とみなされるくらいには重要だった。何故なら家同士の繋がりや跡継ぎを作ることが結婚の役割でもあると考える貴族が多いからというのもあるだろう。
婚約することで社会的な契約が結ばれることになる。王侯の場合なら国同士の条約にもつながる。
とはいえそれだけではない。この国ではよほどの理由がない限り簡単に離婚できない。よほどの理由があったとしても結婚の無効を申し立てる場合かなり大きな代償を教会に払わなければならない。宗教の絡みでもあるため、よその国でも同じ宗教の国であればこれは同じかもしれない。
そのため、貴族たちは離婚の原因となりそうな跡継ぎ問題や耐え難いほどの性格の不一致などをこの婚約期間に見定めることとなる。離婚は中々難しくても婚約破棄ならまだ比較的ではあるが、やりやすい。それもあり、婚約というのは重要な役割を担っているとみなされていた。
マヴァリージ王国は当てはまらないが、よその国ではやはり宗教の絡みでだろうか、性交することで結婚したと見なされるところもあるらしい。例えばまだ性交が不可能である幼い子どもだと結婚は認められない。だが政略的つながりを正式に結びたい場合、婚約することで可能とし、当人たちが成長すると結婚させるという方法もあるようだ。そういった国では婚約破棄も中々に難しいと聞く。
この国はそこまで厳しくない上、最近の紳士淑女は未婚であっても男女二人だけで会うくらいは平民のように当たり前となってきている。離婚できないなら婚前にきちんと付き合って見定めるべきだという考えからくるものだと言われているが、実際のところは「気楽に楽しみたいから」が主な理由ではないだろうか。
エルヴィンも遡る前に何人かとそういった付き合いをした。それもあってニルスとも気軽に深い付き合いがしたいと思ったわけだが、ニルスは本人も言っていたように古い考えの持ち主だった。
かつてのマヴァリージでは、未婚の貴族それも男女が二人だけで会うのは不謹慎だとさえ言われていた。同性同士でもそういう意味で会うなら同様だったようだ。そのため気になる相手がいればまず行うのがプロポーズだったらしい。将来を誓う婚約をしてからようやく付き合い、お互いをよく知ってから最終的に結婚するかどうかを決める。
さすがにニルスもいきなり「結婚しよう」という段階から付き合いを始めはしなかったものの、もしエルヴィンと幼馴染でなかったらそうなっていた可能性はある、というかそうなっていたようだ。
「ほんとに?」
「ああ。実際はそうじゃないから多分そうだろうとしか言えないが、お前と昔からの知り合いでない状況でお前を好きになっていれば……先にプロポーズしていた」
それを聞いて思いきりぽかんと口を開けてニルスをしばらく見てしまったが、後で「そういうニルスもちょっと見てみたかった」とエルヴィンは少し思った。というか、どんなニルスであっても余すところなく知りたいし見てみたいというのが正解だろうか。
ということで二人は正式に書類での契約を交わした。完全に正式な契約であり、破棄は可能とはいえきちんとしたややこしい手続きを取らなくてはならない婚約者となった。
婚約パーティーは何とかほどほどの規模で済ませることができた。母親であるネスリンの言いなりになっていたらラウラたちと同じく今頃は数か月くらい延々と全貴族に語り継がれるのではないかというパーティーになっていただろう。
「母上……俺は本当ならば両家の食事会で済ませるくらいがちょうどいいのです」
「まあ……そんな……」
そんな、と呟いたネスリンの顔色はほんのり青ざめ、表情もとても悲しそうだった。遡る前の、ラウラを思って衰弱死したネスリンを今もなお鮮明に覚えているエルヴィンにとってこれは痛恨の一撃だった。ニルスは親孝行のためネスリンが望むようにしたほうがいいと言ったのだろうが、エルヴィンにとってはそれ以上に重い意味を持たざるを得なかったというのだろうか。
「なぁんて言ってみましたが、もちろんパーティーは開きたいと思いますし、母上の望むような内容が楽しみでなりません」
