彼は最後に微笑んだ

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124話

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 脱力感が半端ない。達した後はこんなに脱力したっけかとエルヴィンはぼんやりしながら思った。

「エルヴィン……」

 だがニルスの低い声が自分の名前を呼んでくるとすぐさま我に返る。顔を向けるとニルスは多分だが、気がかりそうにエルヴィンを見ている。

「あ、……その、ニルス」
「嫌じゃ、なかったか……?」

 そんなわけあるはずないだろうがと即頭に浮かんだ。今の行為が嫌な男がいったいどこにいる? 大切で大好きな相手と絡み合うことが嫌な男など、どう探しても見つかるはずがない。

 って、待て俺。絡み合ってない。全然絡み合ってない。一方的に気持ちよくしてもらっただけじゃないか。

 そんなのは駄目だと、まだ気だるい体を起こした。もしかしたらニルスは達してなくともそれなりに満足してはいるかもしれない。少なくともエルヴィンはそうだった。遡る前、付き合っていた女性を気持ちよくさせるだけでかなり満足感はあった。もちろん性交することで何より満足感と達成感は得られたが、一方的にこちらが相手に性的なことをするだけでも結構堪能できたし満足したし達成感もあった。
 それでもやはり、お互い心も体も触れ合うことが何よりだと思う。

「嫌なわけないだろ。最高に気持ちよかった、ありがとう」
「そ、うか」
「俺もニルスにしたい」
「いや、俺は」
「いいなんて言うなよ。お前のが硬かったの、ちゃんと知ってるんだからな。俺に出させて」
「出……、わ、かった」

 言葉数は相変わらず少ないものの、いつもと少し違うのはニルスが少し俯き気味というか戸惑い気味に思えるところだろうか。

 もしかして積極的なの、苦手とかじゃないだろうな……。

 あり得る。ニルスだけにあり得る。何故エルヴィンを好きになってくれたのかいまだに謎なくらい、ニルスはこういうことにも控えめな人が好きそうな気が、とてもする。

「あの、ニルス?」
「うん」
「お、れが積極的だったら、嫌?」

 はっきり聞くのはさすがに少々聞きづらいものの、濁しようもなかったため、結局はっきり聞いた。とても言いづらいし顔が熱くなる。

「……嫌なわけない……」

 するとエルヴィンをじっと見ながら思いきり力のこもった返事が返ってきて、思わず口元が綻んだ。あと、今の返事に妙な間があった気がする。

 もしかしたら今もあれだ、あの、よくわからない言語化できない考えに浸ってたのかな?

 そうだとしたら少し聞いてみたかったなどと思いつつ、エルヴィンは起こした体をニルスへ寄せた。そっとニルスの頬に触れると、そのまま顔を近づけキスする。

「俺も……触れていい?」
「……ぁあ」

 今さら緊張してきた。だがニルスに触れたいという欲には勝てない。そのまま頬に触れていた手をゆっくりと体へ這わせていく。服の上からだが、多分、いや、間違いなくニルスの体がとてもいい感じだと思えた。服を着ているとそこまでわからなかったが、肉体美というのだろうか。

 もしかしてものすごく綺麗な筋肉がついてるんじゃないか?

 直接見たい。

「脱がしても、いい?」
「……ああ。でもそれなら自分で脱ぐ。あと、その……」
「うん?」
「エルヴィンも……」

 言いにくそうなニルスがかわいいと思いつつ、そういえば自分も服はかろうじて着たままだったなとエルヴィンは下を向いた。達した後の脱力感から今に至るまで自分の恰好を顧みてなかった。
 見ればニルスによって結構乱されたままで、正直間抜けな格好だと思う。一応まとっているシャツはしわくちゃだし、同じくしわだらけのズボンは中途半端な状態でずり落ちている。何より間抜けなのがずれた下着からのぞく自分の性器だろう。

「俺、何て恰好だよ……」

 思わず口にすると「悪くない」とニルスに言われた。

「ええ……こんな間抜けな格好が?」
「間抜けじゃない。……扇情的だと思う」
「……もしかしてニルスって結構趣味、悪いんじゃないか?」
「……」

 表情は変わらないものの無言のニルスは微妙な気持ちにでもなっているのだろうか。とはいえ趣味を疑いたくもなる。エルヴィンとしては今の自分のどこをどう見れば扇情的だなどと言えるのか謎でしかない。そもそも選びたい放題だろうにあえて同性のエルヴィンをずっと好きだという時点でエルヴィンからすれば残念でしかない。

 今の俺としてはラッキーだけどさ、ニルスの趣味が悪くて。

 とりあえず間抜けな格好よりはまだ全裸のほうがましだとばかりに、エルヴィンはかろうじてまとっている服を脱いでいった。
 視線を感じたため顔を上げれば、ニルスが無言のままじっとエルヴィンを見ていることに気づいた。

「な、何」
「……綺麗だと思って」

 無口なのに何でこう、お前は時折そんななの……!

 顔だけじゃなく、全身が熱くなった。

「お、俺だけ脱ぐのずるい。ニルスも早く脱いで」
「ああ」

 先に全裸になった特典として、エルヴィンもニルスにされた以上にじっと脱ぐところを見てやった。そしてシャツを脱いだニルスの上半身を見て、思わず両手を口に当てる。

「……エルヴィン?」

 エルヴィンの様子が不思議に思ったのか、一旦手を止めたニルスがエルヴィンをじっと見てくる。

「何でもない……問題ないし、最高だと思う」
「え?」
「じゃなくて、えっと、ほんと何でもないから。俺だけ全裸は落ち着かないし、早く脱いでって」

 正直、自分が全裸だろうが何だろうが今どうでもよかった。エルヴィンはとにかく見たかった。
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