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116話
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いきなり町へと言ってきたデニスを怪訝に思いながらも、一介の騎士としては「今恋人と大事な話をしようとしてたとこなんでパスで」など言えるはずもない。
エルヴィンは仕方なくニルスの腕を持つ手を離した。
俺をすごく好いてくれていて、もっと触れたくなるし触れられたくなるって思ってるのに駄目って何。ニルスの欲と安寧のために俺をどうにかするなんてできないって、どういうこと。
ぜんっぜん、意味わからないんですけど?
もちろん本当なら触れる気はなかった。ブローチをつけてはいるものの、それはニルスに「お守りとしてつけてて欲しい」と言われたからつけているだけであって、心を読むためではない。
だが、何か思い悩んでいる風に思えてつい、心配になって触れてしまった。やっていいことではないとわかっているものの、悩んでいても絶対言ってくれそうにないニルスに、ついやってしまった。
そして聞こえてきた内容に今、首を傾げつつ納得いかない。とりあえず心配するような深刻そうな悩みを抱えているのではなさそうでそれはよかったが、エルヴィン的によくない気がする。よくわからないが、このままだとニルスはもしかしたら永遠にエルヴィンと深い関係になるつもりないのではないかとさえ思えてしまう。
それは嫌だ。嫌に決まっている。
なのでつい、話があると言いかけたところでデニスだ。とても不完全燃焼だが仕方ない。
話と言ってもさすがに「お前の心が読めるんだが」とは言えない。ニルスに内緒というのは心苦しいが、こればかりは言えない。だがずっと清い関係のままでいるつもりないとだけは明確にしておきたかった。
でも仕方ない。後にするか。
心の中でエルヴィンはそっとため息をつき、リックの支度をしているニルスを「リックの護衛騎士だからそばにいる」という体で当然のようにそばにいて、眺めていた。一度リックが訳知り顔でエルヴィンを見てきたが、さりげに顔をそらしスルーしておいた。
「でも兄上、何で急に町へ?」
用意された馬車へ向かいながらデニスに聞くリックに対し、何でも見越してそうなリックにもわからないことはあるのかとエルヴィンは内心少しおかしく思いながらもそっと頷いていた。ゼノガルトに着いた時、デニスには特に城下町などに興味を示している様子が見られなかった。それにリックと違ってあまり庶民食にも興味はなさそう、というか食べたことがなさそうに見える。
「飲み屋に中々かわいい子や綺麗な子がいると聞いた」
そういえば見張りをしていた騎士もそんなことを言っていたような気がする。
「……兄上。奥方に怒られますよ?」
聞いた瞬間、笑顔のまま言ってきたリックに対しデニスが本気で慌て出した。
「なっ、ち、違う。違うぞ。別に俺はそういう子とどうこうしたいとかじゃなくてだな、た、単にこの国の綺麗な女性というものがどういった感じなのかが気になっ、いや、あれだ、市場調査だ」
この人は何を言ってるのかな?
今のデニスに対してかなり見方が変わりつつ慣れてもきたからか、つい微妙な顔で見てしまいそうになり、エルヴィンは真顔を心がけた。
そういえば遡る前のデニスはラヴィニアに現を抜かしていたわけだし、そのラヴィニアは男好きする外見だった。多分基本的に女好きな人ではあるのだろうとエルヴィンはそっと苦笑した。これで実際今のデニスもラヴィニアがいないとはいえ他の令嬢などに現を抜かしていたら、エルヴィンも今のように微妙になりつつどこかほのぼのした気持ちではいられなかっただろう。幸い、今のデニスは結婚相手をとても大切にしているらしく、実際のところ他に浮いた話は全くない。
馬車は詰めて乗れば六人でも乗れないことはない広さだが、エルヴィンとフリッツは遠慮して馬に乗ることにした。もちろん、遠慮だ。間違っても「尻痛いし馬でいい」ではない。
町の宿駅に馬車と馬を預け、六人で連れ立ってその飲み屋へ向かった。人で賑わっているので六人で歩こうが普通なら特に目立たないだろうが、質素な服を着ていても王子たちにはどこか拭えない高貴な輝きがあるように思えるし、何よりニルスは恋人の欲目も多少はあるかもしれないが、どんな服を着ようがイケメンオーラなど消せるわけもなくひと際目立っている。
眼鏡……ではなくジェムも高身長で整った容姿をしているし、フリッツも一見地味ながらもよく見れば結構整った顔をしている。ついでにエルヴィンは自分も見た目はさほど悪くないはずだと思っているので、結局変な風に目立っているかもしれない。ちょくちょく周りからの視線は感じていたし、「貴族のお忍びかしら」などといった声もほんのり聞こえていた。
まあ、王子だとバレなければ貴族に見られるくらい問題ないしな。
他国の王子だとバレてしまうのは何より安全面で困る。幸い王子の顔は自国の一般的な貴族ですら、普段まじまじと見るわけではないので城でならまだしも、こんなところで見かけても確証はないレベルのはずだ。ましてや他国の庶民にわかるはずもない。
目的の飲み屋に着くと、デニスは率先していそいそと空いているテーブルについた。知れば知るほど、何となくおかしな人に思えてきてしまう。
何だろな、何かこう、憎めない人っていうか。
ついまた内心ほのぼのした気持ちになっているところに「いらっしゃい、イケメンのお兄さん方。皆素敵ね」と、おそらくオーダーを取りに来たのであろう女性の声がした。
……何か……聞いたこと、ある、声のよう、な……?