「まあ、エルヴィンったら! 本当にびっくりしたのですよ? ああ、よかった! あなたの望む内容にしたいけど、でもできるのであればたくさんお祝いしたいですものね。でしたらそうですね、あなたのお父様のお立場も考慮してとりあえず伯爵以上の貴族は全員ご招待して、子爵や男爵であっても親しい方たちは同じく全員……」
「っ楽しみでなりませんが、なにぶん俺もニルスもその、控えめなところがあります故、規模はもう少し小さめが好みといいますか……」
ラウラの結婚パーティーでもっと盛大な内容を望みつつ、ラウラがしたいようにさせてやりたいと思ったネスリンはどうやら少々欲求不満だったようだ。恐ろしいパーティーにさせられそうだったため、全部委ねるのはやはり避けさせてもらうことにした。
自分で自分のことを「控えめ」と口にする間抜けさなど、どうでもいいくらいエルヴィンは必死になって最低限というレベルを何とか死守しようとした。とはいえネスリンを悲しませたくもない。
ということでほどほどの規模であるパーティとなったわけだ。もちろんとても疲れたし恥ずかしさや落ち着かなさなどをパーティーの間ずっと抱えたいたものの、それでもいいパーティーだったのではないだろうか。客たちもとても満足していたらしいし、エルヴィンとニルスのことも心から祝ってもらえた。
婚約することで社会的な契約が結ばれることになる。王侯の場合なら国同士の条約にもつながる。
とはいえそれだけではない。この国ではよほどの理由がない限り簡単に離婚できない。よほどの理由があったとしても結婚の無効を申し立てる場合かなり大きな代償を教会に払わなければならない。宗教の絡みでもあるため、よその国でも同じ宗教の国であればこれは同じかもしれない。
そのため、貴族たちは離婚の原因となりそうな跡継ぎ問題や耐え難いほどの性格の不一致などをこの婚約期間に見定めることとなる。離婚は中々難しくても婚約破棄ならまだ比較的ではあるが、やりやすい。それもあり、婚約というのは重要な役割を担っているとみなされていた。
マヴァリージ王国は当てはまらないが、よその国ではやはり宗教の絡みでだろうか、性交することで結婚したと見なされるところもあるらしい。例えばまだ性交が不可能である幼い子どもだと結婚は認められない。だが政略的つながりを正式に結びたい場合、婚約することで可能とし、当人たちが成長すると結婚させるという方法もあるようだ。そういった国では婚約破棄も中々に難しいと聞く。
この国はそこまで厳しくない上、最近の紳士淑女は未婚であっても男女二人だけで会うくらいは平民のように当たり前となってきている。離婚できないなら婚前にきちんと付き合って見定めるべきだという考えからくるものだと言われているが、実際のところは「気楽に楽しみたいから」が主な理由ではないだろうか。
エルヴィンも遡る前に何人かとそういった付き合いをした。それもあってニルスとも気軽に深い付き合いがしたいと思ったわけだが、ニルスは本人も言っていたように古い考えの持ち主だった。
かつてのマヴァリージでは、未婚の貴族それも男女が二人だけで会うのは不謹慎だとさえ言われていた。同性同士でもそういう意味で会うなら同様だったようだ。そのため気になる相手がいればまず行うのがプロポーズだったらしい。将来を誓う婚約をしてからようやく付き合い、お互いをよく知ってから最終的に結婚するかどうかを決める。
さすがにニルスもいきなり「結婚しよう」という段階から付き合いを始めはしなかったものの、もしエルヴィンと幼馴染でなかったらそうなっていた可能性はある、というかそうなっていたようだ。
「ほんとに?」
「ああ。実際はそうじゃないから多分そうだろうとしか言えないが、お前と昔からの知り合いでない状況でお前を好きになっていれば……先にプロポーズしていた」
それを聞いて思いきりぽかんと口を開けてニルスをしばらく見てしまったが、後で「そういうニルスもちょっと見てみたかった」とエルヴィンは少し思った。というか、どんなニルスであっても余すところなく知りたいし見てみたいというのが正解だろうか。
