彼は最後に微笑んだ

Guidepost

文字の大きさ
上 下
131 / 193

131話

しおりを挟む
 もしそれが本当だったら、間違いなく自分に分がある。
 周りに勧められて渋々どこぞの高い地位の令嬢を正妃に迎えたとしても関係ない。地位ではなく女としての勝負なら、多々いるつまらない女に負ける気はしなかった。何なら正妃の地位を勝ち取るのも楽しいかもしれないとさえ思っていた。いずれ目標を達成するならラヴィニアは手段など選ばない。

 だって選びたくても初めから勝ちカードがほぼないなら、それを策略を練って手にしていくのがゲームの醍醐味でしょう? 人生だって同じ。

 人生をゲームに例えるなんてと他の令嬢なら白い目で見てきそうだ。だが、そうやって日々楽しんで何が悪いのか。
 そう思い、意気込んでいた。だが結局ちゃんと王子の姿を目にする前にそれらは叶わない夢となった。
 失脚。
 まさか父親が行っている不正などがバレるとはラヴィニアも予想していなかった。よくないことに手を染めているのは知っていたが、ラヴィニアから見てもそれらがバレることはないと思っていた。大きな不正ではない。ちょっとした誤魔化しだったし、それが積み重なると結構な額になるだろうとしても一つ一つはそれほど大したものではなかったはずだ。なので多大な事業や業務の影に隠れ見つかることなどないと思っていたし、ラヴィニアもそれを利用していたようなものだ。いいドレスや宝石だって自分を飾る武器になる。珍しい薬や雑貨だって何かに使えるかもしれない。何だって利用できるものはすべきだと思っていた。
 だが気づけば財産を没収されるだけでなく、身分すら没収されていた。

 こんなことってない。私たちよりもっと暴利を貪ってる貴族なんて絶対いるに決まってるのに。何で私たちだけ。

 それもこれもやはり身分が低いからかもしれない。いや、今のヒュープナーはその身分すら、ない。ただの平民になってしまった。
 それでも何とか集められるだけの金を集め、親はマヴァリージから逃げるようにして離れた土地へ移住した。ラヴィニアもついていくしかなかった。どのみちあそこへとどまっていても王妃どころか二度と「どこぞの貴族の奥様」になることも叶わなかっただろう。失くしたのは地位だけでなく名声もだ。いや、元々名声はなかったかもしれないが、それでも培ってきた信用はあった。悪名高かろうが「ヒュープナー家なら少なくとも金はある」「ヒュープナー家の令嬢ならまあ悪くはないだろう」「家柄はいまいちでも金はあるし、女としては上級だろうし」そういった打算的な信用はあった。今ではそれすらない。
 いくら悪名高くとも誤魔化しを行っていようとも、父親には商才もちゃんとあったため、平民となっても路頭に迷うということはなかった。とはいえあの頃のように綺麗なものや楽しいものに囲まれて優雅に過ごすことはできない。
 最初の頃は絶望しかけた。でも手をこまねいてるだけは嫌だったし、何よりすることがなく退屈で死んでしまいそうなのが嫌だったため、結局ラヴィニア自身も働きに出た。人生もゲームのように楽しむべきと考えたのは自分だ。ならば逆境にこそ挑まなくてどうするのか。母親はもう実家に帰るわけにもいかず仕方なく父親についてきているものの、毎日着飾ることもできず、かといって仕事をするわけでもなく、ただ息をして過ごしている。そんな人生だけはまっぴらごめんだ。
 今まで働いたことなどなかったが、見つけた酒場の給仕は運よくラヴィニアの性に合っていたようだ。元々令嬢をしていた時も媚は安売りしていたので似たようなものだと何となく思えた。それにこんな庶民の中では相当目立つ上質な女だと誰からも認識してもらえる。
 仕事は正直面倒だし媚だけ売っていればどうにかなるものでもない。慣れないこともありどうしたって心身ともに疲れる。普段の食事も令嬢であった頃とは雲泥の差だしで最近少し痩せてしまったかもしれない。それでもこの辺の庶民女よりは上質だとわかっている。
 ちやほやされるのは悪くない。たまにたちの悪い客もいるが、王妃の地位さえ狙っていたラヴィニアにとってしょぼいごろつき程度をあしらえないわけもない。
 賃金は令嬢をしていた頃を思えば笑えるほど少なかったが、それなりに楽しめていた。小さな領地の小さな町の小さな酒場というのもあり、ラヴィニアはそれなりに有名にもなった。噂を聞いてわざわざ飲みに来る貴族さえいた。
 マヴァリージの王妃とはほど遠いものの、ここでのし上がるのも悪くはないかもしれない。もちろんこんな場所で満足はしない。上は目指す。それでも足掛かりとしては悪くないかもしれない。
 そんなある日、身分も金払いも見た目も悪くはないのでとりあえず付き合っていた貴族から「今度しばらくゼノガルトで仕事をしなくてはならなくて」と話を持ちかけられた。
 それなりの地位にある貴族は当然ながらいくつかの土地を持っているし、爵位もいくつか持っていたりする。自分の子どもが大きくなるとその爵位の一つを与えることはよくある。その男も親から与えられた爵位を持っていたわけだが、貴族とはいえ仕事がないわけではない。土地管理の仕事絡みでその男は雷のエレメントを持つ機械の国、ゼノガルトへ出向くことになったらしい。

「問題を解決したらまた戻ってはくるけど……いつになるか明確じゃない。だからお前さえよければ一緒に来ないか?」
「行くわ」

 当然即答した。ゼノガルトは大きな国だ。ラヴィニアに新たなチャンスが舞い込んだかもしれない。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

転生貧乏貴族は王子様のお気に入り!実はフリだったってわかったのでもう放してください!

音無野ウサギ
BL
ある日僕は前世を思い出した。下級貴族とはいえ王子様のお気に入りとして毎日楽しく過ごしてたのに。前世の記憶が僕のことを駄目だしする。わがまま駄目貴族だなんて気づきたくなかった。王子様が優しくしてくれてたのも実は裏があったなんて気づきたくなかった。品行方正になるぞって思ったのに! え?王子様なんでそんなに優しくしてくるんですか?ちょっとパーソナルスペース!! 調子に乗ってた貧乏貴族の主人公が慎ましくても確実な幸せを手に入れようとジタバタするお話です。

伴侶がいるので、溺愛ご遠慮いたします

  *  
BL
3歳のノィユが、カビの生えてないご飯を求めて結ばれることになったのは、北の最果ての領主のおじいちゃんでした。 実際に逢ってみたら、え、おじいちゃん……!? しあわせの絶頂にいるのを知らない王子たちが吃驚して憐れんで溺愛してくれそうなのですが、結構です! めちゃくちゃかっこいー伴侶がいますので! おじいちゃんと孫じゃないよ!

【BL】こんな恋、したくなかった

のらねことすていぬ
BL
【貴族×貴族。明るい人気者×暗め引っ込み思案。】  人付き合いの苦手なルース(受け)は、貴族学校に居た頃からずっと人気者のギルバート(攻め)に恋をしていた。だけど彼はきらきらと輝く人気者で、この恋心はそっと己の中で葬り去るつもりだった。  ある日、彼が成り上がりの令嬢に恋をしていると聞く。苦しい気持ちを抑えつつ、二人の恋を応援しようとするルースだが……。 ※ご都合主義、ハッピーエンド

不憫な推しキャラを救おうとしただけなのに

はぴねこ
BL
美幼児&美幼児(ブロマンス期)からの美青年×美青年(BL期)への成長を辿る長編BLです。 金髪碧眼美幼児のリヒトの前世は、隠れゲイでBL好きのおじさんだった。 享年52歳までプレイしていた乙女ゲーム『星鏡のレイラ』の攻略対象であるリヒトに転生したため、彼は推しだった不憫な攻略対象:カルロを不運な運命から救い、幸せにすることに全振りする。 見た目は美しい王子のリヒトだが、中身は52歳で、両親も乳母も護衛騎士もみんな年下。 気軽に話せるのは年上の帝国の皇帝や魔塔主だけ。 幼い推しへの高まる父性でカルロを溺愛しつつ、頑張る若者たち(両親etc)を温かく見守りながら、リヒトはヒロインとカルロが結ばれるように奮闘する! リヒト… エトワール王国の第一王子。カルロへの父性が暴走気味。 カルロ… リヒトの従者。リヒトは神様で唯一の居場所。リヒトへの想いが暴走気味。 魔塔主… 一人で国を滅ぼせるほどの魔法が使える自由人。ある意味厄災。リヒトを研究対象としている。 オーロ皇帝… 大帝国の皇帝。エトワールの悍ましい慣習を嫌っていたが、リヒトの利発さに興味を持つ。 ナタリア… 乙女ゲーム『星鏡のレイラ』のヒロイン。オーロ皇帝の孫娘。カルロとは恋のライバル。

貧乏Ωの憧れの人

ゆあ
BL
妊娠・出産に特化したΩの男性である大学1年の幸太には耐えられないほどの発情期が周期的に訪れる。そんな彼を救ってくれたのは生物的にも社会的にも恵まれたαである拓也だった。定期的に体の関係をもつようになった2人だが、なんと幸太は妊娠してしまう。中絶するには番の同意書と10万円が必要だが、貧乏学生であり、拓也の番になる気がない彼にはどちらの選択もハードルが高すぎて……。すれ違い拗らせオメガバースBL。 エブリスタにて紹介して頂いた時に書いて貰ったもの

転生するにしても、これは無いだろ! ~死ぬ間際に読んでいた小説の悪役に転生しましたが、自分を殺すはずの最強主人公が逃がしてくれません~

槿 資紀
BL
駅のホームでネット小説を読んでいたところ、不慮の事故で電車に撥ねられ、死んでしまった平凡な男子高校生。しかし、二度と目覚めるはずのなかった彼は、死ぬ直前まで読んでいた小説に登場する悪役として再び目覚める。このままでは、自分のことを憎む最強主人公に殺されてしまうため、何とか逃げ出そうとするのだが、当の最強主人公の態度は、小説とはどこか違って――――。 最強スパダリ主人公×薄幸悪役転生者 R‐18展開は今のところ予定しておりません。ご了承ください。

悪役令息の従者に転職しました

  *  
BL
暗殺者なのに無様な失敗で死にそうになった俺をたすけてくれたのは、BLゲームで、どのルートでも殺されて悲惨な最期を迎える悪役令息でした。 依頼人には死んだことにして、悪役令息の従者に転職しました。 スパダリ(本人の希望)な従者と、ちっちゃくて可愛い悪役令息の、溺愛無双なお話です(笑)

モフモフになった魔術師はエリート騎士の愛に困惑中

risashy
BL
魔術師団の落ちこぼれ魔術師、ローランド。 任務中にひょんなことからモフモフに変幻し、人間に戻れなくなってしまう。そんなところを騎士団の有望株アルヴィンに拾われ、命拾いしていた。 快適なペット生活を満喫する中、実はアルヴィンが自分を好きだと知る。 アルヴィンから語られる自分への愛に、ローランドは戸惑うものの——? 24000字程度の短編です。 ※BL(ボーイズラブ)作品です。 この作品は小説家になろうさんでも公開します。

処理中です...