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159話
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とはいえとてつもなく気になる。
君は何故これを俺に渡してきたの?
もしかしてエルヴィンとニルスの関係を何か察知しているのだろうか。もしくはコルネリアに限らず案外バレバレなのだろうか。それともニルスは関係なく、エルヴィンが同性を好みそうに見えるのだろうか。
結局何も聞けず悶々としているとコルネリアが愛らしい笑顔でエルヴィンを見てきた。
「あなたなら優しいから嫌々でも読んでくださるだろうし、それで幸いラウラがあなたを恋愛小説の世界にはめたようにはまってくださればと思って」
どうやらバレている心配はなさそうだと安心はした。
でも何その理由。それはそれで……!
エルヴィンからは何も言い返せなかった。
その時のことを思い出しながらエルヴィンはため息をつく。
読んじゃったしな……案外面白か……じゃなくて、もしあんなこととかそんなこととかニルスが俺にしてたならって思うだけでやばい。なのに俺は意識保ってられなくて全く記憶にないなんて……。
何てもったいないことを。
「エルヴィン? どうしたんだ、今にも崩れ落ちそうな顔して」
顔見知りの騎士に通りがかりに言われ、エルヴィンはハッとなった。
崩れ落ち……?
崩れ落ちそうな顔、とは。
一体自分はどんな顔をしていたというのかと、エルヴィンは焦りつつも微妙な気持ちになった。だが首を振る。
「い、いや。何でもない。それよりニルスを見なかったか?」
「カイセルヘルム侯爵か? 俺は見てないけど……お前ら、見たか?」
「いや」
「見てないな」
「っていうかカイセルヘルム侯爵だろ? なら第二王子殿下のそばにいるんじゃないのか?」
ですよね。そう思うよね。
ありがとう、と騎士たちに礼を言う前に他の騎士が思い出したようで、教えてくれた。
「あ、そういえば俺見てたわ。少し前だけど向こうでジェム卿と話をしてたと思う」
エルヴィンは侯爵家の長男のため父親の爵位号で呼ばれているが、ジェムは伯爵家の次男だか何だかなので、周りからも爵位号ではなく名前で呼ばれている。エルヴィンたちからすれば階級などもわかりやすいし当たり前の呼び方ではあるが、屋敷に仕えてくれている平民の使用人に以前「ややこしい」と言われたことがある。
「ややこしいの?」
「はっ、も、申し訳ありません。私は何て口を……」
「ううん、構わないよ。普段貴族以外の人と接することなんて君とかぐらいしかないから、他の文化とか知れて楽しいし。むしろ俺が失礼なこと、してなければいいけど」
「とんでもございません。エルヴィン様はとても気さくでいい方で、私はエルヴィン様の元で働けて本当……っえっと! 何でしたっけ、ええと、そうそう。呼び方ですが、平民の間ではだいたい名字や名前を呼び捨てだったり、さん付けやくん付けくらいですよ」
「でもそれだと地位とかごちゃごちゃにならない?」
「ふふ。そもそもそんな地位に大きな違いはありませんし、お金持ちの方はいらっしゃいますが、地位で言うならその方だってお金持ちの平民、ですし。そうですね、他に様を付けることはありますね」
そんな風に言っていた。親しい間柄なら貴族であってもお互い名前で呼び合ったりはするが、ということはジェムのことも平民だったならば皆「ジェムさん」「スラヴォナくん」といった風に呼ぶのだろう。ニルスも「ニルスくん」「ウィスラーさん」と呼ばれるというわけだ。
