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114話
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朝、エルヴィンと一旦別れて部屋へ戻り、水を飲もうが何をしようが我慢ならずにニルスがひたすら柱に頭を打ちつけていると「二日酔いで頭痛するにしても、そんな対処ある?」と呆れた声が聞こえてきた。
「あとニルスの力なら柱が壊れちゃうでしょ」
「……勝手に入るな」
「俺、王子様だから」
「そんなのは理由にならない。あと頭痛の対処じゃない」
ため息をつきながらニルスが柱から離れると、いつの間にか部屋に入ってきていたリックが呆れた顔のまま「じゃあ何してたの」と近づいてきた。
「……反省だ」
途端、笑われる。
反省することで笑われるとは普通思わないかもしれないが、相手はリックだ。何かリックなりの捉え方があったのだろう。
「もしかして酔っぱらってしまってエルヴィンに何もできなかったから?」
「な……、違う」
「違うの?」
リックは首を傾げながら何か呟き、手をニルスにかざしてきた。すると淡い光を感じた後、ニルスの中にあった重苦しいような頭痛や吐き気などが治まっていく。
「治しに来てくれたのか? すまない」
「エルヴィンに頼まれてね」
エルヴィンに、と聞いてニルスはまた柱に頭を打ちつけたくなった。だがその前に察したリックに止められる。
「俺の大事な補佐が馬鹿になっちゃったらどうしてくれるの」
「むしろ俺は少し馬鹿になったほうがいい」
「自虐的な考えはエルヴィンに好かれないよ?」
「……朝食はもう済ませたのか?」
「ふふ。素直でかわいいねえ、ニルスは。で、何の反省?」
「無様にも酔ってしまった上にその様をエルヴィンにさらけ出し、迷惑をかけた。しかも部屋にまで上がりこんで……最悪だ」
「何でそうなるの? ほんっとエルヴィンにしてもニルスにしても、ちょっと頭おかしいレベルで固くない? 頭」
「言い過ぎだろ……」
微妙な顔でニルスを見れば、気づいたニルスがおかしそうに見返してきた。
「そこはあわよくば酔った勢いでエルヴィンをものにしよう、じゃないの?」
「お前のほうが俺よりは頭がおかしい」
「俺、第二王子って覚えてる?」
「嫌ってほどな」
「にしても、そんなくらいで頭を柱に打ちつける? 頭大丈夫か誰だって疑いたくもなるでしょ」
今度はリックがため息をつきながら、無詠唱でニルスの額に触れてきた。すると二日酔いの頭痛とは別にズキズキとしていた部分の痛みもなくなった。
「これは別に治してくれなくても……」
「赤くなってるの、エルヴィンが気づかないとでも? 反省しないとと思ってるくせに余計な心配をエルヴィンにさせたいの?」
「……治してくれてありがとう」
「ふふ。で?」
「何だ」
「それだけじゃないでしょ、絶対。確かにお前ならとてつもなく落ち込む案件なのかもしれないけど、柱に頭ぶつけ倒すほどじゃないはず」
大抵の者がニルスの表情を読み取れない中、兄だけでなくリックも正確に読み取ってくる。それだけでなく、こんなことまで読み取ってくるリックをニルスはむしろ微妙な気持ちで眺める。
「そんな顔しない」
「……別に何でも」
「なくはないよね。何で? 言わないとエルヴィンに言うからね、柱に頭ぶつけてたって」
「……、……はぁ。その……朝目覚める前に不謹慎な夢を見てしまった」
「不謹慎? 何の……ああ、なるほど! エルヴィンとのエッチな夢見たってことか」
「言うな……」
居たたまれなくて顔をそらすと「それだって柱ぶつけるようなことじゃないでしょ」とまた呆れた声がする。
「正常な男子じゃないか。まあ、そういうことは大抵もっと早めの年齢から経験しそうだけど。でも別に朝立ち見られたわけでもないんでしょ? ましてや夢精しちゃったわけでもないんでしょ?」
「してない」
「なら全然問題なくない?」
あまりにあっさりと言われ、そうなのだろうかと少し思いそうだったが、言ってきた相手はリックだ。油断はできない。
「俺としては問題ある」
「はぁ。そんなでエルヴィンともっと深い仲になれるの?」
「……段階は踏むつもりだ」
「何の? だって両思いで付き合っていて、キスだってもうしてるしデートもしてるじゃない。手だって繋いでるだろ? 他にどんな段階がいるの? むしろ知りたい」
何だかんだで結構知られていることに改めてニルスは気づいた。そんなにベラベラとエルヴィンとの間にあったことを喋ったつもりはないのだが、いつの間にか喋らされていたのだろうか。
「恋愛経験がないからよくはわからない、が……例えば婚約、とか」
「別に同性同士での婚約を禁止する法はないけど、今時そんなこと言ってるのニルスくらいじゃない? 大抵の人はニルスやエルヴィンより当然か弱いだろう女性相手でも、もっと積極的だよ……」
「エルヴィン相手に女性も男性もない」
「はいはい、そうでしたね」
ため息をまたつくと、リックは「そんな悠長なことしてて、他の誰かにエルヴィン取られても知らないよ」と首を振ってきた。
「他、の……」
