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105話
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多分ジェムがデニスに対してひたすら敬語なのは、元々そういうタイプなのだろうと今のやりとりでエルヴィンはひしひしと感じた。
ただ、テキパキと仕事をこなしそうな風に見えるジェムと、遡る前のジェムがあまり一致しない。遡る前のジェムは遠目でしか見たことないが、少なくともあの頃のデニスに対し意見を言うことすら諦めていたような印象がある。要は言いなりと言うのだろうか。
リックがまだ留学中だったあの頃、デニス殿下に意見できる人なんて誰もいなかったもんな。もしいたのだとしても処刑されるなりして、いなくなってたのかもしれないけど。
デニスとジェムとは違う馬車だった。ちなみにリックとニルスとの三人で馬車に乗る際、エルヴィンは「俺は護衛ですが」と、乗馬で行くつもりだったことを仄めかしたがリックからは笑顔で綺麗にスルーされた。
出発して少ししてからエルヴィンはリックに話しかける。
「殿下」
「……あのね、エルヴィン。仕事中だからという君の考えはこれでも尊重してるけどさ、さすがに公でない上に幼馴染三人だけのこういう場では普通にしない? まさか今回の旅、四六時中殿下呼ばわりするつもり?」
「そのつもりでしたけど」
「やめてくれるかな。何事もオンオフは大事でしょ。旅の間俺は仕事から逃れられないわけ?」
言われてみれば確かにそれはそうだとエルヴィンは納得した。ただでさえ普段から忙しいらしいリックに二十四時間体制で仕事を強要するようなものかもしれない。
仕事中のリック見てても遊んでいるようにしか見えないけどな、俺的には。
「わかりました、リック」
「ありがとう。で、何?」
「ジェムって昔からあんな風でした?」
「あんなって?」
「何て言うか、真面目でテキパキとしていてデニス殿下をしっかり支えてるようなというか。堅苦しそうなんだけど、どこか面白……あ、いや、これはまあ、流してください」
「あはは、流さないけどね。面白いよね、ジェムって。あと眼鏡似合う」
「わかります。その眼鏡をくいって指で押し上げるとこがとても似合ってますよね」
「似合ってるよねえ」
ちなみにニルスはちゃんとここにいる。会話に入ってこないしリアクションもないが、これでも二人の話は聞いているようだ。それがニルスにとって気楽なのだろうが、ニルスの意見も聞いてみたくなり、リックへの質問を一旦置いておいたままエルヴィンはニルスを見た。
「ニルスもそう思わない?」
「……眼鏡が似合うという話、か?」
「そうそう。くいってするとことか」
「……くい……よくわからないが、眼鏡は似合っているんじゃないだろうか」
ほんのり首を傾げた後に答えてきた内容からして、多分エルヴィンとリックがおかしく思っていた内容についてはさっぱり把握していないのだろうなということはわかった。
何だかニルスらしいし、かわいいな。今、どう思ってるんだろうな。
心を読んでみたくて思わずそっとニルスに触れたくなったが、何とか堪えた。だがそれに気づいたようでリックが「読めばいいのに」などと言ってくる。それに対しニルスが「何を読むんだ」とリックに聞いた。
「と、とにかくリック。ジェムって昔からそんな感じでしたっけ」
「あー、どうだろうね」
おかしそうにリックはにこにこと笑みを向けてくる。だがその後を続けてきたのはリックではなくニルスだった。
「昔からではない。多分リックのせいだろう」
「えっ?」
ニルスが口を挟んでくるなんて、後で雨が降るのではと驚いた後にエルヴィンはもう一度「えっ」と驚いた。まさかとは思ったが、ジェムも変わっていたのかと驚いたのと、単純にリックのせいだと聞いて驚いた。
まあリックのせいで何かがどうこうなったことに関しては驚かないけど……。
でもエルヴィンが変えたかった未来に影響するような人物の一人がリックの言動か何かによって変わったのだと思うとやはり驚く。絶対そうだと言い切れはしないが、おそらく普通は皆、特に何もしなければ多分遡る前と同じ性格だろうし流れになるはずだ。それをエルヴィンが言動をあえて変えていくことで流れなども変わるのではと期待していたし、実際変わったのではと思っていた。
もちろん性質の根本が変わるわけではないが、ラウラのように表立って出る言動は環境などによって変わるものだと判断している。
でも……リックの言動によって性格が以前と変わる人がいた、ってこと、だよな……?
