170 / 193
170話
しおりを挟む
ニルスのことを両親に打ち明けてしまうと、その後は自分ではどうしようもない勢いで話がとんとん拍子に進むこととなった。エルヴィンとしては取り残されたような気持ちさえ感じている。あれほどラウラとニアキスの結婚準備を嬉しく思いつつも「ほんとお疲れ様だな……」と少し離れたところで眺めていたというのに、自分も気づけば同じような状況にさせられているというのだろうか。
ならいっそ、ラウラたちの結婚パーティーのついでにエルヴィンとニルスの婚約パーティーをすればいいのではと周りに提案したが、即却下された。エルヴィンとしては結婚するラウラたちの影に少しでも隠れられればと思っていただけに残念だった。
一緒にできないのであれば自分たちは急がないのでラウラたちの結婚式に専念して欲しいと伝えた後で「いや、急がないけど急ぎたさはあったな」と心の中でだけエルヴィンは思った。何せ婚約しなければニルスと最後までできない。そうなると正直なところできるのであれば今すぐにでも婚約したい。
……両家で簡単な食事会、くらいでいいのに……。
まさかパーティーなどと、そんな大事になるつもりはなかった。それはニルスも同意見だと思っていたのだが、驚くことに違った。
「エルヴィンがしたいようでいいとは言ったが、お前の母親がそう願っているのなら婚約パーティーは盛大にしたほうがいい」
「ええ……何で」
「ノルデルハウゼン侯爵夫人がそうしたいのだろう? ならそうしてさしあげるべきだ」
ニルスがエルヴィンに対して「こうするべき」と言うのは珍しい。よほどそうしたほうがいいということなのだろう。エルヴィンとてネスリンが喜ぶならそうすべきだとは思っている。ただ、自分としてはしたくない。
「でもニルスだってそういうの、あまり好きじゃないだろ?」
「俺は……」
俺は、と口にした後ニルスは少し黙ってしまった。もしかして心の中でだけまた饒舌になっているのだろうか。
「……お前との婚約パーティーなら……問題ない」
「そうなの?」
「ああ。それよりも……」
「うん?」
「さっそくご両親に話してくれて、ありがとう」
ニルスにありがとうと言われ、エルヴィンの顔が熱くなる。
「な、何だよ改まって。そんなことで礼言う必要ないだろ」
「そんなこと、ない。それに……嬉しい」
表情だけ見ていたらちっともにこにこしていないが、言葉の雰囲気からニルスが多分本当に嬉しく思っていることは伝わってきた。エルヴィンの顔がますます熱くなる。
「そ……、いや、うん。俺も認めてもらえて、嬉しい」
認めてもらうのは認めてもらったが、それをヴィリーが知った時は少々、いや、わりと大変だった。
「あああああだから嫌だったんだ! ニルスが兄様に近づくのさえ!」
「ちょ、ヴィリー……何でそこまで嫌がるんだよ」
家族での食事中に母親がとてつもなくにこやかにエルヴィンとニルスのことを話してきた時はヴィリーもさすがにここまで全否定ではなかった。
笑顔はとてつもなく固まってたけどもな。
ラウラが本当に嬉しそうに「お兄様、おめでとうございます。私、心から嬉しい」と言ってくれて改めて「俺の天使」とエルヴィンは心の中でラウラを抱擁しつつ笑顔で「ありがとうラウラ。そう言ってくれて俺も嬉しい」と返していた。だがヴィリーは固まった笑顔のまま無言だった。ウーヴェに「ヴィリー?」と呼びかけられると「ああ、何でもありません。少し驚いて。兄様が……そうですか。あっ、そういえば今日行っていた訓練の……」と父親と同じ仕事をしているのもあり、さも今確認する必要があるかのように質問していた。
その後エルヴィンの部屋にやってきてから、思いきり心情を暴露してきた。
「嫌に決まってるでしょう……っ? 何が悲しくて俺の兄様がニルスと婚約しなければならないんです?」
「だから何でそんなにニルスが駄目なの」
「そりゃ見た目も家柄も本人の階級すらもいいですよ? ですがあいつ、何考えてるか全然わからないじゃないですか! にこりともしないし、無口すぎるし。第一男じゃないですか! 俺は、兄様にはもっと兄様にふさわしい綺麗な令嬢と一緒になって欲しいんです」
同性云々以外に関しては否定のしようがない。ブローチという隠しアイテムを持っているエルヴィンですら、最近は多少ニルスの考えていることがわかるようになった気がする程度である。他の人ならもっとわからないのだろう。
「性別は関係ないだろ」
「ありますよ! 兄様そっくりな俺の姪や甥を抱っこできないんですよっ?」
「ぅ……。それに関しては……まぁ、ごめん」
「そんなやつと一緒になって兄様が幸せになる保証なんてどこにもない! それに得体が知れなさ過ぎます。もし変態的な嗜好の持ち主だったらどうするんですか」
「何てこと言うんだよ……。それにニルスにそんな嗜好ないよ」
むしろ多少あってもいいくらい、まともというか真面目というか。そりゃいざエッチなことし始めると俺と同じ童貞とは思えないほど結構……じゃなくて!
