彼は最後に微笑んだ

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148話

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 帰国した翌日、話をするため執務室へ来るようエルヴィンに伝えているとリックから聞いていたニルスは、いつものように茶の用意をしていた。エルヴィンは甘い菓子も好きだったなとそして思い、茶だけでなく何か一緒に出すものも用意しようかと考えているとノックがあり、デニスの使いの者が入ってきた。
 用件を聞くとバルトルト事件のことで確認しておきたいことがあるとのことで、リックに来てもらいたいとデニスが言っているらしい。確認だけなのでさほど時間は取らせないようではある。

「今俺が行かないといけないようなことなの? 予定があるんだけど」
「それは……私には判断しかねます。申し訳ありません」
「はぁ。そりゃそうだよね。わかった、とりあえずじゃあ……」
「俺が行く」

 ため息をつきながら立ち上がろうとするリックを制し、ニルスはデニスの使いに近づいた。

「で、ですが」
「リック殿下とほぼずっと一緒だったから、多分俺でも対応できるはずだ。それにデニス殿下には俺がそう言う。だからあなたは安心して。心配しなくていい」
「は、はい」
「またタラしてるよ、この天然」
「何か言ったか?」

 何故か苦笑しているリックへ顔を向けると「大したことじゃないよ」と笑いかけてきた。リックがそういう笑顔になる時は少なくとも何もない訳ではないだろうくらいはニルスにもわかるが、本人がそう言うならと頷いた。

「それはさておき、何だったらニルスがエルヴィンに話をしてくれてもいいんだけど」
「やめておこう。俺がリックのように話せるわけないだろう?」
「はは。じゃあ申し訳ないけどお仕事頼むね。ありがとう、ニルス」
「問題ない」

 帰国する前から慌ただしかったせいで、エルヴィンとはひたすら愛し合ったあの時以来、ゆっくり話す時間すら取れていない。せめてリックがラヴィニアの話をエルヴィンとする間、ニルスはそばについてエルヴィンをひたすら眺めていようと思っていたのだが、仕事ならば仕方ない。
 ラヴィニアのこととなると心配なほど構えていたエルヴィンだけに、ニルスからすれば大した内容でもなさそうなことであっても聞いておきたいだろうとは思う。そうなるとやはり、リックが話したほうがいい。
 心残りはエルヴィンが好きそうな菓子を準備できなかったことだが、それも仕方ない。
 デニスの元へ出向くと「お前が来たのか」と言われたが、リックがエルヴィンと約束があることを話せば「そうか」と頷いていた。
 確認しておきたいことは幸いニルスでも把握できていることだったため、検証を含めしばらくデニスたちと共にちょっとした会議に参加する羽目になった。偶然発覚した事件とはいえ、まさかここまで芋づる式に陰で何やら企んで動いていた過激派をつるし上げられることになるとはと、ニルスとしても心から喜ばしく思う。
 以前からリックも周りにさとられないよう、情報収集などは行っていた。とはいえエルヴィンたちのように、一般の貴族たちからすれば「派閥があるなあ」程度しか把握されていないような、比較的穏便な派閥貴族しか表立っておらず、なかなか尻尾をつかむことができないでいたようだ。ニルスも隠密は本業ではないため、リックの口から派閥絡みの不穏な存在についてはっきり聞いたのすら、旅に出る少し前のことだ。それからそれの件で動くようになっても、周りに不信がられないためにも下手に何もできなかった。

 改めてよかった……。過激派貴族はリックたちそれぞれの失脚を望むどころか命さえ狙いかねない様子だったようだしな……。

 もちろん尻尾をつかめていないのもあり、そういったことも推測でしかなかったのだが、例え推測であっても王子の命を狙うという状況を甘んじて受け入れる訳にいかない。
 とにかく、今回のことでおそらく一掃できるか、それに近い勢いで片づけられるのではないだろうか。ただ懸念するのは、取りこぼした者がそれこそ王子の命を狙わないか、だ。いずれ捕まるのではと怯えて過ごすくらいならいっそのこと逃亡しようと考えてくれたほうが助かるが、やけになって無謀なことをしでかす可能性がないとはいえない。
 会議ではその件についても提案しておいた。

「ああ、それは俺も考えた。対策としては……」

 頷き、話を続けるデニスを見ながら、子どもの頃は結構わがままで周りを困らせていたデニスをニルスはぼんやり思い出す。あのまま成長しなくてよかったと思う。子どものわがままならまだしも、そのまま第一継承者である大人になられていたらと考えると、弟ながらに遠慮なく兄を振り回していたリックに対してよくやったとさえ思えてくる。

 当時はほどほどにしてやれと思ってたけどもな。

 会議を終えると、ニルスは少しだけデニス、ジェムと話してからその場を離れた。

「エルヴィンにもよろしく伝えててくれ」
「はい」

 戻っている間に「やはり何か菓子でも用意するか」などと考えたが、予想よりも少々時間が経っているのもあり一旦戻ってから考えることにした。リックのことだから余計なことも話すだろうし、さすがにもうエルヴィンは帰ってしまったということはないだろう。何なら本人に食べたいものはないか直接聞いてもいい。
 そんな呑気なことを考えながら戻ると、部屋では珍しく本気で困惑しているような表情のリックと、どう見ても動物のように発情しているとしか思えないエルヴィンが抱きあっている光景が目に入ってきた。
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