彼は最後に微笑んだ

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126話

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 結局ニルスはそのまま翌日までエルヴィンの部屋にいた。食事もニルスが手配したのか部屋に二人分運ばれてきた。いや、ニルスよりはリックのほうがこういうことを陰でしそうだが、エルヴィンとしてはリックがそこまで考慮して手配しているとは考えたくない。
 さすがに入浴は浴槽を運んでもらうなどむしろしたくないため部屋から出ないとだが、二人して風呂に入ったのは朝方だった。それまで最低限のしなければならないことをする以外ずっと二人はベッドにいた。
 食事が運ばれてきた時はニルスがガウンを羽織ってドアまで出たのもあり、エルヴィンはトイレへ行く以外本当に動いていない。こんな怠惰なことなど、病気などで寝込んでいた時以外今までしたことがないかもしれない。ひたすらベッドで過ごすだけでなく、ずっと絡み合うなど何て怠惰で、そして淫靡的で官能的でけだるい快楽なのだろう。
 今まで禁欲的というか、健全なお付き合いをひたすらしていた二人だからだろうか、本当にずっと絡み合っていた。
 とはいえベッドでしたのは絡み合いつつも体中への触れ合いやキスや抜き合うくらいだろうか。どちらかがどちらかに挿入するという行為はしていないどころか口でもしていない。エルヴィンがしようとしたら「まだ心臓に悪い」とよくわからないことを言われた。仕返しに、ニルスが「俺がする」と言ってきてもお預けにさせてもらった。

 ……俺は何となく知ってるけど……ニルスは知ってんのかな。尻の穴に入れる行為。

 別に入れなくとも抜きあうだけでも十分気持ちいいし心も交わせている気がするので問題はない。ただ、してみたい好奇心はある。あるが、もし入れられる側なのだとしたらあれほどのものが自分の尻穴に入るのかという謎と、入れて大丈夫なのかという恐怖心もある。
 なら自分が入れる側でいいのではと思うが、ニルスとのやり取りで、明確に「入れたい」と言われたことも思われたこともないが何となくエルヴィンは受け入れる側に想定されているような気はしている。

 でも、もし実はニルスが挿入まで考えてないなら、俺が入れるのもありかな。

 とはいえ恐怖心はあるものの、ニルス相手なら正直どちらでもいい。譲れない何かは、ない。
 朝方に入浴しに行ったのは、散々絡み合ってその時間になってしまったのもあるが、絡み合い続けたせいでお互い何となくどろどろになっている気がするせいもある。誰にも会わずに入浴してしまいたかった。

 だいたい、何度抜き合ったかもうわからないんだけど。

 連続してではなく、射精して気だるい体のままお互い抱き合い、キスをして触れ合っていくうちにまた次第にその気になって、を繰り返していたと思う。エルヴィンもおそらくニルスも体力には自信あるほうだったが、さすがに疲れた。

 でも最高によかった……。

 朝方でも熱い湯が用意されていることを喜びつつ入浴しながら思い出し、エルヴィンはまた自身がもたげそうになっていることに気づいて呆れた。

 俺、馬鹿になったの? いや、これは仕方ないよな……だってずっと清い関係だったし。なのにニルスはいつ見てもカッコいいしかわいいし、何ならエロいしで。

 いざ絡み合ってなおさらニルスそのものがエルヴィンの劣情を煽りたててくることに気づいた。何なら休みをもらっている今日一日ずっと絡み合っていてもまだ足りない勢いかもしれない。
 それもいいのではと思ってしまうが、そんな風に過ごしてしまうと明日以降日常生活に復帰できる自信がない。きっとこのまま永遠に絡み合いたいと思ってしまいそうだ。

「ニルス」
「うん」
「あんだけベッドでその、絡み合ったんだし、さすがに俺が倒れるのではなんてもう思ってないよな?」
「……うん」

 間があったのでニルスを見たが、顔を逸らしているのかただでさえわかりにくい表情だけでなく、顔色すらわからない。

 まあ、いいや。

「なら一眠りしたら改めて町にでも出る?」

 さすがに多少は寝ないとまずいだろう。絡み合いながら、少しうとうとはしたが、ちゃんと眠っていない。

「ああ」

 エルヴィンは真面目だしニルスも真面目だ。だがこういう時に「体調を心配して休みをもらっているのに遊びに出かけるなんて」とは言わないし思わない。いい人だが生真面目過ぎるフリッツなら言いそうだが、こういうところも合うよなあとエルヴィンはしみじみ思った。
 真面目だけど、気を抜くとこは抜く。
 風呂から出ると二人はニルスの部屋へ向かった。さすがにあからさまな痕跡は残していないつもりだが、乱れに乱れたシーツを見てしまうと風呂上りに合わないというか、風呂に入った意味なくまた何かやらかしてしまいそうだ。

 でもニルスの部屋も結局よくなかったかも。

 ここに滞在している間だけ使わせてもらっている部屋だ。それでもニルスのものが置かれている部屋だし、なによりそこで基本眠っているニルスの匂いがベッドについている気がする。
 本人がそばにいるだけでなくベッドでニルスの匂いに包まれる状況は、ニルスの味を占めてしまったエルヴィンにとっては毒ですらある。

「俺、自分の部屋に戻ろうかな」
「何故?」
「いや、お互いゆっくり眠りたいだろ?」
「お前がいても眠れる」

 俺は眠れなさそうなの、わかって。

「でもほら……」
「……ずっとあんなことをしていた俺と一緒は嫌か……?」

 表情はほぼ変わらないくせに、切なげに落ち込んだニルスが見えた気がしてエルヴィンは思いきり頭を横にぶんぶんと振っていた。

「そんなわけないだろ! 一緒に寝るよ、寝るに決まってる!」
「うん」

 何言っちゃってんの俺。

 これで眠れないまま今日を過ごすことはほぼ決定になった。
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