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104話
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慌ててエルヴィンは手を退けようとしたが、それはそれでかなり失礼ではと躊躇してしまい、結局握手される。
『……だしな。でも俺の弟とここまで仲がいいのは少しずるいだろ……』
何故第一王子が気さくに第二王子の護衛騎士と握手しているのかという心の突っ込みも忘れて、エルヴィンは思わず少しキラキラした目をデニスへ向けた。
遡る前のデニスが元々どうだったのかは知らないが、少なくとも今のデニスはそれなりにブラコンらしい。一気に親近感が湧いた。
「デニ……」
デニス殿下も弟が大好きなのですね、と言いかけたところで、だが幸いにも思いとどまれた。今デニスがブラコンだと知ったのは心を図らずも読んでしまったからだ。それがなければエルヴィンは知り得ない。
とはいえ、ついそわそわとしてしまう。そんな様子を怪訝に思ったデニスが首を傾げながら「お前、どうかしたのか?」と手を握りながら聞いてくる。心の中でも『こいつ、どうかしたのか?』と言っているので案外思っていることと口にすることは同じなタイプなのかもしれない。
「いえ……申し訳」
ありませんと言いかけているとエルヴィンの背後からニルスが二人の手を離させてきた。ついでにエルヴィンを自分のほうへ引き寄せる。
「ニルス?」
「おい、いきなり何だ」
口調は強めだが、デニスもエルヴィン同様ポカンとしているようだ。いくら弟の補佐であっても、いきなりそんなことをされたらそうもなるだろう。
「兄上、ニルスはエルヴィンがお気に入りなので。ほら、ニルスってどこか犬っぽいじゃないですか。懐くとこうなるんでしょう」
もしかして妬く必要のないヤキモチを妬いてくれたのだろうかと少しそわそわしつつ、とはいえ第一王子であるデニスに「恋人なので」などと言えるわけもない。同性云々関係なく、仕事をしている今この場で次期王相手に対して取っていい行動ではないだろう。
だから同じ王子でありデニスの兄弟であるリックが口を挟んでくれたのはありがたいが、かばってくれるにしても、もう少し言い方はなかったのかとは思った。
ただ、エルヴィンは微妙な気持ちでニルスを見たものの、リックの言葉に特に遺憾はないようだ。あと、デニスはわかってないような顔で「お、おお……なるほど」と呟いている。
かつての、とんでもなかったデニスのイメージが強いため違和感半端ないが、もしかしたら礼儀作法などにさほどこだわりがなかったりするのだろうか。何より、わりと流されやすい人なのだろうかとエルヴィンはそっと思った。
もしかしたら、そういう性格だからこそラヴィニアに振り回され、いいように使われていたのかもしれない。今となってはわからないが、何となくそう思えてしまう。
ちなみにデニスの補佐をしているジェムはニルスほどではないが、身長はエルヴィンよりも高い。あとわりと寡黙そうだ。補佐は皆そうなってしまうのかとつい思ってしまい、エルヴィンはデニスに対して少し安心したのもあるのか、内心ほんのり笑った。
ジェムはデニスの幼馴染というところもリックとニルスに似ているが、小さな頃からそばについているなら必然的に幼馴染になるなとも思う。
でもリックとニルスほど近しさは感じないよな。
リックとニルスを見ていると、王子とその補佐役という上下関係が昔から全く感じられない。だがジェムはデニスに対して敬語だし一歩引いているような風に見える。遡る前にはそれが当たり前だと思っていたが、こうして今の状況でそれぞれの関係を見ていると違いが際立つのもあるのか、少し違和感を覚えたりした。
ニルスはリックの二歳上だが、確かジェムもデニスの二歳上だったように思う。年の差も同じながらに改めて接し方は全然違うものなのだなと思った。
いや、でもジェムの対応が王子の臣下として一般的と言えば一般的だろうけどな。
というかエルヴィンも親しい友人であるリックに対し、仕事中はさておきプライベートでも敬語は外せない。敬称なしの名前で呼ぶことくらいはできるが、敬語だけは中々に難しい。ジェムもエルヴィンと似たところがあるのかもしれない。
「……どうかされましたか?」
もしかしたらエルヴィンはじっとジェムを見ていたのだろうか。怪訝そうな顔をジェムに向けられた。
「あ、いや。えっと、ジェムも背が高いなと」
名前や顔は知っていたものの、こうしてお互いちゃんと話すのは初めてだった。先ほど挨拶を交わした際に、お互い称号で呼ぶのはやめようとすでに話している。ジェムのほうが四歳も上だが、家で言えば伯爵家のジェムに対してエルヴィンは侯爵家だ。ただ今回どちらも同じく仕事で王子に仕える身であるしとエルヴィンが提案したら「ノルデルハウゼン卿がよろしいのでしたら」と承諾してくれた。
でも敬語は抜けてないんだよな。
「それよりジェムのほうが年上だし、敬語なしでよくないか? もしくは俺も敬語のほうがいい?」
「私のは性分ですのでお気になさらず。エルヴィンはどうぞそのままで」
言いながら眼鏡を人差し指で押し上げる姿が何故かエルヴィンのツボにほんのりはまった。思わず笑いそうになったが、賢明にも堪えることはできた。
『……だしな。でも俺の弟とここまで仲がいいのは少しずるいだろ……』
何故第一王子が気さくに第二王子の護衛騎士と握手しているのかという心の突っ込みも忘れて、エルヴィンは思わず少しキラキラした目をデニスへ向けた。
遡る前のデニスが元々どうだったのかは知らないが、少なくとも今のデニスはそれなりにブラコンらしい。一気に親近感が湧いた。
「デニ……」
デニス殿下も弟が大好きなのですね、と言いかけたところで、だが幸いにも思いとどまれた。今デニスがブラコンだと知ったのは心を図らずも読んでしまったからだ。それがなければエルヴィンは知り得ない。
とはいえ、ついそわそわとしてしまう。そんな様子を怪訝に思ったデニスが首を傾げながら「お前、どうかしたのか?」と手を握りながら聞いてくる。心の中でも『こいつ、どうかしたのか?』と言っているので案外思っていることと口にすることは同じなタイプなのかもしれない。
「いえ……申し訳」
ありませんと言いかけているとエルヴィンの背後からニルスが二人の手を離させてきた。ついでにエルヴィンを自分のほうへ引き寄せる。
「ニルス?」
「おい、いきなり何だ」
口調は強めだが、デニスもエルヴィン同様ポカンとしているようだ。いくら弟の補佐であっても、いきなりそんなことをされたらそうもなるだろう。
「兄上、ニルスはエルヴィンがお気に入りなので。ほら、ニルスってどこか犬っぽいじゃないですか。懐くとこうなるんでしょう」
もしかして妬く必要のないヤキモチを妬いてくれたのだろうかと少しそわそわしつつ、とはいえ第一王子であるデニスに「恋人なので」などと言えるわけもない。同性云々関係なく、仕事をしている今この場で次期王相手に対して取っていい行動ではないだろう。
だから同じ王子でありデニスの兄弟であるリックが口を挟んでくれたのはありがたいが、かばってくれるにしても、もう少し言い方はなかったのかとは思った。
ただ、エルヴィンは微妙な気持ちでニルスを見たものの、リックの言葉に特に遺憾はないようだ。あと、デニスはわかってないような顔で「お、おお……なるほど」と呟いている。
かつての、とんでもなかったデニスのイメージが強いため違和感半端ないが、もしかしたら礼儀作法などにさほどこだわりがなかったりするのだろうか。何より、わりと流されやすい人なのだろうかとエルヴィンはそっと思った。
もしかしたら、そういう性格だからこそラヴィニアに振り回され、いいように使われていたのかもしれない。今となってはわからないが、何となくそう思えてしまう。
ちなみにデニスの補佐をしているジェムはニルスほどではないが、身長はエルヴィンよりも高い。あとわりと寡黙そうだ。補佐は皆そうなってしまうのかとつい思ってしまい、エルヴィンはデニスに対して少し安心したのもあるのか、内心ほんのり笑った。
ジェムはデニスの幼馴染というところもリックとニルスに似ているが、小さな頃からそばについているなら必然的に幼馴染になるなとも思う。
でもリックとニルスほど近しさは感じないよな。
リックとニルスを見ていると、王子とその補佐役という上下関係が昔から全く感じられない。だがジェムはデニスに対して敬語だし一歩引いているような風に見える。遡る前にはそれが当たり前だと思っていたが、こうして今の状況でそれぞれの関係を見ていると違いが際立つのもあるのか、少し違和感を覚えたりした。
ニルスはリックの二歳上だが、確かジェムもデニスの二歳上だったように思う。年の差も同じながらに改めて接し方は全然違うものなのだなと思った。
いや、でもジェムの対応が王子の臣下として一般的と言えば一般的だろうけどな。
というかエルヴィンも親しい友人であるリックに対し、仕事中はさておきプライベートでも敬語は外せない。敬称なしの名前で呼ぶことくらいはできるが、敬語だけは中々に難しい。ジェムもエルヴィンと似たところがあるのかもしれない。
「……どうかされましたか?」
もしかしたらエルヴィンはじっとジェムを見ていたのだろうか。怪訝そうな顔をジェムに向けられた。
「あ、いや。えっと、ジェムも背が高いなと」
名前や顔は知っていたものの、こうしてお互いちゃんと話すのは初めてだった。先ほど挨拶を交わした際に、お互い称号で呼ぶのはやめようとすでに話している。ジェムのほうが四歳も上だが、家で言えば伯爵家のジェムに対してエルヴィンは侯爵家だ。ただ今回どちらも同じく仕事で王子に仕える身であるしとエルヴィンが提案したら「ノルデルハウゼン卿がよろしいのでしたら」と承諾してくれた。
でも敬語は抜けてないんだよな。
「それよりジェムのほうが年上だし、敬語なしでよくないか? もしくは俺も敬語のほうがいい?」
「私のは性分ですのでお気になさらず。エルヴィンはどうぞそのままで」
言いながら眼鏡を人差し指で押し上げる姿が何故かエルヴィンのツボにほんのりはまった。思わず笑いそうになったが、賢明にも堪えることはできた。
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