153 / 193
153話
しおりを挟む
「とにかく、よどんだ空気や散らかったゴミを綺麗にするのも王子の仕事だと思うんだよね」
続きを促したものの、相変わらず回りくどそうだ。あと、こいつは何を言っているのかとニルスは呆れたようにリックを見た。
言い方。
「いや、それはそういった掃除を担当する者たちの仕事であって、お前の仕事はむしろそういう者たちを動かすこ……」
「安全なところから口だけ出す者が上に立ってもいい国にはならないよ?」
「……極論だ」
「えー? なおさら言いにくいなあ。間違いなく怒られるフラグしか立ってないもん」
「もん、とか言うな……。言わなきゃ四六時中お前から離れないからな」
「それじゃあエルヴィンに会えないよ?」
「……お前のせいだと、同時に四六時中恨み言を述べていよう」
「うわ、絶対嫌。まあ、元々言うつもりだからこんな話を持ちかけたわけなんだけど、ね」
本当に嫌そうな顔をしたリックがにっこりとニルスを見上げてきた。
「探りを入れていたけど、埒が明かない。だからおびき寄せようかなと」
「は?」
「ちょうどゼノガルトとの商談があってね。どのみち俺はゼノガルトへ行く予定ではあったんだけど」
「それすらまだ聞いていないが?」
ゼノガルトとの商売関係は以前からあるものだし外交的な仕事をリックが行うことに目新しさもない。ただ、近々商談のために他国へ向かうと聞いていないことは補佐として見逃せない。
「それはあれだよ。ちょっとした考えがあって、でもそれは過激派をおびき寄せるための案だし、それ言っちゃうとお前、怒りそうだしで、どうしようかなあって考えててまだ言ってなかったというかね」
「……続けろ」
何故聞いていないのかは一応わかった。
「王子に対して虫けらを見るような目で見るのやめよう」
「考えすぎだ」
「先に兄上に持ちかけたんだ。兄上は納得したし、こうなったらニルスにも打ち明けた上で父上にも話さないとなあ、って」
そしてろくでもない案をニルスは聞かされる羽目になった。どう考えても王子二人が一緒に旅へ出るなど、無謀すぎる。確かに回りくどい言い方をされていなければ「却下」と思いきり言い放っていただろう。
怒るとはまた違うが、呆れてものが言えない。
「ほら、怒ってる」
「違う。呆れてものが言えない」
「まあ普段からあまり言葉にできないけどさ、ニルスは」
「それ関係ない」
とはいえ、命を狙われているからと行動に出ずおとなしく隠れていろとはニルスとて言うつもりはない。だらだらと誰からかもわからないまま脅かされる状況を続けるよりは、こちらから打ってかかるほうがニルスも好みだ。ただ、何事も百パーセントではないというのに跡継ぎである王子二人がそろっておびき寄せる材料となってどうするのか。
そうは言っても結局ニルスがリックに対して言葉で言い負かすことなどできるはずもない。その上、話を聞いているとだんだん「そうすべきかもしれない」と思わされてしまう。
「どっち派が狙ってくるかわからないからさ。もしかしたらどちらも来るかもしれないし。なら回りくどいことはやめてわかりやすく二人そろっていようかなと」
「普段嫌ってほど回りくどい言い方しかしないくせに……」
「何か言った?」
デニスは第一王子だ。よほどのことがなければ次期王となる存在のため、普通ならば第一王子派がリックの命まで狙う必要はなさそうに思える。そのまま順当にいけば自分たちが望む王子が王となるのだ。
しかしリックがそれだけ優秀だからだろうか、第二王子派の勢いが最近特に強くなってきているらしい。それこそ第一王子派が無視できないほどに。
あともし第二王子派の勢いが強かろうが、リック自体に実力が伴っていないようなら第一王子派もそれほど気にはしなかっただろう。おまけにニルスもリックの使いなどでよく町へ行くついでに平民たちの話も耳に入れるようにしているが、平民の中でリックは結構人気があるようだ。デニスと違って立場上、表に立つことの少なくないリックだけになおさら目や耳に入ってきやすいというのもあるのだろう。
それらを忌々しく思っている第一王子側の過激派が旅の機会にリックを亡き者にしようと目論む可能性は、極端とはいえなくはないのかもしれない。
また第二王子派としても、そろそろデニスが現王により正式に任命されるのではないかと落ち着かないだろう。現に貴族の間で最近そういった噂が流れていることをニルスも耳にする。外交的な仕事を度々行うリックに比べ、基本的に城から出る機会が多くないため狙いにくいデニスも旅に出るというのなら、この機会を見逃すはずがないかもしれない。
王子でなくとも一般の平民だろうが、旅の途中というのは命を脅かされやすい。狙うならどちら側としても恰好の機会というわけだ。
二人が旅に出ることを大々的に公にするのでなく、かといって厳重に秘密裏に動くのでない形にすれば、間違いなくあっという間に貴族の間で知らない者はほぼいなくなるだろう。かといって公にされていないため、噂話のようにしか話題に出ない。
「お前に納得してもらったところでさ、俺の護衛騎士だけど」
「ああ」
デニスにもリックにも相当腕のいい者をつけるべきだろう。
「エルヴィンを任命しようかと思ってる」
「……、……そうか」
正直複雑だった。エルヴィンほどの腕前なら当然だろう。そこに疑問はない。だが個人的にはエルヴィンを危険な目に遭わせたくない。とはいえそれは恋人としての考えでしかない。第二王子の補佐としての意見を言うならエルヴィンを選ぶリックに反対する理由がなかった。
