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162話
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「違うのか?」
「違うな……」
ニルスの勘違いはわかった。だがこれではまだニルスが挿入について知っているかどうか決定打ではない。単なる勘違いなのか、知らないからその発想になったのか。あとついでに尻の違和感は何だったのか。
でもとりあえず今は別に尻は何ともない。尻の違和感はやっぱり気のせいだったんだろうな……。
知らない間に処女を失っていることは切ないと思ったくせに、自分の中のどこかでほんのりがっかりしている自分もいるようだ。とても微妙な気持ちになる。
「最後……? 最後」
ニルスは本当にわからないようだ。残念ながら、いや、挿入されていないのが残念ではなく、いや、少しだけなら残念かもしれないが、というか自分の感情がややこしい、とエルヴィンは心の中で突っ込んだ。とにかく、残念ながらニルスは男同士のセックスについて知らない可能性がかなり高くなってきた。
知らなければ教えればいいだけの話だけど……俺だって同性は未経験だし、このニルスに挿入について教えるとか何その拷問に近いプレイ。ハードル高すぎだろ……。
とはいえ尻の違和感は気のせいだとわかったし今はこれでよしとしておこうとエルヴィンは気を取り直した。
「ニルス、何かわかったし、質問はもうこれで……」
いいよと言いかけるとニルスが納得したといった顔を多分してきた。
「ああ、もしかして俺がお前に挿入したかと聞いたのだろうか。していない」
「何て?」
だってそんな風に返ってくるとは思わないだろ。
エルヴィンは顔を手で覆いながら首を振った。
いきなりのニルスによる「挿入したかどうか」について簡潔でいてストレートな返答に、思わず「何て」と口にしてしまったせいでもう一度ニルスに繰り返させてしまった。おかげ様で一気に顔が真っ赤になるのがわかったし動揺が過ぎて「あ、わ、いや、えっ、あっ」と訳のわからない挙動不審な反応をしてしまい、ますます顔は熱くなるしでこうして顔を覆っている。
「エルヴィン……大丈夫か?」
「ぐ、あいが悪くなったんじゃないから」
「うん、それはもう知っている。何故突然そんなに真っ赤になったのかはわからない、が……」
わからない?
何でだよ。お前が、エロいことなんて何も興味ありませんって風にしか見えないお前が、突然あまりにストレートに言ってきたからだろ……!
ギャップに悶えつつニルスの声で「挿入」などと言われて妙な興奮と羞恥に襲われ、おまけに普通なら口にしそうにないニルスに二度も言わせてしまった至らなさも相まってどうしようもない。
とはいえそれらを教える気はない。
「それは気にしないで」
「わかった」
「……はぁぁぁ……」
「……だが本当に大丈夫か?」
大丈夫、に見えない、んだろな。わかるよ、俺も自分で自分の挙動不審っぷりに引いてるし。
「大丈夫……」
「そうか」
先ほどからの素っ気ないとさえ言えるニルスの対応がむしろ好きだと思いつつ、エルヴィンは一旦冷静になるために何度か深呼吸を繰り返した。ニルスはどうやら深呼吸に気づいて待ってくれているみたいだ。何も言わず聞かず、ただ横に座っている。
やっぱ好きだな。
しみじみ思う。そしてまたあのニルスがニルスの声でニルスの口から「挿入」と言ったことを思い返して少々悶えてから、エルヴィンはようやく口を開いた。
「挿入とか、その、知ってた、んだな」
「? 普通は知らないのか?」
「はは。どうだろ。男女ならそうするものかなって何となく皆知るけど、男同士は俺もあまりわからないな。普通に誰もが知ってるのかもだし、抜きあうだけだろうとか思いそうだし、まさか尻使うとか思わないかもだし」
「…………そうか」
今の間は何だろう。俺の言葉に引いたとか? それとも……いやいやニルスが俺みたいに、俺がそういうこと言ったのに対してエッチなこと考えて例の言語化しない状態になるわけ、ない、よな? 多分。
また少しブローチを使いたくなったが、今こそ使ったら反則だろう。
「でも何で知ってるなら俺が言った、最後までっての、意味わからなさそうだったんだ?」
「昨夜はお前を射精させるために……」
ニルスが言いかけた言葉にエルヴィンは思わずむせた。
「大丈夫か? あのフルーツのせいで、何か悪影響が……」
「出てない。それはもうびっくりするくらい元気だから。ほんと」
精神は少々擦り切れたりはしてるけどさ。
「そうか……よかった。……とにかく、セックスと昨夜のことを結び付けていなかった」
セックス。
ニルスの口からまたそんな言語を……俺はこんなに立て続けに耳にしちゃっていいの? 運使っちゃってない? 明日から不運続きとかじゃない?
「エルヴィン?」
「は……、あ、いや、大丈夫。っていうか結び付けないものなのか?」
とにかく、セックスと結び付けていないから「最後まで」の定義がすぐ浮かばなかったということだろうか。最後というのはエルヴィンが射精すること、ひいては果物の効用が抜けきることだと思ったのかもしれない。
「ああ」
「でもそういうこと、してるのに?」
「……ほぼ意識のないお前に対してそんな目で見ないよう……努力はした」
顔がまた熱い。エルヴィンはまた手で顔を覆った。
「えっと……あ、っていうか、ならニルスは男同士でも尻を使ってエッチするって把握してるってこと?」
「? 性別が関係あるのか?」
「うーん、どうだろ。でもほら、あまり浮かばないかもだろ」
「……よくわからないが、そうなのか」
「ニルスは何で知ってるの?」
「何を……? ああ、セックスについては性教育を……」
まさかの真面目な回答がきた。
「違うな……」
ニルスの勘違いはわかった。だがこれではまだニルスが挿入について知っているかどうか決定打ではない。単なる勘違いなのか、知らないからその発想になったのか。あとついでに尻の違和感は何だったのか。
でもとりあえず今は別に尻は何ともない。尻の違和感はやっぱり気のせいだったんだろうな……。
知らない間に処女を失っていることは切ないと思ったくせに、自分の中のどこかでほんのりがっかりしている自分もいるようだ。とても微妙な気持ちになる。
「最後……? 最後」
ニルスは本当にわからないようだ。残念ながら、いや、挿入されていないのが残念ではなく、いや、少しだけなら残念かもしれないが、というか自分の感情がややこしい、とエルヴィンは心の中で突っ込んだ。とにかく、残念ながらニルスは男同士のセックスについて知らない可能性がかなり高くなってきた。
知らなければ教えればいいだけの話だけど……俺だって同性は未経験だし、このニルスに挿入について教えるとか何その拷問に近いプレイ。ハードル高すぎだろ……。
とはいえ尻の違和感は気のせいだとわかったし今はこれでよしとしておこうとエルヴィンは気を取り直した。
「ニルス、何かわかったし、質問はもうこれで……」
いいよと言いかけるとニルスが納得したといった顔を多分してきた。
「ああ、もしかして俺がお前に挿入したかと聞いたのだろうか。していない」
「何て?」
だってそんな風に返ってくるとは思わないだろ。
エルヴィンは顔を手で覆いながら首を振った。
いきなりのニルスによる「挿入したかどうか」について簡潔でいてストレートな返答に、思わず「何て」と口にしてしまったせいでもう一度ニルスに繰り返させてしまった。おかげ様で一気に顔が真っ赤になるのがわかったし動揺が過ぎて「あ、わ、いや、えっ、あっ」と訳のわからない挙動不審な反応をしてしまい、ますます顔は熱くなるしでこうして顔を覆っている。
「エルヴィン……大丈夫か?」
「ぐ、あいが悪くなったんじゃないから」
「うん、それはもう知っている。何故突然そんなに真っ赤になったのかはわからない、が……」
わからない?
何でだよ。お前が、エロいことなんて何も興味ありませんって風にしか見えないお前が、突然あまりにストレートに言ってきたからだろ……!
ギャップに悶えつつニルスの声で「挿入」などと言われて妙な興奮と羞恥に襲われ、おまけに普通なら口にしそうにないニルスに二度も言わせてしまった至らなさも相まってどうしようもない。
とはいえそれらを教える気はない。
「それは気にしないで」
「わかった」
「……はぁぁぁ……」
「……だが本当に大丈夫か?」
大丈夫、に見えない、んだろな。わかるよ、俺も自分で自分の挙動不審っぷりに引いてるし。
「大丈夫……」
「そうか」
先ほどからの素っ気ないとさえ言えるニルスの対応がむしろ好きだと思いつつ、エルヴィンは一旦冷静になるために何度か深呼吸を繰り返した。ニルスはどうやら深呼吸に気づいて待ってくれているみたいだ。何も言わず聞かず、ただ横に座っている。
やっぱ好きだな。
しみじみ思う。そしてまたあのニルスがニルスの声でニルスの口から「挿入」と言ったことを思い返して少々悶えてから、エルヴィンはようやく口を開いた。
「挿入とか、その、知ってた、んだな」
「? 普通は知らないのか?」
「はは。どうだろ。男女ならそうするものかなって何となく皆知るけど、男同士は俺もあまりわからないな。普通に誰もが知ってるのかもだし、抜きあうだけだろうとか思いそうだし、まさか尻使うとか思わないかもだし」
「…………そうか」
今の間は何だろう。俺の言葉に引いたとか? それとも……いやいやニルスが俺みたいに、俺がそういうこと言ったのに対してエッチなこと考えて例の言語化しない状態になるわけ、ない、よな? 多分。
また少しブローチを使いたくなったが、今こそ使ったら反則だろう。
「でも何で知ってるなら俺が言った、最後までっての、意味わからなさそうだったんだ?」
「昨夜はお前を射精させるために……」
ニルスが言いかけた言葉にエルヴィンは思わずむせた。
「大丈夫か? あのフルーツのせいで、何か悪影響が……」
「出てない。それはもうびっくりするくらい元気だから。ほんと」
精神は少々擦り切れたりはしてるけどさ。
「そうか……よかった。……とにかく、セックスと昨夜のことを結び付けていなかった」
セックス。
ニルスの口からまたそんな言語を……俺はこんなに立て続けに耳にしちゃっていいの? 運使っちゃってない? 明日から不運続きとかじゃない?
「エルヴィン?」
「は……、あ、いや、大丈夫。っていうか結び付けないものなのか?」
とにかく、セックスと結び付けていないから「最後まで」の定義がすぐ浮かばなかったということだろうか。最後というのはエルヴィンが射精すること、ひいては果物の効用が抜けきることだと思ったのかもしれない。
「ああ」
「でもそういうこと、してるのに?」
「……ほぼ意識のないお前に対してそんな目で見ないよう……努力はした」
顔がまた熱い。エルヴィンはまた手で顔を覆った。
「えっと……あ、っていうか、ならニルスは男同士でも尻を使ってエッチするって把握してるってこと?」
「? 性別が関係あるのか?」
「うーん、どうだろ。でもほら、あまり浮かばないかもだろ」
「……よくわからないが、そうなのか」
「ニルスは何で知ってるの?」
「何を……? ああ、セックスについては性教育を……」
まさかの真面目な回答がきた。
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