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164話
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とりあえず手を離すと、エルヴィンはブローチを外した。そしてまたケースにしまう。
「……何故?」
ニルスから怪訝そうな響きしかない言葉を頂き、エルヴィンはとりあえず微笑んだ。自分ではとてもうさんくさい笑みなのではと内心思う。
「考えたら制服に装飾品はどうかなと思えてきて」
心苦しい言い訳だし、笑顔で誤魔化すところはまるでリックのようで微妙な気持ちになる。もちろんリックがどうこうというわけではなく、普段リックの性格について本人にも直接「どうかと思う」的なことを言っているどの口で微笑み、言い訳するのかと思ってしまうからだ。だがニルスはまた「そうか」と頷いてきただけだった。
「……なあ、ニルス」
「うん」
「お前、俺に対して否定的な気持ちとか意見ってないの?」
「ない」
即答ですか、そうですか。
「や、でもほら、いくら恋人だって言ってもあくまでも他人だろ? 自分ではない存在だろ? 自分と全く何もかも一致なんてするわけないだろ? 何だか違うとか、変だとか、そんな軽い程度ですら、ないの?」
「違うと思ったら口にする」
確かにニルスの性格ならそうだろうと思う。他人に気を使いすぎてしたいようにできないニルスは寡黙ながらに想像できない。とはいえ自分には当てはまらないのではとも思う。
「いや、俺にしたことあったか……?」
「どうだろう。あるんじゃない、だろうか?」
「疑問形」
「何故そんなことを聞く?」
だいたいにおいて「そうか」と返ってくるからだよと言いたいところだが、もし口にしてニルスが次に何か返事してくる時、無理に答えようとされてもそれはそれで困る。困るというか、嫌だ。心の中は饒舌だろうが、基本的に言葉数は圧倒的に少ないニルスに話すことを強要するようで嫌だし、それが原因でエルヴィンと接することに疲れられたらもっと嫌だ。
「別に。ただ、俺はお前の恋人だから……その、思ってることは言える範囲で言って欲しいし、でも無理はして欲しくないし、何て言うか、とにかくもっと自由に好きにふるまって欲しい」
「……はぁ」
何故ここでため息、と思いそうだが、心の中を申し訳ないながらに何度か聞かせてもらっているエルヴィンは何となくわかるような気がした。自意識過剰かもしれないが大したことを言っていない今のエルヴィンの言葉ですら心の中で「かわいい」と思われてそうだ。それでため息が漏れてた可能性が少なくない気がする。
わかったようなこと、思ってるけど……それでも俺はまだまだニルスを把握しきれてはいないんだろうな。
少なくともリックよりは把握できていなさそうだ。リックはブローチなどなくてもニルスのことを何でもわかっていそうな気がする。
「ずるいよな、リックは」
「……何故リック?」
「あ、ち、違う。間違い」
「そう、か?」
さすがに今の「そうか」には疑問形が含まれていた気がする。思わずエルヴィンは少し笑ってしまい、ニルスからおそらく怪訝そうな顔をされた。
「気にしないで」
「わかった。あと、無理してないし俺はいつも自由にふるまってる」
「なら、よかった」
「うん」
二人で顔を合わせ微笑み合った。というか実際微笑んだのはエルヴィンだけだが、多分ニルスも微笑むような気持でいてくれていると思う。多分。
というか、また少々本筋から逸れてきている気がしないか?
エルヴィンはハッとなり、笑みを浮かべた顔のままニルスを見上げた。
「どうした?」
「……と、とにかく。えっとニルスから聞いた話だとそ、そ、挿入は、してない、んだな」
「ああ」
「俺にまともな意識がなかったから、だよな?」
「ああ」
じゃあ?
エルヴィンは鼓動が早くなるのを感じる。
「じゃ、じゃあ次そういうことする機会があったら、俺らは最後まで、その……、す、する?」
言った。
言ってやった。
グッジョブ、俺。
いや、元々は昨日何されたのかをできれば確認したかっただけなのだが、それに関してはやはりニルスに明確なところを聞くのは酷だろう。自分が言う側になって心底思ったし、多分聞く側としても耐えられそうにない。羞恥だけでなく、ニルスの口からそんなことを言わせているということに対して罪悪感と共に謎の興奮が湧き起こりそうだ。
どのみち何されたかはわからないものの、自分がおそらく馬鹿みたいに何度も射精したことだけは、居たたまれないけれどもわかった。あと、尻に違和感がある気がしたのは気のせいだし挿入はなかった。
元々確認したかったことは一応それなりに確認できた気がする。その上で何より今後求めていることを聞けた。いい仕事を間違いなく、した。
「……それは……、いや」
いや?
え、今、いやって言った?
それとも口ごもっただけ?
だ、だよな?
だってしたくない男なんて、いる?