ついニルスとの行為を思い出してしまい顔が熱くなる。ヴィリーはそんなエルヴィンをじろりと見てきた。
ならいっそ、ラウラたちの結婚パーティーのついでにエルヴィンとニルスの婚約パーティーをすればいいのではと周りに提案したが、即却下された。エルヴィンとしては結婚するラウラたちの影に少しでも隠れられればと思っていただけに残念だった。
一緒にできないのであれば自分たちは急がないのでラウラたちの結婚式に専念して欲しいと伝えた後で「いや、急がないけど急ぎたさはあったな」と心の中でだけエルヴィンは思った。何せ婚約しなければニルスと最後までできない。そうなると正直なところできるのであれば今すぐにでも婚約したい。
……両家で簡単な食事会、くらいでいいのに……。
まさかパーティーなどと、そんな大事になるつもりはなかった。それはニルスも同意見だと思っていたのだが、驚くことに違った。
「エルヴィンがしたいようでいいとは言ったが、お前の母親がそう願っているのなら婚約パーティーは盛大にしたほうがいい」
「ええ……何で」
「ノルデルハウゼン侯爵夫人がそうしたいのだろう? ならそうしてさしあげるべきだ」
ニルスがエルヴィンに対して「こうするべき」と言うのは珍しい。よほどそうしたほうがいいということなのだろう。エルヴィンとてネスリンが喜ぶならそうすべきだとは思っている。ただ、自分としてはしたくない。
「でもニルスだってそういうの、あまり好きじゃないだろ?」
「俺は……」
俺は、と口にした後ニルスは少し黙ってしまった。もしかして心の中でだけまた饒舌になっているのだろうか。
「……お前との婚約パーティーなら……問題ない」
「そうなの?」
「ああ。それよりも……」
「うん?」
「さっそくご両親に話してくれて、ありがとう」
ニルスにありがとうと言われ、エルヴィンの顔が熱くなる。
「な、何だよ改まって。そんなことで礼言う必要ないだろ」
「そんなこと、ない。それに……嬉しい」
表情だけ見ていたらちっともにこにこしていないが、言葉の雰囲気からニルスが多分本当に嬉しく思っていることは伝わってきた。エルヴィンの顔がますます熱くなる。
「そ……、いや、うん。俺も認めてもらえて、嬉しい」
認めてもらうのは認めてもらったが、それをヴィリーが知った時は少々、いや、わりと大変だった。
「あああああだから嫌だったんだ! ニルスが兄様に近づくのさえ!」
「ちょ、ヴィリー……何でそこまで嫌がるんだよ」
家族での食事中に母親がとてつもなくにこやかにエルヴィンとニルスのことを話してきた時はヴィリーもさすがにここまで全否定ではなかった。
笑顔はとてつもなく固まってたけどもな。
ラウラが本当に嬉しそうに「お兄様、おめでとうございます。私、心から嬉しい」と言ってくれて改めて「俺の天使」とエルヴィンは心の中でラウラを抱擁しつつ笑顔で「ありがとうラウラ。そう言ってくれて俺も嬉しい」と返していた。だがヴィリーは固まった笑顔のまま無言だった。ウーヴェに「ヴィリー?」と呼びかけられると「ああ、何でもありません。少し驚いて。兄様が……そうですか。あっ、そういえば今日行っていた訓練の……」と父親と同じ仕事をしているのもあり、さも今確認する必要があるかのように質問していた。
その後エルヴィンの部屋にやってきてから、思いきり心情を暴露してきた。
「嫌に決まってるでしょう……っ? 何が悲しくて俺の兄様がニルスと婚約しなければならないんです?」
「だから何でそんなにニルスが駄目なの」
