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131話
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もしそれが本当だったら、間違いなく自分に分がある。
周りに勧められて渋々どこぞの高い地位の令嬢を正妃に迎えたとしても関係ない。地位ではなく女としての勝負なら、多々いるつまらない女に負ける気はしなかった。何なら正妃の地位を勝ち取るのも楽しいかもしれないとさえ思っていた。いずれ目標を達成するならラヴィニアは手段など選ばない。
だって選びたくても初めから勝ちカードがほぼないなら、それを策略を練って手にしていくのがゲームの醍醐味でしょう? 人生だって同じ。
人生をゲームに例えるなんてと他の令嬢なら白い目で見てきそうだ。だが、そうやって日々楽しんで何が悪いのか。
そう思い、意気込んでいた。だが結局ちゃんと王子の姿を目にする前にそれらは叶わない夢となった。
失脚。
まさか父親が行っている不正などがバレるとはラヴィニアも予想していなかった。よくないことに手を染めているのは知っていたが、ラヴィニアから見てもそれらがバレることはないと思っていた。大きな不正ではない。ちょっとした誤魔化しだったし、それが積み重なると結構な額になるだろうとしても一つ一つはそれほど大したものではなかったはずだ。なので多大な事業や業務の影に隠れ見つかることなどないと思っていたし、ラヴィニアもそれを利用していたようなものだ。いいドレスや宝石だって自分を飾る武器になる。珍しい薬や雑貨だって何かに使えるかもしれない。何だって利用できるものはすべきだと思っていた。
だが気づけば財産を没収されるだけでなく、身分すら没収されていた。
こんなことってない。私たちよりもっと暴利を貪ってる貴族なんて絶対いるに決まってるのに。何で私たちだけ。
それもこれもやはり身分が低いからかもしれない。いや、今のヒュープナーはその身分すら、ない。ただの平民になってしまった。
それでも何とか集められるだけの金を集め、親はマヴァリージから逃げるようにして離れた土地へ移住した。ラヴィニアもついていくしかなかった。どのみちあそこへとどまっていても王妃どころか二度と「どこぞの貴族の奥様」になることも叶わなかっただろう。失くしたのは地位だけでなく名声もだ。いや、元々名声はなかったかもしれないが、それでも培ってきた信用はあった。悪名高かろうが「ヒュープナー家なら少なくとも金はある」「ヒュープナー家の令嬢ならまあ悪くはないだろう」「家柄はいまいちでも金はあるし、女としては上級だろうし」そういった打算的な信用はあった。今ではそれすらない。
いくら悪名高くとも誤魔化しを行っていようとも、父親には商才もちゃんとあったため、平民となっても路頭に迷うということはなかった。とはいえあの頃のように綺麗なものや楽しいものに囲まれて優雅に過ごすことはできない。
最初の頃は絶望しかけた。でも手をこまねいてるだけは嫌だったし、何よりすることがなく退屈で死んでしまいそうなのが嫌だったため、結局ラヴィニア自身も働きに出た。人生もゲームのように楽しむべきと考えたのは自分だ。ならば逆境にこそ挑まなくてどうするのか。母親はもう実家に帰るわけにもいかず仕方なく父親についてきているものの、毎日着飾ることもできず、かといって仕事をするわけでもなく、ただ息をして過ごしている。そんな人生だけはまっぴらごめんだ。
今まで働いたことなどなかったが、見つけた酒場の給仕は運よくラヴィニアの性に合っていたようだ。元々令嬢をしていた時も媚は安売りしていたので似たようなものだと何となく思えた。それにこんな庶民の中では相当目立つ上質な女だと誰からも認識してもらえる。
仕事は正直面倒だし媚だけ売っていればどうにかなるものでもない。慣れないこともありどうしたって心身ともに疲れる。普段の食事も令嬢であった頃とは雲泥の差だしで最近少し痩せてしまったかもしれない。それでもこの辺の庶民女よりは上質だとわかっている。
ちやほやされるのは悪くない。たまにたちの悪い客もいるが、王妃の地位さえ狙っていたラヴィニアにとってしょぼいごろつき程度をあしらえないわけもない。
賃金は令嬢をしていた頃を思えば笑えるほど少なかったが、それなりに楽しめていた。小さな領地の小さな町の小さな酒場というのもあり、ラヴィニアはそれなりに有名にもなった。噂を聞いてわざわざ飲みに来る貴族さえいた。
マヴァリージの王妃とはほど遠いものの、ここでのし上がるのも悪くはないかもしれない。もちろんこんな場所で満足はしない。上は目指す。それでも足掛かりとしては悪くないかもしれない。
そんなある日、身分も金払いも見た目も悪くはないのでとりあえず付き合っていた貴族から「今度しばらくゼノガルトで仕事をしなくてはならなくて」と話を持ちかけられた。
それなりの地位にある貴族は当然ながらいくつかの土地を持っているし、爵位もいくつか持っていたりする。自分の子どもが大きくなるとその爵位の一つを与えることはよくある。その男も親から与えられた爵位を持っていたわけだが、貴族とはいえ仕事がないわけではない。土地管理の仕事絡みでその男は雷のエレメントを持つ機械の国、ゼノガルトへ出向くことになったらしい。
「問題を解決したらまた戻ってはくるけど……いつになるか明確じゃない。だからお前さえよければ一緒に来ないか?」
「行くわ」
当然即答した。ゼノガルトは大きな国だ。ラヴィニアに新たなチャンスが舞い込んだかもしれない。
周りに勧められて渋々どこぞの高い地位の令嬢を正妃に迎えたとしても関係ない。地位ではなく女としての勝負なら、多々いるつまらない女に負ける気はしなかった。何なら正妃の地位を勝ち取るのも楽しいかもしれないとさえ思っていた。いずれ目標を達成するならラヴィニアは手段など選ばない。
だって選びたくても初めから勝ちカードがほぼないなら、それを策略を練って手にしていくのがゲームの醍醐味でしょう? 人生だって同じ。
人生をゲームに例えるなんてと他の令嬢なら白い目で見てきそうだ。だが、そうやって日々楽しんで何が悪いのか。
そう思い、意気込んでいた。だが結局ちゃんと王子の姿を目にする前にそれらは叶わない夢となった。
失脚。
まさか父親が行っている不正などがバレるとはラヴィニアも予想していなかった。よくないことに手を染めているのは知っていたが、ラヴィニアから見てもそれらがバレることはないと思っていた。大きな不正ではない。ちょっとした誤魔化しだったし、それが積み重なると結構な額になるだろうとしても一つ一つはそれほど大したものではなかったはずだ。なので多大な事業や業務の影に隠れ見つかることなどないと思っていたし、ラヴィニアもそれを利用していたようなものだ。いいドレスや宝石だって自分を飾る武器になる。珍しい薬や雑貨だって何かに使えるかもしれない。何だって利用できるものはすべきだと思っていた。
だが気づけば財産を没収されるだけでなく、身分すら没収されていた。
こんなことってない。私たちよりもっと暴利を貪ってる貴族なんて絶対いるに決まってるのに。何で私たちだけ。
それもこれもやはり身分が低いからかもしれない。いや、今のヒュープナーはその身分すら、ない。ただの平民になってしまった。
それでも何とか集められるだけの金を集め、親はマヴァリージから逃げるようにして離れた土地へ移住した。ラヴィニアもついていくしかなかった。どのみちあそこへとどまっていても王妃どころか二度と「どこぞの貴族の奥様」になることも叶わなかっただろう。失くしたのは地位だけでなく名声もだ。いや、元々名声はなかったかもしれないが、それでも培ってきた信用はあった。悪名高かろうが「ヒュープナー家なら少なくとも金はある」「ヒュープナー家の令嬢ならまあ悪くはないだろう」「家柄はいまいちでも金はあるし、女としては上級だろうし」そういった打算的な信用はあった。今ではそれすらない。
いくら悪名高くとも誤魔化しを行っていようとも、父親には商才もちゃんとあったため、平民となっても路頭に迷うということはなかった。とはいえあの頃のように綺麗なものや楽しいものに囲まれて優雅に過ごすことはできない。
最初の頃は絶望しかけた。でも手をこまねいてるだけは嫌だったし、何よりすることがなく退屈で死んでしまいそうなのが嫌だったため、結局ラヴィニア自身も働きに出た。人生もゲームのように楽しむべきと考えたのは自分だ。ならば逆境にこそ挑まなくてどうするのか。母親はもう実家に帰るわけにもいかず仕方なく父親についてきているものの、毎日着飾ることもできず、かといって仕事をするわけでもなく、ただ息をして過ごしている。そんな人生だけはまっぴらごめんだ。
今まで働いたことなどなかったが、見つけた酒場の給仕は運よくラヴィニアの性に合っていたようだ。元々令嬢をしていた時も媚は安売りしていたので似たようなものだと何となく思えた。それにこんな庶民の中では相当目立つ上質な女だと誰からも認識してもらえる。
仕事は正直面倒だし媚だけ売っていればどうにかなるものでもない。慣れないこともありどうしたって心身ともに疲れる。普段の食事も令嬢であった頃とは雲泥の差だしで最近少し痩せてしまったかもしれない。それでもこの辺の庶民女よりは上質だとわかっている。
ちやほやされるのは悪くない。たまにたちの悪い客もいるが、王妃の地位さえ狙っていたラヴィニアにとってしょぼいごろつき程度をあしらえないわけもない。
賃金は令嬢をしていた頃を思えば笑えるほど少なかったが、それなりに楽しめていた。小さな領地の小さな町の小さな酒場というのもあり、ラヴィニアはそれなりに有名にもなった。噂を聞いてわざわざ飲みに来る貴族さえいた。
マヴァリージの王妃とはほど遠いものの、ここでのし上がるのも悪くはないかもしれない。もちろんこんな場所で満足はしない。上は目指す。それでも足掛かりとしては悪くないかもしれない。
そんなある日、身分も金払いも見た目も悪くはないのでとりあえず付き合っていた貴族から「今度しばらくゼノガルトで仕事をしなくてはならなくて」と話を持ちかけられた。
それなりの地位にある貴族は当然ながらいくつかの土地を持っているし、爵位もいくつか持っていたりする。自分の子どもが大きくなるとその爵位の一つを与えることはよくある。その男も親から与えられた爵位を持っていたわけだが、貴族とはいえ仕事がないわけではない。土地管理の仕事絡みでその男は雷のエレメントを持つ機械の国、ゼノガルトへ出向くことになったらしい。
「問題を解決したらまた戻ってはくるけど……いつになるか明確じゃない。だからお前さえよければ一緒に来ないか?」
「行くわ」
当然即答した。ゼノガルトは大きな国だ。ラヴィニアに新たなチャンスが舞い込んだかもしれない。
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