「……リックのせい?」
「ひどいなあニルスってば。俺のせいだなんて」
「……。元々ジェムが真面目なのは間違いないが、デニスの補佐を……している絡みで、リックとも接する機会は……少なくなかった」
寡黙ながらにとつとつと話してくれた内容によると、デニスをいいように転がすリックに、気づけば自分も転がされていたりしたらしいジェムはいつの間にか今のような感じになっていたらしい。
何だろな、舐められないよう努力した結果的な?
微妙な顔になりながらエルヴィンは納得した。あとわからないが、もしかしたら遡る前のリックも、今のリックと違うのかもしれない。
だからジェムもそんなリックの影響で以前の言いなりそうなジェムじゃなくて今のようなジェムになったっぽいし。
とすると、ひょっとしてデニスもリックの影響で以前のデニスとは違う可能性はないだろうか。というかニルスも変わったりしているのだろうか。
いや、でも待てよ。だとしたらでもリックは何故変わった?
いくら以前と違って子どもの頃からニルスやリックとエルヴィンが出会えたにしても、リック自体がそんなに変わることなんてあるのだろうか。
どうなんだろな……何かもうよくわからなくなってきた。あえて変えようと目論んだし、家族なら俺が影響与えたことも結構あるだろけど……。
エルヴィンと絡むことで、自動的に何か変わってしまうということなのだろうか。もしくはエルヴィンが直接絡まなくとも、何かや誰かが遡る前と多少でも変わることによって他の何かや誰かも変わるのかもしれない。
ただ、テキパキと仕事をこなしそうな風に見えるジェムと、遡る前のジェムがあまり一致しない。遡る前のジェムは遠目でしか見たことないが、少なくともあの頃のデニスに対し意見を言うことすら諦めていたような印象がある。要は言いなりと言うのだろうか。
リックがまだ留学中だったあの頃、デニス殿下に意見できる人なんて誰もいなかったもんな。もしいたのだとしても処刑されるなりして、いなくなってたのかもしれないけど。
デニスとジェムとは違う馬車だった。ちなみにリックとニルスとの三人で馬車に乗る際、エルヴィンは「俺は護衛ですが」と、乗馬で行くつもりだったことを仄めかしたがリックからは笑顔で綺麗にスルーされた。
出発して少ししてからエルヴィンはリックに話しかける。
「殿下」
「……あのね、エルヴィン。仕事中だからという君の考えはこれでも尊重してるけどさ、さすがに公でない上に幼馴染三人だけのこういう場では普通にしない? まさか今回の旅、四六時中殿下呼ばわりするつもり?」
「そのつもりでしたけど」
「やめてくれるかな。何事もオンオフは大事でしょ。旅の間俺は仕事から逃れられないわけ?」
言われてみれば確かにそれはそうだとエルヴィンは納得した。ただでさえ普段から忙しいらしいリックに二十四時間体制で仕事を強要するようなものかもしれない。
仕事中のリック見てても遊んでいるようにしか見えないけどな、俺的には。
「わかりました、リック」
「ありがとう。で、何?」
「ジェムって昔からあんな風でした?」
「あんなって?」
「何て言うか、真面目でテキパキとしていてデニス殿下をしっかり支えてるようなというか。堅苦しそうなんだけど、どこか面白……あ、いや、これはまあ、流してください」
「あはは、流さないけどね。面白いよね、ジェムって。あと眼鏡似合う」
「わかります。その眼鏡をくいって指で押し上げるとこがとても似合ってますよね」
「似合ってるよねえ」
ちなみにニルスはちゃんとここにいる。会話に入ってこないしリアクションもないが、これでも二人の話は聞いているようだ。それがニルスにとって気楽なのだろうが、ニルスの意見も聞いてみたくなり、リックへの質問を一旦置いておいたままエルヴィンはニルスを見た。