「そりゃ見た目も家柄も本人の階級すらもいいですよ? ですがあいつ、何考えてるか全然わからないじゃないですか! にこりともしないし、無口すぎるし。第一男じゃないですか! 俺は、兄様にはもっと兄様にふさわしい綺麗な令嬢と一緒になって欲しいんです」
同性云々以外に関しては否定のしようがない。ブローチという隠しアイテムを持っているエルヴィンですら、最近は多少ニルスの考えていることがわかるようになった気がする程度である。他の人ならもっとわからないのだろう。
「性別は関係ないだろ」
「ありますよ! 兄様そっくりな俺の姪や甥を抱っこできないんですよっ?」
「ぅ……。それに関しては……まぁ、ごめん」
「そんなやつと一緒になって兄様が幸せになる保証なんてどこにもない! それに得体が知れなさ過ぎます。もし変態的な嗜好の持ち主だったらどうするんですか」
「何てこと言うんだよ……。それにニルスにそんな嗜好ないよ」
むしろ多少あってもいいくらい、まともというか真面目というか。そりゃいざエッチなことし始めると俺と同じ童貞とは思えないほど結構……じゃなくて!
ついニルスとの行為を思い出してしまい顔が熱くなる。ヴィリーはそんなエルヴィンをじろりと見てきた。
0
お気に入りに追加
506
あなたにおすすめの小説


新しい道を歩み始めた貴方へ
mahiro
BL
今から14年前、関係を秘密にしていた恋人が俺の存在を忘れた。
そのことにショックを受けたが、彼の家族や友人たちが集まりかけている中で、いつまでもその場に居座り続けるわけにはいかず去ることにした。
その後、恋人は訳あってその地を離れることとなり、俺のことを忘れたまま去って行った。
あれから恋人とは一度も会っておらず、月日が経っていた。
あるとき、いつものように仕事場に向かっているといきなり真上に明るい光が降ってきて……?
※沢山のお気に入り登録ありがとうございます。深く感謝申し上げます。
秘花~王太子の秘密と宿命の皇女~
めぐみ
BL
☆俺はお前を何度も抱き、俺なしではいられぬ淫らな身体にする。宿命という名の数奇な運命に翻弄される王子達☆
―俺はそなたを玩具だと思ったことはなかった。ただ、そなたの身体は俺のものだ。俺はそなたを何度でも抱き、俺なしではいられないような淫らな身体にする。抱き潰すくらいに抱けば、そなたもあの宦官のことなど思い出しもしなくなる。―
モンゴル大帝国の皇帝を祖父に持ちモンゴル帝国直系の皇女を生母として生まれた彼は、生まれながらの高麗の王太子だった。
だが、そんな王太子の運命を激変させる出来事が起こった。
そう、あの「秘密」が表に出るまでは。

心からの愛してる
マツユキ
BL
転入生が来た事により一人になってしまった結良。仕事に追われる日々が続く中、ついに体力の限界で倒れてしまう。過労がたたり数日入院している間にリコールされてしまい、あろうことか仕事をしていなかったのは結良だと噂で学園中に広まってしまっていた。
全寮制男子校
嫌われから固定で溺愛目指して頑張ります
※話の内容は全てフィクションになります。現実世界ではありえない設定等ありますのでご了承ください
君に望むは僕の弔辞
爺誤
BL
僕は生まれつき身体が弱かった。父の期待に応えられなかった僕は屋敷のなかで打ち捨てられて、早く死んでしまいたいばかりだった。姉の成人で賑わう屋敷のなか、鍵のかけられた部屋で悲しみに押しつぶされかけた僕は、迷い込んだ客人に外に出してもらった。そこで自分の可能性を知り、希望を抱いた……。
全9話
匂わせBL(エ◻︎なし)。死ネタ注意
表紙はあいえだ様!!
小説家になろうにも投稿
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる