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142話
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エルヴィンがまた唖然としているとリックが苦笑してきた。
「ごめんね、その時話さなくて。申し訳ないとは思ったけど、エルヴィンはほら、顔に出やすいから……」
先ほどから言われていたことが妙に今、のしかかる。それほど自分は感情が出やすいのか。そしてふと思う。ニルスは知っていたのだろうか。
「あの、ニルスは顔に絶対出ないですよね。やっぱり知ってたんですか?」
「……まあ、一応」
「ああ、……ですよね。補佐だし」
「……あ、でも、でもさ、ニルスに怒っちゃだめだよ。俺とデニスが絶対君らに言うなって命令したことだから」
「い、いえ。怒るだなんて……」
仕方ないことながら、ただ少し寂しい気がしてしまっただけだ。あと、また思い出したことがある。旅に出る前、ニルスはブローチをつけるようエルヴィンに言ってきた。あれも単に護衛騎士として旅に出るからというだけでなく、王子の命を狙われる可能性さえ考慮して心配していたのだろう。
それに、商談の時以外ニルスは俺から離れること、なかった。ニルスこそ、絶対ずっとリックについてなきゃなのに。
「っというか、俺が顔に出やすいのは本当に申し訳ないですしお気遣いありがとうございますと思いますけど、だったらそれこそ何で俺を護衛騎士に。なおさら他の者にすべきだったと思うのですが」
「あー、そこは、はは。俺のお節介」
「は?」
「エルヴィンとニルスがあまりにももどかしいから、この旅でもう少し仲が深まればなあって」
「いっ」
「い? 何か痛かったの?」
「じゃなくて! いやいや、って。だってあの、何言ってんですか……?」
唖然とした顔を向ければにこにこと見返された。
「何って?」
「国家の、というかあなたたちの命がかかってるってのに俺とニルスの仲優先させてどうするんです……!」
「ええ? いや別に優先させたわけじゃないよ。何でそうなるの。ついでだしってくらいだってば」
「ついでって! ついでで俺みたいな未熟な騎士を護衛にしてどうするんですか……!」
この人大丈夫かとますます唖然とした顔をエルヴィンがするも、リックは少し困ったような笑みを浮かべるだけだ。
「聞いてます?」
「もちろん。エルヴィンってほんと自己評価低いよなぁって改めて思って」
「別に低くないです! むしろ自分に甘いほうですけど?」
「そんな主張ある? はは。君の腕前はちゃんと把握してるつもりだよ。本人がわかってないの、どうかと思うからその辺は騎士としての評価、下がっちゃうかもね。もっと自分の力を把握してもらわないと」
「してますけど」
しているからこそ、何故リックは変にエルヴィンを高く評価してくれるのだろうと不可解でさえある。
遡る前もそれなりに腕は立っていたとは思うが、自分の無力さを噛みしめ倒していたこともあり遡ってからは己をなおさら鍛えてはきた。なのでこれでも弱いとは思っていない。ただ、身につけるにしても限界はある。元々人よりさほど秀でていたわけではないはずなので、それなりに強くとも護衛騎士になれるほどでもないはずだ。
エルヴィンが怪訝な顔をしたのにすぐ気づいたのだろう。リックがため息をついてきた。
「してないよ。例えばゼノガルトへ向かう道中でさ、馬車が君の言う盗賊だか何だかに襲われたこと、何度かあったでしょ」
「あ、あー、確かにありましたけど」
だからどうした、とエルヴィンは怪訝な顔をリックへ向けた。
ゼノガルトへ向かう間、ひたすら尻が痛かったり馬車に酔っ……食べ過ぎて気分が悪くなったりしていた記憶が強すぎて正直大して覚えていないが、確かにそういうこともあった。あまりにその盗賊らしき者たちがお粗末だったのもあり、エルヴィンとしてはどうでもいい事柄としてわりと流している。あまりにどうでもよすぎて記憶に留めておくことすらなかったかもしれない。
「軽。まあ、どうでもいい記憶扱いするほど、あっという間に対応してたものね、エルヴィン」
「対応というほどでさえなかったような……」
商い関係の馬車をおそらくは見つけ次第襲っているような、よくあるつまらない盗賊たちだったのだと思われる。今何となく思い出したが、エルヴィンが「むしろ馬車から降りられる」と意気揚々とまではいかないものの少しホッとしつつ馬車から出てあっという間に蹴散らしたような、大したことのない出来事だったように思う。ただでさえそういうどうでもいい輩が足止めしてくるのもあり、一介の騎士が疲れや馬車酔……食べすぎなどで王子たちの足を止めるなど、あってはならないとは考えていた。
エルヴィンが普段は城勤務のため町などで警備することは基本ないものの、しょせん盗賊たちは所用で出かけた先でたまに出会ったりするような小物のたぐいだったと思われるし、いちいちそんなこと記憶に留めるほどでもない。
「どうでもいいとは思ってましたが……それが何なんですか」
「はは。エルヴィンやフリッツには内緒にしてたからさ、派閥絡みのこと」
「はい」
「だからそれらについては俺も流してたけど」
「はぁ」
「あれらって盗賊を装った刺客だったんだけどね」
「はぁ。……は?」
「刺客」
「え?」
「し、きゃ、く」
「いや、聞こえてはいます……。じゃなくて、え? あの、あんなしょぼい……?」
「はは。それはエルヴィンだからそう思うんだよ? それこそ一般の騎士だとしたら一人であんなあっけなく対応なんてできないよ。まあデニスたちの馬車は馬車で余裕の対応してたらしいけど」
