彼は最後に微笑んだ

Guidepost

文字の大きさ
上 下
147 / 193

147話

しおりを挟む
「エルヴィン……もう少し我慢して……今の様子からして、俺の魔法じゃ火に油かもしれない。かといって強い魔法は副作用が怖くてかけられないし……ニルスがもう少ししたら帰ってくるから。だからもう少し頑張って」
「や……だってこれ、きつ……」
「うん、うん、きついね……でもいい子だから。俺が助けてあげてもいい、というか助けてあげたいけど……」
「じゃ、あ、助け……」
「でも駄目……」
「たの、む……おねが……」
「ごめんね……意地悪でじゃないんだよ……できるなら俺だってしてあげたいけど……俺は君だけじゃなくニルスも大好きなんだ。君とニルスとはね、これからも俺はいい感じに付き合っていきたいから……」

 そろそろリックが何を言っているのかさえわからなくなってきた。今エルヴィンに考えられることは「とにかく出したい」だ。ひたすらもうそれしかない。
 あまりにきつくて涙さえ出てきた。顔も体もどこもかしこも熱い。

 もういっそ、自分で……。

 楽になってしまいたいあまり、自らズボンを寛げて処理しようとした。だがリックの「エルヴィン、頑張って」というどこか切羽詰まってそうでいて、それでも穏やかな声にぎりぎりハッとなる。

 今俺は何しようとした……? リックの目の前であろうことか自慰……嘘だろ……。

 血の気が引きそうな感じはだがすぐ、訪れたさらなる大波のような感覚にあっという間に飲み込まれた。いっそ血の気が引いてくれたほうがよかったというのに、ますます熱くなる。

「い、やだ……」

 風前の灯火のような理性にエルヴィンは必死にすがっていた。これがぷつんと切れてしまったらもう最後だと思った。
 きっとリックが見てようが無茶苦茶に自分のものを扱いてしまう。もしくはリックに襲いかかってしまうかもしれない。

 襲いかかっ……何で駄目? だって……お互い男じゃないか。尻を使わなければ男だし……心に傷なんて……だから……いいよな? だってしたい。
 じゃない、馬鹿やろ……しっかりしろよ俺……リックに何しようとして……ううん、別に俺がしなくてもしてもらっても、いいだろ……そうだよ、してもらうなら俺は襲わないしまだ……、じゃないだろ……!

「リ……ック」
「クソ……! ああ……頼む、ニルス早く……」
「せ、めて抱き、し……」

 抱きしめてもらえればマシにならないだろうか。落ち着かないだろうか。

 抱きしめて……ああ、そのまま抱きしめて俺をめちゃくちゃに……じゃな、い……!

 言いかけたエルヴィンを、リックは少し躊躇してからぎゅっと抱きしめてくれた。だが強く抱きしめるだけで、やはり何もしない。
 抱きしめられた瞬間は少し体や心が弛緩した気がしたが、結局これも火に油だ。

「む、り……」

 目が回りそうだ。いや、回っているのは頭の中か。もう訳がわからない。わかるのはただひたすら熱を冷ましたいということだけだ。頭の中がもうとにかくごちゃごちゃとして正直目に入ってくる視界すら自分の中で把握できなくなってきた。聴覚もしかりだ。

 冷まさないとこれは、まずいの、では……?
 そう、冷ましたい、すっきりしたいんだよ、そう……すっきり……したい楽になりたい抜きたい出したい出したい出したい出したい──

 その後のことは正直もうわからなかった。幸いというのだろうか、意識を保てなくなったのかもしれない。もしくは気絶してはいないものの理性が飛びすぎて記憶できていないだけかもしれない。どのみちそうだとしても最終的には気を保つことができなかったのだろう。気づけばエルヴィンはベッドにいて目を覚ました状態だった。
 恐る恐る体を起こす。あの時は何だったのかと信じられないくらい、嘘みたいに体も心も何もかも、正常だと思えた。またもや恐る恐る布団をめくりあげて自分の体を見てみたが、着ていた服ではないものの、ちゃんと清潔なおそらく部屋着を身に着けている。そのさらりとした布の感触が心地いいし、当然体に触れていても訳のわからない欲に突き動かされはしない。
 エルヴィンはホッとため息をついた。そして辺りを見渡す。

「……誰の、部屋だ……?」

 少なくとも自分の部屋ではなかったし、宮殿にある休憩室や医務室でもない。おまけにニルスの部屋でもなかった。

 ……まさか。

 シックな雰囲気ではあるが、やたらと大きなベッドも、周りの調度品もはっきり言って見るからに相当高級そうであることがすぐさまわかる。この室内全てのものどころか一つ二つ程度でさえ、エルヴィンなら自分で買いそろえることをためらいそうなほど高級なものだとわかった。

「まさか……まさか」

 今度こそ本当に血の気が引いた。動揺し固まっているとノックが聞こえてくる。

「は……い」

 喉がひりつく。声が出ないかと思ったが何とか出た。しかしその声は相当枯れている。ただしこれの原因は動揺と緊張だけではなさそうだ。

 待って、神様。ほんと待って。

「エルヴィン? もう大丈夫?」
「ああ、神よ……!」

 入ってきた相手を見た途端、エルヴィンは声を振り絞りながら叫びつつ、ベッドにまだ座ったまま両手で顔を覆いつくした。覆う前に相手が思いきりビクッとしたのが見えた。

「だ、大丈夫じゃ、ないのかな……」

 頭は、頭は大丈夫……頭は、な。

 エルヴィンは心の中で相手に向かって呟いた。
 部屋に入ってきたのは、多分おそらくそうだろうなと思いつつ、そうではありませんようにと願った相手、リックだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

