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161話
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質問のことで言葉を濁しつつ逡巡しているエルヴィンに、ニルスは「うん」と頷いてくる。何だかそれが純粋そうに思えて、ますます言いにくい。
「その……まあ、その、えっと、あれだ。その……あーもう……えっとな、多分ニルスはザイフォンクプアスの効用を薄めるためにその、俺に触れてくれてたと、思うんだけど……」
ここまで言うことすら居たたまれなかった。「何してくれたのか教えてくれたら」などと、先ほどの自分は何てひどいことを頼んだのだろうとエルヴィンは吐血しそうなほど身というか精神を削られながら思う。
いっそただの友人同士ならもっと気さくに言えたかもしれないが、同性であろうが相手が自分の大好きな恋人となると全然話は別だ。
とりあえず何とかここまで言うと、ニルスがますます頭を抱えている。
「何で?」
「……いや……、ああ、うん……触れた。お前はほぼ意識なかったのに……本当にすまない」
「そうじゃないだろ、そうしてもらわないといけなかったんだ、もう絶対謝るなよ、いいな、絶対だから」
「…………わかった」
一瞬ブローチが今手元に欲しいと思った。リックからもらったケースは宝石の保存をするにも最適そうだったし、その中に入れておけば人の心を安易に読まないのならと、リックと別れてからまずブローチを入れ、今エルヴィンのポケットにそれは入っている。とはいえどのみち多分今のニルスの中身を覗いても「すまない」のオンパレードなのだろう。
頭を抱えていたニルスがようやくエルヴィンを見てくれるようになると、エルヴィンは改めて聞きたいことを言おうと試みる。
いや、頭抱えてくれてたほうがよかったかもこれ。
見られている状態で「俺に突っ込んだ?」的なことを聞くのはどうにも聞きづらい。
エルヴィンはそれとなく自然に見えるように「たまたま服の皺が気になって」風を装い、ニルスの視線から自分の顔をそらした。
「えっと、その……触れてくれた延長で、だな」
「……? ああ」
「その……最後まで、した?」
言えた。
心の中でガッツポーズをしたものの、ニルスから返事がない。どうしたんだろう、もしかして「そんなことを聞いてくるとは」といった風に引いているのだろうかとエルヴィンは恐る恐るニルスを見た。するとニルスがおそらく怪訝そうな顔をしているのに気づく。
「ニルス?」
「最後?」
「え?」
「……最後、まで……最後」
え、待って。もしかしてニルス……もしかして、ええ? もしかしてエッチの仕方知らない、とかじゃ……?
普段のニルスを見ていると確かに性的なことなど全く興味がないといった雰囲気を感じる。ニルスに性的な話を持ちかけても「どうでもいい」「不謹慎」などと一掃されそうな雰囲気を感じるというのだろうか。それもあってエルヴィンの同僚を含め、誰かがニルスに対してそういった話を持ちかけているところをエルヴィンは一切見たことがない。もちろんニルスが侯爵であり第二王子の補佐という立場のせいで近寄りがたいというのもあるかもしれないが、身分の違いだけではないだろう。
エルヴィンはニルスがそこまで凝り固まった保守的な人物ではないと知っている。実際のニルスは意外にも柔軟だったりする。ただ、そんなエルヴィンでもニルスとキスしたり抜きあったりした日のことを反芻するたび結構な意外性を感じてしまう。
それもあり、多分遡ってからのエルヴィン同様、童貞であろうニルスがセックスの仕方、それも男同士の仕方を知らない可能性が全くないとは断言できない。
遡る前に経験してる俺ですら、男同士のやり方なんて詳しく知らなかったし。
一応、軽い知識程度はあったものの、何となくぼんやりとしたものだった。今ではニルスと付き合うようになって好奇心で調べたり、また得たくもない情報をコルネリアによる本によって得たこともあり、おかげさまでずいぶん詳しくはなったかもしれないが。
だとしたら俺の尻はやっぱり気のせい、か。
意識を保ててない間に大好きな相手との初めてが終わっていたのは、いくら淑女ではなく紳士だろうが切ない。ホッとしかけたが、そうなった場合新たな問題が発生する。
ニルスが男同士は抜きあうだけで終了だと思ってたら……それはそれで切ないんだけど。
抜きあうだけでも十分なのかもしれない。欲深くさらに何かを求めるとろくなことはないだろう。だが、恋人にそれを求めたくなるのも仕方ない。
どっちが突っ込むのでもいいからさ……何だろな、挿入してこそ、みたいな先入観があるんだろうか、俺。
あと、認めたくはないがコルネリアに読まされた本では、男同士での挿入は入れるほうも入れられるほうも互いにとてもよさそうだった。もちろん物語だからだろうとも思うが、好奇心は疼く。
「あの……ニルス……? もしかして最後の意……」
「最後……とは、その……お前が……達するまで、という、意味だろうか? だとしたら、その……多分かなり、うん、何度もお前は達し……」
「あああああ!」
おずおずと確認しようとして、不意にあられもないことを聞かされそうになり思わずエルヴィンは声を上げていた。ニルスが真顔でびくりとしている。
「あ、いや……悪い。驚かすつもりじゃ……。あと、えっとな、そういう意味で言ったんじゃなくて、だな……」
そうか……俺、そんなに……? いや、ほんと居たたまれないんだけど。俺、ほんと何度イったの?