ということで二人は正式に書類での契約を交わした。完全に正式な契約であり、破棄は可能とはいえきちんとしたややこしい手続きを取らなくてはならない婚約者となった。
婚約パーティーは何とかほどほどの規模で済ませることができた。母親であるネスリンの言いなりになっていたらラウラたちと同じく今頃は数か月くらい延々と全貴族に語り継がれるのではないかというパーティーになっていただろう。
「母上……俺は本当ならば両家の食事会で済ませるくらいがちょうどいいのです」
「まあ……そんな……」
そんな、と呟いたネスリンの顔色はほんのり青ざめ、表情もとても悲しそうだった。遡る前の、ラウラを思って衰弱死したネスリンを今もなお鮮明に覚えているエルヴィンにとってこれは痛恨の一撃だった。ニルスは親孝行のためネスリンが望むようにしたほうがいいと言ったのだろうが、エルヴィンにとってはそれ以上に重い意味を持たざるを得なかったというのだろうか。
「なぁんて言ってみましたが、もちろんパーティーは開きたいと思いますし、母上の望むような内容が楽しみでなりません」
「まあ、エルヴィンったら! 本当にびっくりしたのですよ? ああ、よかった! あなたの望む内容にしたいけど、でもできるのであればたくさんお祝いしたいですものね。でしたらそうですね、あなたのお父様のお立場も考慮してとりあえず伯爵以上の貴族は全員ご招待して、子爵や男爵であっても親しい方たちは同じく全員……」
「っ楽しみでなりませんが、なにぶん俺もニルスもその、控えめなところがあります故、規模はもう少し小さめが好みといいますか……」
ラウラの結婚パーティーでもっと盛大な内容を望みつつ、ラウラがしたいようにさせてやりたいと思ったネスリンはどうやら少々欲求不満だったようだ。恐ろしいパーティーにさせられそうだったため、全部委ねるのはやはり避けさせてもらうことにした。
自分で自分のことを「控えめ」と口にする間抜けさなど、どうでもいいくらいエルヴィンは必死になって最低限というレベルを何とか死守しようとした。とはいえネスリンを悲しませたくもない。
ということでほどほどの規模であるパーティとなったわけだ。もちろんとても疲れたし恥ずかしさや落ち着かなさなどをパーティーの間ずっと抱えたいたものの、それでもいいパーティーだったのではないだろうか。客たちもとても満足していたらしいし、エルヴィンとニルスのことも心から祝ってもらえた。
0
お気に入りに追加
497
あなたにおすすめの小説
膀胱を虐められる男の子の話
煬帝
BL
常におしがま膀胱プレイ
男に監禁されアブノーマルなプレイにどんどんハマっていってしまうノーマルゲイの男の子の話
膀胱責め.尿道責め.おしっこ我慢.調教.SM.拘束.お仕置き.主従.首輪.軟禁(監禁含む)
転生貧乏貴族は王子様のお気に入り!実はフリだったってわかったのでもう放してください!
音無野ウサギ
BL
ある日僕は前世を思い出した。下級貴族とはいえ王子様のお気に入りとして毎日楽しく過ごしてたのに。前世の記憶が僕のことを駄目だしする。わがまま駄目貴族だなんて気づきたくなかった。王子様が優しくしてくれてたのも実は裏があったなんて気づきたくなかった。品行方正になるぞって思ったのに!
え?王子様なんでそんなに優しくしてくるんですか?ちょっとパーソナルスペース!!
調子に乗ってた貧乏貴族の主人公が慎ましくても確実な幸せを手に入れようとジタバタするお話です。
伴侶がいるので、溺愛ご遠慮いたします
*
BL
3歳のノィユが、カビの生えてないご飯を求めて結ばれることになったのは、北の最果ての領主のおじいちゃんでした。
実際に逢ってみたら、え、おじいちゃん……!?
しあわせの絶頂にいるのを知らない王子たちが吃驚して憐れんで溺愛してくれそうなのですが、結構です!
めちゃくちゃかっこいー伴侶がいますので!
おじいちゃんと孫じゃないよ!
【BL】こんな恋、したくなかった
のらねことすていぬ
BL
【貴族×貴族。明るい人気者×暗め引っ込み思案。】
人付き合いの苦手なルース(受け)は、貴族学校に居た頃からずっと人気者のギルバート(攻め)に恋をしていた。だけど彼はきらきらと輝く人気者で、この恋心はそっと己の中で葬り去るつもりだった。
ある日、彼が成り上がりの令嬢に恋をしていると聞く。苦しい気持ちを抑えつつ、二人の恋を応援しようとするルースだが……。
※ご都合主義、ハッピーエンド
不憫な推しキャラを救おうとしただけなのに
はぴねこ
BL
美幼児&美幼児(ブロマンス期)からの美青年×美青年(BL期)への成長を辿る長編BLです。
金髪碧眼美幼児のリヒトの前世は、隠れゲイでBL好きのおじさんだった。
享年52歳までプレイしていた乙女ゲーム『星鏡のレイラ』の攻略対象であるリヒトに転生したため、彼は推しだった不憫な攻略対象:カルロを不運な運命から救い、幸せにすることに全振りする。
見た目は美しい王子のリヒトだが、中身は52歳で、両親も乳母も護衛騎士もみんな年下。
気軽に話せるのは年上の帝国の皇帝や魔塔主だけ。
幼い推しへの高まる父性でカルロを溺愛しつつ、頑張る若者たち(両親etc)を温かく見守りながら、リヒトはヒロインとカルロが結ばれるように奮闘する!
リヒト… エトワール王国の第一王子。カルロへの父性が暴走気味。
カルロ… リヒトの従者。リヒトは神様で唯一の居場所。リヒトへの想いが暴走気味。
魔塔主… 一人で国を滅ぼせるほどの魔法が使える自由人。ある意味厄災。リヒトを研究対象としている。
オーロ皇帝… 大帝国の皇帝。エトワールの悍ましい慣習を嫌っていたが、リヒトの利発さに興味を持つ。
ナタリア… 乙女ゲーム『星鏡のレイラ』のヒロイン。オーロ皇帝の孫娘。カルロとは恋のライバル。
あなたの隣で初めての恋を知る
ななもりあや
BL
5歳のときバス事故で両親を失った四季。足に大怪我を負い車椅子での生活を余儀なくされる。しらさぎが丘養護施設で育ち、高校卒業後、施設を出て一人暮らしをはじめる。
その日暮らしの苦しい生活でも決して明るさを失わない四季。
そんなある日、突然の雷雨に身の危険を感じ、雨宿りするためにあるマンションの駐車場に避難する四季。そこで、運命の出会いをすることに。
一回りも年上の彼に一目惚れされ溺愛される四季。
初めての恋に戸惑いつつも四季は、やがて彼を愛するようになる。
表紙絵は絵師の松本コウさんに描いていただきました。
貧乏Ωの憧れの人
ゆあ
BL
妊娠・出産に特化したΩの男性である大学1年の幸太には耐えられないほどの発情期が周期的に訪れる。そんな彼を救ってくれたのは生物的にも社会的にも恵まれたαである拓也だった。定期的に体の関係をもつようになった2人だが、なんと幸太は妊娠してしまう。中絶するには番の同意書と10万円が必要だが、貧乏学生であり、拓也の番になる気がない彼にはどちらの選択もハードルが高すぎて……。すれ違い拗らせオメガバースBL。
エブリスタにて紹介して頂いた時に書いて貰ったもの
転生するにしても、これは無いだろ! ~死ぬ間際に読んでいた小説の悪役に転生しましたが、自分を殺すはずの最強主人公が逃がしてくれません~
槿 資紀
BL
駅のホームでネット小説を読んでいたところ、不慮の事故で電車に撥ねられ、死んでしまった平凡な男子高校生。しかし、二度と目覚めるはずのなかった彼は、死ぬ直前まで読んでいた小説に登場する悪役として再び目覚める。このままでは、自分のことを憎む最強主人公に殺されてしまうため、何とか逃げ出そうとするのだが、当の最強主人公の態度は、小説とはどこか違って――――。
最強スパダリ主人公×薄幸悪役転生者
R‐18展開は今のところ予定しておりません。ご了承ください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる