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121話
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無言で首を振る様が何となくかわいくて、ついエルヴィンはほっこりしてしまった。
この旅に出る前にリックがデニスに「ほら、ニルスってどこか犬っぽいじゃないですか。懐くとこうなるんでしょう」などと言っていたことを思い出す。その時はいくら何でももう少し他に言い方はないのかと微妙な気持ちになったものだが、こういうニルスを見ているとリックの言葉を認めたいわけじゃないが確かに犬が頭に浮かびそうになる。
何でだろな。別にニルスって犬顔じゃないというか、きりっとした目つきを思えばむしろどっちかといえば猫科っぽい気がするのに。それにこんな大きな小動物なんていないぞ。
そう思ったところで自分がまた本題からそれつつあることに気づき、エルヴィンも頭を振った。
「エルヴィン?」
「いや、何でもない。とにかく、俺だけが欲強すぎるんじゃない、でいいんだよな?」
「……ああ」
コクリと頷くニルスに、ついテンションが上がる。単に「ああ」と言われただけだというのに、別に「お前と隅々まで堪能し合い、絡み合いたい」なんてあからさまなことなど一切言われていないというのに、まるでそう言われたかのように気持ちが浮き立った。
「じゃ、じゃあ変な考えはもう捨てて」
「変な考え……」
「そう。変な考え。俺とニルスは恋人同士なんだからな? お互い好きだし、だから一緒にいたいし、キスだってしたい。それ以上のことだって好きなんだからお互いしたい」
どうだとばかりに言った後でさすがに少し恥ずかしくなる。何故こんな宣言をあえてしなければならないのか、などと賢者タイムにも似た気持ちになる。
「……わかった」
だがニルスがまたコクリと頷いてきたことでそんなタイムも一気に吹き飛んだ。
「なら……」
今まさに絶好の時間だよなとエルヴィンが立ち上がろうとしたら「茶が冷めるぞ」と至って普通の言葉が返ってきた。
え、今それ言われること?
唖然としつつも、確かに冷めるしせっかくニルスが淹れてくれたんだしと、つい言われた通りエルヴィンは座りなおして茶を口にした。
うん、ポカンとしてても、少しぬるくなっても美味しいな。
結局リージハイム茶を堪能しているとニルスのほうから笑ったような気配を感じた。だが慌ててニルスを見るも、いつも通り無表情だ。
「……今笑った?」
「いや」
ですよね。
「かわいいと思った」
「っ、ちょ、今お茶飲んでんだから吹いちゃうようなこと言うのやめて」
「? 俺は何か笑われるようなことでも言ったのか?」
「そっちじゃない。笑えないよ、笑えないけど、いや、ある意味口元むずむずするけど、そうじゃなくて、照れと恥ずかしさと嬉しさが入り混じって……」
というかそんな解説したくないんだけど。
説明している途中で我に返り、エルヴィンは口をつぐんだ。だがニルスはそれに対してもエルヴィンが言ったことに対しても何か言及するわけでもなく、単に「そうか」と静かに頷いてきた。
「そうだよ!」
それに対しそれ以上言葉が浮かばず、エルヴィンは仕方なく繰り返すように頷くと茶を飲み干した。そして今度こそ立ち上がる。
「ニルスも飲んだ?」
「まだ少し残っ」
「ごくりと飲んじゃって」
「? わかった」
被り気味に言うエルヴィンの勢いにおそらくは怪訝そうな顔になったニルスは、だが言われた通り飲み干してくれた。
それを見届けるとエルヴィンは向かいに座っているニルスのそばまで近づき、手を差し出す。ニルスは一瞬の間の後、その手を握ってくれた。
『エルヴィンはどうしたんだろう。大好きだろう茶をそんな慌てて飲むなんて……焼き菓子がなかったから物足りなく……』
「いや、何でだよ……!」
「え?」
うっかり以前のように突っ込んでしまい、ニルスも以前のように戸惑ったような声を出してきた。
というか、その前に大きくうっかりしていた。ブローチをつけたまま手を握ってしまったことだ。今はニルスの心を読みたいのではなく、単にニルスに触れたかった上で立ち上がらせ、そしてそのまま抱き合ってもよかったし何ならベッドまで移動してもよかった。少なくとも突っ込みを入れる予定は皆無だった。
「調子狂う」
「……俺は何かしてしまったか……?」
「いや、ニルスは悪くな……うーん、でも悪くはないけどあれだ、逆に何もしなかったというか」
エルヴィンの言葉に、ニルスは首を傾げてきた。その後で気がかりそうに「すまない。俺が何かしなかったせいでお前を困らせたのか」と言ってくる。
「謝る必要はないんだよ。悪いわけじゃないんだ。それにそれを言うなら俺だって行動不足だろうし、というか彼氏力不足というか」
表情があまりわからないとはいえ、さすがにますます怪訝そうに見えた。
「気にしないでくれってこと」
そういうニルスも好きなんだよと心の中で言いながらエルヴィンは笑った。そして上着を脱ぐとニルスが座っていたソファーに置いた。今、ニルスの心を読みながら動くなんて野暮なことはできない。
「……わかった」
「好きだよニルス」
エルヴィンはニルスの背中に腕をまわして引き寄せ、そのままキスしようとする。その前にニルスの方からさらにエルヴィンを引き寄せキスしてきた。
この旅に出る前にリックがデニスに「ほら、ニルスってどこか犬っぽいじゃないですか。懐くとこうなるんでしょう」などと言っていたことを思い出す。その時はいくら何でももう少し他に言い方はないのかと微妙な気持ちになったものだが、こういうニルスを見ているとリックの言葉を認めたいわけじゃないが確かに犬が頭に浮かびそうになる。
何でだろな。別にニルスって犬顔じゃないというか、きりっとした目つきを思えばむしろどっちかといえば猫科っぽい気がするのに。それにこんな大きな小動物なんていないぞ。
そう思ったところで自分がまた本題からそれつつあることに気づき、エルヴィンも頭を振った。
「エルヴィン?」
「いや、何でもない。とにかく、俺だけが欲強すぎるんじゃない、でいいんだよな?」
「……ああ」
コクリと頷くニルスに、ついテンションが上がる。単に「ああ」と言われただけだというのに、別に「お前と隅々まで堪能し合い、絡み合いたい」なんてあからさまなことなど一切言われていないというのに、まるでそう言われたかのように気持ちが浮き立った。
「じゃ、じゃあ変な考えはもう捨てて」
「変な考え……」
「そう。変な考え。俺とニルスは恋人同士なんだからな? お互い好きだし、だから一緒にいたいし、キスだってしたい。それ以上のことだって好きなんだからお互いしたい」
どうだとばかりに言った後でさすがに少し恥ずかしくなる。何故こんな宣言をあえてしなければならないのか、などと賢者タイムにも似た気持ちになる。
「……わかった」
だがニルスがまたコクリと頷いてきたことでそんなタイムも一気に吹き飛んだ。
「なら……」
今まさに絶好の時間だよなとエルヴィンが立ち上がろうとしたら「茶が冷めるぞ」と至って普通の言葉が返ってきた。
え、今それ言われること?
唖然としつつも、確かに冷めるしせっかくニルスが淹れてくれたんだしと、つい言われた通りエルヴィンは座りなおして茶を口にした。
うん、ポカンとしてても、少しぬるくなっても美味しいな。
結局リージハイム茶を堪能しているとニルスのほうから笑ったような気配を感じた。だが慌ててニルスを見るも、いつも通り無表情だ。
「……今笑った?」
「いや」
ですよね。
「かわいいと思った」
「っ、ちょ、今お茶飲んでんだから吹いちゃうようなこと言うのやめて」
「? 俺は何か笑われるようなことでも言ったのか?」
「そっちじゃない。笑えないよ、笑えないけど、いや、ある意味口元むずむずするけど、そうじゃなくて、照れと恥ずかしさと嬉しさが入り混じって……」
というかそんな解説したくないんだけど。
説明している途中で我に返り、エルヴィンは口をつぐんだ。だがニルスはそれに対してもエルヴィンが言ったことに対しても何か言及するわけでもなく、単に「そうか」と静かに頷いてきた。
「そうだよ!」
それに対しそれ以上言葉が浮かばず、エルヴィンは仕方なく繰り返すように頷くと茶を飲み干した。そして今度こそ立ち上がる。
「ニルスも飲んだ?」
「まだ少し残っ」
「ごくりと飲んじゃって」
「? わかった」
被り気味に言うエルヴィンの勢いにおそらくは怪訝そうな顔になったニルスは、だが言われた通り飲み干してくれた。
それを見届けるとエルヴィンは向かいに座っているニルスのそばまで近づき、手を差し出す。ニルスは一瞬の間の後、その手を握ってくれた。
『エルヴィンはどうしたんだろう。大好きだろう茶をそんな慌てて飲むなんて……焼き菓子がなかったから物足りなく……』
「いや、何でだよ……!」
「え?」
うっかり以前のように突っ込んでしまい、ニルスも以前のように戸惑ったような声を出してきた。
というか、その前に大きくうっかりしていた。ブローチをつけたまま手を握ってしまったことだ。今はニルスの心を読みたいのではなく、単にニルスに触れたかった上で立ち上がらせ、そしてそのまま抱き合ってもよかったし何ならベッドまで移動してもよかった。少なくとも突っ込みを入れる予定は皆無だった。
「調子狂う」
「……俺は何かしてしまったか……?」
「いや、ニルスは悪くな……うーん、でも悪くはないけどあれだ、逆に何もしなかったというか」
エルヴィンの言葉に、ニルスは首を傾げてきた。その後で気がかりそうに「すまない。俺が何かしなかったせいでお前を困らせたのか」と言ってくる。
「謝る必要はないんだよ。悪いわけじゃないんだ。それにそれを言うなら俺だって行動不足だろうし、というか彼氏力不足というか」
表情があまりわからないとはいえ、さすがにますます怪訝そうに見えた。
「気にしないでくれってこと」
そういうニルスも好きなんだよと心の中で言いながらエルヴィンは笑った。そして上着を脱ぐとニルスが座っていたソファーに置いた。今、ニルスの心を読みながら動くなんて野暮なことはできない。
「……わかった」
「好きだよニルス」
エルヴィンはニルスの背中に腕をまわして引き寄せ、そのままキスしようとする。その前にニルスの方からさらにエルヴィンを引き寄せキスしてきた。
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