「ニルスもそう思わない?」
「……眼鏡が似合うという話、か?」
「そうそう。くいってするとことか」
「……くい……よくわからないが、眼鏡は似合っているんじゃないだろうか」
ほんのり首を傾げた後に答えてきた内容からして、多分エルヴィンとリックがおかしく思っていた内容についてはさっぱり把握していないのだろうなということはわかった。
何だかニルスらしいし、かわいいな。今、どう思ってるんだろうな。
心を読んでみたくて思わずそっとニルスに触れたくなったが、何とか堪えた。だがそれに気づいたようでリックが「読めばいいのに」などと言ってくる。それに対しニルスが「何を読むんだ」とリックに聞いた。
「と、とにかくリック。ジェムって昔からそんな感じでしたっけ」
「あー、どうだろうね」
おかしそうにリックはにこにこと笑みを向けてくる。だがその後を続けてきたのはリックではなくニルスだった。
「昔からではない。多分リックのせいだろう」
「えっ?」
ニルスが口を挟んでくるなんて、後で雨が降るのではと驚いた後にエルヴィンはもう一度「えっ」と驚いた。まさかとは思ったが、ジェムも変わっていたのかと驚いたのと、単純にリックのせいだと聞いて驚いた。
まあリックのせいで何かがどうこうなったことに関しては驚かないけど……。
でもエルヴィンが変えたかった未来に影響するような人物の一人がリックの言動か何かによって変わったのだと思うとやはり驚く。絶対そうだと言い切れはしないが、おそらく普通は皆、特に何もしなければ多分遡る前と同じ性格だろうし流れになるはずだ。それをエルヴィンが言動をあえて変えていくことで流れなども変わるのではと期待していたし、実際変わったのではと思っていた。
もちろん性質の根本が変わるわけではないが、ラウラのように表立って出る言動は環境などによって変わるものだと判断している。
でも……リックの言動によって性格が以前と変わる人がいた、ってこと、だよな……?
「……リックのせい?」
「ひどいなあニルスってば。俺のせいだなんて」
「……。元々ジェムが真面目なのは間違いないが、デニスの補佐を……している絡みで、リックとも接する機会は……少なくなかった」
寡黙ながらにとつとつと話してくれた内容によると、デニスをいいように転がすリックに、気づけば自分も転がされていたりしたらしいジェムはいつの間にか今のような感じになっていたらしい。
何だろな、舐められないよう努力した結果的な?
微妙な顔になりながらエルヴィンは納得した。あとわからないが、もしかしたら遡る前のリックも、今のリックと違うのかもしれない。
だからジェムもそんなリックの影響で以前の言いなりそうなジェムじゃなくて今のようなジェムになったっぽいし。
とすると、ひょっとしてデニスもリックの影響で以前のデニスとは違う可能性はないだろうか。というかニルスも変わったりしているのだろうか。
いや、でも待てよ。だとしたらでもリックは何故変わった?
いくら以前と違って子どもの頃からニルスやリックとエルヴィンが出会えたにしても、リック自体がそんなに変わることなんてあるのだろうか。
どうなんだろな……何かもうよくわからなくなってきた。あえて変えようと目論んだし、家族なら俺が影響与えたことも結構あるだろけど……。
エルヴィンと絡むことで、自動的に何か変わってしまうということなのだろうか。もしくはエルヴィンが直接絡まなくとも、何かや誰かが遡る前と多少でも変わることによって他の何かや誰かも変わるのかもしれない。
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