……ちょっとかわいいかも。
「エルヴィン?」
「え? あ、いや」
また考えが逸れていたようだ。エルヴィンは咳払いをした。
「ニルスたちはどこにいたって?」
「向こうだよ、あっち」
礼を言い教えてもらった方へ向かうも、ニルスもジェムもそこにはすでにいなかった。ただ二人が話していたということは、王子たちに関することか今回の事件のこと、もしくは派閥のことだろう。昨夜のことがあってついうっかりしていたが、考えなくともリックやニルスたちは今、忙しいはずだ。
それを俺の私的なことで邪魔するわけにいかないよな。
探すのは諦めて、今日は悶々としても何とか考えないようにして眠るしかないなとエルヴィンはため息をついた。そして自分の家へ帰ろうとした時背後から「エルヴィン?」と名前を呼ばれた。
「……探すの諦めた途端、見つかるというか、見つけてもらえるとか何だろな。絶対こういうの法則あるよな……」
「何の話だ?」
呟くように言ったが、近づいてきていたニルスに一応聞こえていたようだ。むしろ怪訝な顔で見られた。エルヴィンもニルスの顔を見上げる。
……うわ。ちょっと居たたまれないのと恥ずかしいな。何してもらったのかわからないだけに、よかったのか悪かったのか……。
「……あまり赤い顔で見てくるな」
ニルスが少し顔をそらしながら呟いてきた。そう言うニルスは全然赤らめていないし、いつもと変わらないように見える。とはいえ多分困惑か何かはしているのだろう。
「って、俺、顔赤くなってた?」
「……ああ」
「そ、っか。多分それは昨日のことを思ってだよ」
「……っ覚えてるの、か?」
珍しくニルスの表情が少し大きめに動いた。よほど驚くなり何なりしたのだろう。
「お、ぼえてないけど……リックから、ニルスが助けてくれたって聞いたから……」
「そ、うか。……その、すまない」
また少し顔をそらしつつ、ニルスが謝ってきた。エルヴィンは慌ててニルスの胸元あたりの服をつかみ、自分の方へ向かせた。
「何で謝るんだ。謝るなら俺だろ!」
「いや、エルヴィンは悪くない」
「ならニルスのがもっと悪くないだろ!」
「何だ、喧嘩か?」
言い合っているように見えたのだろう。何人かがエルヴィンたちに近づいてきた。
君は何故これを俺に渡してきたの?
もしかしてエルヴィンとニルスの関係を何か察知しているのだろうか。もしくはコルネリアに限らず案外バレバレなのだろうか。それともニルスは関係なく、エルヴィンが同性を好みそうに見えるのだろうか。
結局何も聞けず悶々としているとコルネリアが愛らしい笑顔でエルヴィンを見てきた。
「あなたなら優しいから嫌々でも読んでくださるだろうし、それで幸いラウラがあなたを恋愛小説の世界にはめたようにはまってくださればと思って」
どうやらバレている心配はなさそうだと安心はした。
でも何その理由。それはそれで……!
エルヴィンからは何も言い返せなかった。
その時のことを思い出しながらエルヴィンはため息をつく。
読んじゃったしな……案外面白か……じゃなくて、もしあんなこととかそんなこととかニルスが俺にしてたならって思うだけでやばい。なのに俺は意識保ってられなくて全く記憶にないなんて……。
何てもったいないことを。
「エルヴィン? どうしたんだ、今にも崩れ落ちそうな顔して」
顔見知りの騎士に通りがかりに言われ、エルヴィンはハッとなった。
崩れ落ち……?
崩れ落ちそうな顔、とは。
一体自分はどんな顔をしていたというのかと、エルヴィンは焦りつつも微妙な気持ちになった。だが首を振る。
「い、いや。何でもない。それよりニルスを見なかったか?」
「カイセルヘルム侯爵か? 俺は見てないけど……お前ら、見たか?」
「いや」
「見てないな」
「っていうかカイセルヘルム侯爵だろ? なら第二王子殿下のそばにいるんじゃないのか?」
ですよね。そう思うよね。
ありがとう、と騎士たちに礼を言う前に他の騎士が思い出したようで、教えてくれた。
「あ、そういえば俺見てたわ。少し前だけど向こうでジェム卿と話をしてたと思う」
エルヴィンは侯爵家の長男のため父親の爵位号で呼ばれているが、ジェムは伯爵家の次男だか何だかなので、周りからも爵位号ではなく名前で呼ばれている。エルヴィンたちからすれば階級などもわかりやすいし当たり前の呼び方ではあるが、屋敷に仕えてくれている平民の使用人に以前「ややこしい」と言われたことがある。
「ややこしいの?」
「はっ、も、申し訳ありません。私は何て口を……」
「ううん、構わないよ。普段貴族以外の人と接することなんて君とかぐらいしかないから、他の文化とか知れて楽しいし。むしろ俺が失礼なこと、してなければいいけど」
「とんでもございません。エルヴィン様はとても気さくでいい方で、私はエルヴィン様の元で働けて本当……っえっと! 何でしたっけ、ええと、そうそう。呼び方ですが、平民の間ではだいたい名字や名前を呼び捨てだったり、さん付けやくん付けくらいですよ」
「でもそれだと地位とかごちゃごちゃにならない?」
「ふふ。そもそもそんな地位に大きな違いはありませんし、お金持ちの方はいらっしゃいますが、地位で言うならその方だってお金持ちの平民、ですし。そうですね、他に様を付けることはありますね」
そんな風に言っていた。親しい間柄なら貴族であってもお互い名前で呼び合ったりはするが、ということはジェムのことも平民だったならば皆「ジェムさん」「スラヴォナくん」といった風に呼ぶのだろう。ニルスも「ニルスくん」「ウィスラーさん」と呼ばれるというわけだ。
……ちょっとかわいいかも。
「エルヴィン?」
「え? あ、いや」
また考えが逸れていたようだ。エルヴィンは咳払いをした。
「ニルスたちはどこにいたって?」
「向こうだよ、あっち」
礼を言い教えてもらった方へ向かうも、ニルスもジェムもそこにはすでにいなかった。ただ二人が話していたということは、王子たちに関することか今回の事件のこと、もしくは派閥のことだろう。昨夜のことがあってついうっかりしていたが、考えなくともリックやニルスたちは今、忙しいはずだ。
それを俺の私的なことで邪魔するわけにいかないよな。
探すのは諦めて、今日は悶々としても何とか考えないようにして眠るしかないなとエルヴィンはため息をついた。そして自分の家へ帰ろうとした時背後から「エルヴィン?」と名前を呼ばれた。
「……探すの諦めた途端、見つかるというか、見つけてもらえるとか何だろな。絶対こういうの法則あるよな……」
「何の話だ?」
呟くように言ったが、近づいてきていたニルスに一応聞こえていたようだ。むしろ怪訝な顔で見られた。エルヴィンもニルスの顔を見上げる。
……うわ。ちょっと居たたまれないのと恥ずかしいな。何してもらったのかわからないだけに、よかったのか悪かったのか……。
「……あまり赤い顔で見てくるな」
ニルスが少し顔をそらしながら呟いてきた。そう言うニルスは全然赤らめていないし、いつもと変わらないように見える。とはいえ多分困惑か何かはしているのだろう。
「って、俺、顔赤くなってた?」
「……ああ」
「そ、っか。多分それは昨日のことを思ってだよ」
「……っ覚えてるの、か?」
珍しくニルスの表情が少し大きめに動いた。よほど驚くなり何なりしたのだろう。
「お、ぼえてないけど……リックから、ニルスが助けてくれたって聞いたから……」
「そ、うか。……その、すまない」
また少し顔をそらしつつ、ニルスが謝ってきた。エルヴィンは慌ててニルスの胸元あたりの服をつかみ、自分の方へ向かせた。
「何で謝るんだ。謝るなら俺だろ!」
「いや、エルヴィンは悪くない」
「ならニルスのがもっと悪くないだろ!」
「何だ、喧嘩か?」
言い合っているように見えたのだろう。何人かがエルヴィンたちに近づいてきた。
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