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157話
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聞きたいこと。
ほんの微かとはいえ、尻に感じる違和感。
これの正体が知りたい。
俺はニルスと最後までしたの? それともたまたま違和感ある気がするだけで、単なる気のせいなの?
果物のおかげで最後までできたというのはあまりありがたくない。おまけに最後までできたのだとしても記憶に全くないのも悲しい。
とはいえ、もし最後までしたのなら、それはそれで、とも思おうと思えば、思える。
だって尻の穴だし。元々受け入れるものが存在している女性ですら最初は痛いらしいのに、尻の穴だし。
訳がわからない内に一番痛い思いが終わってしまえるのなら、それもありだと考えてしまうのは仕方ないことだとエルヴィンは思う。というか、ニルスとの初めてが果物の影響によるもので、しかも記憶にないのは心底切ないが、そういう利点もあるしと思うしかない。
それに……もし俺と最後までするのに今まで躊躇とかニルスにあったりしても、今回のことで仕方ないながらでも、既成事実ができたわけだ。その場合、一回したらもういいよね的な感じで次もチャンスあるかもだし。
少々考え方がネガティブな気もせんでもないが、仕方ない。これでも前向きなつもりだ。
その後改めてリックに礼を言うと、エルヴィンはとりあえず一旦帰宅することにした。ちなみにエルヴィンはリックの仕事絡みで帰宅できていないことになっているらしい。家族に心配をかけない配慮はありがたいものの、実際どうだったかを思えば少々居たたまれない。あと昨日と同じ服で今日一日仕事をしても構わないが、エルヴィンとしてはできれば避けたい。
だってどうしたって思い出してしまうだろ……。
どのみち昨日着ていた制服は見当たらず、やはり一旦帰るしかなさそうだった。
制服の予備がロッカーにあるにはあるけど……。
リックに聞くと「俺はその場にいなかったからねえ」と苦笑された。
「確かに……」
「汚れちゃったから洗濯にでも出したんじゃない? ニルスが」
「汚れたって……、……あ、ぅ」
汚した覚えは、と思ったエルヴィンの頭にもすぐ浮かんだ。昨日の状況からして一択しかないではないか。
「はは。真っ赤になってる」
「うるさいんですよリック」
「俺、王子様なのに俺の護衛騎士にうるさいって言われた」
「……勝手な時だけ王子ぶるのやめてください。っていうか護衛騎士は旅の間だけでは」
「何でそう思ったの?」
リックがあからさまに嘘くさい満面の笑みを浮かべてエルヴィンを見てくる。
「……そういう話だったのでは?」
「旅の間だけって俺、言ったっけ?」
「おっしゃ……い、まし……た」
ような、気が、する。
正直、改めてそう言われると自信はない。護衛騎士の話をされた時の会話を思い出せないわけではないが、一語一句事細かく全て覚えてなどいない。
「あはは。自信なさげだねえ。相変わらず君はわかりやすい」
「うるさいんですよ」
「またうるさい、言われちゃった。確かに旅の付き添いを頼みはしたけど、護衛騎士が旅の間だけだとは一言も言ってないよね」
「……詐欺だ」
じろりとリックを見ると笑われた。
「かしこまりすぎだし真面目だし、なエルヴィンだけど、たまにとてつもなく失礼だよね。まあそういう部分が俺、好きだけど」
リックに好きと言われ、少しドキリとした。いつものうさんくさい言い方ではなく、とてもストレートにエルヴィンの中に入ってきたからだろう。
「王子やってるとね、言葉尻を捕らえたりいいように利用することくらいできないとやってられないんだよ」
多分本当のことだろうし、それを突き詰めなくとも日々のストレスも結構あるのだろうなとエルヴィンは思う。ただの貴族でしかないエルヴィンでさえ、貴族社会でうまく生きていくにはそれなりに気を張ることもある。
とはいえ。
「そうかもですが、普通俺にまでそれ、当てはめてきます?」
「あはは」
「笑いごとじゃないんですけど」
「護衛騎士、嫌なの? 危険だから?」
「違いますよ! 護衛騎士じゃなくてもリックに何かあれば俺は全力全身であなたを守る覚悟しかありませんよ。騎士やってて危険だから嫌なんてこと、思うはずないじゃないですか」
「うわ。すごい告白聞いちゃった」
リックは嬉しそうに微笑む。その笑顔もうさんくささがなくてエルヴィンは少々戸惑う。
「告白じゃないでしょう……。とにかく、護衛騎士は……」
ニルスほどではないものの日々あなたの面倒を見る羽目になりそうで、それが大変そうすぎて嫌です。
と言いかけてさすがに言えずに口を開けたまま固まった。
「何?」
今度はあからさまな笑顔でにこにこしているリックを見ていると、エルヴィンの考えていることはお見通しなのではとしか思えない。
「俺には荷が……」
「重いはずないよね。君以上の実力者なんて限られてるくらいなの、さすがに自分でもようやくわかっただろうし」
「……今俺がしている仕事」
「はすでに引き継ぎさせているよ、それこそ旅の間に」
故意犯……!
「あなたは本当に……」
到底勝てる気がしない。
「君の今の直属上司からはこの数日の間にでも辞令が出るんじゃないかな。今日はまだ人事もばたついてるし」
「……はぁ。人事がばたついてるのは多分、過激派貴族の件ででしょう? せめてそれらが落ち着いてからでいいのでは?」
「残念。君が完全に俺所属になるのは最優先項目だから」
「職権乱用でしかない……!」
ほんの微かとはいえ、尻に感じる違和感。
これの正体が知りたい。
俺はニルスと最後までしたの? それともたまたま違和感ある気がするだけで、単なる気のせいなの?
