彼は最後に微笑んだ

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107話

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 目的地に到着してからはそこそこ慌ただしかった。
 さすがにゼノガルトには王子たちが向かう旨、連絡があらかじめ入っているため、希望通り盛大に歓迎の儀など行われなかったものの、すぐさま宮殿へ案内された。そして一旦部屋でゆっくりする暇もなく、ゼノガルトの王へ挨拶に城まで向かった。どこの国も同じだろうが、宮殿も城もやたら広いので移動だけでわりと大変だったりする。
 ちなみにエルヴィンたち護衛騎士は席を外している。王子たちには騎士でないものの剣の腕も確かな補佐役がそれぞれついているし、友好の場で護衛騎士が離れずついているのは全くもってよくない。
 とはいえ謁見の間にある大きな扉の前で待機はしている。これでも仕事でリックたちを護衛している身だ。用はないから茶でも飲んで休憩して待っているというわけにはいかない。
 最初は所在なさげに待機していたが、気づけばエルヴィンは扉の両側に立っている王の騎士たちと談話とまではいかないものの気軽に話していた。デニスの護衛騎士フリッツ・バルツァーはそんなエルヴィンを少々ハラハラしたように見ている気がするが、気のせいかもしれないというか気のせいだと思っておこう。

 少し喋るくらい、いいよな? もちろん注意散漫になるつもりはないけど、そこそこ時間かかるだろう間、さすがに退屈だ。

 あと、ゼノガルトについての話も聞いてみたい。

「道中は貴族の屋敷に滞在じゃなくて宿だったのか」
「うん。完全にお忍びってわけじゃないけど、公にもしてないしね」
「へえ。ああそうそう。ここの話だっけ。ここは雷の土地なだけあって、機械関連が発達してるよ」
「確かにここへ来る途中、あまり俺の国で見ないような建物とかあったよ」
「町の噴水広場は通ったか?」
「通った通った」
「そこに大きな時計台があっただろ」
「えっと、ああ、うん、あった!」
「その時計台な、一時間おきに針のところが開いて機械仕掛けで動く人形が踊るんだぜ」
「えっ、魔法でじゃなくて?」
「魔法だと絶えず誰かがかけなくちゃだろ」
「機械だとそうじゃないのか?」
「ああ。基本ほったらかしてても大丈夫。もちろん定期的なメンテナンスは必要だけどな」

 騎士二人が得意げに教えてくれる。
 マヴァリージ王国はそもそもエレメントのない国だけに、魔術具はよく使用されるものの魔法をふんだんに使われた町はない。だがそんな魔法でなくとも何かを動かしたりできると知ってエルヴィンはわりとわくわくしながら話を聞いていた。

「あ、でもその機械を動かす動力に雷魔法が使われてるってことか。そのメンテナンスとかにも」
「まあ、そういうことだ。雷は通常自然に発生するものだしな、それを自在に動力に利用するにはやっぱ魔法だな。魔法は生活になくてはならないもんだよな」

 やはりそうか、魔法はいるよなあ。今回の新たな商業的契約ってのはこの機械関連での取引だろうかな。それともマヴァリージで豊富な魔術具関連だろうかな。

「にしてもあんた、王子様の護衛騎士のわりに気さくだなあ」
「え、俺?」
「うんうん。もうお一人はあまり喋ってくれないけど」
「……悪いな、一応護衛中だし」

 フリッツが申し訳なさげに謝ると騎士たちは「いやいや。でもエルヴィンだっけ? エルヴィンも同じ護衛じゃないのか」と笑いをかみ殺している。
 エルヴィンも遡る前ならフリッツと同じだったかもしれない。そもそも昔からあまり社交的ではなかったし、成人して社交界にデビューしてからも最低限の付き合いしかしてこなかった。
 今もあまり賑やかな場は得意ではないが、こうして気さくに誰かと接することはもしかしたら何かの役に立つと身をもって学んでいる。何より案外楽しい。

「俺らも護衛というか、勝手に出入りする者がいないよう見張り役をしているわけだけどさ、やっぱたまにはこうして少し話したりもしたいんだよな」
「そうそう」

 話していても彼らは周りに目を配っている。他に誰もいなくとも話していても警戒は怠ってはいない。例え城内のそれも基本誰も勝手に立ち入らない謁見の間の扉だったとしてもだ。

 こういった姿勢は俺も見習いたいな。

「護衛騎士っつっても休憩時間はあるんだろ? 時間が合えばよかったら町を案内がてら、酒場へ行かないか? 最近中々いい子が入った店、知って……」

 騎士の一人が言いかけているところで、どうやら謁見が終わったらしい王子たちが出てきた。そして一緒に出てきたニルスが整いつつもただでさえ目つきはあまりよくない目でじろりとその騎士を睨んだ。
 職務怠慢に見られたと思ったのか、単に目つきに対してか、その騎士は慌てて口を閉じ、姿勢を正している。
 話を聞いているところだったため喋っていなかったエルヴィンもつられて口を慌てて閉じた。だがデニスとリックは気にした様子もなく「待たせたな」「お待たせ」と言いながら通ってきた通路をそのまま歩いて行く。

「えっと……フリッツ。もし君までとばっちりで職務怠慢だと思われたのなら、申し訳ない……」

 扉前の騎士たちに手を上げて挨拶した後で王子たちに続きながらながらエルヴィンが小声で謝ると、フリッツは苦笑しながら「それは思われないと思うが、謝罪は受け取っておくよ。あと問題ない」と言ってくれた。

 いい人だ。

 前からフリッツとは顔見知りではあったがあまり喋る機会はなかった。真面目でいい人なんて、まるでニルスのようだ。もちろん全然似てるところはないが、エルヴィンはありがたく思いながら少しほっこりしていた。
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