「は……?」
「ごめんね、その時話さなくて。申し訳ないとは思ったけど、エルヴィンはほら、顔に出やすいから……」
先ほどから言われていたことが妙に今、のしかかる。それほど自分は感情が出やすいのか。そしてふと思う。ニルスは知っていたのだろうか。
「あの、ニルスは顔に絶対出ないですよね。やっぱり知ってたんですか?」
「……まあ、一応」
「ああ、……ですよね。補佐だし」
「……あ、でも、でもさ、ニルスに怒っちゃだめだよ。俺とデニスが絶対君らに言うなって命令したことだから」
「い、いえ。怒るだなんて……」
仕方ないことながら、ただ少し寂しい気がしてしまっただけだ。あと、また思い出したことがある。旅に出る前、ニルスはブローチをつけるようエルヴィンに言ってきた。あれも単に護衛騎士として旅に出るからというだけでなく、王子の命を狙われる可能性さえ考慮して心配していたのだろう。
それに、商談の時以外ニルスは俺から離れること、なかった。ニルスこそ、絶対ずっとリックについてなきゃなのに。
「っというか、俺が顔に出やすいのは本当に申し訳ないですしお気遣いありがとうございますと思いますけど、だったらそれこそ何で俺を護衛騎士に。なおさら他の者にすべきだったと思うのですが」
「あー、そこは、はは。俺のお節介」
「は?」
「エルヴィンとニルスがあまりにももどかしいから、この旅でもう少し仲が深まればなあって」
「いっ」
「い? 何か痛かったの?」
「じゃなくて! いやいや、って。だってあの、何言ってんですか……?」
唖然とした顔を向ければにこにこと見返された。
「何って?」
「国家の、というかあなたたちの命がかかってるってのに俺とニルスの仲優先させてどうするんです……!」
「ええ? いや別に優先させたわけじゃないよ。何でそうなるの。ついでだしってくらいだってば」
「ついでって! ついでで俺みたいな未熟な騎士を護衛にしてどうするんですか……!」
この人大丈夫かとますます唖然とした顔をエルヴィンがするも、リックは少し困ったような笑みを浮かべるだけだ。
「聞いてます?」
「もちろん。エルヴィンってほんと自己評価低いよなぁって改めて思って」
「別に低くないです! むしろ自分に甘いほうですけど?」
「そんな主張ある? はは。君の腕前はちゃんと把握してるつもりだよ。本人がわかってないの、どうかと思うからその辺は騎士としての評価、下がっちゃうかもね。もっと自分の力を把握してもらわないと」
「してますけど」
しているからこそ、何故リックは変にエルヴィンを高く評価してくれるのだろうと不可解でさえある。
遡る前もそれなりに腕は立っていたとは思うが、自分の無力さを噛みしめ倒していたこともあり遡ってからは己をなおさら鍛えてはきた。なのでこれでも弱いとは思っていない。ただ、身につけるにしても限界はある。元々人よりさほど秀でていたわけではないはずなので、それなりに強くとも護衛騎士になれるほどでもないはずだ。
エルヴィンが怪訝な顔をしたのにすぐ気づいたのだろう。リックがため息をついてきた。
「してないよ。例えばゼノガルトへ向かう道中でさ、馬車が君の言う盗賊だか何だかに襲われたこと、何度かあったでしょ」
「あ、あー、確かにありましたけど」
だからどうした、とエルヴィンは怪訝な顔をリックへ向けた。
ゼノガルトへ向かう間、ひたすら尻が痛かったり馬車に酔っ……食べ過ぎて気分が悪くなったりしていた記憶が強すぎて正直大して覚えていないが、確かにそういうこともあった。あまりにその盗賊らしき者たちがお粗末だったのもあり、エルヴィンとしてはどうでもいい事柄としてわりと流している。あまりにどうでもよすぎて記憶に留めておくことすらなかったかもしれない。
「軽。まあ、どうでもいい記憶扱いするほど、あっという間に対応してたものね、エルヴィン」
「対応というほどでさえなかったような……」
商い関係の馬車をおそらくは見つけ次第襲っているような、よくあるつまらない盗賊たちだったのだと思われる。今何となく思い出したが、エルヴィンが「むしろ馬車から降りられる」と意気揚々とまではいかないものの少しホッとしつつ馬車から出てあっという間に蹴散らしたような、大したことのない出来事だったように思う。ただでさえそういうどうでもいい輩が足止めしてくるのもあり、一介の騎士が疲れや馬車酔……食べすぎなどで王子たちの足を止めるなど、あってはならないとは考えていた。
エルヴィンが普段は城勤務のため町などで警備することは基本ないものの、しょせん盗賊たちは所用で出かけた先でたまに出会ったりするような小物のたぐいだったと思われるし、いちいちそんなこと記憶に留めるほどでもない。
「どうでもいいとは思ってましたが……それが何なんですか」
「はは。エルヴィンやフリッツには内緒にしてたからさ、派閥絡みのこと」
「はい」
「だからそれらについては俺も流してたけど」
「はぁ」
「あれらって盗賊を装った刺客だったんだけどね」
「はぁ。……は?」
「刺客」
「え?」
「し、きゃ、く」
「いや、聞こえてはいます……。じゃなくて、え? あの、あんなしょぼい……?」
「はは。それはエルヴィンだからそう思うんだよ? それこそ一般の騎士だとしたら一人であんなあっけなく対応なんてできないよ。まあデニスたちの馬車は馬車で余裕の対応してたらしいけど」
「は……?」
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