果物のおかげで最後までできたというのはあまりありがたくない。おまけに最後までできたのだとしても記憶に全くないのも悲しい。
とはいえ、もし最後までしたのなら、それはそれで、とも思おうと思えば、思える。
だって尻の穴だし。元々受け入れるものが存在している女性ですら最初は痛いらしいのに、尻の穴だし。
訳がわからない内に一番痛い思いが終わってしまえるのなら、それもありだと考えてしまうのは仕方ないことだとエルヴィンは思う。というか、ニルスとの初めてが果物の影響によるもので、しかも記憶にないのは心底切ないが、そういう利点もあるしと思うしかない。
それに……もし俺と最後までするのに今まで躊躇とかニルスにあったりしても、今回のことで仕方ないながらでも、既成事実ができたわけだ。その場合、一回したらもういいよね的な感じで次もチャンスあるかもだし。
少々考え方がネガティブな気もせんでもないが、仕方ない。これでも前向きなつもりだ。
その後改めてリックに礼を言うと、エルヴィンはとりあえず一旦帰宅することにした。ちなみにエルヴィンはリックの仕事絡みで帰宅できていないことになっているらしい。家族に心配をかけない配慮はありがたいものの、実際どうだったかを思えば少々居たたまれない。あと昨日と同じ服で今日一日仕事をしても構わないが、エルヴィンとしてはできれば避けたい。
だってどうしたって思い出してしまうだろ……。
どのみち昨日着ていた制服は見当たらず、やはり一旦帰るしかなさそうだった。
制服の予備がロッカーにあるにはあるけど……。
リックに聞くと「俺はその場にいなかったからねえ」と苦笑された。
「確かに……」
「汚れちゃったから洗濯にでも出したんじゃない? ニルスが」
「汚れたって……、……あ、ぅ」
汚した覚えは、と思ったエルヴィンの頭にもすぐ浮かんだ。昨日の状況からして一択しかないではないか。
「はは。真っ赤になってる」
「うるさいんですよリック」
「俺、王子様なのに俺の護衛騎士にうるさいって言われた」
「……勝手な時だけ王子ぶるのやめてください。っていうか護衛騎士は旅の間だけでは」
「何でそう思ったの?」
リックがあからさまに嘘くさい満面の笑みを浮かべてエルヴィンを見てくる。
「……そういう話だったのでは?」
「旅の間だけって俺、言ったっけ?」
「おっしゃ……い、まし……た」
ような、気が、する。
正直、改めてそう言われると自信はない。護衛騎士の話をされた時の会話を思い出せないわけではないが、一語一句事細かく全て覚えてなどいない。
「あはは。自信なさげだねえ。相変わらず君はわかりやすい」
「うるさいんですよ」
「またうるさい、言われちゃった。確かに旅の付き添いを頼みはしたけど、護衛騎士が旅の間だけだとは一言も言ってないよね」
「……詐欺だ」
じろりとリックを見ると笑われた。
「かしこまりすぎだし真面目だし、なエルヴィンだけど、たまにとてつもなく失礼だよね。まあそういう部分が俺、好きだけど」
リックに好きと言われ、少しドキリとした。いつものうさんくさい言い方ではなく、とてもストレートにエルヴィンの中に入ってきたからだろう。
「王子やってるとね、言葉尻を捕らえたりいいように利用することくらいできないとやってられないんだよ」
多分本当のことだろうし、それを突き詰めなくとも日々のストレスも結構あるのだろうなとエルヴィンは思う。ただの貴族でしかないエルヴィンでさえ、貴族社会でうまく生きていくにはそれなりに気を張ることもある。
とはいえ。
「そうかもですが、普通俺にまでそれ、当てはめてきます?」
「あはは」
「笑いごとじゃないんですけど」
「護衛騎士、嫌なの? 危険だから?」
「違いますよ! 護衛騎士じゃなくてもリックに何かあれば俺は全力全身であなたを守る覚悟しかありませんよ。騎士やってて危険だから嫌なんてこと、思うはずないじゃないですか」
「うわ。すごい告白聞いちゃった」
リックは嬉しそうに微笑む。その笑顔もうさんくささがなくてエルヴィンは少々戸惑う。
「告白じゃないでしょう……。とにかく、護衛騎士は……」
ニルスほどではないものの日々あなたの面倒を見る羽目になりそうで、それが大変そうすぎて嫌です。
と言いかけてさすがに言えずに口を開けたまま固まった。
「何?」
今度はあからさまな笑顔でにこにこしているリックを見ていると、エルヴィンの考えていることはお見通しなのではとしか思えない。
「俺には荷が……」
「重いはずないよね。君以上の実力者なんて限られてるくらいなの、さすがに自分でもようやくわかっただろうし」
「……今俺がしている仕事」
「はすでに引き継ぎさせているよ、それこそ旅の間に」
故意犯……!
「あなたは本当に……」
到底勝てる気がしない。
「君の今の直属上司からはこの数日の間にでも辞令が出るんじゃないかな。今日はまだ人事もばたついてるし」
「……はぁ。人事がばたついてるのは多分、過激派貴族の件ででしょう? せめてそれらが落ち着いてからでいいのでは?」
「残念。君が完全に俺所属になるのは最優先項目だから」
「職権乱用でしかない……!」
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