「その……まあ、その、えっと、あれだ。その……あーもう……えっとな、多分ニルスはザイフォンクプアスの効用を薄めるためにその、俺に触れてくれてたと、思うんだけど……」
ここまで言うことすら居たたまれなかった。「何してくれたのか教えてくれたら」などと、先ほどの自分は何てひどいことを頼んだのだろうとエルヴィンは吐血しそうなほど身というか精神を削られながら思う。
いっそただの友人同士ならもっと気さくに言えたかもしれないが、同性であろうが相手が自分の大好きな恋人となると全然話は別だ。
とりあえず何とかここまで言うと、ニルスがますます頭を抱えている。
「何で?」
「……いや……、ああ、うん……触れた。お前はほぼ意識なかったのに……本当にすまない」
「そうじゃないだろ、そうしてもらわないといけなかったんだ、もう絶対謝るなよ、いいな、絶対だから」
「…………わかった」
一瞬ブローチが今手元に欲しいと思った。リックからもらったケースは宝石の保存をするにも最適そうだったし、その中に入れておけば人の心を安易に読まないのならと、リックと別れてからまずブローチを入れ、今エルヴィンのポケットにそれは入っている。とはいえどのみち多分今のニルスの中身を覗いても「すまない」のオンパレードなのだろう。
頭を抱えていたニルスがようやくエルヴィンを見てくれるようになると、エルヴィンは改めて聞きたいことを言おうと試みる。
いや、頭抱えてくれてたほうがよかったかもこれ。
見られている状態で「俺に突っ込んだ?」的なことを聞くのはどうにも聞きづらい。
エルヴィンはそれとなく自然に見えるように「たまたま服の皺が気になって」風を装い、ニルスの視線から自分の顔をそらした。
「えっと、その……触れてくれた延長で、だな」
「……? ああ」
「その……最後まで、した?」
言えた。
心の中でガッツポーズをしたものの、ニルスから返事がない。どうしたんだろう、もしかして「そんなことを聞いてくるとは」といった風に引いているのだろうかとエルヴィンは恐る恐るニルスを見た。するとニルスがおそらく怪訝そうな顔をしているのに気づく。
「ニルス?」
「最後?」
「え?」
「……最後、まで……最後」
え、待って。もしかしてニルス……もしかして、ええ? もしかしてエッチの仕方知らない、とかじゃ……?
普段のニルスを見ていると確かに性的なことなど全く興味がないといった雰囲気を感じる。ニルスに性的な話を持ちかけても「どうでもいい」「不謹慎」などと一掃されそうな雰囲気を感じるというのだろうか。それもあってエルヴィンの同僚を含め、誰かがニルスに対してそういった話を持ちかけているところをエルヴィンは一切見たことがない。もちろんニルスが侯爵であり第二王子の補佐という立場のせいで近寄りがたいというのもあるかもしれないが、身分の違いだけではないだろう。
エルヴィンはニルスがそこまで凝り固まった保守的な人物ではないと知っている。実際のニルスは意外にも柔軟だったりする。ただ、そんなエルヴィンでもニルスとキスしたり抜きあったりした日のことを反芻するたび結構な意外性を感じてしまう。
それもあり、多分遡ってからのエルヴィン同様、童貞であろうニルスがセックスの仕方、それも男同士の仕方を知らない可能性が全くないとは断言できない。
遡る前に経験してる俺ですら、男同士のやり方なんて詳しく知らなかったし。
一応、軽い知識程度はあったものの、何となくぼんやりとしたものだった。今ではニルスと付き合うようになって好奇心で調べたり、また得たくもない情報をコルネリアによる本によって得たこともあり、おかげさまでずいぶん詳しくはなったかもしれないが。
だとしたら俺の尻はやっぱり気のせい、か。
意識を保ててない間に大好きな相手との初めてが終わっていたのは、いくら淑女ではなく紳士だろうが切ない。ホッとしかけたが、そうなった場合新たな問題が発生する。
ニルスが男同士は抜きあうだけで終了だと思ってたら……それはそれで切ないんだけど。
抜きあうだけでも十分なのかもしれない。欲深くさらに何かを求めるとろくなことはないだろう。だが、恋人にそれを求めたくなるのも仕方ない。
どっちが突っ込むのでもいいからさ……何だろな、挿入してこそ、みたいな先入観があるんだろうか、俺。
あと、認めたくはないがコルネリアに読まされた本では、男同士での挿入は入れるほうも入れられるほうも互いにとてもよさそうだった。もちろん物語だからだろうとも思うが、好奇心は疼く。
「あの……ニルス……? もしかして最後の意……」
「最後……とは、その……お前が……達するまで、という、意味だろうか? だとしたら、その……多分かなり、うん、何度もお前は達し……」
「あああああ!」
おずおずと確認しようとして、不意にあられもないことを聞かされそうになり思わずエルヴィンは声を上げていた。ニルスが真顔でびくりとしている。
「あ、いや……悪い。驚かすつもりじゃ……。あと、えっとな、そういう意味で言ったんじゃなくて、だな……」
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