だが続きを待っても続きは供給されない。
「……えっと、ニルス? いやって、どういう……?」
「次の機会に最後まで、しない」
「何でだよ……!」
いつもなら心の中でだけに留めている声が思わず漏れた。とはいえ別にニルスは気を悪くした様子もなく「それは……お前を大事にしたいからだ」と予想以上に真面目な答えが返ってきた。
「……何故?」
ニルスから怪訝そうな響きしかない言葉を頂き、エルヴィンはとりあえず微笑んだ。自分ではとてもうさんくさい笑みなのではと内心思う。
「考えたら制服に装飾品はどうかなと思えてきて」
心苦しい言い訳だし、笑顔で誤魔化すところはまるでリックのようで微妙な気持ちになる。もちろんリックがどうこうというわけではなく、普段リックの性格について本人にも直接「どうかと思う」的なことを言っているどの口で微笑み、言い訳するのかと思ってしまうからだ。だがニルスはまた「そうか」と頷いてきただけだった。
「……なあ、ニルス」
「うん」
「お前、俺に対して否定的な気持ちとか意見ってないの?」
「ない」
即答ですか、そうですか。
「や、でもほら、いくら恋人だって言ってもあくまでも他人だろ? 自分ではない存在だろ? 自分と全く何もかも一致なんてするわけないだろ? 何だか違うとか、変だとか、そんな軽い程度ですら、ないの?」
「違うと思ったら口にする」
確かにニルスの性格ならそうだろうと思う。他人に気を使いすぎてしたいようにできないニルスは寡黙ながらに想像できない。とはいえ自分には当てはまらないのではとも思う。
「いや、俺にしたことあったか……?」
「どうだろう。あるんじゃない、だろうか?」
「疑問形」
「何故そんなことを聞く?」
だいたいにおいて「そうか」と返ってくるからだよと言いたいところだが、もし口にしてニルスが次に何か返事してくる時、無理に答えようとされてもそれはそれで困る。困るというか、嫌だ。心の中は饒舌だろうが、基本的に言葉数は圧倒的に少ないニルスに話すことを強要するようで嫌だし、それが原因でエルヴィンと接することに疲れられたらもっと嫌だ。
「別に。ただ、俺はお前の恋人だから……その、思ってることは言える範囲で言って欲しいし、でも無理はして欲しくないし、何て言うか、とにかくもっと自由に好きにふるまって欲しい」
「……はぁ」
何故ここでため息、と思いそうだが、心の中を申し訳ないながらに何度か聞かせてもらっているエルヴィンは何となくわかるような気がした。自意識過剰かもしれないが大したことを言っていない今のエルヴィンの言葉ですら心の中で「かわいい」と思われてそうだ。それでため息が漏れてた可能性が少なくない気がする。
わかったようなこと、思ってるけど……それでも俺はまだまだニルスを把握しきれてはいないんだろうな。
少なくともリックよりは把握できていなさそうだ。リックはブローチなどなくてもニルスのことを何でもわかっていそうな気がする。
「ずるいよな、リックは」
「……何故リック?」
「あ、ち、違う。間違い」
「そう、か?」
さすがに今の「そうか」には疑問形が含まれていた気がする。思わずエルヴィンは少し笑ってしまい、ニルスからおそらく怪訝そうな顔をされた。
「気にしないで」
「わかった。あと、無理してないし俺はいつも自由にふるまってる」
「なら、よかった」
「うん」
二人で顔を合わせ微笑み合った。というか実際微笑んだのはエルヴィンだけだが、多分ニルスも微笑むような気持でいてくれていると思う。多分。
というか、また少々本筋から逸れてきている気がしないか?
エルヴィンはハッとなり、笑みを浮かべた顔のままニルスを見上げた。
「どうした?」
「……と、とにかく。えっとニルスから聞いた話だとそ、そ、挿入は、してない、んだな」
「ああ」
「俺にまともな意識がなかったから、だよな?」
「ああ」
じゃあ?
エルヴィンは鼓動が早くなるのを感じる。
「じゃ、じゃあ次そういうことする機会があったら、俺らは最後まで、その……、す、する?」
言った。
言ってやった。
グッジョブ、俺。
いや、元々は昨日何されたのかをできれば確認したかっただけなのだが、それに関してはやはりニルスに明確なところを聞くのは酷だろう。自分が言う側になって心底思ったし、多分聞く側としても耐えられそうにない。羞恥だけでなく、ニルスの口からそんなことを言わせているということに対して罪悪感と共に謎の興奮が湧き起こりそうだ。
どのみち何されたかはわからないものの、自分がおそらく馬鹿みたいに何度も射精したことだけは、居たたまれないけれどもわかった。あと、尻に違和感がある気がしたのは気のせいだし挿入はなかった。
元々確認したかったことは一応それなりに確認できた気がする。その上で何より今後求めていることを聞けた。いい仕事を間違いなく、した。
「……それは……、いや」
いや?
え、今、いやって言った?
それとも口ごもっただけ?
だ、だよな?
だってしたくない男なんて、いる?
だが続きを待っても続きは供給されない。
「……えっと、ニルス? いやって、どういう……?」
「次の機会に最後まで、しない」
「何でだよ……!」
いつもなら心の中でだけに留めている声が思わず漏れた。とはいえ別にニルスは気を悪くした様子もなく「それは……お前を大事にしたいからだ」と予想以上に真面目な答えが返ってきた。
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