ふとそんな風に思い、そんなわけないなとエルヴィンは自分に苦笑した。庶民云々関係なく、貴族であってもゼノガルトの人に面識はない。
とりあえず笑顔で顔を女性に向けたエルヴィンはだが、その場で固まってしまった。
エルヴィンは仕方なくニルスの腕を持つ手を離した。
俺をすごく好いてくれていて、もっと触れたくなるし触れられたくなるって思ってるのに駄目って何。ニルスの欲と安寧のために俺をどうにかするなんてできないって、どういうこと。
ぜんっぜん、意味わからないんですけど?
もちろん本当なら触れる気はなかった。ブローチをつけてはいるものの、それはニルスに「お守りとしてつけてて欲しい」と言われたからつけているだけであって、心を読むためではない。
だが、何か思い悩んでいる風に思えてつい、心配になって触れてしまった。やっていいことではないとわかっているものの、悩んでいても絶対言ってくれそうにないニルスに、ついやってしまった。
そして聞こえてきた内容に今、首を傾げつつ納得いかない。とりあえず心配するような深刻そうな悩みを抱えているのではなさそうでそれはよかったが、エルヴィン的によくない気がする。よくわからないが、このままだとニルスはもしかしたら永遠にエルヴィンと深い関係になるつもりないのではないかとさえ思えてしまう。
それは嫌だ。嫌に決まっている。
なのでつい、話があると言いかけたところでデニスだ。とても不完全燃焼だが仕方ない。
話と言ってもさすがに「お前の心が読めるんだが」とは言えない。ニルスに内緒というのは心苦しいが、こればかりは言えない。だがずっと清い関係のままでいるつもりないとだけは明確にしておきたかった。
でも仕方ない。後にするか。
心の中でエルヴィンはそっとため息をつき、リックの支度をしているニルスを「リックの護衛騎士だからそばにいる」という体で当然のようにそばにいて、眺めていた。一度リックが訳知り顔でエルヴィンを見てきたが、さりげに顔をそらしスルーしておいた。
「でも兄上、何で急に町へ?」
用意された馬車へ向かいながらデニスに聞くリックに対し、何でも見越してそうなリックにもわからないことはあるのかとエルヴィンは内心少しおかしく思いながらもそっと頷いていた。ゼノガルトに着いた時、デニスには特に城下町などに興味を示している様子が見られなかった。それにリックと違ってあまり庶民食にも興味はなさそう、というか食べたことがなさそうに見える。
「飲み屋に中々かわいい子や綺麗な子がいると聞いた」
そういえば見張りをしていた騎士もそんなことを言っていたような気がする。
「……兄上。奥方に怒られますよ?」
聞いた瞬間、笑顔のまま言ってきたリックに対しデニスが本気で慌て出した。
「なっ、ち、違う。違うぞ。別に俺はそういう子とどうこうしたいとかじゃなくてだな、た、単にこの国の綺麗な女性というものがどういった感じなのかが気になっ、いや、あれだ、市場調査だ」
この人は何を言ってるのかな?
今のデニスに対してかなり見方が変わりつつ慣れてもきたからか、つい微妙な顔で見てしまいそうになり、エルヴィンは真顔を心がけた。
そういえば遡る前のデニスはラヴィニアに現を抜かしていたわけだし、そのラヴィニアは男好きする外見だった。多分基本的に女好きな人ではあるのだろうとエルヴィンはそっと苦笑した。これで実際今のデニスもラヴィニアがいないとはいえ他の令嬢などに現を抜かしていたら、エルヴィンも今のように微妙になりつつどこかほのぼのした気持ちではいられなかっただろう。幸い、今のデニスは結婚相手をとても大切にしているらしく、実際のところ他に浮いた話は全くない。
馬車は詰めて乗れば六人でも乗れないことはない広さだが、エルヴィンとフリッツは遠慮して馬に乗ることにした。もちろん、遠慮だ。間違っても「尻痛いし馬でいい」ではない。
町の宿駅に馬車と馬を預け、六人で連れ立ってその飲み屋へ向かった。人で賑わっているので六人で歩こうが普通なら特に目立たないだろうが、質素な服を着ていても王子たちにはどこか拭えない高貴な輝きがあるように思えるし、何よりニルスは恋人の欲目も多少はあるかもしれないが、どんな服を着ようがイケメンオーラなど消せるわけもなくひと際目立っている。
眼鏡……ではなくジェムも高身長で整った容姿をしているし、フリッツも一見地味ながらもよく見れば結構整った顔をしている。ついでにエルヴィンは自分も見た目はさほど悪くないはずだと思っているので、結局変な風に目立っているかもしれない。ちょくちょく周りからの視線は感じていたし、「貴族のお忍びかしら」などといった声もほんのり聞こえていた。
まあ、王子だとバレなければ貴族に見られるくらい問題ないしな。
他国の王子だとバレてしまうのは何より安全面で困る。幸い王子の顔は自国の一般的な貴族ですら、普段まじまじと見るわけではないので城でならまだしも、こんなところで見かけても確証はないレベルのはずだ。ましてや他国の庶民にわかるはずもない。
目的の飲み屋に着くと、デニスは率先していそいそと空いているテーブルについた。知れば知るほど、何となくおかしな人に思えてきてしまう。
何だろな、何かこう、憎めない人っていうか。
ついまた内心ほのぼのした気持ちになっているところに「いらっしゃい、イケメンのお兄さん方。皆素敵ね」と、おそらくオーダーを取りに来たのであろう女性の声がした。
……何か……聞いたこと、ある、声のよう、な……?
ふとそんな風に思い、そんなわけないなとエルヴィンは自分に苦笑した。庶民云々関係なく、貴族であってもゼノガルトの人に面識はない。
とりあえず笑顔で顔を女性に向けたエルヴィンはだが、その場で固まってしまった。
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