膀胱を虐められる男の子の話

煬帝
BL
常におしがま膀胱プレイ 男に監禁されアブノーマルなプレイにどんどんハマっていってしまうノーマルゲイの男の子の話 膀胱責め.尿道責め.おしっこ我慢.調教.SM.拘束.お仕置き.主従.首輪.軟禁(監禁含む)

伴侶がいるので、溺愛ご遠慮いたします

  *  
BL
3歳のノィユが、カビの生えてないご飯を求めて結ばれることになったのは、北の最果ての領主のおじいちゃんでした。 実際に逢ってみたら、え、おじいちゃん……!? しあわせの絶頂にいるのを知らない王子たちが吃驚して憐れんで溺愛してくれそうなのですが、結構です! めちゃくちゃかっこいー伴侶がいますので! おじいちゃんと孫じゃないよ!

【BL】こんな恋、したくなかった

のらねことすていぬ
BL
【貴族×貴族。明るい人気者×暗め引っ込み思案。】  人付き合いの苦手なルース(受け)は、貴族学校に居た頃からずっと人気者のギルバート(攻め)に恋をしていた。だけど彼はきらきらと輝く人気者で、この恋心はそっと己の中で葬り去るつもりだった。  ある日、彼が成り上がりの令嬢に恋をしていると聞く。苦しい気持ちを抑えつつ、二人の恋を応援しようとするルースだが……。 ※ご都合主義、ハッピーエンド

不憫な推しキャラを救おうとしただけなのに

はぴねこ
BL
美幼児&美幼児(ブロマンス期)からの美青年×美青年(BL期)への成長を辿る長編BLです。 金髪碧眼美幼児のリヒトの前世は、隠れゲイでBL好きのおじさんだった。 享年52歳までプレイしていた乙女ゲーム『星鏡のレイラ』の攻略対象であるリヒトに転生したため、彼は推しだった不憫な攻略対象:カルロを不運な運命から救い、幸せにすることに全振りする。 見た目は美しい王子のリヒトだが、中身は52歳で、両親も乳母も護衛騎士もみんな年下。 気軽に話せるのは年上の帝国の皇帝や魔塔主だけ。 幼い推しへの高まる父性でカルロを溺愛しつつ、頑張る若者たち(両親etc)を温かく見守りながら、リヒトはヒロインとカルロが結ばれるように奮闘する! リヒト… エトワール王国の第一王子。カルロへの父性が暴走気味。 カルロ… リヒトの従者。リヒトは神様で唯一の居場所。リヒトへの想いが暴走気味。 魔塔主… 一人で国を滅ぼせるほどの魔法が使える自由人。ある意味厄災。リヒトを研究対象としている。 オーロ皇帝… 大帝国の皇帝。エトワールの悍ましい慣習を嫌っていたが、リヒトの利発さに興味を持つ。 ナタリア… 乙女ゲーム『星鏡のレイラ』のヒロイン。オーロ皇帝の孫娘。カルロとは恋のライバル。

貧乏Ωの憧れの人

ゆあ
BL
妊娠・出産に特化したΩの男性である大学1年の幸太には耐えられないほどの発情期が周期的に訪れる。そんな彼を救ってくれたのは生物的にも社会的にも恵まれたαである拓也だった。定期的に体の関係をもつようになった2人だが、なんと幸太は妊娠してしまう。中絶するには番の同意書と10万円が必要だが、貧乏学生であり、拓也の番になる気がない彼にはどちらの選択もハードルが高すぎて……。すれ違い拗らせオメガバースBL。 エブリスタにて紹介して頂いた時に書いて貰ったもの

風音樹の人生ゲーム

BL
(主人公が病気持ちです。地雷の方はバックでお願いします) 誰にも必要とされることの無い人生だった。 唯一俺を必要としてくれた母は、遠く遠くへいってしまった。 悔しくて、辛くて、ーー悔しいから、辛いから、笑って。 さいごのさいごのさいごのさいごまで、わらって。 俺を知った人が俺を忘れないような人生にしよう。 脳死で書いたので多分続かない。 作者に病気の知識はありません。適当です。

転生するにしても、これは無いだろ! ~死ぬ間際に読んでいた小説の悪役に転生しましたが、自分を殺すはずの最強主人公が逃がしてくれません~

槿 資紀
BL
駅のホームでネット小説を読んでいたところ、不慮の事故で電車に撥ねられ、死んでしまった平凡な男子高校生。しかし、二度と目覚めるはずのなかった彼は、死ぬ直前まで読んでいた小説に登場する悪役として再び目覚める。このままでは、自分のことを憎む最強主人公に殺されてしまうため、何とか逃げ出そうとするのだが、当の最強主人公の態度は、小説とはどこか違って――――。 最強スパダリ主人公×薄幸悪役転生者 R‐18展開は今のところ予定しておりません。ご了承ください。

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

処理中です...