彼は最後に微笑んだ

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170話

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 ニルスのことを両親に打ち明けてしまうと、その後は自分ではどうしようもない勢いで話がとんとん拍子に進むこととなった。エルヴィンとしては取り残されたような気持ちさえ感じている。あれほどラウラとニアキスの結婚準備を嬉しく思いつつも「ほんとお疲れ様だな……」と少し離れたところで眺めていたというのに、自分も気づけば同じような状況にさせられているというのだろうか。
 ならいっそ、ラウラたちの結婚パーティーのついでにエルヴィンとニルスの婚約パーティーをすればいいのではと周りに提案したが、即却下された。エルヴィンとしては結婚するラウラたちの影に少しでも隠れられればと思っていただけに残念だった。
 一緒にできないのであれば自分たちは急がないのでラウラたちの結婚式に専念して欲しいと伝えた後で「いや、急がないけど急ぎたさはあったな」と心の中でだけエルヴィンは思った。何せ婚約しなければニルスと最後までできない。そうなると正直なところできるのであれば今すぐにでも婚約したい。

 ……両家で簡単な食事会、くらいでいいのに……。

 まさかパーティーなどと、そんな大事になるつもりはなかった。それはニルスも同意見だと思っていたのだが、驚くことに違った。

「エルヴィンがしたいようでいいとは言ったが、お前の母親がそう願っているのなら婚約パーティーは盛大にしたほうがいい」
「ええ……何で」
「ノルデルハウゼン侯爵夫人がそうしたいのだろう? ならそうしてさしあげるべきだ」

 ニルスがエルヴィンに対して「こうするべき」と言うのは珍しい。よほどそうしたほうがいいということなのだろう。エルヴィンとてネスリンが喜ぶならそうすべきだとは思っている。ただ、自分としてはしたくない。

「でもニルスだってそういうの、あまり好きじゃないだろ?」
「俺は……」

 俺は、と口にした後ニルスは少し黙ってしまった。もしかして心の中でだけまた饒舌になっているのだろうか。

「……お前との婚約パーティーなら……問題ない」
「そうなの?」
「ああ。それよりも……」
「うん?」
「さっそくご両親に話してくれて、ありがとう」

 ニルスにありがとうと言われ、エルヴィンの顔が熱くなる。

「な、何だよ改まって。そんなことで礼言う必要ないだろ」
「そんなこと、ない。それに……嬉しい」

 表情だけ見ていたらちっともにこにこしていないが、言葉の雰囲気からニルスが多分本当に嬉しく思っていることは伝わってきた。エルヴィンの顔がますます熱くなる。

「そ……、いや、うん。俺も認めてもらえて、嬉しい」

 認めてもらうのは認めてもらったが、それをヴィリーが知った時は少々、いや、わりと大変だった。

「あああああだから嫌だったんだ! ニルスが兄様に近づくのさえ!」
「ちょ、ヴィリー……何でそこまで嫌がるんだよ」

 家族での食事中に母親がとてつもなくにこやかにエルヴィンとニルスのことを話してきた時はヴィリーもさすがにここまで全否定ではなかった。

 笑顔はとてつもなく固まってたけどもな。

 ラウラが本当に嬉しそうに「お兄様、おめでとうございます。私、心から嬉しい」と言ってくれて改めて「俺の天使」とエルヴィンは心の中でラウラを抱擁しつつ笑顔で「ありがとうラウラ。そう言ってくれて俺も嬉しい」と返していた。だがヴィリーは固まった笑顔のまま無言だった。ウーヴェに「ヴィリー?」と呼びかけられると「ああ、何でもありません。少し驚いて。兄様が……そうですか。あっ、そういえば今日行っていた訓練の……」と父親と同じ仕事をしているのもあり、さも今確認する必要があるかのように質問していた。
 その後エルヴィンの部屋にやってきてから、思いきり心情を暴露してきた。

「嫌に決まってるでしょう……っ? 何が悲しくて俺の兄様がニルスと婚約しなければならないんです?」
「だから何でそんなにニルスが駄目なの」
「そりゃ見た目も家柄も本人の階級すらもいいですよ? ですがあいつ、何考えてるか全然わからないじゃないですか! にこりともしないし、無口すぎるし。第一男じゃないですか! 俺は、兄様にはもっと兄様にふさわしい綺麗な令嬢と一緒になって欲しいんです」

 同性云々以外に関しては否定のしようがない。ブローチという隠しアイテムを持っているエルヴィンですら、最近は多少ニルスの考えていることがわかるようになった気がする程度である。他の人ならもっとわからないのだろう。

「性別は関係ないだろ」
「ありますよ! 兄様そっくりな俺の姪や甥を抱っこできないんですよっ?」
「ぅ……。それに関しては……まぁ、ごめん」
「そんなやつと一緒になって兄様が幸せになる保証なんてどこにもない! それに得体が知れなさ過ぎます。もし変態的な嗜好の持ち主だったらどうするんですか」
「何てこと言うんだよ……。それにニルスにそんな嗜好ないよ」

 むしろ多少あってもいいくらい、まともというか真面目というか。そりゃいざエッチなことし始めると俺と同じ童貞とは思えないほど結構……じゃなくて!

 ついニルスとの行為を思い出してしまい顔が熱くなる。ヴィリーはそんなエルヴィンをじろりと見てきた。
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