「そう。他の誰か。エルヴィンって見た目も中身もいいでしょ?」
「当然だ」
「はは。なのに誰かが狙わないとニルスは本当に信じてるの?」
あまり考えないようにしていたが、リックの言うことはもっとも過ぎて返す言葉もなかった。
「あとニルスの力なら柱が壊れちゃうでしょ」
「……勝手に入るな」
「俺、王子様だから」
「そんなのは理由にならない。あと頭痛の対処じゃない」
ため息をつきながらニルスが柱から離れると、いつの間にか部屋に入ってきていたリックが呆れた顔のまま「じゃあ何してたの」と近づいてきた。
「……反省だ」
途端、笑われる。
反省することで笑われるとは普通思わないかもしれないが、相手はリックだ。何かリックなりの捉え方があったのだろう。
「もしかして酔っぱらってしまってエルヴィンに何もできなかったから?」
「な……、違う」
「違うの?」
リックは首を傾げながら何か呟き、手をニルスにかざしてきた。すると淡い光を感じた後、ニルスの中にあった重苦しいような頭痛や吐き気などが治まっていく。
「治しに来てくれたのか? すまない」
「エルヴィンに頼まれてね」
エルヴィンに、と聞いてニルスはまた柱に頭を打ちつけたくなった。だがその前に察したリックに止められる。
「俺の大事な補佐が馬鹿になっちゃったらどうしてくれるの」
「むしろ俺は少し馬鹿になったほうがいい」
「自虐的な考えはエルヴィンに好かれないよ?」
「……朝食はもう済ませたのか?」
「ふふ。素直でかわいいねえ、ニルスは。で、何の反省?」
「無様にも酔ってしまった上にその様をエルヴィンにさらけ出し、迷惑をかけた。しかも部屋にまで上がりこんで……最悪だ」
「何でそうなるの? ほんっとエルヴィンにしてもニルスにしても、ちょっと頭おかしいレベルで固くない? 頭」
「言い過ぎだろ……」
微妙な顔でニルスを見れば、気づいたニルスがおかしそうに見返してきた。
「そこはあわよくば酔った勢いでエルヴィンをものにしよう、じゃないの?」
「お前のほうが俺よりは頭がおかしい」
「俺、第二王子って覚えてる?」
「嫌ってほどな」
「にしても、そんなくらいで頭を柱に打ちつける? 頭大丈夫か誰だって疑いたくもなるでしょ」
今度はリックがため息をつきながら、無詠唱でニルスの額に触れてきた。すると二日酔いの頭痛とは別にズキズキとしていた部分の痛みもなくなった。
「これは別に治してくれなくても……」
「赤くなってるの、エルヴィンが気づかないとでも? 反省しないとと思ってるくせに余計な心配をエルヴィンにさせたいの?」
「……治してくれてありがとう」
「ふふ。で?」
「何だ」
「それだけじゃないでしょ、絶対。確かにお前ならとてつもなく落ち込む案件なのかもしれないけど、柱に頭ぶつけ倒すほどじゃないはず」
大抵の者がニルスの表情を読み取れない中、兄だけでなくリックも正確に読み取ってくる。それだけでなく、こんなことまで読み取ってくるリックをニルスはむしろ微妙な気持ちで眺める。
「そんな顔しない」
「……別に何でも」
「なくはないよね。何で? 言わないとエルヴィンに言うからね、柱に頭ぶつけてたって」
「……、……はぁ。その……朝目覚める前に不謹慎な夢を見てしまった」
「不謹慎? 何の……ああ、なるほど! エルヴィンとのエッチな夢見たってことか」
「言うな……」
居たたまれなくて顔をそらすと「それだって柱ぶつけるようなことじゃないでしょ」とまた呆れた声がする。
「正常な男子じゃないか。まあ、そういうことは大抵もっと早めの年齢から経験しそうだけど。でも別に朝立ち見られたわけでもないんでしょ? ましてや夢精しちゃったわけでもないんでしょ?」
「してない」
「なら全然問題なくない?」
あまりにあっさりと言われ、そうなのだろうかと少し思いそうだったが、言ってきた相手はリックだ。油断はできない。
「俺としては問題ある」
「はぁ。そんなでエルヴィンともっと深い仲になれるの?」
「……段階は踏むつもりだ」
「何の? だって両思いで付き合っていて、キスだってもうしてるしデートもしてるじゃない。手だって繋いでるだろ? 他にどんな段階がいるの? むしろ知りたい」
何だかんだで結構知られていることに改めてニルスは気づいた。そんなにベラベラとエルヴィンとの間にあったことを喋ったつもりはないのだが、いつの間にか喋らされていたのだろうか。
「恋愛経験がないからよくはわからない、が……例えば婚約、とか」
「別に同性同士での婚約を禁止する法はないけど、今時そんなこと言ってるのニルスくらいじゃない? 大抵の人はニルスやエルヴィンより当然か弱いだろう女性相手でも、もっと積極的だよ……」
「エルヴィン相手に女性も男性もない」
「はいはい、そうでしたね」
ため息をまたつくと、リックは「そんな悠長なことしてて、他の誰かにエルヴィン取られても知らないよ」と首を振ってきた。
「他、の……」
「そう。他の誰か。エルヴィンって見た目も中身もいいでしょ?」
「当然だ」
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