続きを促したものの、相変わらず回りくどそうだ。あと、こいつは何を言っているのかとニルスは呆れたようにリックを見た。
言い方。
「いや、それはそういった掃除を担当する者たちの仕事であって、お前の仕事はむしろそういう者たちを動かすこ……」
「安全なところから口だけ出す者が上に立ってもいい国にはならないよ?」
「……極論だ」
「えー? なおさら言いにくいなあ。間違いなく怒られるフラグしか立ってないもん」
「もん、とか言うな……。言わなきゃ四六時中お前から離れないからな」
「それじゃあエルヴィンに会えないよ?」
「……お前のせいだと、同時に四六時中恨み言を述べていよう」
「うわ、絶対嫌。まあ、元々言うつもりだからこんな話を持ちかけたわけなんだけど、ね」
本当に嫌そうな顔をしたリックがにっこりとニルスを見上げてきた。
「探りを入れていたけど、埒が明かない。だからおびき寄せようかなと」
「は?」
「ちょうどゼノガルトとの商談があってね。どのみち俺はゼノガルトへ行く予定ではあったんだけど」
「それすらまだ聞いていないが?」
ゼノガルトとの商売関係は以前からあるものだし外交的な仕事をリックが行うことに目新しさもない。ただ、近々商談のために他国へ向かうと聞いていないことは補佐として見逃せない。
「それはあれだよ。ちょっとした考えがあって、でもそれは過激派をおびき寄せるための案だし、それ言っちゃうとお前、怒りそうだしで、どうしようかなあって考えててまだ言ってなかったというかね」
「……続けろ」
何故聞いていないのかは一応わかった。
「王子に対して虫けらを見るような目で見るのやめよう」
「考えすぎだ」
「先に兄上に持ちかけたんだ。兄上は納得したし、こうなったらニルスにも打ち明けた上で父上にも話さないとなあ、って」
そしてろくでもない案をニルスは聞かされる羽目になった。どう考えても王子二人が一緒に旅へ出るなど、無謀すぎる。確かに回りくどい言い方をされていなければ「却下」と思いきり言い放っていただろう。
怒るとはまた違うが、呆れてものが言えない。
「ほら、怒ってる」
「違う。呆れてものが言えない」
「まあ普段からあまり言葉にできないけどさ、ニルスは」
「それ関係ない」
とはいえ、命を狙われているからと行動に出ずおとなしく隠れていろとはニルスとて言うつもりはない。だらだらと誰からかもわからないまま脅かされる状況を続けるよりは、こちらから打ってかかるほうがニルスも好みだ。ただ、何事も百パーセントではないというのに跡継ぎである王子二人がそろっておびき寄せる材料となってどうするのか。
そうは言っても結局ニルスがリックに対して言葉で言い負かすことなどできるはずもない。その上、話を聞いているとだんだん「そうすべきかもしれない」と思わされてしまう。
「どっち派が狙ってくるかわからないからさ。もしかしたらどちらも来るかもしれないし。なら回りくどいことはやめてわかりやすく二人そろっていようかなと」
「普段嫌ってほど回りくどい言い方しかしないくせに……」
「何か言った?」
デニスは第一王子だ。よほどのことがなければ次期王となる存在のため、普通ならば第一王子派がリックの命まで狙う必要はなさそうに思える。そのまま順当にいけば自分たちが望む王子が王となるのだ。
しかしリックがそれだけ優秀だからだろうか、第二王子派の勢いが最近特に強くなってきているらしい。それこそ第一王子派が無視できないほどに。
あともし第二王子派の勢いが強かろうが、リック自体に実力が伴っていないようなら第一王子派もそれほど気にはしなかっただろう。おまけにニルスもリックの使いなどでよく町へ行くついでに平民たちの話も耳に入れるようにしているが、平民の中でリックは結構人気があるようだ。デニスと違って立場上、表に立つことの少なくないリックだけになおさら目や耳に入ってきやすいというのもあるのだろう。
それらを忌々しく思っている第一王子側の過激派が旅の機会にリックを亡き者にしようと目論む可能性は、極端とはいえなくはないのかもしれない。
また第二王子派としても、そろそろデニスが現王により正式に任命されるのではないかと落ち着かないだろう。現に貴族の間で最近そういった噂が流れていることをニルスも耳にする。外交的な仕事を度々行うリックに比べ、基本的に城から出る機会が多くないため狙いにくいデニスも旅に出るというのなら、この機会を見逃すはずがないかもしれない。
王子でなくとも一般の平民だろうが、旅の途中というのは命を脅かされやすい。狙うならどちら側としても恰好の機会というわけだ。
二人が旅に出ることを大々的に公にするのでなく、かといって厳重に秘密裏に動くのでない形にすれば、間違いなくあっという間に貴族の間で知らない者はほぼいなくなるだろう。かといって公にされていないため、噂話のようにしか話題に出ない。
「お前に納得してもらったところでさ、俺の護衛騎士だけど」
「ああ」
デニスにもリックにも相当腕のいい者をつけるべきだろう。
「エルヴィンを任命しようかと思ってる」
「……、……そうか」
正直複雑だった。エルヴィンほどの腕前なら当然だろう。そこに疑問はない。だが個人的にはエルヴィンを危険な目に遭わせたくない。とはいえそれは恋人としての考えでしかない。第二王子の補佐としての意見を言うならエルヴィンを選ぶリックに反対する理由がなかった。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
491
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる